【教育を追う】「改革」私の意見〈58〉
人類主義に立って
国分 一太郎⑤(児童文学者)
――中曽根首相は「国際社会の中で活躍できる日本人を育てる教育」を強調しています。
「そのようですな。資源小国の日本としては石油や農産物を外国から買い、工業製品を売りつけるために、礼儀正しい如才ない日本人を育てることを考えているのでしょうかね。でもね、日本人が外国人とつきあううえで足りないものは何かというと、外国の歴史や芸術の知識なんですな。娘がソ連の大学に留学し、そのあとラテンアメリカを数年間歩いてわかったことらしいんですが、外国人は、よくギリシャ神話やローマ神話、聖書を引き合いに出して話すそうです。ディッケンズやドストエフスキー、ツルゲーネフといった世界中の人々が読んでいる文学作品も出て『あの作品の主人公○○のように』と言う。そういうことを知っていないと話が合わないそうですな。
それともう一つ。ぼくが『人類的視野で』と言うのは、こういうことです。いま『自然と人間の共生にもう一度かえれ』といわれていますね。つまり科学技術文明のひずみの克服が国際的な課題になっています。また平和の問題があります。いま核の均衡のうえに立った“平和”ですが、みんなそんな危うい状況に耐えられなくなっているんじゃないですか。核を廃絶し軍縮して真の平和な国家社会になることを、みんな望んでいます。自然や平和を守る人類主義が、いまの教育に最も大事になってきていると思いますね。
――最後に、教育改革はどのようにすすめるべきだと思いますか。
「政府は『戦後教育の見直し』と言っているが『見直し』とは戦後教育を『やめる』ということじゃないのですか。そうではなく、今一度、戦後教育の方針に立ちかえることです。つまり教育に対する民衆のコントロールの復活、真理真実をきっちり教え、子どもの自発性を尊重して自ら考える力をつける、教師には自由を保障する、そうした戦後教育の行政、制度、内容、方法が意義あったことを再確認すべきです。
そのためには戦後教育の原点で育った人たちを各界から集めて賢人会議とか百人会議をやったらどうでしょう。教育関係者だけでなく自然保護などにかかわる市民や農民などを入れてですな。そういう若い人たちで人類の将来を見通した教育改革の方針を練ってもらいたいですね」(この項おわり)
1984年(昭和59年)7月14日(土曜日) 毎日新聞
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます