国内外で核融合発電の研究開発が進んでいる=ロイター
政府は次世代技術である核融合発電の実証開始時期を2030年代に早めるため、技術開発や人材育成の支援に向けた新法をつくる方針だ。
核融合は脱炭素に貢献する将来技術の一つと見込まれる。国が主導する形で民間企業と実証する環境を整える。
核融合発電は太陽の内部で起きるのと同じ反応を応用する。
原子の核同士をくっつける時に出る膨大なエネルギーで発電する。発電時に二酸化炭素(CO2)が発生せず、理論上は1グラムの燃料から石油換算で約8トン分のエネルギーを生み出す。
6月にもまとめる経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に、新法の策定と実証開始時期を明記する方向だ。
国会への提出時期など詳細は今後詰める。文部科学省を中心に開発を進めているが、関係省庁が横断する形で技術開発などを支援できるようにする。
核融合を巡る日本の目標設定は諸外国に後れをとっていた。
現行の政府の核融合戦略では発電の実現時期を「50年ごろ」、発電実証の時期は「できるだけ早く明確化する」としている。
米国や中国は30年代まで、英国は40年までの時間軸で発電の実証を目指している。諸外国が早ければ30年代の発電実証を目指すなか、日本政府は早期の目標設定が必要と判断した。
現行の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)法では、核融合発電は支援対象になっていない。原子力基本法で「原子力に係るもの」になっているためNEDO法の仕組み上、支援項目から外れている。政府は現行法の改正も視野に入れる。
核融合発電が実現すれば、原子力政策のあり方が大きく変わる可能性がある。
核融合は燃料を入れ続けなければ反応が止まるので暴走事故が起きにくく、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)も出ない特徴があるとされる。
災害時に備える安全性の担保を巡り、今は多くの原発が再稼働できていない。新設や建て替えの具体化にこぎつけていない。
核のごみの処分方法といった課題もある。核融合はこうした課題の解決策になる可能性を秘めている。
ただ核融合の商用化はしばらくは見込めないとの見方が多く、地球の気温上昇を1.5度以内に抑えるパリ協定の温暖化ガス削減の達成への貢献には間に合わない。
開発が進んだ先にある実用化段階でも、再生可能エネルギーや既存の原子力発電とのコスト競争も控える。核融合には新しい高機能の素材を含む大型の装置が必要になる可能性があるため、低コスト化は将来的な課題だ。
核融合技術の実用化に向けた研究で最も大規模なプロジェクトは日米欧など7極が参加する国際熱核融合実験炉(ITER)だ。
各国が機器を分担し、開発したものを持ち寄り、フランスで建設している。ただ部材の不具合などの影響から稼働時期が当初の2025年から数年遅れる見通しになっている。
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日経記事2024.05.09より引用
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(参考)
・キューリー夫人とロスチャイルド、原子物理学と原子力産業 Renaissancejapan 人気記事のご紹介
https://blog.goo.ne.jp/renaissancejapan/e/94171a6c623b6c371a0d1fa4b765ce7c

核融合発電はこれまで実用化に時間がかかるとされていましたが、海外ではディープテックの1つとして急速に実用化に向けた取り組みが始まっています。
日本も技術的な蓄積は大きいだけに、事業化で後れを取らないためにも支援は重要です。
ただ支援といっても資金の支援だけではありません。英国や米国では核融合発電の許認可や安全規制は、従来の原子力発電と異なる枠組みにしようと動きだしています。
日本でもこうした規制の見直しなど環境整備が一層必要になってくるでしょう。いずれにしろ、一時のブームに終わらないよう継続的な取り組みが大切です。