ユーラスエナジーは北海道北部で、国内最大級の陸上風力発電所の建設計画を進める
豊田通商子会社で風力発電国内最大手のユーラスエナジーホールディングス(東京・港)は、北海道北部で国内最大級の陸上風力発電事業に乗り出す。
総出力は165万キロワットで、早ければ2031年ごろから稼働させる。生成AI(人工知能)で需要が高まるデータセンター(DC)を誘致し、再生可能エネルギー電力を地産地消する体制を築く。
北海道稚内市などの宗谷地域と、天塩町などの留萌地域に、最大で計260基の風車を建設することを検討している。単純比較はできないものの、出力ベースでは原発1.6基分に相当する。
22年2月に環境アセスメント(環境影響評価)の手続きに入り、24年3月から住民説明会を開いている。地元の理解を得た上で、工事に着手したい考えだ。
北海道北部は年間を通して強い風が吹き、全国屈指の風力発電の適地として知られる。ただ人口密度が低いことから送電線の容量が小さく、これまではその潜在能力を生かし切れていなかった。
秋吉優副社長は「広い土地を確保しやすい上、風車などの発電設備もスムーズに輸送できる。日本一安い再生エネ電力を供給できると考えている」と自信を見せる。
資源エネルギー庁によると、陸上風力の発電コスト(中央値)は1キロワット時当たり10円台だが、7〜9円を実現しているケースもある。
足元では円安などの影響で、鋼材価格や工事費が膨らんでおり、発電コストの上昇リスクもある。「最安値」を掲げるユーラスエナジーは10円以下を目指しているとみられる。
ユーラスエナジーは、大量に電力を消費するDCを誘致し、再生エネ電力を供給することを狙う。「使用電力を再生エネで賄いたいというニーズは高く、すでに複数の企業と協議に入っている」(秋吉副社長)。
20年程度にわたって企業に直接電力を販売するコーポレートPPA(電力購入契約)の仕組みを使うことを想定する。
生成AI普及に伴い、DCへの投資は熱を帯びている。米マイクロソフトは日本でDC増設を表明した。ソフトバンクは北海道苫小牧市に、生成AI開発などに活用する国内最大級のDCを26年度にも完成させる予定だ。
さくらインターネットなどデータセンターの集積が進む(北海道石狩市)
北海道によると、道内のDC(計画段階含む)は44カ所にも上る。最先端半導体の製造を目指すラピダスの進出を受け、関連産業集積への期待も集まる。
ユーラスエナジーは水素製造拠点を設けることも計画している。再生エネ電力で水を電気分解し「グリーン水素」をつくる。
タンクローリーなどで札幌市や苫小牧市周辺に運び、製造業やエネルギー関係企業に供給する。トヨタ自動車と千代田化工建設が共同開発中の水素製造システムを導入することも検討している。
ただ発電する電力は膨大なため、全てを地産地消することは難しい。政府は北海道北部と札幌市など道央エリアを結ぶ275キロボルトの送電線を整備する方針を示しており、運用開始後は活用する予定だ。
ユーラスエナジーは1986年、トーメン(現豊田通商)の電力事業部門として発足し、2001年に分社化。東京電力ホールディングス(HD)が02年に資本参加したが、豊田通商が22年に完全子会社化した
。国内外で風力や太陽光発電を運営しており、発電設備容量(グロスベース)は約360万キロワットに及ぶ。
豊田通商は再生エネ事業を重点分野に位置付けており、30年までの10年間に約7000億円を投じる方針を示す。世界全体の発電設備容量(グロスベース)は、現在の470万キロワットから30年に1000万キロワットまで伸ばす目標を掲げる。
北海道北部では、今回のものとは別のプロジェクトも進行中だ。稚内市などに計107基の風車(総出力45万7000キロワット)を設置する予定で、23年5月〜25年4月にかけて順次稼働させる。
既存の送電線容量が不足していたことから、地元企業などとともに稚内市から中川町に至る約78キロメートルの送電線も整備した。
風力や太陽光、地熱といった多様なエネルギー源が眠る北海道は「再生エネの宝庫」とも呼ばれる。
その潜在能力を引き出すためには、需要地の本州まで電力を運ぶネットワークを整備するとともに、ユーラスエナジーのように電力を地産地消する体制を強化することが欠かせない。
(清水涼平、燧芽実)
日経記事2024.05.21より引用