タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

ビーガン(ヴィーガン)について詳しく知りたい!

2019年11月10日 | Weblog
最近、「オリンピック・パラリンピックに向けてビーガン(ヴィーガン)向けの飲食店を増やそう」という新聞・雑誌・ネットの記事が増えていますが、ビーガンについて詳しく解説している記事はあまり多くありません。今回は、日本のおもてなし精神をよりよく発揮するヒントとして、詳しい情報を紹介します。

□ビーガンはウールの服も着ません。

ベジタリアンと混同して「完全菜食主義」と説明するのは、ビーガンの方々のセルフイメージとは違います。ベジタリアンは、所属している宗教・団体が菜食を勧めたからか、健康に良さそうなイメージで始めた方々です。動物を食べるのはかわいそうな気「も」する、と言う人が多いです。そのため、ベジタリアンであれば、牛乳や卵や魚を食べ、絹やウール(羊毛)の服を着ても特に怒られません。たとえばインドでは法律で、牛乳や乳製品は植物性食品とされているため、インドのベジタリアンは牛乳やヨーグルトなどを食べます。この情報は農文協「世界の食文化・インド」に基づき、詳しくはこのブログの2016年9月22日記事を読んでください。

ビーガンは、宗教や健康よりもまず、動物愛護精神が根っこにある運動です。ビーガンは「ビジネスマナーだと上司に叱られても、俺は革靴なんて絶対に履かない!」「金運が上がると言われても、蛇皮の財布はおぞましい!」「毛糸の服なんて絶対いや!かわいいと言われても、羊毛フェルトのアクセサリーなんて羊がかわいそう!」「絹糸って、蚕蛾を殺して作るんだよね。」と、毛皮や革製品・羊毛・絹などを否定することが前提にあります。「寿司は残酷だ。蜂蜜は蜂から蜜を盗んだ物だ。」という気持ちが先にあり、「それに、ビーガンは健康にもいいって噂だから。」という噂もあって植物性食品を食べる運動です。

□ビーガンはサプリメントと科学合成繊維が必須。
ただ、申し訳ありませんが、ビーガンが他の食事より健康によいという証拠は今のところありません。例えばharperbazaarの記事2019年9月14日付けによると、日本ではあまり知られてませんが、海外では人気ブロガーのジョーダン・ヤンガーさんなどの実践者が「体を壊してその怖さを告発する人も後を絶たない。」と記されています。同記事では管理栄養士の三城円先生が、ビーガン食について「全体の栄養バランスでみると、総エネルギー量が圧倒的に不足します。なかでも、タンパク質、脂質、カルシウム、鉄分、亜鉛などは、一般的な食事と比較すると明らかにマイナス。」と、して特にビタミンB12が完全に欠乏するので「要注意です」と指摘しています。

そのため、ビーガンはサプリと化学合成繊維・合成皮革が絶対に必要です。有機農業推進派は「工場で作られたサプリに頼るビーガンは不自然だ。」と言うのですが、ビーガンは「合成繊維や合成皮革などの工業品を使えば動物を搾取しないですむ。」と科学技術の恩恵を強調します。このように、ビーガン運動と有機農業運動は対立しやすいということも、よく覚えておいてください。

□ビーガン運動はどのように誕生したの。
 マナーや縁起や伝統上の理由で動物の皮、骨、毛皮、真珠、羽などを身につける文化が全世界にありますが、ビーガン運動は、そういう今までの文化に「いやだ!!」を突きつける運動です。だから「ヴィーガンって、菜食主義の厳格なものですよね。」と説明したとたんに、彼らが渇望するユートピア観からはずれてしまうのです。

 宮沢賢治先生(1896~1933)は短編小説「ビジテリアン大祭」の中でベジタリアンと肉食派の討論会を執筆しています。その当時はベジタリアンとビーガンには区別がないので、動物愛護でベジタリアンを勧める人も描かれています。この小説中に興味深いシーンがあります。ベジタリアンにすっかり論破された肉食派の1人が悔しさのあまり、君たちは羊の毛の帽子をかぶってるじゃないかと叫ぶと、会場は「割けるばかりの笑い声」に包まれて参加者全員がベジタリアンになるのです(ちなみにこのシーンはまだオチでもネタバレでもなくて、最後にとんでもないオチがあります)。つまり、約1世紀前のベジタリアン運動では、ウール(羊の毛)を使用するのは当たり前のことで、それを批判する人の方が嘲笑される時代だったのです。時が経つと人々の思考回路も変わるという実例ですね。

じゃあ、ウールなどを使用しない現在のビーガン運動はどうやって生まれたのでしょうか。だいたい1970~80年代ごろに、ベジタリアンとはまた別の運動として動物愛護運動が欧米で盛んになりますが、外国のさる有名女優さんが毛皮を着ながら動物愛護を訴えるので、大勢の一般の人々があきれてしまい、動物愛護運動を否定したのです。そうした反省から、動物愛護運動では1990年代に毛皮などを否定するようになり、やがて、化粧品も動物実験をしていないものを買おうという運動がイギリスで盛んになり、だんだんと対象品目が広がって、現在のように、ウールや革靴も身につけない運動になったのです。
 

□代替肉のお得意様はビーガンではない。
 さて、ここで代替肉についても詳しくご説明しますね。
 日本では、代替肉はビーガン向け商品と誤解されてるんです。でも、本場、欧米のメディアでは、代替肉を購入する人の大多数はむしろ普段肉を好んで食べる人だ、と報道されています。例えば、Forbes Japanの今年8月8日のビジネス記事(Andria Cheng氏の「需要が伸びる代替肉、それでも肉に「取って代わる」日は遠い」)にはこう書いてあります。

「代替肉を購入する人の多くは、習慣的に主に肉を食べている人たちだ。(中略)代替肉を購入した人の約98%は、実際には平均的な消費者以上に食肉を買っている人たちであることも分かっている。平均的な購入者(年間購入額は478ドル)よりも多く(同486ドル)を費やしている。」

ようするに、こういうことです。肉好きの人が時々ふっと「おれ、中性脂肪の取り過ぎかなあ。昨日もついつい肉をたくさん食べ過ぎてしまったよ。健康に悪い生活だなあ。でも肉を食いたいしなあ~。」とつぶやいて、免罪符気分で代替肉を買うの。

ビーガンは人数が少ないので、代替肉の主要な消費者になり得てないのです。例えば米国ではベジタリアンとビーガンを合計しても、国民全体のたった5%しかいません(先ほど紹介したForbe Japan8月8日記事より)。

 ちなみに、現在主流の代替肉は、大豆などの加工品で出来ていますが、1970年前後の日本でも同じような商品が流行しかけた時期があるんですよ。ところが、食品添加物反対運動の代表者の郡司さんという方が、「油を絞った残りかすに薬品と石油由来の香料を加えた食べ物が体によいとは私は思いません」と講演して一石を投じたのです。ただ、代替肉が定着しなかったのは、郡司さんの話ばかりが原因ではないと思います。当時の日本人の感覚では、お肉はハレの日の料理でしたので、子どもの頑張りのご褒美にハンバーグを買ったり、お祝いの時にステーキを食べるという家庭が沢山ありました。そのようなわくわくしている場面で「本物ではない肉」がでたら、気分盛り下がり度マックス。子どもの誕生日だったら泣いちゃう場面ですよね。だから当時は代替肉が定着しなかった、と考えたほうが当時の世の中の雰囲気をより正確に反映していると思います。

 現在、代替肉開発に積極的な企業は、ビーガン対応ではなく、むしろ、さっき書いたような「肉好きだけど脂肪のとりすぎが心配な人」への対応や、「CSF・ASFで豚が大量に死亡した中国大陸の方々への販売。」といわれています。特に中国料理は大量の豚肉を食べるので、昨今の豚大量死は国民にとって大問題なのです。すでに中国では大量の大豆買い付けを決めました(シカゴ 11月1日 ロイター「中国、米国産大豆13.2万トン買付 年度で632万トン=米農務省」)が、中国ではたくさんの豚が病気で死亡したため、この大豆を豚の餌として使用する量は少なく、大部分は代替肉などに加工して食べると見られます。その裏付けとして、日経の9月20日記事にこういうタイトルの記事も載っています。「中国、「人口肉」企業が台頭。豚肉、疫病や消費増で需要逼迫。数十社競合、株価急騰も」

 
□現在、なぜ欧米でビーガンに注目が集まってるの?
さっきも書いた通り、米国でビーガンとベジタリアンを会わせても全国民の5%しかいません。そんな極めて少数派の方々の活動に、ここ2年くらいで急に注目が集まっています。なぜでしょうか。このことについては「SNSなどで、うんこまみれの牛などの映像が拡散したためだ」と複数のメディアが報道していましたが、確かCNNだったかなあと思うのですが、記者が酪農家さんに取材したら「あの写真のような不潔な飼い方なんてありえませんよ。なぜなら、不衛生な環境で育てたら不経済で農業を続けられません。」というもっともな回答があったそうです。

そうですよね。農家さんが家畜を大事に衛生的に育てるからこそ、良質なミルクやお肉をありがたくいただけるのです。農家さんが牛をうんこまみれ環境においたら、その牛がお肉になるより前に病気で弱って死んでしまうでしょう?体が弱ったところで慌てて強力な薬を使って回復させようとしても、薬は値段が高いんですよ。だから、ほとんどの農家さんは動物を衛生的に大事に育てています。動物を虐待する農家は経営が出来なくなるからすぐに廃業します。

もしも皆さんが、不衛生な飼い方をされている家畜の写真・動画を見たら、「合成写真かもね。もしも本当の写真なら、希な農家を撮影したのかもね。」と考えてみることをおすすめします。

□牛のゲップが地球温暖化に与える影響は意外に小さい。
ビーガン運動が活発化したもう一つの理由としては、「牛のゲップにはメタンガスが入っていて、地球温暖化の原因になるから、肉を食べないようにしよう」というやや大げさな話が広まったことが挙げられます。メタンガスが混じってることは事実ですが、それを言うと、エコロジー運動で飼育が盛んなヤギや、お米を作る水田からも大量のメタンガスがでているのです。ゲップを批判すれば、ヤギによる草刈りや、お米も食べられないことになります。

2008年に発表された「日本国温室効果ガスイベントリ報告書」によると、日本の農業分野でのメタンガス排出量は、消化管内発酵(つまり、牛・羊・ヤギのゲップとおなら)が46%、稲作が37%、家畜排泄物管理(つまり、豚の糞などから出るガス)が16%でした。この事実を前に、稲作農家さんも畜産農家さんも、心ある方々はメタンガス排出を減らすように苦心していますし、科学者たちも、子どもたちの将来のためにメタンガスが稲作や畜産から排出される量を減らす栽培法・飼育法を真剣に研究しています。

先の報告書によると、日本国内での消化管内発酵ガスは二酸化炭素換算で704万トンです(異なるガス同士で温暖化に与える影響を比較するために、二酸化炭素で換算して比較するきまりです)。704万トンを日本の人口1億2600万人で割ると56キログラムです。一方、お風呂の追い炊きをやめれば二酸化炭素を87キログラム減らせます。エコドライブ(急発進や加減速の少ない運転を心がけること)をすれば、二酸化炭素を262キログラムも減らせます。燃費のよい車を買うことや、バス・鉄道など公共交通を使用するのも二酸化炭素削減に役立ちます。シャワーの無駄遣いやお風呂の追い炊きを止めるなどの日常生活で、家計も助かるのはうれしいことです。まずは、普段の暮らしで見直せる部分が大きそうですね。

□牛のゲップを気にするよりも、もっと私たちにできること。
環境問題の視点から牛肉の問題を挙げるならば、ゲップの話ではなく、餌となる草や穀類を栽培するために沢山の農地が必要なことです。アマゾンを焼いて作った農場の餌で育った牛は環境によくないのですが、大昔から草地だった土地で草を主体に食べて育った牛は、カーボンニュートラルに近くなります。牛肉を全部否定することは、今いる牛の遺伝子が途絶えることになるので、避けるべきでしょう。メタンガス排出を減らす活動をしている畜産農家や環境負荷の少ない餌を与えている畜産農家さんを応援することが、未来の子どもたちのためによい贈り物ができそうですね。日本人が食べる牛肉の量は欧米人よりもぐっと少ないから、牛肉の消費をやめても、温暖化ガス削減への効果は小さいのです。それでも牛のゲップが気になってしょうが無いというなら、なにもビーガンにならなくても、ジビエや豚肉や鳥肉を食べませんか?農家さんが丹精込めて作った農作物を荒らすイノシシなどのジビエを食べることは農家さんを元気づけるのに役立ちます。また、同じ量の肉になるには、牛より豚や鶏の方が餌の量が少なくて済むので、飼料を育てる土地の面積が小さいのです。しかも、コンビニなどで廃棄されたお弁当は豚の餌になるので、お弁当を燃やして灰にするよりもエシカルですよね。その上カーボンニュートラルに近づくので、豚肉を食べることでできる社会貢献もあるのです。以上のように、牛のゲップを理由に「ビーガンになろう」と言うのは論点がずれています。
 温暖化防止のために私たち日本人にできることは、エコな車の開発・販売や、自然エネルギー発電とこの間ノーベル賞をとったリチウム電池など。それから、家庭の節電、ゴミや食品ロスを減らすのも大切ですよね。

□オリンピック・パラリンピックでビーガン対応の食品を出すことについては、オリパラ終了後の着地点をぜひ美しく決めて欲しいと期待しています。海外では、先鋭的なビーガン運動家が肉屋や寿司屋に来て「そんなものを食べないでください」と営業妨害し、報道も過熱化して賛否両論が沸き起こっています。もちろん、穏やかな性格で自分の考えを人に押しつけないビーガン運動家もたくさんいますので、偏見を持ってはいけません。ただし、過激なタイプのビーガン活動家が来日して日本の文化を批判した時、どう対応するべきか、私たちは前もってよく考えておきたいものです。たとえば和歌山や千葉にきて「鯨をとるな!」、群馬や京都にきて「絹は蚕からの略奪物だ!」、長野にきて「昆虫を食べるとは何事だ!」、山口で「ふぐを食べるな!」という場面が想像されます。多くのビーガンさんはおだやかでも、一部の過激な方々が日本の素晴らしい伝統を否定することがないように、日本に育つ子どもたちの誇りや夢が傷つかないように、見事なフィニッシュと、あとあとの時代の人に「ああ、あのオリパラは素晴らしかった」と言える美しいレガシーを遺したいものだと思います。

2019年11月18日の追記:10日に投稿した際には、従来からの用語の「豚コレラ」「アフリカ豚コレラ」を使いましたが、コレラとは全く異なる病気で人間にはうつらない病気ですので、国際標準名の「CSF」「ASF」に改めることになるそうです。そのためこの部分を訂正しました。また、ジビエを食べて日本の農家さんを応援できることを追記しました。

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