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運は創るもの-私の履歴書 (似鳥 昭雄)

2015-12-13 23:45:57 | 本と雑誌

 以前から気になっていた「ニトリ」社長似鳥昭雄氏の「私の履歴書」が出版されたということで早速手に取ってみました。

 まずは、前書きで紹介された「奥様のことば」がとても印象的です。


(p3より引用) 家内からは「あなたは人が普通にできることはできないけど、人がやらないことはやるわね」とからかわれる。


 本書を読み進めると、まさにこの言葉どおりなのです。
 似鳥氏の幼いころの暮らしぶりや若き日の仕事ぶりは型破りでかなりセンセーショナルです。この刺激的なエピソードを紹介し始めると止めどもなくなってしまうので、それらは原書に譲ることとして、そのほか、(ノーマルなものの中で)私として強く印象に残った部分を書きとめておきます。

 まずは、ニトリの創業直後、経営に行き詰まり一念発起して参加した「米国視察」での似鳥氏の大きな転機についてです。


(p123より引用) 2号店の経営が思わしくなく、わらにもすがるような気持ちで参加した米国視察ツアーで、私は間違いなく覚醒した。米国のような豊かな生活を日本で実現したい。そのための企業を育てようという明確なロマンが芽生えたのだ。帰りの飛行機の中でこれからの自分の決意表明を決めて、実行することをメモ書きした。


 ここにおいて以降のニトリの経営における根本ビジョンが明確に固まったのでした。そして、具体的に60年後の実現を目標にし、前半の30年を10年ごとに区切って、それぞれの期間に「店作り」「人作り」「商品作り」に取り組むという計画を立てました。似鳥氏28歳のときでした。

 こういった長期的視点に立った経営を進めていくうえで、創業者社長であった似鳥氏は強力なリーダーシップを発揮していきましたが、当然、社内には意見の相異・対立が噴出しました。


(p204より引用) トップは長期的な視点で考える。オーナー経営であっても、社長業とは社員という「抵抗勢力」との闘いであると痛感している。・・・79年にホームファニシングをニトリの新業態に掲げたとき、社員から「家具屋でいいじゃないですか。なぜそんなわけの分からないことをやるのですか」と追及される。
 そこで、「家をコーディネートして楽しくするんだ」と答えても、社員たちは首をかしげる。


 こういった社長判断には失敗もありました。しかしながら、似鳥氏の目指すべき方向性にはブレはありませんでした。

 ニトリは、似鳥氏の経営思想そのものに数々のリスクテイクを梃子にして、見事に大きな発展を果たした企業です。
 その成功の要因の一つは「リスクを内在化させた」ことでした。似鳥氏はこう語ります。


(p258より引用) 手間のかかることは社内でやり、簡単なことは外に出す。仕事のプロを多くそろえる「多数精鋭主意」こそ成長に源泉だ。


 リスク要素を敢えて内在化させることにより、それらを自らの責任のもとに直接差配できるコントロール化におく、それにより、真の経営資源・ノウハウを自企業内に蓄積することを可能としていったのです。そして、その自前主義がニトリの底力として、持続的発展のエンジンとなったようです。

 私の嫌いな言葉に「選択と集中」というフレーズがあります。表層的な判断による「安易な選択」と「中途半端な集中」があまりにも目につくからですが、本書で開陳されている似鳥氏の経営哲学は、そういったステレオタイプの経営指南に対するとても興味深いアンチテーゼだと感じました。
 

運は創るもの ―私の履歴書
似鳥 昭雄
日本経済新聞出版社
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