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私的感想:本/映画

映画や本の感想の個人的備忘録。ネタばれあり。

「魚と寝る女」

2006-02-27 20:37:22 | 映画(さ行)


2000年作品。山あいの湖を舞台に、そこに暮らす女と殺人を犯し、死に場所を求める男との痛々しいつながりを描く。
監督は韓国の鬼才キム・ギドク。


キム・ギドクの作品は厄介だ。
はっきり言って、わかったようなわからないような、極めて難解な映画であるにも関わらず、観終わった後には何かしらの強いインパクトを残すからだ。正直、どう捉えていいのか毎回悩んでしまう。
本作もそんなギドク作品に抱いていた印象を補強するような仕上がりになっている。

主人公の女は極めて怖い。男が他の女と寝ているときに、トイレから顔を出してその様子を覗き見るシーンがあるが、それを観たときには言いようのない寒気を覚えた。
とにかくその愛し方は粘着質だ。特に言葉を発しない分、女の異質さは際立ったものなっている。
しかしその行動はどこか献身的なものがあるのもまた事実だ。一途に愛するがゆえに、女の行動が異質なものになっていく様は怖さと同時に悲哀も生み出している。

最後の方で、女は男を引き止めるために極めて痛々しい行動をとる。そこには一途であると同時に、張り詰めた思いを感じる。
女はそういう行動をとる以外に男の心を自分の方に引き寄せられないのだ。痛いけれど、その姿は充分過ぎるほどに切ない。

映画全編に漂う詩情、そして痛さの奥に厳然と備わる切なさが観終わった後にも余韻を残す。佳作である。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最後の日々」

2006-02-26 18:39:58 | 映画(さ行)
1943年、反ナチス組織「白バラ」の紅一点、ゾフィー・ショルが逮捕からわずか5日で処刑される。彼女は何を思い尋問官たちと向き合ったのか、その真実を元に映画化。
本作はベルリン国際映画祭で銀熊賞をとるなど高い評価を受けている。


ナチス社会の裁判は例えるならベルトコンベアの様なものだ。一つのわかりきったルートに乗せて、物事を捌いていく。その上でゾフィーたちがどれだけ正義や真実を叫び、毅然とした態度をとろうとも、そのコンベアを決して止める事はできない。
映画を観ながらそんなことを考えていた。悲しいことだ。

ゾフィーたちのとった行動は決して要領のいいものではない。
大学のビラ撒きでももっと違う方法があったと思うし、そもそも戻って残ったビラを片付けようなんて考える暇があったら、ちゃっちゃと逃げればいいのにとも観てて思った。
若さゆえの無謀というべきか、見通しの甘さが出たようなものだろう。

しかし彼らがビラを配ろうと思い立った気持ちは心から美しいと思う。ゾフィーたちが見たナチスの政策や戦争での行動に憤りを抱き、良心の信じるままに行動しようとした姿勢は賞賛すべきである。

ゾフィーは映画の中で一度だけ、死への恐怖を見せる場面がある。そこに人間として、当然の弱さを感じる。だが、それ以外では決して他人に弱さを見せまいと毅然とした態度を取り続けている。その姿は一人の人間としてもすばらしい姿であった。

そんな彼女の態度に接してか、尋問官や看守、法廷で傍聴する人たちは優しさや寛大さや、人としての迷いを見せている。最初のベルトコンベアの例えに戻るなら、彼女たちをコンベアに乗せた者たちにも迷いはあったということだ。
それがこの映画の救いであると同時に、それでもコンベアは止まらないという言いようのない絶望でもあるのだろう。

かなりまとまりがなくなったが、何にしろ色々なことを考えさせてくれる映画である。一見の価値ありだ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「シャイニング」

2006-02-18 20:58:50 | 映画(さ行)


1980年の作品。スティーヴン・キングの作品を映画化。雪に閉ざされたホテルで徐々に狂い始める恐怖の姿を描く。
監督はスタンリー・キューブリック。出演はジャック・ニコルソンら。


この映画はジャック・ニコルソンのためにあるような映画だ。この人はちょっといかれた感じの人を演じさせたら天才的である。多分好き嫌いは分かれそうな気はするが、僕は大好きだ。
映画後半のニコルソンはまさに鬼気迫るものがあり、僕は完全に画面にひきつけられてしまった。妻を追い詰める姿、倉庫に閉じ込められたときの姿、斧を振るうシーン。すべてが恐ろしく、迫力は満点である。
このジャック・ニコルソンの怪演を観るだけでも価値があると思う。

映像も幻想的な雰囲気が漂っていて、錯乱なのか、現実なのか、あの世のことなのか、不明確になっている様が印象に残った。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「ジャーヘッド」

2006-02-18 20:48:41 | 映画(さ行)


1991年勃発した湾岸戦争、戦場に赴いた兵士たちの真の姿を描く。
監督は「アメリカン・ビューティ」のサム・メンデス。
出演は「デイ・アフター・トゥモロウ」のジェイク・ギレンホールら。


戦争映画だが、戦場シーンよりも、戦争が起こらない状況を描いているという点で新鮮だ。

主人公たちは砂漠の真ん中で、6ヶ月も駐留することを余儀なくされるのだが、そこでの男たちの姿はアホそのものだ。やはり男は下ネタがメインになってくるのかな、と苦笑しながら思う。
けれど、さすがに半年近くも駐留していれば、そういう心境になるのもわかったりする。海兵隊に入ったのに、何もできず、恋人には逃げられてしまう。そんな状況では心が殺伐するし、どこかでストレスを発散したくなるのは無理もない。
しかもようやく戦争が始まったと思っても、主人公は最終的には何の役目を果たすこともできずに終ってしまう。ある意味、悲劇だろう。

だが本当に悲劇的で問題なのは、彼らがまったく戦争と無縁だったというわけではないことにある。
彼らが歩いている道中では黒焦げになったアラブ人の死体を見ることになるし、味方がヘリで銃撃を受けたりもする。油田に放火されるというある種、終末的な風景を見せ付けられ、確実に戦争という傷を心の中に残している。
そして、そんな風景を彼は味わっているにも関わらず、彼は最後まで何もすることができなかったのだ。それってものすごい絶望的なことでは無いだろうか。じゃあ、自分は何のためにここに来たのだろう、という話である。そこには消化不良で、自分でもうまく折り合いのつけられない思いが湧くばかりだ。

近代の戦争はハイテクになり、白兵も狙撃手も入り込む余地は残されていない。にもかかわらず、兵隊は戦場に行かねばならず、戦争という現実を見詰めなければならない。
その惨めなくらいの現実と、鬱屈を描いた佳作である。一見の価値はあるだろう。

評価:★★★★(満点は★★★★★)

「そして、ひと粒の光」

2006-02-06 21:41:12 | 映画(さ行)
南米コロンビアで実際に行なわれている麻薬の密輸。その仕事を引き受けた17歳の少女の姿を描く。
主演のカタリーナ・S・モレノは本作でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされた。


なかなか印象深く、個人的には好きな映画だ。
主人公のマリアは麻薬の運び屋をするのだけど、その辺りの緊張感はなかなかの見ものだ。特に空港で検査官に止められる辺りはサスペンスチックでハラハラさせられる。

しかし途中で売人の部屋から逃れる辺りがいまひとつつくりすぎかなという気もしないで無い。特に知人の姉のもとに逃げるという設定は作為めいたものを感じさせる。説得力が感じられないのだ。
大体、売人の元からあんな風に逃げたりしたら、普通は消される可能性だってあるでしょう。そこら辺がフィクションだな、と感じてしまった。

しかしラストはいい感じだ。赤ん坊のため、そして自分自身のため、自ら選択してアメリカという国にとどまった彼女の思いがなかなか印象に残る。特に前半のコロンビアのシーンが、明確な未来が見えてこない、もやもやした不安のようなもので包まれていたので、よりラストが際立っていたように思う。
そしてそんな主人公を演じきった主演のカタリナ・S・モレノの演技を賞賛すべきだろう。一個一個の表情に表れる心情の機微が強く印象に残った。

決して明るい題材ではないが、すばらしい映画だと強く主張したい。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「スタンドアップ」

2006-01-25 20:44:30 | 映画(さ行)
男社会という差別の中で逆境に立ち向かう女性の姿を描く。アカデミー賞女優となったシャーリーズ・セロンが主演。監督は「クジラの島の少女」のニキ・カーロ。


前半はわかりやすいくらいのセクハラが繰り広げられる。
この鉱山にはまともな労働者はいないのか、っていうくらいにそれは露骨に誇張されていて、あまりに構図的にすぎる。確かにこういう環境では平気でセクハラをする奴らはいるだろう。特に昔はセクハラという感覚すら発達していなかったからなおのことだ。
しかしさすがにここまで公然と嫌がらせが続けられていたら、まともな人間が一人くらい出てきてもおかしくないのではないか?
そんな風に思いながら僕は映画を観ていた。それが男である僕の限界かもしれない。

しかし後半からはさすがに面白くなってくる。特に労働者を前にしてのシーンは感動的ですらある。
この手のプロットの持っていき方はハリウッドらしいなと思わなくないけど、それが臭くなりすぎず、適度に感動を呼び起こしているのがいい。

そしてラスト近くの裁判所のシーン。
やはり人と人が連帯する映画は美しいと思う。誰かを思い、共に立ち上がって戦おう、そんな人間への信頼ってやつについてを考えさせられた。

ともかくもお勧めの一品である。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「THE 有頂天ホテル」

2006-01-16 21:25:11 | 映画(さ行)


人気脚本家、三谷幸喜の監督第三作目。役所広司、松たか子、佐藤浩市、香取慎吾ら豪華な出演陣が登場。一つのホテルを舞台にしたノンストップ・エンターテイメント。


この作品には多くの登場人物が出てくる。そのどれもが名の知れた俳優たちで極めて豪華な顔ぶれだ。
普通、ここまで登場人物が多いと、視点が分散してしまい、散漫な印象を与えかねない。だが、そこはさすがに手練れの脚本家だけあり、うまく物語を整理している。少なくとも観ていて、まったくストーリーが追えなくなり、こんがらがることはなかった。
しかもこれだけ登場人物が多いのに、どれもそれなりに個性的でキャラが濃いため、いちいち印象に残る。さすがの仕事だ。

コメディ映画ということもあって、結構笑えるシーンが多い。それこそがこの映画の真骨頂だろう。見ている間中、僕自身何度も笑ったし、館内も笑いで湧いていた。これこそ三谷幸喜らしい映画と言えるかもしれない。

はっきり言って、この作品には余韻というものはない。あれだけ見ている最中は笑い、楽しんだのに、これを書いているいまはその印象も強くは残っていない。
だが、ある意味、これこそわかりやすいくらいのエンターテイメントと言えるのかもしれない。これもまた、一つの映画の姿だろう。

この作品は三谷作品が好きなら、間違いなく楽しめる。少なくとも映画を見ている最中は笑いのため、幸福な気分に浸ることができる。お勧めの一品だ。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)

「SAYURI」

2005-12-11 22:36:27 | 映画(さ行)


「シカゴ」のロブ・マーシャル最新作。ハリウッドの手により日本人芸者の世界を描く。日本人芸者役にチャン・ツィイー、日本からは渡辺謙、役所広司、桃井かおり、工藤夕貴らが出演。他ミシェル・ヨー、コン・リーといった豪華な出演陣が脇を固める。


この映画に関して、言いたいことは大量にある。

たとえば、その中途半端な英語と日本語の混在した言葉遣い。見ている間、どっちかに統一してくれと何度もどかしくなったことかしれない。

ほかにも、中途半端な理解に基づいた過剰なまでの日本文化の描写が気になってくる。
「いや、それ違うから」と心の中で突っ込むこと多数。中盤のさゆりの踊りは芸者の踊りというより、歌舞伎にしか見えないのは、見ているこっちの方が恥ずかしくなってくるくらいだった。

おまけにストーリーも説明不足で、腑に落ちない面が多い。単純に僕がちゃんと観ていなかっただけかもしれないけれど。
例えば会長さんのさゆりを思う心情は描き込み不足で、ラストの方がいまいち説得力に欠ける。豆葉もその登場に関しては最後の方で説明がされるけれど、どういう心情でさゆりをけしかけたりしていたかが何かわかりにくい。
ともかくも引っかかる面が多い作品だ。

でもこんな感じのメロドラマを僕は嫌いではなかったりする。というかむしろ好きだ。
さゆりが健気すぎるのが気にはなるけれど、女の戦いを始めとする、うねりに富んだ物語は観ていて退屈することはない。

誉めるべき点としてはほかに、俳優陣の演技もあげられるだろう。
個人的にはコン・リーが良かった。その感情の激しさは観ていても恐ろしいものがあった。僕個人としては、存在感ではチャン・ツィイーを食っていたように思う。もちろん、ツィイーも健気さが少し鼻に突くものの、存在感はあるし、桃井かおりの癖のある女将も印象に残る。渡辺謙も微妙な表情の乗せ方が実にうまい。
さすがにトップクラスを揃えただけはある。これらの演技を観るだけでも、この映画には価値があると僕は思った。

評価:★★★★★(満点は★★★★★)