臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の朝日歌壇から(7月26日掲載分・其のⅣ)

2010年07月30日 | 今週の朝日歌壇から
○ 領収書要らぬビールで乾杯す昔愚痴った女将の店で  (新潟県) 岩田 桂

 インターネットで検索したところ、「岩田 桂 <スローフードにいがた 代表副幹事>」とあった。
 おそらくは、本作の作者の岩田桂さんと<スローフードにいがた 代表副幹事>の岩田桂氏とは同一人物でありましょう。
 作中に「領収書要らぬビールで乾杯す」とあるが、「領収書要らぬビールで乾杯す」る場合があれば、その反対に、「領収書」の要る「ビールで乾杯す」る場合もあったに違いない。
 このように、作品中の記述を深読みして行くと、「領収書」の要る「ビールで乾杯す」る場合とは、どんな場合であったのか、だとか、「領収書」の要る「ビールで乾杯す」る場合があった、岩田桂さんの前身についてや、「昔愚痴った女将」と岩田桂さんとのご関係など、いろいろなことを詮索したいという欲望に駆られるのが、「昔」変わらぬ評者の困った性癖であるが、古希に達したことでもあるから、今回はぐっぐっぐっと堪えて、そのような性癖を表面に出さないようにして、筆を擱くと致しましょう。
  〔返〕 酒<久保田>佐渡の岩がき魚沼の<コシヒカリ>召せ御酒もたっぷり   鳥羽省三


○ 水に入る素足美し身すべてを母と呼ばるる人であれども  (野州市) 馬渕兼一

 本作の作者・馬渕兼一さんは、何歳にお成りなのか?
 「身すべてを母と呼ばるる人」の「水に入る素足」を美しいなどと仰って居られる。
 彼女を「母と呼ばるる人」にしたのは、他ならぬ貴方ご自身ではありませんか。
 貴方ご自身によって、「母と呼ばるる人」となった彼女は、「水に入る素足」のみならず、「身すべて」が美しいのではありませんか?
 なんでしたら、「身すべて」を、「素足」ならぬ<素っ裸>にしてみなさい。
 ご自分で出来なかったら、他ならぬ私が代行致しますよ。
  〔返〕 温泉(ゆ)を浴びる裸形うるわし身の全て我のものなるこの女性(にょしょう)はも   鳥羽省三


○ レンブラントの「夜警」の隅に片目しか描かれなかった一人の男  (坂戸市) 山崎波浪

 「レンブラントの『夜警』の隅」には、「片目しか描かれなかった」「男」が、少なくとも三人は居る。
 右側の「隅」に二人、左側「隅」に二人である。
 これら三人の「男」たちは、何れも片目しか持っていないのでは無いと思われるが、右側の「隅」の二人の「男」は左側を向き、左側の「隅」の「男」は右側を向いているから、目については「片目」しか描かれていないのであるが、横顔や鋭い鼻も描かれているから、「レンブラントの『夜警』の隅に片目しか描かれなかった一人の男」との、作者のご指摘は、それほど特筆するべきご指摘とは思われない。
 選者・永田和宏氏の「そう言われればそんな男が居たような気もする。人の気づかないところに気づくのも作歌の楽しみの一つ」というご選評は、真にお気楽なご選評かと思われる。
  〔返〕 レンブラント描きし『自画像』は生涯通じて六十枚とか?   鳥羽省三 


○ 貸し金庫1001番のケースには誰も知らない岬と入江  (塩釜市) 佐藤幸一

 「貸し金庫1001番のケース」に納められている「誰も知らない岬と入江」は油絵であり、その油絵は、本作の作者のご両親のお墓から見下ろした「岬と入江」を描いたものだったりして。
 何やら、謎めいた作風が買われたのでありましょうか?
  〔返〕 岩盤湯「信玄の湯」の脱衣場に忘れて来にしステテコ一枚   鳥羽省三


○ 猫の死を悲しむ我を励ませり吾子は二十歳の言葉を持ちて  (ひたちなか市) 猪狩直子

 此処に、<子離れ>に加えて<猫離れ>も出来ていない女性が居る。
  〔返〕 猫の死を悲しむ母などほっといて受験勉強しっかり遣りな   鳥羽省三


○ 理科室もろう下もプールも暑くって夏が寝そべっている感じだ  (富山市) 松田梨子

 この作品の魅力は、「夏が寝そべっている感じだ」という下の句の措辞に在る。
  〔返〕 図書室もトイレもプールも暑過ぎて校長室に潜り込んでる   鳥羽省三   


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