世界日報のインタビューを受け、三月十一日、掲載されました。
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世界日報ニュース 【青少年健全育成に関するニュース】
◆【持論時論】
青少年の健全育成は地域から/青少年育成連合会理事長 横田正弘氏に聞く
大人は「卑怯」見逃すな
危険覚悟でパトロール/礼儀学び、自信付ける武道
事なかれ主義でいじめ蔓延/守りたい「日本の遺産」
横田正弘氏は、「力なき正義は無能なり」をモットーに長年、川崎市で夜間パ
トロールを行い、青少年の非行防止やいじめ問題に地域を挙げて取り組んできた。
一向に減らぬ青少年の凶悪犯罪を憎み、無関心を装う大人社会に警鐘を鳴らす。
そこには先人がこれまで築いた「日本の遺産」が消滅してしまうという強い危機
感がある。(聞き手=編集委員・鴨野 守)
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――青少年の健全育成にかかわってすでに二十五年。そもそものきっかけは。
私の空手の師範である西谷賢先生の影響ですね。先生は現在、全日本実業団空
手道連盟理事長、神奈川県空手道連盟理事長、川崎市空手道連盟副会長の要職に
ある方です。当時はシンナーが大流行し、暴力事件も多く安心して街を歩けない
状況で、「このままでは日本が崩壊してしまう」という切実な訴えに自分自身も
共感し始めました。昭和五十六年には自分が空手指導していた生徒を森道場の森
明夫館長(神奈川県空手道連盟理事)に託してこの運動により力を入れてきまし
た。昭和六十一年、「葬式ごっこ」などのいじめを受け、自殺した鹿川裕史君の
事件をきっかけに、多くの子供たちの自殺が発覚し大きな社会問題に発展。平成
二年、鹿川君のお父さんを中心に、初めていじめ撲滅運動を展開。九州、北海道
を除き、仲間たちと全国各地で調査、支援してきました。
山形マット死事件の児玉有平君、名古屋の大河内清輝君、町田市の前田昌子さ
ん、新潟上越市の伊藤準君、その他多くの遺族と会い、改めていじめの悲惨な現
実を知る。いじめられる人間の苦しみを遺書に残し、命を懸けて社会に訴えた子
供たちのためにも武道仲間や地域、教育関係団体と連携して運動を進めてきまし
た。
――夜間パトロールをそのころから始めていたのですか。
ええ。当時は子供を食い物にする不良を街から追放することが主な活動でした。
今では各地に「親父の会」が発足して、パトロールが珍しくありませんが、自分
たちが始めたころはパトロール隊員にけが人が多数でました。行政に対しボラン
ティア保険の適用を申請したのですが、一切自己責任とのこと。それでも、深夜
パトロールは現在も続けています。
――チンピラや不良グループと衝突するようなこともあったと聞いています。
不良との口論は当たり前。バットや木刀、ナイフなどを持ち出した少年もいれ
ばヤクザも出てきたこともありますが、われわれの活動を話せばヤクザは理解が
早い。一番たちの悪いのが中途半端な不良です。しかし、そこで逃げたらわれわ
れは二度と深夜パトロールはできません。絶えずパトロール中は危険は覚悟の上。
そのためにも護身用のヌンチャクは持っています。行政は「不審者がいても声を
掛けてはいけません」、女子供が襲われても「危険を感じたら助けに入ってはい
けません。110番して避けてください」と。これでは女子供を守れる訳があり
ません。正義感の強い日本人はどこへいったのか。われわれはパトロールをして
いる以上、不審者がいたら声を掛けます。女子供を守るためには手段を選びませ
ん。それだけの覚悟で活動しています。
――シンナーや覚醒(かくせい)剤中毒の少年たちの更生にも努力されたとい
うことですね。
昔は家の中や公園でシンナーにふけっている少年たちが多かった。見つければ
道場に連れて行き二度とやらないように多少のお仕置きはしました。後は道場で
空手を一緒にやりながらかかわっていくと次第に慕ってくれるようになり、シン
ナーをやめて社会人となって育っていった若者がたくさんいます。特に覚醒剤中
毒の更正は大変難しく、時間がかかります。第三者の強い力が絶対に必要です。
本当に先生が自分のことを心配してくれていると思っていても、クスリはいう事
を聞いてくれません。中毒にかかっている子は長い年月が必要です。それも真剣
にかかわらないとだめですね。根気が要ります。しかし、あきらめたらいけませ
ん。当然家族も同様です。
――武道を学ぶことは子供にどんな影響を与えますか。
武道の恩恵はあまりにも多い。だらだらして、親にまともにあいさつもしてこ
なかった子供が礼儀をまず学びます。私たちは、人格の完成のために日々を大切
にする、両親への孝養に励み、老人を敬う、勉学にも仕事にも最善を尽くすなど
の拳心会道場訓を必ず唱和します。体を動かし、強くなれば自信となり、心もお
のずと明るくなるのです。
――いじめ問題にも熱心に取り組んでいますね。
昔もいじめはありましたが、自殺に追い込むような卑劣ないじめはなかったで
すね。若者の自殺も毎年数百人に上りますが、残念でなりません。いじめられる
側よりもいじめる側が絶対に悪い。しかし、学校や大人がキチンと対処できない
がために、いじめられる側が引っ越ししたり、学校へ行けなくなってしまう。い
じめ問題は放置しておけば被害は拡大するのです。どうしても承知できないのは、
学校の先生方にも「いじめられる側にも問題があるんじゃないか」という考え方
をする人がいたり、事なかれ主義で、いじめはなかったとか言い訳して責任を取
ろうとしない教育関係者がいることです。
学校の先生が不良ぶっている生徒を正しく指導できなかったり、困っている生
徒の相談にキチンと対応できていない学校では、いじめや校内暴力が蔓延(まん
えん)しています。
卑怯(ひきょう)な行為があっても許されると子供たちが理解したら、いじめ
る側に回っていくでしょう。それが今日の青少年の犯罪や校内暴力などにつなが
り、一方で引きこもりや不登校に結び付いている側面もあるのではないか、と思
います。自分たちは校外で子供たちが恐喝されたり非行に走らないようにと夜間
パトロールを始めたのです。私がいじめられている子供に武道を教えるのは、強
くなることでいじめる側も敬遠するからです。ただ理屈だけではいじめはなくな
りません。
――具体的なケースを話してください。
東京都江戸川区に住むある中一の男子がいじめられていました。母親は学校、
教育委員会、児童相談所、教育カウンセラーなどを訪ねて解決策を求めましたが
結局、たらい回しにされました。子供はとうとう不登校になってしまう。その方
が先日、私の名前を聞いて訪ねてきました。普通のカウンセラーなら「どうした
の?」と聞くのでしょうが、私は「わかった。俺に任せろ!」のひと言です。
その子も強くて怖い私を見て「この人なら自分を守ってくれる」と直感的に理
解したのでしょう。元気な表情になりました。道場に通い、だんだんたくましく
なっています。子供が「助けてくれ!」と叫んだとき、大人は迅速な対応をしな
いといけません。これまでも、名古屋や新潟などでいじめで自殺した子供のご遺
族を支援することも行ってきました。
――二十五年活動してこられて、手応えはどうですか。
よくなったと言いたいところですが、現実は悪くなっています。だから、今年
になって「子供SOSセンター」を発足させました。もっと子供たちから実際に
学校や地域でどんなことが起きているのかを徹底的に情報を集めて、警察や学校
など関係機関に還元して、的確な対応をしてもらおうと考えています。
――なぜそこまでやりますか。
私の呼び掛けで行動を共にし、志半ばでなくなった同志三人、いじめをなくし
てくれと叫びながら遺書を残し、自ら命を絶った多くの純粋な子供たちのため、
さらに先輩から「今のままでは先人が苦労して築き上げてきた日本の遺産が食い
つぶされてなくなってしまう」と言われた言葉が忘れられません。日本人が持つ
美徳、卑怯を憎み正義を愛する心、大切な人のためには己を犠牲にする精神。日
本人が持っていた美しい世界を後世の子供や孫に伝えることも大人の大切な仕事
ではないのかと思います。かつて作家の司馬遼太郎さんが「日本人であることが
嫌になる」と言われたことがありますが、これからの子供たちには日本人である
ことを誇りに思える社会を残したいと多くの大人は思っているはずです。今こそ、
大人たちが未来のために立ち上がる時ではないでしょうか、手遅れになる前に。
よこた・まさひろ 昭和17年福島県生まれ。高校卒業後、航空自衛隊管制団
に入隊。21歳で満期除隊。川崎市で印刷業を営む傍ら、4カ所の道場で青少年
に空手を指導。昭和55年、青少年育成会(後に青少年育成連合会と改める)を
発足。日本空手道拳友会教士7段、古武道天心流5段、日本抜刀道5段。
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