臆病なビーズ刺繍

 臆病なビーズ刺繍にありにしも
 糸目ほつれて今朝の薔薇薔薇

今週の朝日俳壇から(6月16日掲載・其のⅠ)

2014年06月16日 | 今週の朝日俳壇から
[大串章選]

(柏市・藤嶋務)
〇  草矢打つ満天の青揺るぎなし

 「何処かで見た顔ばっかり揃えた俳句だ!」と思って、インターネットで検索したところ「出て来るわ!出て来るわ!」で、ほんの一分間余りの間に、草矢うつきのふ見かけし古物商(市川英一)」、「草矢打つ山のわらしの眉の濃き(政木紫野)」、「満天の青一色の運動会(指出純夫)」、「満天の星に貰ひし花明り(稲畑廣太郎)」、「泰山木花の法則揺るぎなし(岡本晴美)」、「雲のない青嶺いよいよ揺るぎなし(泰子)」、「万緑を突き抜け天守揺るぎなし(加藤サヨ子)」といった類想句を検索し得たのである。
 その気になって探せば、まだまだぞろぞろと出て来るはずであるが、阿呆らしくなって止めました。
 俳句とは、所詮、「それらしき言葉のコラボレーション」なのかも知れません。
 選者の方も、真にご苦労様です。


(加古川市・森木史子)
〇  大夕焼異国に逝きし児等のこと

 「夕焼」という語を用いた俳句と言ったら、「金魚大鱗夕焼の空の如きあり」という「松本たかし作」に止めを刺すし、それに「大」わくっ付けた「大夕焼」という語を用いた句には、「大夕焼一天をおしひろげたる(長谷川素逝)」、「大夕焼石見の色となる玻璃戸(稲畑廣太郎)」、「大夕焼鷗の群に漣す(藤村美津子)」、「大夕焼旅の終りのシュトラウス(雨村敏子)」、「大夕焼空ひとゆすりして消えし(今橋眞理子)」、「大夕焼鳥羽の島々染めつくし(刈米育子)」、「大夕焼奏づるやうにハープ橋(栗原公子)」、「大夕焼旅行半ばのドレスデン(森理和)」、「大夕焼犬も正座の姿勢にて(泉田秋硯)」、「大夕焼あの世が透ける岬かな(関口ゆき)」、「大夕焼草のにほひの土手はしる(松下幸恵)」、「戦サ火を浄めて燃ゆる大夕焼(川端正紀)」、「ポケツトに鳴らす貝殻大夕焼(中嶋陽子)」、「大夕焼雲上にゐること忘れ(落合絹代)」といった、いずれ劣らず、スケールの大きい句が在り、是と人事を重ね合せて、「大夕焼佳きことのみをふり返り(高尾幸子)」、「大夕焼消えなば夫の帰るべし(石橋秀野)」、「大夕焼わが少女期にハイジあり(井口初江)」、「大夕焼少年の鬱慰まず(尾堂)」などと詠む俳人も居るし、また、「大夕焼絵本の猫がよく笑ふ(小宮山勇)」と人を食ったような句にする俳人も居るが、私の胸の底を覗いていたかのようにして詠んだ句、「よそよそしみなとみらいの大夕焼」は、私も通ったことのある、蓮田病院・耳鼻咽喉科のドクター・竹生田勝次先生の名吟である。


(立川市・星野芳司)
〇  新緑の大学通り老いが行く

(仙台市・柿坂伸子)
〇  サングラス不意打のごと微笑まる

(熊本市・西美愛子)
〇  蛇出でて街の重心傾けり

(岡山市・岩崎正子)
〇  大空へ刻を積み上げ今年竹

(高松市・白根純子)
〇  薫風のごとき一書を贈らるる

(京都市・足立猛)
〇  田を植うる瑞穂の国の園児かな

 〔返〕  早苗採る瑞穂の国の妃かな
      田植えする瑞穂の国の帝かな

(群馬県東吾妻町・酒井大岳)
〇  哲学の道文学の道涼し

(平塚市・日下光代)
〇  万緑や白髪のひと輝けり

 中村草田男に、「万緑の中や吾子の歯生え初むる」という名吟が有る以上、こんな物真似狐のようなつまらない句を詠む必要は無いし、ましてや、鑑賞する必要はさらさらにありません。



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