日時:2008年12月6日(土)
会場:慶應義塾大学 藤沢キャンパス
2週間遅れの報告になってしまいごめんなさい。12月6日に慶應のSFCで開催された人材育成学会の「第6回年次大会」について報告します。
この学会の大会には筆者は昨年から参加しているのですが、様々な研究領域の方が参加されていること、研究者だけでなく企業の人材開発担当者や教育事業者も多数参加されている等、他の学会にない構成員の多様性が魅力の一つとなっています。
人材育成学会のWebサイト
http://www.jahrd.jp/
第6回大会のWebサイト
http://www.jahrd.jp/activity/annualmeeting06.html
しかし、慶應SFCはいいキャンパスですなあ~~。建物が綺麗だし、なんといっても学食が美味。自然がたくさんあるところや、駅から遠いところは筆者の勤務校に似た部分があるのですが、学食の素晴らしさは正直羨ましかったっす。それと往復のバスもTwinLinerというメルセデスベンツ社製のバスが運行しており、神奈川中央交通とは思えないぐらいかっこよかったです。はい。(上記はTwinLinerの写真)
今回は、私の聴講した研究発表の中から4つをピックアップしてご報告します。
キャリア教育におけるアセスメントのフィードバックの効果~相対的な自己意識の獲得プロセスの促進モデル~二村 英幸(近畿大学)
二村先生と言えば人事アセスメント研究の第一人者であり、先生が人事測定研究所時代に執筆された『人事アセスメント入門』(2001、日経文庫)は、企業で人事評価の仕事に携わったことのある方であれば必ず手にしたことのある名著です。その二村先生が一般発表のセッションで直々に発表されているのですから、なんとも贅沢な学会です。
発表内容は、二村先生が現在大学の3年生相手に教えてらっしゃる「ビジネスサーベイA」という科目の取組についてでした。この科目は毎回1種類のアセスメントを授業で取り上げ、そのツールの理論的背景を説明し、実際に学生がサーベイを実施し、その結果を基に自己分析や相互学習を行うというスタイルで進んでいきます。
半年の授業の中で13ものアセスメントツールを取り上げることになりますが、繰り返し実施することにより、学生の意識は当初の「当たる・当たらない」という短絡的な感想からより自己洞察や自己受容を行うように変化していったとのことです。
二村先生は「最近の学生はアセスメントツールのフィードバックをあまり反省せずに信じきってしまう。青年期のキャリアは悩みに悩んで確立するものである」とおっしゃっていました。こうした授業のプロセスを通じて自立的なアイデンティティ達成に向けた支援を行うこと、これこそキャリア教育のあるべき姿ですね。
民間企業の従業員タイプ別にみるストレス関連特性の特徴高橋 修(浜松学院大学)
個人的な話しになってしいますが、発表者の高橋先生は、かつて私の上司であり、同年齢の職場仲間でした。数年前に本学を退職後、職場のストレスと成果主義の関係を研究したり、様々な大学や専門学校で講師を勤めた後、今年から浜松学院大学で講師となっています。筆者が今まで仕えた上司の中で最も優秀だったのが高橋氏です。数年ぶりに再会したのですが、2人とも大学の教員になっており人生なんて分からないものだなあと思った次第です。
さて、発表内容は民間企業の3,000人を超える従業員を対象としたアンケート結果をもとにした職業性ストレスに関する量的な研究結果の報告でした。従業員タイプを「正規管理職」「正規一般職」「非正規一般職」の3群に分けてアンケート結果を分析しているのですが、「雇用の安定性」「中長期的な評価と処遇」については「正規管理職」「正規一般職」が「非正規一般職」よりも不安を感じているという結果がでたそうです。
「おや?」と感じる方も多いと思いますが、これは調査が2007年11月に実施されているためです。その頃は景気もよくて、私も職場の中で「派遣さんが確保できない」という悩みを幾度となく他の管理職から聞いていました。同様の調査を今実施したら、おそらく全く異なる結果となるのでしょうね。発表とは関係ありませんが、この1年の急激な経営環境変化を再認しました。
伝統産業にみる人材育成~産業共同体の観点から西尾久美子(京都女子大学)関 千里(明海大学)
あの『京都花街の経営学』の著者西尾久美子先生もこの学会に参加しているのです。しかも3年連続で共同研究者の関先生と一緒に本学会でご発表されています。西尾先生は京都の芸姑さん、関先生は新潟の酒造業での人杜氏の育成の取組について研究されています。この2つの伝統産業には「学校」という共通点がありました。花街には「女紅場(にょこうば)」と呼ばれる日本舞踊、唄、学期を学ぶ学校が、新潟の酒造業には1984年に設立された新潟清酒学校があります。そしてそられの学校で学ぶ「同期のつながり」が伝統産業での新人の定着に寄与しているというのが今回の発表の結論でした。
確かに「同期」というのは、非常に強い繋がりがありますよね。筆者も今年教員になった同期の教員と一緒に非公式な学習会を行ったり、定期的に飲み会を実施し、日頃の教育活動の情報交換を行っています。これは単に実践的に役立つだけでなく精神衛生上も欠かせない集まりになりつつあります。伝統産業だけでなく、「同期」のつながりという視点で組織内の学習を捉えてみると、かなり面白い発見がありそうです。
大学生の社会人基礎力習得のための提言-学生時代の活動と経験学習理論との関連から-高橋 浩(NECマイクロシステム株式会社) 池田 知美(株式会社ケンウッド)谷 由紀子(株式会社ベネッセコーポレーション)
今回の学会の中では最も興味深い発表でした。発表者はすべて企業の方で、発表後に聞いたところ、この方達は自主的に企業内の人材育成について検討するコミュニティ「CDC=(Career Development Commuinity)」のメンバーなのだそうです。こうしたコミュニティでの研究成果の発表があるのもこの学会ならではの特徴かもしれません。
さてこの発表、巷で話題になっている「社会人基礎力」について500人近い大学生への調査結果をもとに
1)その獲得プロセスを「Kolbの経験学習理論」で説明
2)ナラティブ(語り)における「因果的一貫性」に着目し、その定着度
合いを判断する方法論を考察
した点に、研究としてのユニークさと実用性の高さが窺えます。とても本メルマガで扱える分量ではないので、詳細についてご関心のある方は、CDCのメンバーの一人である「じぇい」さんのBlogを参照願います。
下記のURLでアクセスし、
10月 5日 大学生活で社会人基礎力は伸びている
10月 6日 学生の成長に影響を与える人のタイプ
10月 7日 経験の印象から…
10月 8日 学生時代の経験と学習の因果関係
10月 9日 経験学習モデルから
の5日分のBlogに詳細が記述されています。
http://jqut.blog98.fc2.com/blog-entry-277.html
また、経験学習モデルについて詳しく知りたい方は、本メルマガのバックナンバー『vol225:「プロフェッショナルの人材育成」参加報告記』を参照願います。
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/1b0921efbc9a51fa427718e06fe0f866
筆者としては、現在行っている協同学習スタイル授業の改善に今回の内容を活用できそうで、とても有意義な発表でした。
まとめ
昨年・今年とこの学会に参加し、感心したのはやはり発表者・聴講者の多様性です。今回も企業の方、研究者、大学職員など普段様々な仕事をなさっている方が「人材育成」というキーワードの下、一同に介して、日常の研究活動や実践活動について報告しています。
普段同質的な人員から構成される「大学」という環境にいる筆者としては、この多様性がとても刺激になります。そして単に「イイハナシヲキケタ」というレベルでなく、異なる領域で行われている「教育」や「学習」活動が、日々の大学教育活動改善の大きなヒントになってくれています。今後はヒントをいただくばかりでなく、筆者も発表の形で貢献できればと考えています。
会場:慶應義塾大学 藤沢キャンパス
2週間遅れの報告になってしまいごめんなさい。12月6日に慶應のSFCで開催された人材育成学会の「第6回年次大会」について報告します。
この学会の大会には筆者は昨年から参加しているのですが、様々な研究領域の方が参加されていること、研究者だけでなく企業の人材開発担当者や教育事業者も多数参加されている等、他の学会にない構成員の多様性が魅力の一つとなっています。
人材育成学会のWebサイト
http://www.jahrd.jp/
第6回大会のWebサイト
http://www.jahrd.jp/activity/annualmeeting06.html
しかし、慶應SFCはいいキャンパスですなあ~~。建物が綺麗だし、なんといっても学食が美味。自然がたくさんあるところや、駅から遠いところは筆者の勤務校に似た部分があるのですが、学食の素晴らしさは正直羨ましかったっす。それと往復のバスもTwinLinerというメルセデスベンツ社製のバスが運行しており、神奈川中央交通とは思えないぐらいかっこよかったです。はい。(上記はTwinLinerの写真)
今回は、私の聴講した研究発表の中から4つをピックアップしてご報告します。
キャリア教育におけるアセスメントのフィードバックの効果~相対的な自己意識の獲得プロセスの促進モデル~二村 英幸(近畿大学)
二村先生と言えば人事アセスメント研究の第一人者であり、先生が人事測定研究所時代に執筆された『人事アセスメント入門』(2001、日経文庫)は、企業で人事評価の仕事に携わったことのある方であれば必ず手にしたことのある名著です。その二村先生が一般発表のセッションで直々に発表されているのですから、なんとも贅沢な学会です。
発表内容は、二村先生が現在大学の3年生相手に教えてらっしゃる「ビジネスサーベイA」という科目の取組についてでした。この科目は毎回1種類のアセスメントを授業で取り上げ、そのツールの理論的背景を説明し、実際に学生がサーベイを実施し、その結果を基に自己分析や相互学習を行うというスタイルで進んでいきます。
半年の授業の中で13ものアセスメントツールを取り上げることになりますが、繰り返し実施することにより、学生の意識は当初の「当たる・当たらない」という短絡的な感想からより自己洞察や自己受容を行うように変化していったとのことです。
二村先生は「最近の学生はアセスメントツールのフィードバックをあまり反省せずに信じきってしまう。青年期のキャリアは悩みに悩んで確立するものである」とおっしゃっていました。こうした授業のプロセスを通じて自立的なアイデンティティ達成に向けた支援を行うこと、これこそキャリア教育のあるべき姿ですね。
民間企業の従業員タイプ別にみるストレス関連特性の特徴高橋 修(浜松学院大学)
個人的な話しになってしいますが、発表者の高橋先生は、かつて私の上司であり、同年齢の職場仲間でした。数年前に本学を退職後、職場のストレスと成果主義の関係を研究したり、様々な大学や専門学校で講師を勤めた後、今年から浜松学院大学で講師となっています。筆者が今まで仕えた上司の中で最も優秀だったのが高橋氏です。数年ぶりに再会したのですが、2人とも大学の教員になっており人生なんて分からないものだなあと思った次第です。
さて、発表内容は民間企業の3,000人を超える従業員を対象としたアンケート結果をもとにした職業性ストレスに関する量的な研究結果の報告でした。従業員タイプを「正規管理職」「正規一般職」「非正規一般職」の3群に分けてアンケート結果を分析しているのですが、「雇用の安定性」「中長期的な評価と処遇」については「正規管理職」「正規一般職」が「非正規一般職」よりも不安を感じているという結果がでたそうです。
「おや?」と感じる方も多いと思いますが、これは調査が2007年11月に実施されているためです。その頃は景気もよくて、私も職場の中で「派遣さんが確保できない」という悩みを幾度となく他の管理職から聞いていました。同様の調査を今実施したら、おそらく全く異なる結果となるのでしょうね。発表とは関係ありませんが、この1年の急激な経営環境変化を再認しました。
伝統産業にみる人材育成~産業共同体の観点から西尾久美子(京都女子大学)関 千里(明海大学)
あの『京都花街の経営学』の著者西尾久美子先生もこの学会に参加しているのです。しかも3年連続で共同研究者の関先生と一緒に本学会でご発表されています。西尾先生は京都の芸姑さん、関先生は新潟の酒造業での人杜氏の育成の取組について研究されています。この2つの伝統産業には「学校」という共通点がありました。花街には「女紅場(にょこうば)」と呼ばれる日本舞踊、唄、学期を学ぶ学校が、新潟の酒造業には1984年に設立された新潟清酒学校があります。そしてそられの学校で学ぶ「同期のつながり」が伝統産業での新人の定着に寄与しているというのが今回の発表の結論でした。
確かに「同期」というのは、非常に強い繋がりがありますよね。筆者も今年教員になった同期の教員と一緒に非公式な学習会を行ったり、定期的に飲み会を実施し、日頃の教育活動の情報交換を行っています。これは単に実践的に役立つだけでなく精神衛生上も欠かせない集まりになりつつあります。伝統産業だけでなく、「同期」のつながりという視点で組織内の学習を捉えてみると、かなり面白い発見がありそうです。
大学生の社会人基礎力習得のための提言-学生時代の活動と経験学習理論との関連から-高橋 浩(NECマイクロシステム株式会社) 池田 知美(株式会社ケンウッド)谷 由紀子(株式会社ベネッセコーポレーション)
今回の学会の中では最も興味深い発表でした。発表者はすべて企業の方で、発表後に聞いたところ、この方達は自主的に企業内の人材育成について検討するコミュニティ「CDC=(Career Development Commuinity)」のメンバーなのだそうです。こうしたコミュニティでの研究成果の発表があるのもこの学会ならではの特徴かもしれません。
さてこの発表、巷で話題になっている「社会人基礎力」について500人近い大学生への調査結果をもとに
1)その獲得プロセスを「Kolbの経験学習理論」で説明
2)ナラティブ(語り)における「因果的一貫性」に着目し、その定着度
合いを判断する方法論を考察
した点に、研究としてのユニークさと実用性の高さが窺えます。とても本メルマガで扱える分量ではないので、詳細についてご関心のある方は、CDCのメンバーの一人である「じぇい」さんのBlogを参照願います。
下記のURLでアクセスし、
10月 5日 大学生活で社会人基礎力は伸びている
10月 6日 学生の成長に影響を与える人のタイプ
10月 7日 経験の印象から…
10月 8日 学生時代の経験と学習の因果関係
10月 9日 経験学習モデルから
の5日分のBlogに詳細が記述されています。
http://jqut.blog98.fc2.com/blog-entry-277.html
また、経験学習モデルについて詳しく知りたい方は、本メルマガのバックナンバー『vol225:「プロフェッショナルの人材育成」参加報告記』を参照願います。
http://blog.goo.ne.jp/sanno_el/e/1b0921efbc9a51fa427718e06fe0f866
筆者としては、現在行っている協同学習スタイル授業の改善に今回の内容を活用できそうで、とても有意義な発表でした。
まとめ
昨年・今年とこの学会に参加し、感心したのはやはり発表者・聴講者の多様性です。今回も企業の方、研究者、大学職員など普段様々な仕事をなさっている方が「人材育成」というキーワードの下、一同に介して、日常の研究活動や実践活動について報告しています。
普段同質的な人員から構成される「大学」という環境にいる筆者としては、この多様性がとても刺激になります。そして単に「イイハナシヲキケタ」というレベルでなく、異なる領域で行われている「教育」や「学習」活動が、日々の大学教育活動改善の大きなヒントになってくれています。今後はヒントをいただくばかりでなく、筆者も発表の形で貢献できればと考えています。
コメントありがとうございました。「素人研究集団」とご謙遜されておりますが、遜色がないどころか一番興味深い発表でしたよ。これからも宜しくお願いいたします。