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ユラーナ Ulana - A bridge between Japan and Overseas Countries

龍神由美のブログ。江戸の面影を残す川越に、先祖代々300年住んでいます。私の川越暮らしを綴ります。

今週の朝日歌壇

2011年05月18日 | 短歌
今週の朝日歌壇から心に残った歌をご紹介いたします。


    ペットボトルの残り少なき水をもて位牌洗ひぬ瓦礫の中に (いわき市)吉野 紀子
                                (馬場あき子、高野公彦、永田和宏選)

馬場あき子先生の評「小名浜の人。仏壇にあった位牌を瓦礫の中から拾い上げた。飲み水も乏しい中でペットボトルの水で洗う。絆への切実な思いが伝わる」
永田和宏先生の評「残り少ない貴重な水。それでも位牌を洗うのに使うという。位牌への深い思いは映像でも何度も見られた」
作者自身の経験を詠んだ歌だけに、深い悲しみが伝わってきます。


    遺体はこぶ要請うけし搬送車パンと水積みて被災地に向う (八戸市)山村 陽一
                                 (馬場あき子、高野公彦選)

作者は、お葬儀屋さん。確か、日経歌壇にもよく掲載されていた方です。この大震災が、八戸のお葬儀屋さんにも大きな影響を及ぼしたこと、そして、作者の優しさに、深いため息が出ます。


    三月に安全唱えし識者らはいずこに消えしか泡(あぶく)のごとく (名古屋市)諏訪 兼位
                                 (佐佐木幸綱選)

「安全です」と毎日テレビで言っていた学者さんたちは、今、どうしているのでしょうか。メルトダウンが、やっと、明らかになりました。狭山茶の新茶をいただくのも、ちょっと複雑な心境です。


    ひと月を体育館に過ごしたる亡骸三百体(さんびゃく)運ばれゆきぬ (久慈市)三船 武子
                                 (佐佐木幸綱選)

これは、もう言葉もありません。寒さの厳しい3月からの避難所生活。これから暑さが厳しくなる中で、皆さん、どうされるのでしょうか。


    いなさ吹けば放射線量増すという真野の萱原(かやはら)夏は来向かう (下野市)若島 安子
                                 (高野公彦選)

高野公彦先生の評「『真野の萱原』は万葉集に詠まれた南相馬市の地名。いなさは、南東の風」だそうです。これからさらに、原発の状況は、厳しくなることでしょう。「いなさ」「真野の萱原」という万葉集の言葉を使いつつ、「放射線量」という今の問題を突きつけたところに、この歌のレベルの高さを感じます。


今回も、大震災の歌がほとんどでした。ご自身の経験を詠みこんだ歌が多く、深く考えされられました。原発のニュースを聞く度に、暗くなりますが、精一杯、生きることにいたしましょう。


ユラーナ
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今週の朝日歌壇

2011年05月10日 | 短歌
今週の朝日歌壇から、心に響いた歌をご紹介いたします。

    
    下肢のみが映る原発作業員躊躇いがちに復旧語る (山形市)渋間 悦子
                                (永田和宏、馬場あき子選)

テレビの映像が目に浮かびます。この方たちがいてくれてこそ、私たちの今の日常生活があるわけで、これからも日常生活が続いてゆくかどうかも、復旧がうまくゆくかどうかにかかっています。


    朝はまだ掘られしままの穴なるも棺納めて夕に静もる (仙台市)村岡美知子
                                  (永田和宏選)

悲しい歌です。あまり日本の新聞には、こういう光景の写真は載らないようですが、海外向けのメディアでは大きな反響を呼んでいるようです。

    津波にもびくともせずに残りたる氣仙大工の入魂の梁 (奥州市)大松澤武哉
                                  (馬場あき子選)

氣仙の大工さんの仕事ぶりに感じ入っている作者が目に浮かびます。これは、古い建物だったのでしょうか。「気仙」ではなく、「氣仙」と書かれていることから、昔の大工さんの仕事かなぁ、という気がいたします。


    ガス通じ一月ぶりの風呂なれどそこそこに出づ余震起こりて (仙台市)小野寺寿子
                                  (高野公彦選)

やっとお風呂に入れたものの、余震のせいで、ゆったりとつかっていることが出来なかった作者。川越では、このところ余震はほとんでありませんが、仙台では、まだまだ、強い余震は、頻繁に起こっているのでしょう。ゆっくりとお風呂にお入りになれることを祈ります。


    原発の同心円に居て仰ぐおぼろの月のまどかなるかな (福島市)美原 凍子
                                  (佐佐木幸綱選)

「原発の同心円に居て仰ぐ」と「おぼろの月のまどかなる」が余りにも対照的で、悲しさを呼びます。原発問題の解決には、どれくらいの時間が必要なのでしょうか。


今週も地震関連の歌がほとんどでした。テレビでは、バラエティ番組もすっかり復活し、大震災や原発のことは、ニュースでしか取り上げられなくなってきました。歌壇を読むことによって、魂の声を聴き続けたいと思います。


ユラーナ






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今週の朝日歌壇

2011年05月04日 | 短歌
今週の朝日歌壇から、心に残った歌をご紹介いたします。


    カーナビの案内通り進みても信号もなし陸前高田市 (東京都)田村 弘子
                                    (高野公彦選)

東京にお住まいの作者は、陸前高田市にいらしたのでしょうか。高野公彦先生の評「現地で見る被害のありさまは、テレビ映像よりも一段と衝撃的であろう」から、そのように推察されます。岩手県北上市に住む友人が、三陸町の友人に連れられて被災地を訪れ、その友人から「これから陸前高田だけど、覚悟してねと言われました」とブログに書いていました。そして、彼女は、写真を撮りませんでした。


    ありふれた日々のけしきをよむこともあの地震からためらいながら (ひたちなか市)沢口 なぎさ
                                    (高野公彦選)

大地震と大津波、そして、原発の放射能に苦しむ人々が数多くいることを知りながら、「ありふれた日々のけしき」を詠むことには、「ためらい」がいる、ということに共感します。しかしながら、生きていることの証として、それも大切なことなのだと思います。


    隊員の合掌する間にまた転ぶ掘り出されたる泥付き位牌 (横須賀市)鈴木 理夫
                                    (永田和宏選)

永田和宏先生の「泥付きの位牌が、合掌する間にも倒れてしまうという現場の辛さ」という評がありました。胸を突かれる歌です。


    写経にも似て丁寧に震災の歌を写しぬ朝日歌壇の (埼玉県)吉野 ミヨ子
                                    (永田和宏選)

この歌には、はっとしました。私自身、ブログに転載させていただくときに、同じような想いがよぎりますが、丁寧に書き取る「写経」の粋には到底及びません。


    金持ちの偽善と言いし人かなし有難う孫さん遼君イチロー選手 (陸前高田市)古手川 唯
                                    (馬場あき子選)
  
作者は、高校3年生だそうです。義援金を偽善と考える方もいるようですが、多少でも出来る限りの支援をしたいものです。


最後に、いつも美しい歌を届けてくださる福島の美原凍子さんの歌。

    それでも春は巡り来てけぶるがに咲くふくしまのうめももさくら (福島市)美原 凍子
                                    (高野公彦選)


美原さん、また、うつくしいふくしまの歌をお願いいたします。


ユラーナ



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今週の朝日歌壇

2011年04月19日 | 短歌
今週の朝日歌壇は、被災地からの歌一色でした。入選された方の住所を見ても、大船渡市、福島市、仙台市、ひたちなか市、いわき市などがあり、胸が詰まります。


    原発の空のしかかるふるさとのここにいるしかなくて水飲む (福島市)美原 凍子
                              (佐佐木幸綱、永田和宏選)

「原発の空のしかかるふるさと」が切ないです。「福島原発の事故発生直後の作」と評にありました。首都圏でペットボトルの水がなくなった騒ぎとは、全く異なる苦悩にさらされている方たちの声を代弁されているかのようです。

    レジ前の商品棚にいつもより多く積まれある香典袋 (福島市)北村 ミヨ
                              (佐佐木幸綱選)

これも辛いです。レジに並んでいる作者がはっとした様子が目に浮かびます。


今週は、どの入選歌も重い内容でした。通常の朝日歌壇とは別に、「震災の悲しみと光を詠む」というコーナーがあり、それに入選された方の歌からご紹介いたします。


    「こんな時笑つてもいいの」と生き残る老いが足湯を受けつつ笑まふ (岡山市)西村 由紀子
                              (高野公彦選)

作者は、テレビで足湯を受けている方の映像をご覧になったのでしょうか。ほっと心休まる光景です。


    黙黙と環七歩く群にいて家路辿れる事の幸福 (東京都中野区)森永 恒宏
                              (永田和宏選)

震災当日、電車が止まって大勢の方が帰宅困難者となりました。歩くのは大変だったことでしょう。しかし、後から知った被災地の様子に、帰る家のあることを幸福だと知ったのでしょう。私もそのひとりでした。

歌を詠むことで心を開放できる方もおありでしょう。そうして詠まれた歌を読むことによって、共感し、1000年に一度といわれる大地震の経験を共有し、後世まで伝えてゆくことが大切なのですね。


ユラーナ






    
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今週の朝日歌壇

2011年04月12日 | 短歌
今週の朝日歌壇は、被災された方からの歌がほとんどでした。選者のひとり、永田和宏先生は、「常連の投稿者の名を見ると、あゝとほっとする」と述べていらっしゃいます。私も同感です。


    生きてゆかねばならぬから原発の爆発の日も米を研ぎおり (福島市)美原 凍子
                             (馬場あき子、佐佐木幸綱選)

美原さんは、確か、破たんした夕張市から福島に移られたはず。何という運命なのでしょうか。
もう一首、美原さんの歌。

    ただじっと息をひそめている窓に黒い雨ふるふるさと悲し (福島市)美原 凍子
                             (高野公彦選)

放射線物質で汚染されてしまった美しきふるさと。ふるさとへの思いと、現在と未来への不安がひしひしと伝わってきます。


    姿見ぬ人に二種あり原発の内部作業者、最高責任者 (高槻市)奥本 健一
                             (高野公彦選)


昨日やっと、東電の清水社長がテレビ画面に現れました。謝っていましたが、心の底から謝っているようには見えませんでした。
そして、どれだけの線量を浴びているのか伝わってきませんが、原発内部作業者を案じる思いは、多くの人に共通なのではないでしょうか。

もう一首、小学生の歌。

    地震の中で赤ちゃん産んだお母さん温かいシチュー届けてあげたい (富山市)松田 わこ
                             (馬場あき子、高野公彦選)

小学生が、被災者に寄り添って歌を詠んでいる、ということに喜びを感じます。わこさんは、何という感性をお持ちなのでしょうか。ほっとします。

選者の馬場あき子先生は、「東日本大震災を詠んだ歌が多く投稿され、現地からも歌が寄せられた。切実な感動、温かい心、そして未知の現実への驚き、読んで忘れがたく心に沁みる言葉に、改めて短歌様式の強靭さを思う。さらに多くの歌に期待したい」と述べていらっしゃいます。

歌を詠むことは、魂の発露であり、心のいやしとなることでしょう。そして、また、その詠まれた歌を読むことも、心のいやしに繋がる、そんな風に思います。


ユラーナ



 
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