川越には、今でも、風呂桶を作る桶屋さんが健在です。喜多町にある「荒井桶屋」さんが、そうです。
私は、アメリカから帰国した1998年に、荒井桶屋さんを見つけ、家で使う桶を作っていただきました。当時の木の材料は、さわらでした。その後、10年くらい経ってから、もうひとつ作っていただきました。
我が家は、大正時代に建てられた家なので、時代劇に出てくるような桶が、お水を撒くのに、ぴったりなのです。
荒井さんは、小さな花入れにするような桶も作っていらっしゃいましたので、桶の形をしたお花入れもいただきました。こちらも、10年以上してから、もうひとつ、作っていただきました。ひとつは、トイレ用に、ひとつは、お玄関用にです。
ベテランの職人さんの作った桶は、なんとも言えない味わいがあります。とても丁寧なお仕事なのに、こんな値段でいいのか?というくらいお安い価格です。
昨日、1700席ある「ウェスタ川越の大ホール」の杮落としがあり、狂言師の野村万作・萬斎親子が、「三番叟」と「舟渡聟(ふなわたしむこ)」を演じてくださいました。私は、来賓として招かれましたので、前から8列目くらいのど真ん中で拝見いたしました。ホールは、3階まで、満席でした。
私は、出来たばかりで、何も出来ない「ウェスタ川越」の指定管理者の教育係を買って出ましたので、野村親子と特別ゲストの川越出身の大物俳優・市村正親さまをお迎えするために、接茶とトイレに活けるお花に心を砕きました。
誰も、接茶のことなど、気にしていない模様でした。今どき、トイレにお花を活けるお家もないらしく、私が、楽屋のトイレに花を活けるということを聞きつけたお偉いさんに責められました。何故、人間国宝をお迎えするトイレに花を活けてはいけないのか、お茶器に心を砕いてはいけないのか、今もって、私には、わかりませんが。
兎にも角にも、私は、人間国宝とそのご子息、そして、市村正親さまを心からお迎えすべく、奔走いたしました。
「トイレに花」って当然でしょ?違います?私は、荒井桶屋さんに、自分の家で使っている花入れを持ってゆき、これと同じ物を2つ作って欲しいと、1カ月以上前にお願いしておきました。2週間程で出来ていました。手が込んでいるにもかかわらず、2つで税込5000円でした。申し訳ないようです。
そして、昨日の本番前、演者の皆さまが、楽屋入りをする前に、トイレにリンドウの花を活けました。
そして、演者の皆さんは、どう感じたのでしょうか。
そして、今朝、荒井さんに、我が家で使っている桶を修理してもらうために、持って行ったところ、荒井さんは、とてもお忙しそうでした。
「急に忙しくなっちゃって」
「そのようですね。今、作っているのは、何ですか?」
「四角い風呂桶です」
なるほど、日本の風呂桶、外国人には、人気ですよね。日本人は、どんどん西洋化していっていますが、外国人は、日本人が捨て去るものに、目を付けるのです。高級ホテルでは、和のテイストが求められます。また、高級日本旅館では、やはり、木の風呂桶でしょうね。
そんなこんなで、荒井さんは、とてもお忙しくなってしまったのです。
すると、荒井さんは、こんなことをおっしゃいました。
「昨日、狂言があったでしょ」
「はい」
「狂言の人から、酒樽の注文が入っちゃって。それも、昨日のうちに」
はい、確かに、昨日の「舟渡聟」では、酒樽が使われていました。しかしながら、随分と年季が入っているなぁ、と思いながら、見ていた私でした。
トイレに入った野村さん親子は、誰かにこう尋ねたに違いない。「この花入れの桶は、どこで作ったのですか?」
訊かれた人がどう答えたのかわかりませんが、昨日のうちに、荒井さんの元に、大量の酒樽の注文が入ったのです。
私がトイレに花を活けることを責めた方たち。何をどう考えて、私を責めたのか知りませんが、少なくとも私が用意した桶の花入れのお蔭で、荒井桶屋さんに、酒樽の注文が入ったわけです。それ以外に、どんなルートがあるというのでしょうか。それも、人間国宝が使う酒樽です。川越の職人さんが作った酒樽が、全国、あるいは、全世界の野村家の狂言の舞台で、これからずっと使われるわけです。
少しは、私の果たしている役割に感謝してもらいたいものです。結局、花入れの代金もリンドウの花代も、私が負担しました。
ユラーナ
私は、アメリカから帰国した1998年に、荒井桶屋さんを見つけ、家で使う桶を作っていただきました。当時の木の材料は、さわらでした。その後、10年くらい経ってから、もうひとつ作っていただきました。
我が家は、大正時代に建てられた家なので、時代劇に出てくるような桶が、お水を撒くのに、ぴったりなのです。
荒井さんは、小さな花入れにするような桶も作っていらっしゃいましたので、桶の形をしたお花入れもいただきました。こちらも、10年以上してから、もうひとつ、作っていただきました。ひとつは、トイレ用に、ひとつは、お玄関用にです。
ベテランの職人さんの作った桶は、なんとも言えない味わいがあります。とても丁寧なお仕事なのに、こんな値段でいいのか?というくらいお安い価格です。
昨日、1700席ある「ウェスタ川越の大ホール」の杮落としがあり、狂言師の野村万作・萬斎親子が、「三番叟」と「舟渡聟(ふなわたしむこ)」を演じてくださいました。私は、来賓として招かれましたので、前から8列目くらいのど真ん中で拝見いたしました。ホールは、3階まで、満席でした。
私は、出来たばかりで、何も出来ない「ウェスタ川越」の指定管理者の教育係を買って出ましたので、野村親子と特別ゲストの川越出身の大物俳優・市村正親さまをお迎えするために、接茶とトイレに活けるお花に心を砕きました。
誰も、接茶のことなど、気にしていない模様でした。今どき、トイレにお花を活けるお家もないらしく、私が、楽屋のトイレに花を活けるということを聞きつけたお偉いさんに責められました。何故、人間国宝をお迎えするトイレに花を活けてはいけないのか、お茶器に心を砕いてはいけないのか、今もって、私には、わかりませんが。
兎にも角にも、私は、人間国宝とそのご子息、そして、市村正親さまを心からお迎えすべく、奔走いたしました。
「トイレに花」って当然でしょ?違います?私は、荒井桶屋さんに、自分の家で使っている花入れを持ってゆき、これと同じ物を2つ作って欲しいと、1カ月以上前にお願いしておきました。2週間程で出来ていました。手が込んでいるにもかかわらず、2つで税込5000円でした。申し訳ないようです。
そして、昨日の本番前、演者の皆さまが、楽屋入りをする前に、トイレにリンドウの花を活けました。
そして、演者の皆さんは、どう感じたのでしょうか。
そして、今朝、荒井さんに、我が家で使っている桶を修理してもらうために、持って行ったところ、荒井さんは、とてもお忙しそうでした。
「急に忙しくなっちゃって」
「そのようですね。今、作っているのは、何ですか?」
「四角い風呂桶です」
なるほど、日本の風呂桶、外国人には、人気ですよね。日本人は、どんどん西洋化していっていますが、外国人は、日本人が捨て去るものに、目を付けるのです。高級ホテルでは、和のテイストが求められます。また、高級日本旅館では、やはり、木の風呂桶でしょうね。
そんなこんなで、荒井さんは、とてもお忙しくなってしまったのです。
すると、荒井さんは、こんなことをおっしゃいました。
「昨日、狂言があったでしょ」
「はい」
「狂言の人から、酒樽の注文が入っちゃって。それも、昨日のうちに」
はい、確かに、昨日の「舟渡聟」では、酒樽が使われていました。しかしながら、随分と年季が入っているなぁ、と思いながら、見ていた私でした。
トイレに入った野村さん親子は、誰かにこう尋ねたに違いない。「この花入れの桶は、どこで作ったのですか?」
訊かれた人がどう答えたのかわかりませんが、昨日のうちに、荒井さんの元に、大量の酒樽の注文が入ったのです。
私がトイレに花を活けることを責めた方たち。何をどう考えて、私を責めたのか知りませんが、少なくとも私が用意した桶の花入れのお蔭で、荒井桶屋さんに、酒樽の注文が入ったわけです。それ以外に、どんなルートがあるというのでしょうか。それも、人間国宝が使う酒樽です。川越の職人さんが作った酒樽が、全国、あるいは、全世界の野村家の狂言の舞台で、これからずっと使われるわけです。
少しは、私の果たしている役割に感謝してもらいたいものです。結局、花入れの代金もリンドウの花代も、私が負担しました。
ユラーナ