iPhoneのSEはこれまで液晶パネルを使っていた(22年の製品発表会)
米アップルが2025年以降に発売するすべてのスマートフォン「iPhone」に有機ELパネルを採用することが3日、分かった。
液晶を使う廉価版製品のパネルを切り替える。日本でスマホ向け液晶を手掛けるのはジャパンディスプレイ(JDI)とシャープのみ。2015年前後にiPhone向けでシェア7割を占めていたが、供給網から姿を消す。
複数の部品会社によると、アップルは中国の京東方科技集団(BOE)と韓国LGディスプレーの中韓2社に次期iPhone SE向けの有機ELパネルの発注を始めた。
すでに有機ELを採用している通常価格帯のiPhoneと上位機種「Pro」に加えて、25年発売予定のSEの画面も有機ELとなる。
iPhone向け有機ELパネルは韓国サムスン電子が約5割、LGDが約3割、BOEが2割程度を供給する。
JDIとシャープはスマホ向け有機ELパネルを量産しておらず、iPhone向けの液晶パネル供給は旧モデルの販売終了とともにゼロとなる見通しだ。アップルは日本経済新聞の取材に対してコメントをしなかった。
有機ELパネルは自ら発光する赤緑青の有機化合物を使って映像を表示する。
バックライトを使わないため液晶パネルに比べて明暗比を出しやすく色鮮やかな映像を表示できる。
映画やスポーツ、ゲームをスマホで楽しむ需要が高まるなか、液晶にかわるディスプレーとしてサムスンが09年から採用を始めた。
アップルは17年発売の「iPhone X(テン)」に有機ELパネルを初めて採用し、その後、上位機種を液晶から有機ELに転換していった。
JDIとシャープは15年前後に両社で年間2億枚弱のiPhone向け液晶パネルを供給してきたが、23年は2000万枚程度まで減った。
英調査会社オムディアによると、スマホ向けパネル出荷枚数で24年に初めて有機ELが液晶を上回る。
タブレット端末「iPad」でも高性能機種に有機ELパネルの採用が始まっている。アップルの液晶パネル調達は今後も縮小が続く見通しだ。
日本勢はアップルを主要顧客とし、iPhoneの販売拡大に伴って生産設備を拡張してきた。
JDIは一時、売上高の6割をアップルに依存していた。iPhoneの有機ELシフトで設備が過剰となり、19年に経営危機に陥った経緯がある。24年3月期まで10期連続の最終赤字を計上している。
JDIは23年に主力事業だったスマホ向け液晶パネルから撤退する方針を表明した。
消費電力の少ない有機ELの開発を進めているが、足元では腕時計型端末「アップルウオッチ」など小型パネルの供給にとどまっている。車載向け液晶パネルを中心に事業の立て直しを図る。
シャープはテレビ向けの大型液晶パネルを生産する堺工場(堺市)を24年8月に停止し、スマホ向けの亀山工場(三重県亀山市)も生産能力を3割減らした。
液晶事業を縮小して白物家電や複合機などを中心とした収益構造への転換を進める。
液晶技術は1970年代にシャープが電卓に採用して実用化が始まった。携帯電話やパソコン、テレビへと用途が広がり、90年代後半まで日本勢が世界シェアの大半を持っていた。
2000年代に入ると韓国と台湾企業が生産設備を拡大し、日本勢は大規模な投資競争に追いつけずに競争力を低下させた。
12年に日立製作所と東芝、ソニーは中小型液晶パネルを統合してJDIを設立するなど中小型に経営資源を集中させた。
10年代半ば以降は中国企業が政府資金を受けて生産能力を増強。競争が激しくなり、日本勢は収益確保がいっそう難しくなった。
日経が先駆けて報じた最新のニュース(特報とイブニングスクープ)をまとめました。
日経記事2024.09.03より引用