放送作家村上信夫の不思議事件ファイル

Welcome! 放送作家で立教大大学院生の村上信夫のNOTEです。

記者会見のNGワード

2010年06月15日 06時08分21秒 | 不祥事対応の専門家として
会社をつぶす経営者の一言 「失言」考現学 (中公新書ラクレ)
村上 信夫
中央公論新社

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「記者会見で絶対言ってはいけないこと」

 6月に出した『会社をつぶす経営者の一言 「失言」考現学』 (中公新書ラクレ)で紹介した、言葉はちょっとした弾みに飛び出し一人歩きする。一旦、そうなったら、後は止めようがない。これが「失言」である。
 だが、本当はその言葉に至るプロセスがあり、また、その言葉に象徴されるだけではない経営者の人間性、企業の文化や風土があるのは事実だが、記者たちも社会もその一言に反応する。その瞬間、本質がわかると判断するからだ。
 衣の下に鎧ではないが、人は垣間見た姿こそ「本性」と見る傾向にある。
 だから、世論は不祥事企業の記者会見に注目し、失言に対し批判的になる。

「記者会見のNGワードはあるのか?」
 よく受ける質問である。
 その答えはNO。言葉はその文脈と言葉を発する状況により意味が変わる。同じ言葉でも反発を受けたり、説得力を持ったりする。そのため、画一的な「NGワード」集にあまり意味はなく、肝心なことは、とにかく誠意を持って一生懸命に説明することだ。
 しかし、記者たちに届く説明のあり方と、逆に、反発を受ける表現があることも事実だ。
記者会見で気になる言葉や表現を、50人以上の新聞やテレビ、週刊誌、フリー、インターネット報道の記者たちに質問した。結果、反発を感じる言葉には、幾つか傾向があった。例えば、次に紹介するような言葉である。
 だが、これを発した場合、必ず負のイメージを与えるわけではないし、逆にこれらの言葉を使わなければ、反発を受けないというものではない。
 しかし、多くの記者たちはこんな言葉に反発を感じるといい、別の言い方をすれば、これらの言葉を使う経営者の姿勢や状況は、記者たちが反発を感じる場面であることが多いのだ。

●決まり文句「お集まりくださいましてありがとうございます」
 会の始まりの決まり文句「本日はお忙しい中お集まりくださいましてありがとうございます」。つい挨拶の始めに言いがちだが、時と場合による。謝罪記者会見で、不祥事を起こした当事者からこの言葉が出た場合、どう聞こえるだろうか。
違和感を覚えるはずだ。だが、記者会見では、驚くほど多く聞く。
 北関東の某中学でのこと。いじめを苦に生徒が自殺を図り亡くなった時の記者会見でも、校長は、冒頭、この言葉から始めた。それを聞いた記者たちは、皆、一瞬、不快な表情を浮かべた。
 少年が選んだ死に方のあまりに悲惨さに、「(いじめは)どれだけ辛かったのか・・・」と記者たちが思っていたからだ。

●「私たちは被害者です」
 前述書の中でも多く紹介されている事例が、これ。事件などの種類によっては企業が被害者という側面があるものも確かにある。
 だが、いきなり「私たちは被害者です」と言うのはどうだろうか。
 落ち度なく巻き込まれた被害者から見れば、同じ穴のむじな。同じ岸に立って見える。
 例えば、事故米を安いからと言って購入し使った食品メーカー。本当に悪いのは、事
 故米を転売した三笠フーズをはじめとする業者だ。しかし、それを食わされた消費者から見れば、食品メーカーに対し『お前たちが安全性を確認していたら』という思いはぬぐえない。そんな人たちに向かって、被害者だと叫ぶことが共感を得られることか。
 先にこの言葉を発する経営者に対し、反省の態度が感じられない、責任回避、あるいはそういう冷静な判断もできない。と受け止められ、世論の批判を浴びることになる。
 まず、そのような事態を招いた責任の一端に対する反省があるべきではないだろうか。最初に、今回の事件についての謝罪を行い、最後に「弊社も被害者として刑事告訴も考えております」くらいの表現で、自社の言い分を表すべきではないかと思うのだ。
●責任逃れの常套句「知らなかった」「部下がやった」「秘書がやった」
 これも『経営者の一言』に多く、トップが責任逃れの言い訳に使う常套句だ。これを聞いた時、どう感じるだろうか?
 本当に、トップが知らないことはある。だが、知らないと言う時に、知るための努力の不足、大事なことを相談されない無能さを暴露している。己の器の小ささを告白しているようなものなのだが、不祥事の発覚の度に使われる。
●「法的には問題がない」「法律は守っている」
 長崎屋尼崎店火災(90)のように、度々、使われ、世間から反発を受ける表現だ。法律を守っているのは当たり前。社会が求めているのは、法律を守っていたかどうかではなく、企業として事件・事故を防ぐために、どれだけ事前の努力をしていたのかということだ。
 記者たちは、この言葉を聞くと『コンプライアンス(法令遵守)を縦に逃げようとする意識が透けてみえる』。
 カチン、『矛盾を暴いてやろう』と考えるという。
●「たいしたことない」「みんなやっている」
 それまで業界の慣例として当たり前に行っていたことや今まで問題になっていなかったこが、ある日、不祥事として指摘される。
「なぜ、自分だけが?」とつい出てしまうのも、わからなくない。
 だが、皆が行っているからと言って、問題ないわけではないことは言うまでもない。
 やっぱり事務所費の領収書に、マンガやキャミソールがあっては変なのだ。違法かどうかの問題ではない。
 この発言に、事態の重大性に気付かず軽く見る意識や当事者たちの幼児性を感じて、記者たちは「組み易し」と感じると言う。

それ以外にも、記者たちの心象を悪化させる、硬化させる表現・態度は、幾らでもある。
●ご承知のように」「先ほども申しあげたように」「言うまでもなく」
 このようなフレーズの繰り返す時、丁寧に説明することを放棄しようとする意志を感じるという。
 また、当事者意識が希薄な話し方はどの媒体の記者も、カチンとくるという。
 記者たちが疑問を感じるような表現、疑いを抱くような説明があった場合、それが報道内容に影響を与えないわけがなく、批判的な論調の報道が拡大することになる。

企業不祥事が止まらない理由
村上 信夫,吉崎 誠二
芙蓉書房出版

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村上 信夫
グラフ社

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一番、一番!真剣勝負
朝青龍 明徳
日本放送出版協会

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