「企業参謀」を初めて読んだのは、私が学生のときですからもう30年以上前だと思います。
当時、私は学生で、企業戦略とかマーケティングとかといった言葉自体にも疎かったこともあり、大前氏が説く合理的な思考に大きな感化を受けました。
本書は、タイトルが「ノート」「入門」、さらに「大前研一『監修』」とあるので、いろいろな意味で興味を持って読んでみました。
最初に明確にしているのは大前氏のイメージする「参謀」の定義です。
(p8より引用) 分析だけではなく、どういう行動をとればいいかまでのロードマップを描くのが参謀の役目なのだ。ひと言で言えば「結論が言える人」。それが参謀だ。
「何をどう実行すればいいか」を明らかにするという点で、分析屋とか評論家とかとは明らかに異なる人物というわけです。
「何をどう実行すればいいか」については、「目標の設定」とその目標を達成するための「具体的な施策の検討」というプロセスを踏みます。
しかしながら、多くの場合、考えつく施策では目標に達せず、そこに「戦略的ギャップ」が生じることとなります。この「戦略的ギャップ」を埋めるためには大胆なパラダイムシフト(戦略的代替案)が求められるのです。
(p109より引用) 現状の延長線上に解が見つけられない場合、従来のワク組の外に新しい解決策を求めなければならない。・・・
代替案として頻出するのは、大別すれば以下の7項目だ。
①新規事業への参入…多角化
②新市場への転出…海外市場など
③上方、下方または双方へのインテグレーション…垂直統合
④合併、吸収…製品群の拡充や経営力の強化目的
⑤業務提携…販売網の共有化、部品の共同購入、技術提携等
⑥事業分離…別会社を設立し、効率的に事業を経営する
⑦撤退、縮小、売却…事業の切り売りから退却まで全体のために部分を放棄する
本書では、戦略策定に関する論理的な思考方法やプロセスを紹介していますが、それらの技法に加えて、「参謀」として成功する要諦として「完全主義を捨てる」という姿勢を挙げています。
(p139より引用) 完璧を目指すことは正しいようだが、これは間違っている。完璧を追い求めると、人は絶好のタイミングを逃し、決断を下す勇気を削ぐことが大だからだ。
そしてさらに、「完璧を廃した実行プランを策定したら、その実行プランについては『完璧に遂行』する」こと、この点の重要性についても大前氏は指摘しています。とても大事なポイントだと思います。
さて、最後に本書を読み通しての感想ですが、「企業参謀」の入門編というよりも、大前氏流の戦略思考のエッセンス版という印象でした。あっという間に読めるので、戦略思考のオリエンテーション用としては取っつきやすいと思います。ただ、大前氏の著作を何冊か読んだことのある方には不要な本でしょう。
最後に、もうひとつ引用です。
(p75より引用) 1975年、今から35年以上前に、私は「日本国内でアメリカ式の20分理髪店を開業すればチャンスだ!」と述べた。
この部分は、私が初めて「企業参謀」を読んだとき、PPM法と同じぐらいインパクトを受けた指摘でした。
その影響は大変大きく、おかげで私は今では1,000円カットの愛好者です。
企業参謀ノート[入門編] 価格:¥ 1,470(税込) 発売日:2012-07-28 |