第一次世界大戦後、益々意気上がる軍部の軍拡要求に対しロンドン海軍軍縮条約を締結、日本経済がデフレの真っ只中、金本位制への転換を推進・・・、特に不況下に執った緊縮財政政策の評価は必ずしもよいものではありませんでしたが、自らの政治信条に基づき、重要な決定を正面突破で断行した浜口氏の決断力には特筆すべきものがあります。
その決断力を支えていたのが、浜口氏の「信念」です。
(p102より引用) 余が今日迄の地位に在って、常に重要なる国務を処理するに当って、一番必要なる資格と痛感せるものは、・・・判断の力と、・・・意志の力、即ち此の二者を引っくるめて言えば、確固たる信念である。而かも此の信念は唯の我武者流の内容空虚なる信念ではいかぬ。内容の充実したる信念でなくてはならぬ。此の信念がありてこそ始めて、退いては人言に惑わず、進んでは所信を遂行することが出来るのである。
本書には、数多くの箴言・金言が散りばめられています。その中から、いかにも修養・努力の人である浜口氏らしい言葉をいくつか書き留めておきます。
まずは、桂太郎氏の憶う章から、桂氏の談話を受けて。
(p126より引用) 偉人は凡人の修養の結晶物であり、大業は其の偉人の努力の結晶物である。
もうひとつ、昭和5年11月14日、東京駅での遭難の際。
(p150より引用) 11月14日の朝、東京駅の「プラットフォーム」で「ピシン」とやられた時、「殺ったな」「殺られるには少し早いな」と云う感じが電光の如く閃いた。
「殺られるには少し早いな」、この思いの根底にあったものを、浜口氏はこう語っています。
(p150より引用) 之は決して未練ではない。・・・余の責任がまだ解除されて居ないから「まだ早いな」と云う感じが起ったのである。
自らの責務を果たし切れていないとの思い、偽らざる気持ちだったのでしょう。浜口氏はこうも述懐しています。
(p151より引用) いずれ凡夫の余のことであるから「生に対する執着」が暗々裡に働いて居ったのかも知れぬが、少くともそんな自覚は秋毫もなかったことを断言し得るのである。
まさに浜口氏は謹厳実直な人でした。
最後に、本書を読んで、浜口氏について調べていたときの発見。遥か昔所属していた部署のトップの方は、浜口氏のお孫さんに当たられる方でした。その方は、「ライオン」との印象は全くなく、祖父浜口氏と同じく大蔵官僚のご出身でしたが、いかにもgentleman、とても温厚な方でした。
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