つづる3
《子どものうちに育てておきたい表現力》
三 二つの作文のちがい
―「ある日型」と「いつも型」―
日本語教育部会協力研究所員 田 中 定 幸
(一)竹馬のことを書いた二つの作文
たけうま 三年 みゆき
① きのうのひる休みに、たけうまにのっていたら、たいらさんが、
「のれた。」
といいました。わたしが、
「なんぽ。」
ときいたら、
「じゅっぽ。」
といいました。
② わたしもちょうせんしたら、五ほあるけました。あんなちゃんが、
「すごい。」
といってくれたので、わたしはうれしくなって、どんどんつづけました。
③ そしたら、あんなちゃんが、
「あおのとびばこからピンクのとびばこまで
きて。」
といったから、わたしと平さんがいきました。
そしたら一回しっぱいして、二回しっぱいして、三回でやっといけました。つぎは、きょりをはなして、やってみたら、ひっかかってばかりでした。
④ あんなちゃんがたけうまの先生で、テストのれんしゅうをしました。そして、あんなちゃんが、
「あしたは、テストだよ。」
といいました。わたしは、れんしゅうしなくっちゃと思いました。
あしたになって、そうじがおわったらすぐにじぶんでつかっているやつをはやくとって、テストをうけたいなと思いました。ほかのやつだったらやりにくいから、はやくはしっていこうと思っています。
竹馬のれんしゅう
三年 彩乃
① わたしは、いつも竹馬にのっています。先生に、
「竹馬にのってもいいんじゃない。」
といわれてから、友だちと、毎日のようにやっています。
② わたしは、すこし前から竹馬をやっていたから、友だちにやりかたとかもすこしおしえています。はじめは、友だちに、
「いいね。うまくできて。」
といわれていたけど、おしえているうちにみんなもうまくなってきました。
③ でも、みんなは、のる所を、横にむけてやっているけど、ほんとは、ぼうの上の方をすこし中にして、下の方を、ほんのすこしだけ外にひらくと、うまくのれます。そして、ぼうを、前の方にすこしななめにしてやらないと、うしろにひっくりかえってしまうのです。ぼうも、できるだけあっているものをえらびます。
④ このごろは、二十分休みになると、いつもきょうとう先生の所へいって、
「体育そうこのカギありますか。」
と言って、カギをかりて、体育そうこにかけていきます。すると、たいてい、友だちがきてまっています。
⑤ いつもたのしくなってくると、二十分休みのおわりのチャイムがなってしまいます。ああつまんないと思います。でも、昼休みがあるからいいと思います。そして、昼休みがおわると、あしたがあるからいい。あした、また竹馬をやろうと思います。それも毎日。毎日、毎日、そう思います。
この二つの作文は、三年生の子どもたちに、「最近したことで、心に残っていることでもよいし、自分が今思っていること、考えていることでもよい。なんでもよいから書きたいと思ったことを、一つえらんで、そのことを作文に書きましょう。」こういって書いた中から生まれた作品です。
そのときは、子どもたちがその時期、休み時間に竹馬にむちゅうになっていたことも知っていたので「竹馬で遊んだことでもよいし、むちゅうになって何かをしたことでもよい。」といって書いてもらったのです。そう言ったこともあってか、「竹馬のこと」について、4,5人の子どもが書いてきました。その中からえらんだ作品です。
二つの作文が生まれたとき、この二つの作品をつかって、「表現のちがい」について、学ばせられると考えました。
段落に分けてないところがあったり、文脈が少しみだれていたところもあったので、本人を読んで、たしかめて、できあがったものです。子どもたちの学習のために役立てようと「教材化」したものです。読みやすいように、二つの作品を上下にレイアウトして一枚のプリントにして配布します。
この二つの作品の「ちがい」を比べさせて、文章表現力を身につけさせるための授業をしました。そのときの、おおよその展開のしかたをここに、紹介します。扱い方を工夫すれば、どの学年でも実施できます。(注1)
(二)二つの作品を使っての授業展開
(1)題の「ちがい」
子どもたちには、白紙の用紙、あるいはノートの真ん中に線を引かせて、上の作品と下の作品とを対比させながら、「ちがい」を見つけて、書いていくようにさせます。
そのメモのとりかたを確認する意味もこめて、「読んでみて、はじめに気がついたちがいについて発表してみようと」発問します。
すぐに教師の意図に反応してくれる子どももがいます。「はじめに」ということばに反応してこたえてくれます。「題がちがう」。書いた人がちがっています。ふたりは竹馬のことについて書いているけど、みゆきちゃんのほうは、たけうま」とひらがなで書いているけれど彩乃ちゃんの方は、漢字をつかっている。
こういった発言がでてきたら。それをちょっと整理しておこうね。」といって、板書します。教師も黒板の真ん中に、横線を引きます。そして、題がちがうんだね。上の作品の題は、とたずねて「たけうま」と書きます。そして、下の作品の題はと、ここでもわかりやすい質問をし、それをみんなに言わせながら板書していきます。そして、書き手の名前も確かめて書きます。
二つちがいが見つけられたね。一つは、題のちがい。そして、書いた人のちがい。そして、上下に分けた線の上部には①の作品のことを、下部には②の作品について書くことを実際に、黒板に「題」「書いた人」をと板書します。これを子どもたちにもうつさせて、ちがいを見つけたときのメモの取り方をわからせていきます。そして、時間をとって、気づいた「ちがい」を書き出させます。
(2)いろいろなちがいを整理する
①上の方が、漢字が少なくて、下の方は漢
字が多く使われている。
②みゆきちゃんのほうが、「会話」の数が多い。彩乃ちゃんのほうが、少ない。
③みゆきちゃんは、竹馬が上手になってきて、ほめられてうれしかったことを書いているけど、彩乃ちゃんは、竹馬が上手で、楽しくって毎日やりたいということを書いている。
④上のほうは、たいらさんとかあんなちゃんと名前が書いてあるけれど、下は、「友だち」と書いている。
⑤みゆきちゃんは、竹馬の(乗り方)の練習中。彩乃さんは、竹馬の先生みたい
次々に、発表されることを、教師は板書していきます。その際、黒板の全体の中でどのへんに何を書くか決めておきます。《題》《名前》《内容》《組み立て》《書き方(記述)》《いつのことか》《かかわり方》というように、頭の中に描いておきます。
そして、たとえば、③と⑤がでてきたところで、この二つのちがいは「何のちがい」か考えさせます。むずかしいようだったら、これは、「書きたいことや気持ちのちがいだね」といって、「竹馬のこと」を書いていても、書きたいなかみ・内容(主題)のちがいであることを理解させます。そして、「題」「名前」の時と同じように、「内容」と板書して、何のちがいかを明確にするようにします。
(3)「書き方」のちがい
これまでの学習経験のちがいから、内容の面ばかり目がいく場合もあります。そういう時には、①や②や④の会話や漢字の数がちがうところなどにも着目させ、これは書き方、表現の仕方の違いであることに気づかせて、あらためて「文章の組み立て、記述のちがい」について考えさせます。
そして、⑥出来事の順に書いている。下のほうは、そうではない。時間の経過、したことの順に書いていることを見つけられたことを評価します。下の彩乃さんの文章は、どんな順に書かれているか考えさせます。この言い方がむずかしいようです。「出来事の順ではない」「時間の順には書いていない」「作者の考えた順に、書かれている」などと答える場合がありますが、一番わかりやすい言葉でまとめればよいでしょう。「時間の経過にそってないこと」をおさえることが大事なことなのです。
一文、一文のちがいについても目を向けます。上の文章は、文の終わりの表現の形(文末表現)が、「…しました。」「…しました。」と書かれています。下は「…ます。」「…しています。」と書かれていることを確かめます。
そして、「組み立て」とつなげて、上の文章は、できごとの順に「…しました。」「しました。」と書いている文章であること。そして、下の文章は、できごとの順ではなく、書いた人が考えた順に、「…です。」「…ます。」と書いている文章であることをおさえます。
高学年の場合には、文末の「…しました。」「…しました。」という書き方は、どんなときに使われるのかと問いかけます。すると、終わったことを表すので、これを「過去形」と呼ぶ場合もあることを知らせます。
「…です。」「…ます。」という文末表現は、説明するときに使われることから、「説明形」表現と言う場合もあること。また、「…です。」「…しています。」という形は、「…しました。」という過去形に対しては、現在形表現であり、「私はいつも竹馬をしています。」という表現でありこれからもするということから「未来形」表現であり、「現在・未来形」が使われているということもできることを理解させます。
(4)「かかわり方」のちがい
⑦上の文章は、「きのうのこと」を書いているけれど、下の方の文章は、はっきりとした日のことでなく、「いつも」のことを書いている、ということにも、気づきます。
このときには、それを補うかたちで、教師が、次のような図を書きながら、説明をします。(略)
こうした説明から、「ある日の」「一回限りのこと」として書いている文章と、「長い間にわたって」、「何度も、何度もあったこと」で、「いつもいつも」思っていること、考えていることを書いているところにちがいがあることを理解させます。
みゆきさんの書いた「たけうま」は、ある日の昼休み、言い換えると、「ある日の、ある時」に竹馬をしたときに、「この日一回だけのこと」を題材にして、うまくのれるようになってうれしかったこと。すなわち心が動いたことを思い出して、したことの順に、友達の話したことも入れながら「…しました。」「…しました。」と書いた文章ですねと、板書されたことがらをさしながら、こうおさえます。
そして、こんどは彩乃さんの「竹馬」の作文は、「ある日」のことでなく、何日も何日もくりかえし竹馬をしたことで、気づいたこと思ったこと、考えるようになったことを、書きたいことの順序をきめて、考えた順にまとめて、「…です。」「ます」と書いた文章ですねと、こんなふうにまとめます。
(5)「名づけ」をする
この「かかわり方」のちがいを理解させたあとで、「ある日のこと」を書いた作文と、「いつものこと」を書いた作文とは、書き方に大きなちがいがあるので、名前をつけてみようと、さそいかけます。
「できごと作文」「したこと作文」「ある日型」「生活文」など、そういった言葉が上の文章には出てくるかもしれません。下の方では、「説明した文」「説明文」「いつも型作文」というような名前が出されたりします。その中の一つをとって、みんなで呼ぶ名前を決めます。「名づけ」をします。
「ある日型」としたり、「ある日のこと」作文とでも名付けたら、「ある日型の作文にぴったりの歌があるでしょう。」と言ってみます。「ある日、ある日」とう節を付けて歌ってあげれば、子ども立たちも歌い出します。「もりの なか くまさんに、であった はなさく もりの みち くまさんにであった」。二番も歌います。「ところが あとから くまさんが ついてくる とことことことこと」。そして三番。ここには会話も入ってきます。「おじょうさん おまちなさい、…」。こんな具合にみんなで歌います。これは「もりの くまさん型」作文とも名なづけることができます。
では、「いつも型」の作文の歌は、というと「いつもの駅で、いつもあう、セーラー服の おさげがみ もう くること もうくるころ 今日も まちぼうけ」と歌います。ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが坂本九の「明日がある」の歌です。
ちょっと脱線?をしながらも「ある日型」と「いつも型」のちがいを意識づけるのです。
(6)どちらのほうがいい作文?
さて、二つの文章、「どっちの方がいい文章だと思いますか。」と問いかけたときには、どんなこたえがかえってくるのでしょう。
上の文章のほうが名前がはいっていたりして具体的に書いているのでやさしい。下の方が竹馬ののりかたを説明していてなんだか気持ちがはっきりしないように思える。けれども、どっちともいえない。子どもの多くは、聞かれたらこまってしまいます。
そこで、二つの作文は、それぞれ書き表したいことがちがっているのだから、どちらがよいと一言ではいえないと先生も思うんだよ、というと、子どもたちは安心します。
一概に、作文の評価はできるものではないし、あらかじめあてをはっきりさせて、書かせたものではないからです。
(三)学習の「まとめ」
こうして文章の書き方についての授業をしたあとは、「まとめ」が大切です。板書を写真に撮っておき、それをもとにして、次のような観点から表にして整理し、プリントして子どもたちに定着させます。《作文の題・書いた人・書きたいこと・内容・いつのことか・文章の組み立て・文末の表現・文章の型》(注2)
そのあとの作文の学習では「ある日型」「いつも型」が、文章を書くときのキーワードになって、有効に展開されることになります。
ところで、「ある日型」「いつも型」、一斉指導で授業を展開して子どもたちに書くように指導するときは、どちらを先に指導するほうがよいのでしょう。
〈注1.2〉については詳しくは、『作文指導のコツ② 中学年』(田中定幸著 子どもの未来社)をご覧ください。 (綴方理論研究会)