Learning Tomato (旧「eラーニングかもしれないBlog」)

大学教育を中心に不定期に書いています。

vol242:教育システム情報学会第32回全国大会-参加報告記

2007年09月20日 | セミナー学会研究会見聞録
日時:2007年9月12~14日
場所:信州大学工学部

今年で32回目を数える教育システム情報学会の全国大会の2日目、3日目に参加してまいりました。これまでいつも「聞く側」として全国大会に参加していたのですが、今回発表者として、企画セッションに投稿し、さらに最終日のパネルディスカッションに指定討論者として参加しました。そこで本メルマガでは聞く側と話す側両方について、私の関心のあった内容をご報告いたします。

ワークショップ:高校普通教科「情報」の緊急課題
司会 :中村直人先生(千葉工業大学)
登壇者:布施泉先生(北海道大学),鷹岡亮先生(山口大学)
西野和典先生(九州工業大学)

初日に開催されたワークショップのため、筆者は参加できなかったのですが、ポイントは高校における「情報」という科目がきちんと実施されているのかどうか、されていないとしたらどこに問題があるのかといった事についての討論があったようです。

実はこの件は前々から気になっておりました。本学だけでなく、いくつかの大学で情報リテラシー教育等に携わっている先生とお話する機会があるのですが、「どうも高校で授業がきちんと実施されていないようだ」という意見を述べる方が多いのです。実際コンピュータ利用教育協議会(CIEC)の調査では、

『2006年度大学入学生で「情報」をまったく履修していない者が4分の1程度おり,また履修した者でも(2単位 70時間の科目であるにも関わらず)「一時期のみ」「1単位分」の履修が多く見られる。また,未履修は国立大学や難関私立大学などをめざす進学校に多く存在した。』というのです。
http://www.ipsj.or.jp/12kyoiku/Highschool/credit.html

大学でeラーニングを活用した授業を考えていても、入学者がきちんとした情報リテラシー能力を身につけていなければ使えないので困ってしまいます。しかし高校の現場では逆のことを考えており、『教科「情報」を必修から選択に変えてほしい』という要望が全国高等学校長協会から出ているのです。
http://www.zen-koh-choh.jp/img/iken/070706/shidou.pdf

こうした社会で顕在化した問題を学会で取り上げることは大変有意義なことと思います。さらに言うなら、こうした教科「情報」の未履修問題に対し、eラーニングはどれだけ問題解決に貢献できるのかを考えていく必要があると思いました。

特別講演「サイバー大学への期待」
サイバー大学 IT総合学部長 石田晴久先生

今年開学したサイバー大学は、吉村作治先生が学部長をつとめる「世界遺産学部」が有名ですが、実際の学生数ではIT総合学部が330人、世界遺産学部が195人とIT総合学部の方が上回っています。さらに1102人の科目等履修生のほとんどはIT総合学部ということなので、サイバー大学の実際の顔はIT総合学部なのかもしれません。そんなIT総合学部で学部長を担当される石田晴久先生が特別講演に信州までいらしてくれました。石田先生のお話の中で興味深かったのは、授業料のモデルと各コマの時間数についてです。

通常の大学の場合、授業料は定額制で学期の初めに一括して振り込みますが、サイバー大学の場合、単位毎授業料のシステムを採用し、1単位=2.1万円とのことです。同様の仕組みは早稲田eスクールや八洲学園大学といったeラーニングの大学も採用しています。社会人大学生の場合、「元を取ってやろう」という思い(貧乏根性とも言う)から、ついつい履修できないぐらいの科目を履修してしまうのですが、この方式だとむやみに履修登録をしなくなりますし、各科目あたりの費用が明確になるので、「授業を途中でドロップアウトする」ことへの抑止力になると考えられます。

また、授業時間は1コマ60分ということでした。実際の授業と異なりVODのコンテンツでは無駄話等がなくなるので、通常通学授業の90分が60分に相当するだろうという事で60分になったということです。なお、履修中に指示されたタイミングでマウスをクリックしなければ出席にならないという事なので、この点は通常の授業より厳しいかも知れません。

サイバー大学の意義は「学びたい人への門戸開放」にあるといえます。こういったユニークな大学の取組みが、大学の多様化に向けて一石を投じることができると石田先生はおっしゃっていました。

一部の大学の事件で株式会社立大学全体がネガティヴなイメージでとらえられてしまっている風潮がありますが、サイバー大学のますますの発展で、その悪いイメージを刷新してもらいたいと個人的には思っております。

アメリカ高等教育における遠隔教育デモンストレーションプログラムと50%ルールの撤廃
筆者の発表テーマです。
50%ルールというのは、アメリカの高等教育において、授業の半数以上が遠隔学習によるものであるか、 あるいは学生の半数以上が遠隔授業による履修をしている場合に、その機関は連邦奨学金のプログラムに参加する資格のない機関と見なされるというルールです。

このルールは1992 年の高等教育法の修正において制定されたのですが、目的はインターネットの急速な普及に伴い、虚偽の修了証を発行する遠隔教育機関が増えるのを抑制することにありました。しかし、アメリカでは6割以上の学生が奨学金を利用しているため、奨学金を利用できないと大学経営にとっては死活問題となってしまいます。

そこで、遠隔教育の有効性を診断するため「遠隔教育デモンストレーションプログラムが実施されました」プログラムの結果、遠隔教育は社会人の学習機会やマイノリティの学習機会を拡大する効果があることが判明し、2006年に50%ルールが廃止されました。
こうした米国の動向から日本への示唆を指摘したのが筆者の発表でした。複数の方よりご質問をいただき、今後の研究の方向性もやや見えてきた気がしました。質問していただいた諸先生方ありがとうございました。

パネルディスカッション「e-learningをビジネスにするために」
オーガナイザ :仲林清先生(メディア教育開発センター)
コーディネータ:北村士朗先生(熊本大学大学院)
パネリスト  :小林健太郎様(株式会社デジタル・ナレッジ),
柴田善幸様(株式会社日本能率協会マネジメントセンター)
指定討論者  :古賀暁彦(産業能率大学)

企画の趣旨、登壇者のプロフィール等は下記URLをご覧ください。
http://security.cs.shinshu-u.ac.jp/JSiSE2007/tkikaku/tkikaku1.html

通常学会の3日目の午後というのは、参加者が帰路についてしまい、いっきに人が減ってしまうのですが、上記パネルは3日目の午後にも関わらず大勢の方に参加いただきました。筆者は指定討論者(突っ込み役)で本パネルに参加しました。会場からもたくさんの質問をいただき、かなり盛り上がった140分間となりました。

しかし自分が当事者として壇上に立っていると「メタ認知」ができないものですねえ。どんな議論があったのかすらあまり覚えていないのです。パネラーの中ではJMAMの柴田さんの発表スライドがとても素晴らしかったのですが、柴田氏は当日ギリギリまで粘って作成していたので現物が手元に無く、あれ?面白かったんだけどディティールが思い出せない。状態となっております。

一つ鮮明に覚えているのは、柴田さんの名言「(eラーニングの事で)お金の話はやめようをやめよう」です。eラーニングに限らず、教育においてお金の話をすることは今まで後ろめたい事、卑しい事と考えられがちでした。しかしサスティナブルなeラーニングを考える上でお金の話を避けて通ることは不可避と考えます。今回、学会のシンポジウム場でビジネスの話・お金の話を堂々と真剣に話し合えたことは、非常に画期的であったと考えます。

もちろん登壇したパネラー一行としては、結構ハラハラドキドキものだったのですが、あまり遠慮することなく討議することができ、会場の反応もまずますだったと感じております。

まとめ「牛に引かれて善光寺参り」
長野といえば善光寺。善光寺といえば「牛に引かれて善光寺参り」という言葉が有名です。学会後の宴会の席で、どなたかが「牛に引かれて~のいわれは何でしょうね」と尋ねてきました。無論筆者はいわれなど知らなかったので、教育関係の学会風に「牛=先行オーガナイザー説というのはどうっすかねえ?」とジョークをかましてその場を誤魔化しました。翌日善光寺にお参りに行くと、いわれが張ってありました。(下記参照)
http://www.zenkoji.jp/houwa/index2.html

牛=先行オーガナイザー説もあながち間違っていないかも知れないと思った次第です。私にとっての学会を善光寺に例えるならば、牛はさながらe-learningです。そもそもe-learningに関わらなければ学会などという研究者の集まる場に足を運ぶことはなかったと思います。今後も良いeラーニング作りを目指して学会参りを続けたいと思います。

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