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進撃のクマ、里山に君臨 2050年には都市占拠か

2024-10-06 10:14:39 | 動植物全般・恐竜・動物・昆虫・魚類・植物


秋田市内で人の生活圏に出没したツキノワグマ=加藤明見氏撮影

 

人の住む地域へのクマの進撃が加速している。

最前線である東北地方では、目撃は珍しくなくなり、人身被害が過去最悪のペースで生じている。人口減少や過疎化で荒廃した里山は、もはや人だけのものではない。

このまま放置すれば、2050年には都市も占拠され、日本列島は「クマの惑星」となる。

 

僕は秋田市内の里山で暮らすツキノワグマだ。人間は僕のことを「アーバンベア」と呼んでいる。
 
昨年は好物のブナなどのドングリが大凶作だった。エサを探して山を下りると、人が住む地域まで来てしまった。
 
それ以来、山に帰らず、里山に住み着いている。人の気配は少なく、危険もあまり感じない。
 

2023年度、秋田県では人とクマの遭遇がかつてない規模で起こった。3723件もの目撃情報があり、70人が負傷した。

被害者数で秋田県に次ぐのは岩手県の49人で、この2県で全国の過半を占めた。

 

24年は前年よりは少ないものの、両県の被害者は4〜8月の5カ月で18人。クマの活動が活発化する9〜11月は被害が出やすい季節でもある。

クマ対策専門職員として働く秋田県ツキノワグマ被害対策支援センターの近藤麻実主査は危機感を募らせる。

 

「人とクマの生活圏はもはや重複している。我々はクマに負けており、押し返さなければならない」

 

 

 

なぜこれほどクマの出没が目立ってきたのか。多くの専門家は「里山の衰退」を挙げる。

里山とは「自然と都市の中間に位置し集落、農地、ため池などで構成される地域」。ニッポンの田園風景と考えていいだろう。

 

里山はクマと人の世界を分ける役割を果たしてきた。

クマは警戒心が強い動物だ。人の活動が活発だったころは野に下りてもすぐ山に帰るのが常だった。

 

ただ、人口減少と高齢化、過疎化が進み、農業や林業など人の活動は極端に減った。ハンターも少なくなった。都市以外の人口は20年に約3900万人と、1980年(約4700万人)から2割減少した。

秋田県は人口減少率が11年連続で全国最大で、今年7月には90万人を割り込んだ。緩衝地帯の消失が、全国に先行して進んでいる地域といえる。

 

 

人間は僕を見て驚くけど、僕にとっても人間は怖い。
 
ただ、里山はいまや僕らのテリトリーで、たまに訪れる人間の方が部外者なんだ。
柿や栗の木もあって食べることに困らないから、山に帰る理由はない。

もし人間と遭遇すれば? 怖くて襲ってしまうかもしれない。
 
 

環境省のデータを分析すると、クマの生息域は1978年から2018年にかけて倍増した。すでに国土の6割超を占め、札幌市や仙台市など大都市でも目撃が多発している。

森林総合研究所東北支所(盛岡市)の大西尚樹・動物生態遺伝チーム長は「東北地方で23年に起きた超大量出没が今後、本州各地で発生する可能性は高い」と予測する。

 

 


秋田県ではクマの目撃情報が増加傾向にある=加藤明見氏撮影

 

クマとの距離を空ける施策は全国各地で試されている。長野県軽井沢町では犬を使ってクマを山に追い返し、北海道斜里町ウトロ地区では電気柵で人が活動している範囲を囲っている。

環境省は24年4月、クマ類を「指定管理鳥獣」に指定し、都道府県の対策を支援している。市街地でも一定の条件を満たせば猟銃を撃つことを認める法改正の準備も進めている。

 

クマの研究に熱心な東京農工大の小池伸介教授は「クマに詳しい専門人材をいかに増やすかがカギになる」と話す。

 

 

 

人間がクマ対策に必死なのは知っているけど、僕らも生きていきたい。都合が悪いので絶滅させようというのは違うと思う。
 
僕らは生物の多様性を守る役割も果たしている。食べた木の実のフンをして、豊かな森を維持する手助けをしていることもわかってほしい。
 
 

50年にかけて、人口減少は止まらない。高齢化も加速し、里山の人影は今以上に薄くなる。クマ対策で、改めて里山を整備するのは現実的ではない。

森林生態学に詳しい秋田県立大の星崎和彦教授は「里山の人たちだけで解決するのは限界だ。今動かないと、試練は街の人にもふりかかる」と危惧する。

 

秋田県は20年、山に設置したカメラ情報からクマの県内生息数を4400頭と推定した。ただ、分布など正確な生態はわかっていない。

25年度に新たに要求された環境省のクマ関連予算も全国で約6億円。地域頼みでは対策の手は尽くせない。

 

まずは隣人を知るように、クマのことを知る。そして、できる限り行動を予測できるようにする必要がある。

限りある国土の中で30年後も共存しているため、国家の問題と捉えて対処すべきだろう。

(浅沼直樹、北西厚一、グラフィックス 松原三佐子)

 

 

 

「人の怖さ」教える 北秋田市阿仁打当マタギ頭領 鈴木英雄氏



鈴木英雄さんは「クマは最高の授かり物」と話す

 

秋田県北秋田市阿仁の打当(うっとう)地区で、代々マタギの家系に生まれた。

山形県や長野県などにマタギを伝えた阿仁は「本家」と呼ばれる。ハンターと違い、私たちは伝統を守って山の神様を信仰し、山の恵みを頂いて生活する。

 

クマは最高の授かり物で、魂を山の神に返す儀式をしてから解体する。内臓や血、骨も薬などとして大切に使ってきた。

猟を始めたのは15歳で、60年以上がたつ。2023年はクマが街中に出てきて大変な騒ぎで、こんなことは初めてだった。クマの生態が変わったのかなと思う。

 

エサがなくても奥山にいる個体と、里山周辺に来てエサを食べて子供を産む個体がいるのではないか。

山ではクマと対等の立場で命懸けの駆け引きをしている。わなにかかったクマを駆除しても、喜びはほとんどない。昨年はクマもエサがなく、かわいそうな1年だった。

 

山に入って大声を出したり、銃の音を聞かせたりして人間は怖い存在と知らせることが大事だ。昔は山がもっと明るかった。

今は自分が所有する山を知らないケースもあり、山に入る人が少なくなって暗くなった。山が押してきて、集落は狭くなっている気がする。

 

この集落のマタギは大半が高齢者で、人数もたった5人になった。ただ、関心を持って移住してくる若者も現れた。

息子は集落を出て暮らしているが、孫娘がマタギをやりたいと言ってくれている。本気かどうかわからないが我々にとってはうれしいことだ。

 

 

 
 
 
 
1億人の未来図

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日本の人口は2056年に1億人を割ります。企業の商品やサービス、行政など、私たちの暮らしのあらゆる分野に訪れる変化の未来図と処方箋を探ります。

 

 

 

日経記事2024.10.06より引用

 

 

 

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