コラム「大失言 政治家たちのこのコトバ」
政治家の発言が失言となるかならないかは、次の要素によって決まるという説がある。①発言内容 ②国内の政治的要因 ③外交問題に発展するか否か ④マスコミが注目す
るかどうか。(川野徳幸『閣僚失言の政治学』から要約)。
少し説明を加えると、川野説は、閣僚の発言に限っての説で、②は発言段階の政権の存立基盤と与野党の勢力関係。で、政権が連立政権などではなく、盤石の基盤があれば多少の発言は問題なくなる。あるいは、与野党拮抗の政治情勢の場合、ちょっとした発言も政局に結びつく大きな発言になるという。
この要素は、不祥事発生時の記者会見でも同様で、トップの一言が失言となり、その企業を危うくするのは、①発言内容 ②起こした不正の悪質度 ③社会へ与えた不安・不信がどの程度か ④マスコミの注目度 の掛け算とみることができる。
次に、牧野武文氏の『大失言』から、政治家の有名な、ある意味、政治の動きを変えた失言をあげる。
「我が国の防衛ができないという場合は、その基地を侵略してもよい」
鳩山一郎首相(昭和31年)
「憲法九条を破棄するときがきた」岸信介首相(昭和33年)
「現行憲法は他力本願。やはり軍艦や大砲がなければだめだ」
倉石忠雄農林大臣(昭和43年)
「国旗、国歌を法制化するときがきた」 田中角栄首相(昭和49年)「戦後の平等教育には誤りがあった。教育勅語を全て否定したのは誤り」
砂田重民文部大臣(昭和53年)
「軍隊も持てないような憲法を作られて、もがいている」
中村正三郎法務大臣(99年・平成11年)「日本も核武装したほうがいい」 西村慎吾防衛庁政務次官(99年)「日本は天皇を中心とした神の国」 森喜朗首相(2000年)
自民党の森喜朗元首相(在任00-01)は、優勝の報告に来た横綱貴乃花に「今日は痩せて見えるだろう」(00)IT革命を「イット」(00)など失言が多く、その度に視聴率が下がり、とうとう1ケタになった。
最後は、えひめ丸が米原潜と衝突し沈没した事故(01)の後、ゴルフを続行していたことを問われ「連絡をとりやすいと言われ、ゴルフを続行した」と発言し、世論の批判を浴びた。本来は30分以内に危機管理センターに着く必要があるのだが、百歩譲って言い分を認めても、「ゴルフをやる必要はないだろう」は普通の感覚だ。
08年9月1日、福田康夫元首相(在任07-08)が、突然辞意を表明した記者会見で、他人事に聞こえると批判した記者に切れ発した、「あなたとは違うんです」発言は、歴史に残る失言となった。
その福田元首相の後を継いだ麻生太郎前首相(在任08-09)は、自分の内閣の官房長官から「オウンゴールだけはしないで」と言われるほどに失言の多い首相だった。
就任直後にカップ麺の値段を問われ、「いま400円くらいします?そんなにしない?私、最近自分で買ったことないので」 (08)失言とは言えないが、庶民感覚がないことがバレた。その他、漢字の読み違えも多く「未曾有」を「みぞうゆう」と読み、時ならぬ漢字ブームを巻き起こした。
政権を失うこととなった09年の衆院選でも、学生との対話集会に出て「金がないなら結婚するな」(09)と発言、会場を凍りつかせた。
同年、政権を自民党から奪取した民主党の鳩山由紀夫首相も、宇宙人といわれる感覚が失言を呼ぶのか、高齢者たちを訪ねその前で、「元気な高齢者をいかに使うか。この人たちは皆さんと違い働くことしか才能がないと思って下さい。」(10)に、加えて「80過ぎて遊びを覚えても遅い」とか「60過ぎて、80過ぎて、手習いなんて遅い」とも述べる。
少子高齢化の時代への励ましのつもりのようが、鳩山首相の言葉には、高齢者はやることがないから「使う」べき。あるいは、「使ってやる」の響きが感じられる。
外交問題でも、10年5月までに決着すると内外に公言した沖縄の普天間基地問題を「普天間なんて(地名は)知らなかったでしょう」(10)。国会内で後援者らと懇談し、自身の「政治とカネ」問題について「来週あたりに決着する」と検察へ圧力発言(10)。発展と言うべきところを「日米同盟を「持続的に撤回」(10)と失言の連続。
その度に、首相も官房長官も釈明に追われたが、もちろん社会の理解を得るには至らず、支持率は下がる一方。
「綸言(りんげん)汗の如(ごと)し」という言葉がある。
君主の言葉は一度出た汗が体内に戻らないように、一度発せられたら取り消すことができないという意味である。
失言と言う言葉にはうっかりというニュアンスがないわけではないが、政治家も、そして企業のトップも、自分の一言の重みを感じる必要がある。
そう言えば、記者会見で「今のはなかったことに」と発言、失笑をかった大企業トップもいた。