チャンスの神様には前髪しかない

85歳の伯父と横に並んで座って話をしていたところ、ちょっと気弱になっている私に、伯父が言いました。

「チャンスの神様ってぇのは、前髪しかないっていうからな」
「えっ、チャンスの神様には、前髪しかないの？おじちゃん、いいこと言うねぇ」
「俺が言ってんじゃないんだよ。中学で教わったんだよ。後ろ髪がないから、後から掴もうっていっても無駄なんだ」
「なるほど」
「前からやってきたチャンスをグッと掴む」
「なるほど」
「大丈夫だよ。きっといいことあるよ」
「うん」
流石（さすが）、年の効です。

家に帰り、同年輩の父に訊いても、知りませんでした。同じ旧制中学の卒業生なのに・・・伯父は良い先生に恵まれたのですね。

ネットで、「チャンスの神様には前髪しかない」と検索したら、西洋の格言であることがわかりました。約７０年前にその言葉を知った伯父は、太平洋戦争を生き延びて、今も、現役の薬剤師として薬局経営をしています。

伯父には、前髪も後ろ髪も横髪もありません。頭は、光輝いています。シャレで「色即是空」というＴシャツを着て、あるお寺の観光をしていたら、若いお坊さんたちが次から次へと現れて、皆、伯父に手を合わせ、深々とお辞儀をしていったという逸話を持つ伯父です。おじちゃん、大好きです。


ユラーナ