2019年のブログです
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大平健さんの『顔をなくした女-<わたし>探しの精神病理』(1997・岩波書店)を再読しました。
大平さんの『豊かさの精神病理』や『やさしさの精神病理』シリーズの一冊、精神科臨床での丁寧な面接風景が描かれます。
こういう面接をしてみたいな、と思いますし、こういう場面を描写してみたいな、と思いますが、まだまだ力不足です。
今回、印象に残ったことを一つ、二つ。
まずは、表題作の、顔をなくした女。
兄嫁への恨みから発病をした女性、顔がない、と訴えます。
面接を重ねるうちに、兄嫁より家を継がない兄への恨みが判明しますが、兄にあわせる、顔がない、こともわかります。
ミステリアスな患者さんの訴えが、精神科面接で少しずつ明らかになっていく様子がすごいです。
もう一つは、多重人格の女性。
当時はまだ日本における多重人格の、流行前、の時期ですが、大平さんの面接は慎重で、かつ、丁寧で、感動的です。
こちらも面接を重ねるうちに、少しずつ出現する人格が減少していき、強い抑圧の結果、人格が分裂せざるをえなかった女性の悲劇が判明します。
粘りづよく、患者さんをあくまでも大切にして、寄り添っていく大平さんはすごいの一言です。
まるで推理小説を読むような、見事な治療ですが、やはり患者さんへの愛と尊敬が根本にあることがよくわかります。
そういう臨床家に少しでも近づけるよう、じーじも謙虚に研鑽を続けようと思います。 (2019.6 記)