タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

正しい食生活とは。食の乱れとは。

2016年06月19日 | Weblog
「最近の食は乱れている。」という言葉をよく耳にします。でも、乱れているというからには当然、模範となる「正しい食」があるはずです。そこで、いろいろな人に会い、尋ね、本や論文などを調べ上げて、一つの回答がでました。
「正しい食」なんて、ない!

栄養学的に適切な食、というものがあります。でもそれは動物性食品を含むことがほとんどですので、ベジタリアンやビーガン(食はもちろんファッションでも羊毛や皮革を使用しないなど、徹底して動物由来の物を避ける人。)にとって受け入れがたいものだったりします。

一方、ベジタリアンやビーガン向けの食事は、トマトやジャガイモやミカンなどを含むのでマクロビオティックの人には受け入れがたいものです(マクロビには様々なパターンがありますが、基本的には、トマトやジャガイモやミカンは身土不二に反するので身体に悪い、とされています)。

ではマクロビは正しい食なのかというと、「古来からの日本の伝統食こそが正しいのだ」という人からの目線では、間違っている食と目されています。日本の伝統食では鰹だしや魚や鳥肉(江戸時代には野鳥などを食べていました)、鯨肉などを食べているからです。

そこで、「日本の伝統食が正しい」という人に 「伝統食ってどういうものですか?」と尋ねると、人や時代や地域によって千差万別であり、また、本膳料理だの精進料理だの会席料理だの懐石料理だのの中でも更にそれぞれ派閥があり、それぞれ違うことを言っているのだからたまりません。ちなみに、私のご先祖の伝統食は、麦飯に漬け物、たまに魚、というものでしたが、先祖が特別に貧しかったわけではなく、その地域は皆そういう食生活でした。ご先祖に「一汁三菜が和食の基本ですか?」とインタビューできたら、きっと「そんな馬鹿な。」と笑われることでしょう。

最近「昭和50年代の食生活が正しい」と唱える人が散見されますが、当時の食事はカレーライスやラーメンや餃子が頻繁に食卓に並んだので、江戸時代の人が見たら「なんだこりゃ!?これが日本の食べものか?」ですね。

「現代の食は乱れているので子ども達に正しい食育を!」と唱える方にインタビューしたり、「正しい食」を薦める本をいろいろと読みましたが、結局、多くの場合、自分の好きな食を「正しい食」と呼び、何となく嫌いな食を「乱れている」と呼ぶ傾向があるとわかりました。

10数年前に、「日本人の食生活が過去よりも乱れつつあることを証明した」と主張する社会学の本が大評判になりましたが、そこではパン食が悪い食とされていました。そもそも論として本当に「パン=食の乱れ」なのか、きちんとした議論のないまま、大勢の学者さんがこの本を受け入れてしまい、「現代の食が過去より乱れつつあることが証明された。」という話が定着してしまいましたので、群集心理というのは恐ろしいものです。その本についてある有名評論家が、"調査手法に重大な誤りがあるので学術的に信頼できる内容ではない"と書評で指摘したにもかかわらず!
なにしろその本で採用した調査法とは、毎日3食の写真を撮影して、頻繁に研究者と面談するという方法なので、そのような調査に協力したいと思う回答者には、メンタリティや職業など様々な面で偏りが生じるのです。だから、この本に登場した被験者の食事が、本当に日本人の平均的な食事サンプルだとは思われません。ましてや、同じ手法で昭和や平成初期にも調査して比較した訳ではないのですから、これではこのような主張を鵜呑みにする訳にはいきませんよね。

食育の本や講演会で、「栄養学的見地から」とか「〇〇県の伝統食を保存したい立場からは」等、著者(講演者)のスタンドポイントを明確にして「現代の食はこれこれの面で問題がある」と唱えるならば、伺う価値があると思います。しかし多くの食育の本や講演会では、自分のスタンドポイントを言わずに、ひたすら「現代の食は乱れている。本当に正しい食はコレコレです。」と消費者の不安を煽動して、「何か」を売り込もうとするケースが多く、しかもそういう話に限って一部の方々が熱狂的に支持するので、なんともやりきれません。煽られて「何か」を買わされているということにも気がつかず。

栄養学的に適切な食もあれば、ビーガンにとって正しい食もある、〇〇県の郷土料理として正しい料理もあるし、縄文時代の日本食というのもある、でも、ありとあらゆる面で万人にとって正しい食、というものは、現実には存在しないのです。それは、ファンタジーの世界の中にだけ存在するものなのです。
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