ライン出版編集部

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ライン(rein)出版編集長の日常と雑感

きよ子さんのために

2020-03-02 01:29:27 | Weblog
このごろは自粛してできるだけ外出を控えている。
家で何をしているかといえば、資料の整理だ。
山と積まれたこれまでため込んだ資料の山を崩し始めたら
とんでもないことになってきた。
それでも少しずつ片付いてはいる。
新聞の切り抜きをノートに張り付けるのも作業の一つ。
その中に石牟礼道子さんの「花の文を―寄る辺なき魂の祈り」
という一文を紹介する記事(日経2015年4月9日夕刊)があった。
桜に何かと関わる私に恩師が送ってくれた切り抜きで、
中央公論2013年1月号からの抜粋だそうだ。

桜の季節を前に紹介したい。

水俣病で亡くなった坂本きよ子さんのことを母親が話している…というもの。
「きよ子は手も足もよじれてきて、
手足が縄のようによじれて、
わが身を縛っておりましたが、見るのも辛うして。
それがあなた、死にました年でしたか、
桜の花の散ります頃に。
私がちょっと留守をしとりましたら、
縁側に転げ出て、縁から落ちて、地面に這うとりましたですよ。
たまがって(驚いて)駆け寄りましたら、
かなわん指で、桜の花びらば拾おうとしよりましたです。
曲がった指で地面ににじりつけて、肘から血ぃ出して、
『おかしゃん、はなば』ちゅうて、花びら指すとですもんね。
花もあなた、かわいそうに、地面ににじりつけられて。
なんの恨みも言わじゃった嫁入り前の娘が、
たった一枚の桜の花びらば拾うのが、望みでした。
それであなたにお願いですが、文(ふみ)ば、チッソの方々に、書いて下さいませんか。
いや、世間の方々に。
桜の時期に、花びらば一枚、きよ子のかわりに、拾うてやって下さいませんでしょうか。
花の供養に」


石牟礼さんは『苦海浄土』に水俣病を著した。
今年の春はきよ子さんのことを思いながら桜の花びらを拾おうと思う。
それが何よりの供養になるそうだから。
きよ子さんの両親は同じ病気で亡くなられたという。

少し若いころ
早稲田大学で『苦海浄土』についての講演を聴いたことを思い出した。


写真は2019年3月に開催したさくら展の出展作品(部分)。
ステンドグラス作家堤陽子氏の制作。