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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「サイボーグでも大丈夫」

2007-10-07 15:13:29 | 映画(さ行)

2006年度作品。韓国映画。
精神クリニックに入院してきたヨングンという女性は自分をサイボーグだと信じていた。ヨングンはイルスンが何でも盗むことができると聞き、自分の同情心を盗んでくれ、と頼む。イルスンは彼女の行動を観察することになる。
監督は「オールド・ボーイ」のパク・チャヌク。
出演は「箪笥」のイム・スジョン。歌手Rain(ピ)としても活躍するチョン・ジフン ら。


舞台は精神クリニックで、主人公の女性はそこの患者だ。
そのためもあり、物語中には主人公の妄想がそこここに差し挟まれる。その映像はコミカルで笑える部分もあるのだが、それ以上にはなりきれていないように、僕には思う。主人公の病気の関係や、妄想ということもあり、どれもこれも思いつきの羅列でしかなく、そのために物語の一貫性は損なわれてしまっているからだ。
そういう映画が好きな人もいるかもしれないが、僕には肌が合わなかった、というのが率直な想いだ。

良かったのは主人公に惚れる男が彼女の背中にドアを描くシーンと、彼が女に食事をさせるシーンだろう。ユニークな二人のシーンだけあり、自然彼らを応援する気になり、一体感を感じることができる。
しかしそれも全体を覆すほどの美点にはなりきれていない。
発想のおもしろさは目を引いただけに、個人的には何とも残念でならなかった。

評価:★★(満点は★★★★★)

「14歳」

2007-08-26 18:22:16 | 映画(さ行)
   
2006年度作品。日本映画。
14歳だった深津は飼育小屋の放火を疑われ、教師を彫刻刀で刺したことがあり、同級生だった杉野はその事件を目の当たりにする。その後、教師となった深津と、会社員の傍ら、知り合いにピアノを教える杉野は偶然再会をし、それぞれ14歳の生徒と向き合うこととなる。
監督と主演は「ある朝スウプは」の廣末哲万。
出演はほかに並木愛枝 ら。


14歳というのは微妙な時期だ。思春期真っ只中で、大人になる過程にある不安定さがもっとも現れる時期がその年齢なのだろう。
タイトルに出ているように、これは14歳を題材にした作品だが、基本的にそんな不安定な時期のイヤな側面を存分に描いている。

特に和恵は最悪である。「ヒマなんだけど」というセリフを使って友情を押し付けるくせに、その友情を平気で裏切ったり、先生を傷付けることも辞さない。自分中心で独善的で、自己愛に満ちている。多分彼女は大人になってもそういうタイプのままだろうけれど、ある意味、この年頃の自意識を彼女は象徴しているといえるだろう。
そのほかの人物たちの中にも、性的な面に興味を持ったり、暴力でとりあえず訴える、考えなしの部分など、不安定な時期の不安定な感情が描かれている。
それは僕個人のイヤな記憶を揺さぶって、ずいぶんと落ち着かない気持ちにさせてくれる。最高に最低な映画だ。

だがそんな14歳の姿を描きながら、これは14歳の感情を忘れた大人たちに向けた映画だという印象を受ける。
大人になってしまうと、この年齢特有の自意識や感情などを必ずしもしっかりと思い出すことができるわけではない。それは最後のセリフではないが、そんなにこの年齢の子供たちをかまってやれるわけではないからだろう。
しかしときにしっかり彼らに向き合わなければならないときがある。それは彼らの時代に起こした記憶がときに将来の自分を苦しめるからだ。
僕はいじめた相手を一生忘れなかったらどうしよう、というセリフにハッとさせられた。相手を傷付ける。その記憶がときには自分の心を傷付けることもあるのだ、ということを思い知らされる。

観客に個人的の記憶を揺り起こさせると同時に、大人になってしまった者の責任と宣言をこの映画から感じ取ることができる。
確かに最悪だと思うが、心を衝く作品でもある。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・高橋哲万出演作
 「天然コケッコー」
・香川照之出演作
 「嫌われ松子の一生」
 「ゲド戦記」
 「憑神」
 「バッシング」
 「花よりもなほ」
 「ゆれる」

「絶対の愛」

2007-07-29 19:34:31 | 映画(さ行)


2006年度作品。韓国=日本映画。
恋人のジウが自分の容姿に飽きてしまうかもしれない。そんな不安に襲われたセヒは整形に踏み切り、自分の顔をつくりかえるため、ジウの前から姿を消す。捨てられたものと思い、傷付くジウのもとに半年後、新しい女が現れる。それこそ整形を終えたセヒだった。
監督は「サマリア」のキム・ギドク。
出演は「スカーレット・レター」のソン・ヒョナ。ハ・ジョンウ。


「うつせみ」「弓」と最近のギドク作品はずいぶんわかりやすくなってきたが、本作もストーリー自体は明快である。ひと言で語るなら整形によって顔の変わってしまった女性の愛の行方を追うといった内容だろう。

ヒロインの女性は嫉妬深く、恋人が自分をちゃんと愛してくれているか不安で仕方がない。自分の顔に飽きてしまったのではないか、と不安になり、恋人の心をつなぎとめるために整形に踏み切る。新しい顔になった彼女は、素性をかくしたまま恋人の心をつかむが、それは同時に恋人が過去の自分を捨てることだと気付く。
映画のあらすじは以上のような感じだが、こう書くとずいぶん奇抜でやりすぎだろう、という気もしなくはない。実際見ている間、その設定に違和感を覚える部分のあったことは事実だ。
それに、韓国映画特有の過剰な感情の描き方にもうまくなじめず、映画そのものに距離を感じてしまったきらいがある。

しかしその不安定な愛の描写は、なかなかおもしろいものがある。
より男に愛されたいために顔をつくりかえたのに、古い顔の自分が捨てられるのも許せない。はっきり言って、そんなヒロインの心理は矛盾もいいところで、独善もはなはだしいのだが、その矛盾の描き方が実に上手いと思う。
たぶん彼女自身、自分が何をどうしたいのかわかっていないのだろう。それだけに混乱した感情が見ているこちらにまで伝わって来るような気がした。

しかしそこまで愛を求めてきた女が、ラストで顔を変えてしまった男を見つけられないところは皮肉が利いていて、非常にすばらしい。
自分はあくまで愛を求めるのに、相手の愛には応えられることができない。愛ってやつの厄介な側面を見せられた気がした。

そういうわけで本作のテーマ性は個人的には好印象なのだが、演出等の面で気に入らない点も多かっただけに、手放しで賞賛できそうにはない。
際立った美点があると思っただけに、なんとも惜しい結果になったのは残念だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・キム・ギドク監督作
 「うつせみ」
 「魚と寝る女」
 「弓」

「300 <スリーハンドレッド>」

2007-06-12 20:22:56 | 映画(さ行)


2007年度作品。アメリカ映画。
幼い頃より戦闘の英才教育がほどこされる、古代ギリシャの都市国家スパルタ。その地の王レオニダスの元にペルシアから服従を要求する使者が来る。レオニダスはそれを拒否し、わずか300名で100万のペルシア軍を迎え撃つ。
監督は「ドーン・オブ・ザ・デッド」のザック・スナイダー。
出演は「オペラ座の怪人」のジェラルド・バトラー。「ブラザーズ・グリム」のレナ・へディ ら。


ひと言で言えば、僕の趣味ではなかった。そういうわけで、きわめて評価の低い作品である。

確かに、そのCGを駆使して処理をほどこした映像はおもしろい。見ていてきれいだな、と思ったのは事実だ。
悲壮な戦いに挑む男たちの姿を描くという題材そのものもオーケーだ。

だが肝心の映画の中身がどうも気に食わない。
そのもったいぶった演出、無駄に多いスロー、そういった諸々のものがどうにも鼻について素直に楽しむことができなかった。自分でもなぜそこまで気に食わないのか論理的に説明できないのだけど、こればかりは感性の問題だから仕方あるまい。

そういった全体の雰囲気が受け入れられなくなると、細かいところまで気に入らなくなってくる。
たとえばペルシア側の兵士はなぜあんなにもクリーチャーっぽい造形なのかが気になる。
僕はイラン政府から抗議が出ているという話を知らなかったのだが、抗議が出るのも当然と思う。はっきり言ってそんなことをする意味がわからないからだ。
敵の異様さを醸し出すための手段なのだろうか。だとしたらなんとも安直な方法だと言わざるをえない。もしも肉体の強さを表現するのならば、スパルタ側にもそういった人物を登場させるべきではないのか。
僕は思うのだが、仮にスパルタの敵が現在のイスラム文化圏のペルシアでなければ、多分あんな描写はされなかったろうと思う。アメリカの正義を振り回した感の強い映画にこんなことを言うのもなんだが、その細かな点に作り手の誠意が欠けているような気がした。
製作者には、セリフの中に出てきた「Respect and Honor」がどうこうと言う資格などないであろう。

戦闘シーンなど見応えがあることも認めるし、楽しめる人も多いことは充分にわかる。
しかし僕はこの映画が嫌いだ。いろいろ言ったが、結局それですべてである。

評価:★(満点は★★★★★)

「スモーキン・エース / 暗殺者がいっぱい」

2007-05-13 17:32:40 | 映画(さ行)


2007年度作品。アメリカ映画。
マフィアの大物スパラッザはエースというマジシャン上がりでギャングの真似事をしている男の心臓に100万ドルの報奨金を出した。その情報をつかんだFBIはエースを守り抜こうとするが、賞金の話を聞きつけ、暗殺者たちがエースのいるホテルに乗り込んでくる。
監督は「NARC ナーク」のジョー・カーナハン。
出演は「パール・ハーバー」のベン・アフレック。「オーシャンズ11」のアンディ・ガルシア ら。


多くのキャラが複雑に入り組んだ作品である。
しかもどのキャラも非常に濃い。イカれた感じの暗殺者兄弟に、レズっぽい女暗殺者。残忍そうな暗殺者もいれば、クールな感じの護衛役もいる。そういったキャラの面々は非常にインパクトがあるのはまちがいないだろう。
だが、物語や人物が複雑に入り組んでいてわかりにくく、キャラの掘り下げがないため、その個性的なキャラたちも記号的な扱いになっているような印象を受けた。
そのためインパクトのわりに、どのキャラもこれといって心に訴えるものはなかった。

それにストーリーも無駄にややこしく、整理も中途半端なため、派手なガンアクションのわりに全体の印象が散漫になった感が強い。最後に意外な真相を用意しているが、ガンアクションが物語の核と化しているため、ただの付け加えという程度の扱いに終わっているような気がした。
果たして監督自身、この映画のメインは何なのか、わかっていてつくったのだろうか。見終えた後、僕は監督自身よくわからないままつくったんじゃないかなという感じを受けた。

だがアクションシーンは派手なため、つまらないとまでは感じなかった。
DVDが出たときについでに借りればいいというレベルの作品である。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「叫」

2007-03-04 16:59:23 | 映画(さ行)


2006年度作品。日本映画。
東京の埋立地で女性が殺される。担当した刑事の吉岡は現場に自分の痕跡を見つけて困惑、犯人は自分なのではないかと思い始める。吉岡はやがて自分の前に現れる赤い服の謎の女を目にするようになる。
監督は「CURE」の黒沢清
出演は「Shall we ダンス?」の役所広司、「天使の卵」の小西真奈美 ら。


この映画で良かったのは映画全体に漂う雰囲気である。
地震といい、地面の液状化といい、役所広司演じる男の心象風景が再現されていて、不安が増すようにつくられているのが目を引く。

そしてその過程から、自分の中で封印している過去が暴かれていくところがいい。
小西真奈美がやたら母性チックに描かれているな、と思っていたが、そういう意図があったのですね。なかなか緻密につくりこまれていて感心した。
ややラストがわかりにくいが、幽霊という媒介を通して描かれる現実と幻想のあわいをホラーチックに描いていて(幽霊役の葉月里緒菜もやたらにこわかった)興味深い。

ただ残念なのは、だからおもしろい、と言い切れない点だろう。見終わった後、ふうん、そうなんだ、っていう程度のレベルに収まってしまう。要は映画そのものに力がないのである。
惜しいと言えば惜しい作品だ。

評価:★★★(満点は★★★★★)

制作者・出演者の関連作品感想:
・役所広司出演作
 「THE 有頂天ホテル」
 「SAYURI」
 「それでもボクはやってない」
・小西真奈美出演作
 「UDON」
・伊原剛志出演作
 「硫黄島からの手紙」

「それでもボクはやってない」

2007-01-28 16:20:41 | 映画(さ行)


2007年度作品。日本映画。
満員電車内で痴漢にまちがえられ逮捕された青年、彼は無実を訴え続けるが、警察も検事も彼の主張を聞こうとはしない。青年は無実を訴え、裁判を戦うこととなる。
監督は「Shall we ダンス?」の周防正行。11年ぶりの作品。
出演は「ハチミツとクローバー」「硫黄島からの手紙」の加瀬亮。瀬戸朝香 ら。


社会派の力作である。
2時間20分を越える長尺な作品だが、退屈するということがなかった。ストーリーとして引き込まれ、考えさせられるものに仕上がっている。

表現される素材は痴漢冤罪裁判だ。
男性は女子高生により痴漢として捕まり、その後、取調べのため長期にわたり拘留される。彼は無実だったが、警察はそれに取り合わない。
多分満員電車で、通学ないし通勤したことのある男性なら、この映画の内容には恐怖を覚えるのではないだろうか。それほどまでにリアリティがあり、それによって、観ていても空恐ろしいものを覚える。

映画から浮かび上がっているのは日本の警察制度、並び、日本の裁判制度にある矛盾だ。
はっきり言ってこれはひどい。やってもいないのに、女子高生の証言を元に、証拠もどきを組み立てて、ひとりの人間を犯罪者に仕立て上げていく。裁判所側も無罪を出すことを恐れるあまりに、ハナから疑ってかかっていく傾向が見える。そしてそれに立ち向かうには痴漢をしていないということを立証しなければいけない。
その理不尽とその容易でない状況、その困難、その様は見ていても、非常につらいものがあった。

はっきり言って、この男性を有罪とするには、どの証拠も、証言も根拠とするにはあまりに弱い。しかも人の記憶は印象によって簡単にゆがむため、その脆弱さは際立ってしまう。
確かに、この人を無罪だとする証拠も弱いかもしれない。でもそれによって真に無実なのに、それが通らないかもしれないというのは残酷ではないだろうか?

痴漢は許されるべきでない。痴漢をされる女性の恐怖はよくわかる。しかしそれによって無実の人間をつくるのは愚かしく悲しいことだ。そんなことを強く思った。

あと、加瀬亮が非常によかった。気弱な青年を熱演していたと思う。主演でも充分、絵になっていた。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)


制作者・出演者の関連作品感想:
・加瀬亮出演作
 「硫黄島からの手紙」
 「好きだ、」
 「ストロベリーショートケイクス」
 「ハチミツとクローバー」
 「花よりもなほ」
・瀬戸朝香出演作
 「DEATH NOTE デスノート 前編」
・もたいまさこ出演作
 「かもめ食堂」
・役所広司出演作
 「THE 有頂天ホテル」
 「SAYURI」

「ストロベリーショートケイクス」

2006-11-12 08:42:44 | 映画(さ行)


2006年度作品。日本映画。
魚喃キリコのコミックを映画化。フリーターの里子と、彼女が慕うデリヘル嬢の秋代。複雑な思いを抱えながら同居するOLのちひろとイラストレーターの塔子。それぞれの事情を抱えながら生きる4人の女性の物語が並行して描かれていく。
監督は「三月のライオン」の矢崎仁司。
出演は「ジョゼと虎と魚たち」の池脇千鶴。「四日間の奇蹟」の中越典子 ら。


実に感想が書きづらい作品だ。それは多分僕が男であるってことも、無縁ではないだろう。
女性4人を主人公にした映画なだけに、その女性陣の繊細な心の機微を理解しきるには男の僕では完全には無理かもしれない。つうか一番共感したのが女性陣ではなくて、加瀬亮という時点で、そうなるのも当然なのかもしれないけれど(しかしこの映画の男性陣は誠意が足りねえな)。

しかしもちろん、まったく彼女らの心理が理解できないわけではない。彼女たちに対する共感めいたものは覚えるし、彼女たちが抱えている状況に思いを馳せることができる。
総じて言えば実に優れた作品であったと言っても良いと思う。

ここに出てくるのは四人の女性だ。それぞれが個性的でタイプは違う。
ひとりは失恋を経験したあと、恋をしたいと願ういたって普通の女性、里子。もう一方は学生時代の男友達を思い続けるデリヘル嬢、秋代。そしてやや恋愛依存症気味なOL、ちひろ。仕事にプライドを持ちながら理解されない現実に苦しむイラストレーター塔子である。
そのどのキャラもが非常に等身大であり、それゆえに各人が抱えている現実が見ていても目の前に迫ってくるものがある。

この映画から伝わるのは、各人の「生きにくさ」だ。それぞれの悩みは当人にとってはあまりに深刻であり、それゆえに傷付くものがあまりに多い。
個人的には塔子の嘔吐の姿には、見ていても苦しいものがあった。
彼女はそれこそ身を削るようにして絵を描き続けているのだけど、他人からはその思いをどうでもいいといった感じに扱われてしまう。彼女の苦悩を気付き、省みてくれる人は皆無だ。その様があまりに悲しい。

その他の女性たちの苦しみもそれと同様に苦しい。
個人的には塔子の次には秋代にシンパシーを感じた。だが同時にこの人が僕にとっては最もわからない存在でもあった。
秋代は後半で妊娠をするのだけど、その行動原理がどうしても僕にはよくわからなかった。秋代が宿しているのは恐らく客の子なのだろうけれど(多分ミス・ディレクションではないと思う)、それならばなぜ彼女は堕胎を考えなかったのだろうっていうのが、僕の根本的な疑問だ。
それが菊地とのセックスの動機付けになっているのはわかる。だが、出産を考えることだけは僕にはどうしても理解できない。
いろいろ考えたが、多分それは棺桶で眠るというメタファーとリンクはしているとは思う。けれど、それでは「なぜ」の部分が充分に解明できないきらいがある。これは僕が男だからなのだろうか。よくわからない。
最後の最後でもどかしい感じになってしまって気持ち悪い限りだ。

ともあれ、この作品はなかなかの良作であることはまちがいない。
決して明るい希望が待ち受けているわけでもないが、暗すぎるわけでもない。一般受けはしそうにないけど、バランスの取れた作品という印象がある。
最近邦画が元気だが、本作もその元気さを示す作品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「サンキュー・スモーキング」

2006-10-16 20:52:47 | 映画(さ行)
2006年度作品。アメリカ映画。
タバコ研究アカデミー広報部長のニックは業界の顔として、マスコミの矢面に立ち続ける。彼はその巧みな話術で、世間の批判と戦うが……。タバコ業界を描いた知的論争エンタテイメント
監督はこれが長編デビューとなるジェイソン・ライトマン。
出演は「サスペクト・ゼロ」のアーロン・エッカート。「ヒストリー・オブ・バイオレンス」「ワールド・トレード・センター」のマリア・ベロ ら。


口八丁という言葉があるが、その言葉がこれほど似合う主人公は少ないだろう。
主人公はタバコ業界のPRマンで、嫌煙ムードの中真っ只中、マスコミを舞台に活躍している。そこで語られるタバコに関する主張は、確かにまちがってはいない。だが、基本的に論旨のすり替えなどが行なわれていて、詭弁もいいところだ。そのむちゃくちゃな論旨には見ていて苦笑するほかになかった。
しかしそれゆえに、彼の語りは実にユーモアに富んでいる。討論相手には絶対になりたくないが、鑑賞する分には充分楽しい。彼の、冷静に考えてみれば、確実に何かがまちがっている主張はウィットに富んでいると共にアイロニーにも満ちている。
僕はタバコを吸わない人間だが、そんな人でも不快になることなく、苦笑しながらも楽しめる作品に仕上がっているのはまちがいない。

正直言って、本作はそれだけしか印象に残っていない。親子の話など、いくつかエピソードが組まれていたが、個人的に特に心に訴えるものはなかった。
だが、エンターテイメントしてはまちがいなく及第点の作品である。観ても損はないだろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「サムサッカー」

2006-10-09 18:16:11 | 映画(さ行)
2005年度作品。アメリカ映画。
17歳になってもまだ、親指を吸うクセが抜けない少年が、自分自身や周囲と向き合う過程を描く。
監督はCMなどを手がける映像クリエイターで、本作が長編デビューとなるマイク・ミルズ。
出演は若手俳優のルー・プッチ。「ナルニア国物語 第1章 ライオンと魔女」などのティルダ・スウィントン ら。


人は何かに依存して生きている――映画のセリフにもあったが、それは真理であるし、そうでない人間はいないだろう。

主人公は親指を吸うクセが抜けないティーンエイジャーだ。親はそんな彼のクセをみっともないと思っているし、主人公も自分自身それをあまりよいクセと思ってない。しかし彼を緊張するとそれをせずにいられない。そのクセこそ彼が依存している対象だからだ。
彼はしかしその子供じみたクセから抜け出そうと、彼なりに奮闘をはじめる。その過程で、彼は反発している家族に対して、間違った考えをいくつかもっていくことに気付いていく。
そのような観点から見たとき、この映画は成長物語だと言えるだろう。ティーンエイジャーが、主観的なものの見方から客観的、複眼的に物を見ることを学んでいく。成長物の王道だ。

しかしこの映画は単なる成長物では終わっていない。
普通の成長物は大概、少年時の自分自身に別れを告げることで完結をするものだ。しかし、本作の主人公はその少年時の自分自身を象徴する、親指を吸うというクセを捨てることがないからである。
そういう意味、この作品は成長物であると同時に、アンチ成長物ともいうべきであろう。

本作では子供じみたクセを持つ自分を捨てることではなく、許容することで新たな道筋を示している。端的に言うと、自己と他者に対する受容ということだろうか。この視点が極めておもしろく、個人的には好印象である。
目立ったストーリー性もないし、地味な作品ではあるが、愛すべき小品と僕は思った。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「スーパーマン リターンズ」

2006-08-22 21:41:04 | 映画(さ行)


2005年度作品。アメリカ映画。
人気シリーズの最新作。スーパーマンが忽然と姿を消してから5年後を舞台に、宿敵レックス・ルーサーとの戦いを描く。
監督は「ユージュアル・サスペクツ」のブライアン・シンガー。
出演は本作で映画デビューのブランドン・ラウス。「アメリカン・ビューティー」などのケヴィン・スペイシー ら。


僕は「スーパーマン」シリーズを見たことがない。いやテレビでひょっとしたら見たかもしれないけれど、少なくとも記憶にない。自分のせいと言われればそれまでだが、そのせいで細かいところがよくわからなかった。
よくわからないから、取り残されたような気分になり、物語に入り込めず、座っていることすら苦痛になる。というわけで、僕は本作をほとんど楽しむことができなかった。

ただし、たとえば飛行機のシーンなど、アクションのシーンは見ごたえがあってそれなりに緊張感がある。けれどもそれ以上ではなく、僕にとっては、本作はそれだけの映画でしかない。
はっきり言って、僕にこの映画を評価する資格はないのかもしれない。

評価:★★(満点は★★★★★)

「戦場のアリア」

2006-05-24 19:50:37 | 映画(さ行)
2005年度作品。フランス=ドイツ=イギリス映画。
ヨーロッパ各地で語り継がれる戦場の奇跡を映画化。第一次大戦時、フランス・スコットランド連合軍とドイツ軍の間で起こった休戦と友好を描く。アカデミー賞外国語映画賞ノミネート作。
監督はクリスチャン・カリオン。
出演は「トロイ」のダイアン・クルーガー。ベンノ・フユルマン ら。


戦争映画のテーマは戦争の悲惨さを訴えるという一点に集約される。そのために世の多くの映画は各種の手法を使って、それを表現してきたわけなのだけど、この映画で使われる素材はなかなかに感動的だ。
実話とはにわかに信じられないくらい、この話はどこかおとぎ話じみている。しかしそれゆえにこのエピソードを極めて美しいと思うことができるのだ。
特に敵の兵隊の音楽に合わせ、相手側も歌を歌うシーンは感動的である。前線の真っ只中に兵士たちが出てくるシーンも麗しいものがあった。

戦争というものは相手を知らないから何とか殺せるわけで、そこで相手の人柄を知ってしまっては躊躇いが出てしまう。敵も同じ人間であり、決して野蛮なだけの存在ではなく、愛する家族がいて、共通する価値観をもっていたりする。
それは極めて当たり前のことなのだけど、当たり前のことを、この作品を通して改めて気付かされる。そして同時に、音楽はやはり世界共通だな、ということを思い知らされた次第だ。

何はともあれ、この作品は心温まる映画である。
奇跡というものは美しく優しいからこそ、奇跡と呼ばれるのだろう。そんなことを見終えた後に漠然と思った。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「好きだ、」

2006-05-12 22:51:44 | 映画(さ行)


2005年度作品。
互いに惹かれあう17歳の男女、彼らの17年間に及ぶラヴ・ストーリー。2005年ニュー・モントリオール国際映画祭最優秀監督賞受賞。
監督はCFディレクターとして活躍してきた石川寛。監督2作目。
出演は「NANA」の宮崎あおい。「Dalls」の西島秀俊 ら。


何とも繊細な映画である。
時折に映される景色のシーンや、会話の間に起きる沈黙、何気なく佇んでいるだけのシーンなど、全てが静かで、あまりに美しい。
そしてそういった空白や沈黙の中から、登場人物の感情がこぼれ落ちているのが鮮やかであった。セリフ自体はそんなに多くはないのだけど、そこで語られる物語には実際に発せられる言葉以上に、多くのものが込められている。そして実際に映像で見せている以上に、深みのあるストーリーを感じさせてくれる。
そういった丁寧なつくりは見事なくらいだ。

主人公たちが互いに好意を抱いているのは見れば充分にわかる。
しかし、17歳の二人の感情の中には思い込みによる勘違いや、感情のもつれ、悲しみ、恋の苦しみ、すれ違いが紛れ込んでくる。その様は見ていてとにかく切ない。互いに若く、そのため感情をうまく言葉にできない二人の姿には、一度は誰しも感じたことのある苦しみに溢れていて、泣きそうになってくる。

34歳になってからの物語も微妙に切ない。
大人になっても、どこかで過去のひっかかりがあって、それが二人のキスシーンからそこはかとなく伝わってくるのが、何とも言えず良い。そう言った積み重ねのために、ラストシーンには淡い感動が漂っていた。

石川寛という監督を僕は知らなかったけれど、これは注目の監督だろう。
この先、どんな映画に出会うかはわからないけれど、間違いなく今年見た映画の中で上位に入るのはまちがいない。傑作の部類に入る作品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「SPIRIT」

2006-03-21 22:38:36 | 映画(さ行)


清朝末期、国威衰えて自信を失くした中国国民に勇気を与えた実在の武術家、霍元甲の人生を描く。
監督は「フレディVSジェイソン」のロニー・ユー。
出演は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」のジェット・リー(リー・リンチェイ)、日本からは中村獅童が参加。


アクションは香港映画だけあって、極めて迫力がある。そのアクションのテンポの良さ、きれ、すばやさ、滑らかさ、どれもが美しいくらいで、観ていてすがすがしいものを感じた。

はっきり言ってストーリーはよくあるパターンでこれといった昂揚感もない。しかし娯楽映画なのだし、それでいいのではという気がする。
よっぽどストーリーがひどくない限り、アクション映画はアクションを楽しむのが本筋だと僕は思う。

評価:★★★(満点は★★★★★)

「シリアナ」

2006-03-07 20:49:49 | 映画(さ行)
元CIA工作員の暴露本をもとに、石油利権を巡るCIA、石油企業、アメリカ司法省、アラブ王室の黒い関係を描く問題作。
監督は「トラフィック」の脚本を手がけたスティーヴン・ギャガン。
出演はジョージ・クルーニー、マット・デイモン。ジョージ・クルーニーは本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞。


何とも重厚な作品である。構成には問題あるけれど、見応えがあるのは間違いない。

本作はいくつかのエピソードが最初、並列的に語られる。
CIA工作員、石油企業とアメリカ司法省のために働く弁護士、アラブ王室と繋がりを持つことになるエネルギー・アナリスト、出稼ぎ労働者等である。各種のエピソードは、一見繋がりがあるように見えるのだけど、どうも関係性が薄く、いまひとつ関連させる必然性が見えてこない。加えて場面の転換がやたら起きるので、エピソード中に出てくるキーワードも頭に入ってこず、ストレスがたまる。
そういうこともあり、はっきり言って、前半は退屈にすら感じた。実際、途中退席する人もいたくらいだ。その辺りは同じく群像劇の「クラッシュ」の洗練さには及ばない。
しかし中盤から全体の繋がりが明確になってくるにつれて、ようやく面白くなってくる。

この映画には多くのエゴが登場する。どいつも、自分たちの国の利益のことしか考えず、欲丸出しで卑劣な行動をとることを恥じない。ひどい話である。
そんな中、アラブの王子の理想主義や、CIA工作員がラストにとった行動はアンチエゴイズムとも言うべき行為だ。しかしそれも強大で圧倒的なエゴイスティック国家アメリカの陰謀の前に敗れざるを得ない。
どちらに問題があるかは明確である。しかしそれでもその圧倒的な力の前では正論は押しつぶされて抹消されざるを得ない。

これは無力感に溢れた敗北の物語である。その無力感の重々しさが余韻として残る佳作であった。

評価:★★★★(満点は★★★★★)