ただ生きるのではなく、よく生きる

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「知りません」と「知ったかぶり」──サマセット・モーム

2016-07-12 18:26:21 | 知恵の情報
若いとき、私は、何でも知ったかぶりをしたかったものだ。おかげでよく面倒を引き
起こしては醜態をさらした。だが、その後悟ったことでももっとも有益だった一つは、
「知りません」ということのいかにやさしいかということである。事実そのために悪く
思われたことは一度もない。ただ一つ困るのは、そう答えると、その知らないといった
ことについて、実に滔々と教えてくれるのを最大の義務とでも心得ているらしい人間
のいることである。事実は、むしろぼくとして知りたくないことだっていくらでもあるの
だが。(『作家の手帳』サマセット・モーム 中野好夫訳 世界教養全集別巻4)

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知りません、と言うことのいかにやさしいかについて、モームのような人間通でも、
かなりの経験を積んでようやく悟ったのであるらしい。

一般に、人はなかなか、知りません、と言いにくいものである。殊に相手がこちらに
対して、すでにご承知でしょうが、というような態度ではなしかけているとき、それを
途中でさえぎるように、いや私は知らないんですよ、とはどうにも言い辛い。
そして、知ったかぶりを続けているうち、思わぬところで恥をかく結果となりやすい。
誰にも多少は身に覚えがあるだろう。その事については知りません、と最初に
断固と言いきるにはかなり勇気が要るようだ。

しかし、いったんその習慣をつけてしまえば、態度が率直である限り、決して侮られ
はしないこと請合いである。むしろ相手は勢い込んで詳しく説いてくれる。それは
結構、いい気分なのだ。人に好かれる最も簡単な方法は、誰にでも謹んで教えを
乞う姿勢なのである。

─『古典の知恵 生き方の知恵』古今東西の珠玉のことば2 
  谷沢永一著 PHP研究所より

今日の鳥越氏の知事出馬発表の会見でこのものを知らないということを素直に
表現しているのを見た。何十年もジャーナリストをやってきて、いろいろ知って
要るだろうがそれを鼻にかけることはなかった。石田氏もそうだったが、都民と
して、現在の政治に本当に心配をしているということがわかる会見だった。
都知事として、できるかどうか、実務をこなせるかどうか、はわからなかったが
彼の姿勢は伝わった。ここのところ、石田氏、鳥越氏の発言で力がなくとも
何とかしなくてはという想いが行動へつながっているのを知るたびにその
勇気を感じた。また、鳥越氏は、何にも知らなくてもやっていくうちにできてくる
というようなことを、自分のジャーナリストになり始めの頃の話や、キャスター
も四十代になってから、はじめて右も左もわからずだったができたことをあげ、
都知事も人間のやることは、なんでもだんだんやると慣れてきてできるという
ことを言っていた。それには、彼の人生経験からの教えがあった。
ここのところ、石田氏、鳥越氏、小池氏など、飾らない本音の話が聞けて
勉強になっている。