今年の夏、高知にお住まいの宮川昭男先生からいただいた手紙に〈追伸〉として次のような文章が書かれていました。
幡多国・幡多作機関誌『波多』229号に何か書いてくださいという依頼がありましたので「田中定幸先生への手紙」と題して書かせて頂きました。同封しておきます。(一冊しかないのでコピイして)とありました。
実際の手紙を少し修正した部分もありますがお許しください。
心のこもったうれしい便りでした。宮川先生にお願いして、ここに紹介させていただくことにしました。
田中定幸先生への手紙
宮川 昭男
『作文指導のコツ①』をお贈り頂いたのは、2月、梅のちらほらと咲く季節だったと思うのですが、季節は移ろい、葉桜の季節となってしまいました。
お礼の手紙を早く早くと思いながら、今日になってしまいましたこと、ほんとうに申しわけありません。
以前頂いた『書ける子どもを育てる』(日作広島大会の時)『育てたい表現力』(1996年12月)でも、同じように感じたことでしたが、「書くことがなぜ大切か」と「書き方の具体的な指導」についてひじょうに明快に書かれていて、心にすうーっと入ってきます。
この度の『作文指導のコツ』シリーズは、よりやさしく、わかりやすく書かれていて、現場でどう書かせていいか悩んでいる初心者の教師の入門書としても最適だと思います。
この間、教師をしている教え子にも読んで生かしてもらいたいと思い、書店に注文して取り寄せ、送ってやったことでした。
「はたけのおてつだい」「雨がふった」「おぼえちょってください」「なばなの手つだい」など多くの作品を『小砂丘賞作品集』から引用されているのも、高知県の教師にとって親しみやすく、感謝したい気持ちにもなってきます。P56~58の「いのししのこと」も、私達の住んでいる幡多地方の山奥、愛媛との県境の学校の子どもの書いた作品です。
「『ある日型・Ⅰ』の文章を低学年のうちからくりかえし書くことで、たしかな文章表現力と『生きる力』が育つ」。
ほんとうにそのとおりだと思います。
現場では「書く時間」「読み合う時間」などの確保が以前よりも難しくなったということをよく聞きますが、教師が作文教育の意義と方法を認識し、愛情や情熱・意欲があれば子どもはどんどん書いてくれるものですよね。
学級の中で読み合い、理解し合うことがとても大切であることは論を待ちませんが、それ以前に担任教師が一人ひとりの子どもの日記・詩・作文の最良の読者でなくてはなりませよね。
どの学校でも、低学年の時から、「ある日型」(展開的過去形表現)の指導をしっかりとしてほしいと思います。一人ひとりの書いた文章の「書きぶり」や「生活のしぶり」などのいいところを大切に読み合い、語り合い、認め合い、お互いの人間理解と繋がりを深めていってほしいものです。
『育てたい表現力』をぱらぱらとめくっていますと、愛知県の中学校の大河内清輝くんの自殺のことで、「その心の叫び(遺書)がみずから命を絶ったあとに目にふれられているーもしも、それよりまえに、だれかの目にとまっていたら。」というところが目に止まりました。
これは、いじめが原因だった悲しいできごとだと思いますが、この何年か、親の虐待による子どもの死という以前では考えられない悲しいできごとが現実におこっていますね。一昨年、高知県にもあり、つよい衝撃を受けたことがあります。
当時、その学校にいた教師が学校としての真剣な取り組みを要請しても、なかなか取りあげてもらえなかったばかりか、その教師が不当異動されてしまったことも聞きました。その教師からずっしり重い資料を送ってもらい、その真剣さに敬服するとともに、問題の根の深さにあらためて考えさせられたことでした。
ところで、昨年の小砂丘賞作文教育研究大会に講師としておいでくださっていた際、私に会いたかったとおっしゃっておられたということを森広幸君から聞き、とてもうれしく思いました。私も、お会いしたかったのですが残念ながら出席できませんでした。
一昨年は交通事故で二ヶ月以上入院、その前の年は心臓手術、そのまた前の年は足の大怪我で、それぞれ二ヶ月以上の入院をしていました。今も、いろいろあって、五つの病院に通院していますが、それ以外に眼も見えにくくなり、14日には高知の医療センターの眼科へ行く予定です。耳もきこえにくくなりました。
また、血圧が高かったり低かったり、不安定な時もありますし、糖分や塩分控えめの食事に気をつけるなどの日常ですが、眼以外は病院の検査・診察や薬のおかげで、今のところまあまあといったところでので、他事ながらご安心ください。
先生は、お元気であいかわらず大活躍をされているご様子で、なによりです。
どうか健康にはくれぐれも気をつけられ、益々ご活躍くださいますようお祈りしております。
奥様にも、どうかよろしくお伝えください。
宮川 昭男
田中 定幸 様
〈追伸〉私の妻も、8年ほど前に退職しましたが、退職の時、児童の作品集を作りました。先生に読んで頂きたく、同封いたしました。
○その後、田中定幸先生から心のこもったお手紙と近著『作文指導のコツ(2)』と同封のような「国分一太郎『教育』と『文学』研究会」の 案内文書を送ってくださいました。『作文指導のコツ(2)』は(1)の次の段階の指導〈第一章「何日もつづいたこと」を書くときの指導 ―「ある日型・Ⅱ」〉と「第二章いつもあること」を書くときの指導―「いつも型・Ⅰ」〉が、指導例と作品例を挙げて、とてもわかりやす く書かれています。初心者はもちろん、ベテランの先生方にも必ず実践の参考になると確信をもってお薦めします。「子どもの未来社刊」で す。
○また、私こと、この手紙のあと、また体調を崩し、せっかく近くのあかつき館で幡多国の大会が開かれるのに、よう出席しません。申しわけ ありません。
いい講師が来てくれるのですね。パネル討論もいい企画です。
みなさんがたくさん来てくれるといいですね。
なお、以前頂いた本年度の研究体制・研究計画はやる気満々、情熱と緻密さが感じられ、吉尾ムツ子先生達と感心していたことでした。
○大会案内を見ていて、今から25年前、〈平和教育と文学の授業〉というテーマで開催した第32回幡多国大会に、高木敏子さんが沖縄行の予定 を変更しておいでてくれ、『ガラスのうさぎ』の感動的なお話をしてくださったことを思い出しました。
そして、その後、名作『十三湖のばば』で知られる鈴木喜代春編『子どもにおくるいっさつの本』に私も推薦する一冊の本として、『ガラ スのうさぎ』を書かせて頂いたことも同時に思い出していました。
『ガラスのうさぎ』は、悲しい体験に基づいて書かれ、戦争の悲惨さや家族愛の大切さ・どんなことがあってもつよく生きぬいていくことの だいじさ、平和の尊さなどを深く考えさせられる、感動的な本だからです。
今でも一冊の本をといわれれば、躊躇なくこの本を推薦します。子どもには勿論、親や教師にも。
宣伝になって恐縮ですが、まだ読んでいない方がいれば、ぜひお読みください。そして、まだ読んでいない子ども達にもぜひ読ませてくだ さい。
『ガラスのうさぎ』
高木 敏子 著
武部 本一郎 絵
出版社 金の星社
宮川 昭男 執筆
〈平和を大切にする心〉
敏子さんは、戦争でお母さんもお父さんも、その上、かわいい妹さん二人までも亡くしてしまいます。一人ぼっちになった悲しみ、そのあと生きていくつらさは、どんなに深いものだったでしょうか。
「新版」な〈見やすく〉〈読みやすく〉〈わかりやすく〉なり、かなり厚くなっていますが、値段はそのまま。一人でも多くの人に読んでもらいたい、思いやりの心、平和を大切にする心を育ててほしいという、著者の熱い思いが伝わってきます。
今、この本は、中国語・タイ語・ドイツ語・英語など十か国語に訳され、世界のたくさんの人達に平和の尊さを訴えかけています。
幡多国・幡多作機関誌『波多』229号に何か書いてくださいという依頼がありましたので「田中定幸先生への手紙」と題して書かせて頂きました。同封しておきます。(一冊しかないのでコピイして)とありました。
実際の手紙を少し修正した部分もありますがお許しください。
心のこもったうれしい便りでした。宮川先生にお願いして、ここに紹介させていただくことにしました。
田中定幸先生への手紙
宮川 昭男
『作文指導のコツ①』をお贈り頂いたのは、2月、梅のちらほらと咲く季節だったと思うのですが、季節は移ろい、葉桜の季節となってしまいました。
お礼の手紙を早く早くと思いながら、今日になってしまいましたこと、ほんとうに申しわけありません。
以前頂いた『書ける子どもを育てる』(日作広島大会の時)『育てたい表現力』(1996年12月)でも、同じように感じたことでしたが、「書くことがなぜ大切か」と「書き方の具体的な指導」についてひじょうに明快に書かれていて、心にすうーっと入ってきます。
この度の『作文指導のコツ』シリーズは、よりやさしく、わかりやすく書かれていて、現場でどう書かせていいか悩んでいる初心者の教師の入門書としても最適だと思います。
この間、教師をしている教え子にも読んで生かしてもらいたいと思い、書店に注文して取り寄せ、送ってやったことでした。
「はたけのおてつだい」「雨がふった」「おぼえちょってください」「なばなの手つだい」など多くの作品を『小砂丘賞作品集』から引用されているのも、高知県の教師にとって親しみやすく、感謝したい気持ちにもなってきます。P56~58の「いのししのこと」も、私達の住んでいる幡多地方の山奥、愛媛との県境の学校の子どもの書いた作品です。
「『ある日型・Ⅰ』の文章を低学年のうちからくりかえし書くことで、たしかな文章表現力と『生きる力』が育つ」。
ほんとうにそのとおりだと思います。
現場では「書く時間」「読み合う時間」などの確保が以前よりも難しくなったということをよく聞きますが、教師が作文教育の意義と方法を認識し、愛情や情熱・意欲があれば子どもはどんどん書いてくれるものですよね。
学級の中で読み合い、理解し合うことがとても大切であることは論を待ちませんが、それ以前に担任教師が一人ひとりの子どもの日記・詩・作文の最良の読者でなくてはなりませよね。
どの学校でも、低学年の時から、「ある日型」(展開的過去形表現)の指導をしっかりとしてほしいと思います。一人ひとりの書いた文章の「書きぶり」や「生活のしぶり」などのいいところを大切に読み合い、語り合い、認め合い、お互いの人間理解と繋がりを深めていってほしいものです。
『育てたい表現力』をぱらぱらとめくっていますと、愛知県の中学校の大河内清輝くんの自殺のことで、「その心の叫び(遺書)がみずから命を絶ったあとに目にふれられているーもしも、それよりまえに、だれかの目にとまっていたら。」というところが目に止まりました。
これは、いじめが原因だった悲しいできごとだと思いますが、この何年か、親の虐待による子どもの死という以前では考えられない悲しいできごとが現実におこっていますね。一昨年、高知県にもあり、つよい衝撃を受けたことがあります。
当時、その学校にいた教師が学校としての真剣な取り組みを要請しても、なかなか取りあげてもらえなかったばかりか、その教師が不当異動されてしまったことも聞きました。その教師からずっしり重い資料を送ってもらい、その真剣さに敬服するとともに、問題の根の深さにあらためて考えさせられたことでした。
ところで、昨年の小砂丘賞作文教育研究大会に講師としておいでくださっていた際、私に会いたかったとおっしゃっておられたということを森広幸君から聞き、とてもうれしく思いました。私も、お会いしたかったのですが残念ながら出席できませんでした。
一昨年は交通事故で二ヶ月以上入院、その前の年は心臓手術、そのまた前の年は足の大怪我で、それぞれ二ヶ月以上の入院をしていました。今も、いろいろあって、五つの病院に通院していますが、それ以外に眼も見えにくくなり、14日には高知の医療センターの眼科へ行く予定です。耳もきこえにくくなりました。
また、血圧が高かったり低かったり、不安定な時もありますし、糖分や塩分控えめの食事に気をつけるなどの日常ですが、眼以外は病院の検査・診察や薬のおかげで、今のところまあまあといったところでので、他事ながらご安心ください。
先生は、お元気であいかわらず大活躍をされているご様子で、なによりです。
どうか健康にはくれぐれも気をつけられ、益々ご活躍くださいますようお祈りしております。
奥様にも、どうかよろしくお伝えください。
宮川 昭男
田中 定幸 様
〈追伸〉私の妻も、8年ほど前に退職しましたが、退職の時、児童の作品集を作りました。先生に読んで頂きたく、同封いたしました。
○その後、田中定幸先生から心のこもったお手紙と近著『作文指導のコツ(2)』と同封のような「国分一太郎『教育』と『文学』研究会」の 案内文書を送ってくださいました。『作文指導のコツ(2)』は(1)の次の段階の指導〈第一章「何日もつづいたこと」を書くときの指導 ―「ある日型・Ⅱ」〉と「第二章いつもあること」を書くときの指導―「いつも型・Ⅰ」〉が、指導例と作品例を挙げて、とてもわかりやす く書かれています。初心者はもちろん、ベテランの先生方にも必ず実践の参考になると確信をもってお薦めします。「子どもの未来社刊」で す。
○また、私こと、この手紙のあと、また体調を崩し、せっかく近くのあかつき館で幡多国の大会が開かれるのに、よう出席しません。申しわけ ありません。
いい講師が来てくれるのですね。パネル討論もいい企画です。
みなさんがたくさん来てくれるといいですね。
なお、以前頂いた本年度の研究体制・研究計画はやる気満々、情熱と緻密さが感じられ、吉尾ムツ子先生達と感心していたことでした。
○大会案内を見ていて、今から25年前、〈平和教育と文学の授業〉というテーマで開催した第32回幡多国大会に、高木敏子さんが沖縄行の予定 を変更しておいでてくれ、『ガラスのうさぎ』の感動的なお話をしてくださったことを思い出しました。
そして、その後、名作『十三湖のばば』で知られる鈴木喜代春編『子どもにおくるいっさつの本』に私も推薦する一冊の本として、『ガラ スのうさぎ』を書かせて頂いたことも同時に思い出していました。
『ガラスのうさぎ』は、悲しい体験に基づいて書かれ、戦争の悲惨さや家族愛の大切さ・どんなことがあってもつよく生きぬいていくことの だいじさ、平和の尊さなどを深く考えさせられる、感動的な本だからです。
今でも一冊の本をといわれれば、躊躇なくこの本を推薦します。子どもには勿論、親や教師にも。
宣伝になって恐縮ですが、まだ読んでいない方がいれば、ぜひお読みください。そして、まだ読んでいない子ども達にもぜひ読ませてくだ さい。
『ガラスのうさぎ』
高木 敏子 著
武部 本一郎 絵
出版社 金の星社
宮川 昭男 執筆
〈平和を大切にする心〉
敏子さんは、戦争でお母さんもお父さんも、その上、かわいい妹さん二人までも亡くしてしまいます。一人ぼっちになった悲しみ、そのあと生きていくつらさは、どんなに深いものだったでしょうか。
「新版」な〈見やすく〉〈読みやすく〉〈わかりやすく〉なり、かなり厚くなっていますが、値段はそのまま。一人でも多くの人に読んでもらいたい、思いやりの心、平和を大切にする心を育ててほしいという、著者の熱い思いが伝わってきます。
今、この本は、中国語・タイ語・ドイツ語・英語など十か国語に訳され、世界のたくさんの人達に平和の尊さを訴えかけています。