PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

後期改革ビジョンの行方

2009年11月26日 13時12分02秒 | 精神保健福祉情報

昨年から24回にわたって開催されてきた「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」。
この前、9月24日に、その最終報告書が出て、厚労省から公表されました。
タイトルも勇ましく「精神保健医療福祉の更なる改革に向けて」!
ここで掲げられていることが、本当に実現していけば良いのですが…。

冒頭に「今後の精神保健医療福祉改革に関する基本的考え方」が掲げられています。
基本理念として、「地域を拠点とする共生社会の実現」を掲げています。

ようやく、ここへ来て、精神障害領域でもノーマライゼーションの具現化を図る方向が打ち出されたということでしょうか。
でも、そのための具体的な手立てには乏しく、このままでは空文化しそうです。



★基本的考え方の第1点目。
「現在の長期入院患者の問題は、入院医療中心であった我が国の精神障害者施策の結果であり、行政、精神保健医療福祉の専門職等の関係者は、その反省に立つべき」。

決して自らの過ちを認めようとしない、この国の官僚組織の中で「反省」という言葉が盛り込まれたのは、とても意義深いと思います。
でも、「反省」だけなら、猿でもできる(笑)。
いや、笑い事じゃない…(-_-;)。

1950年の精神衛生法以来、この国は国策として「入院促進」を図ってきたのは、周知の事実です。
必要なのは「反省」に基づいた、国の「謝罪」じゃないでしょうか?
かつて悪いことを他者にしてしまった時、ふつうは相手に謝罪しますよね。
ハンセン病の強制隔離収容政策を、国が謝罪し、大きく事態が変わったように。
諸外国の「脱施設化」のような抜本的な政策転換を図るには、「反省」では余りにも弱々しい。

専門職等の関係者の努力が足りなかった、という反省も必要でしょう。
でも、多くの専門職団体が隔離収容政策の転換をずっと求めてきたのに、国は動きませんでした。
この間の政治や行政の不作為の罪は、やはり大きいと思います。
10年、20年、30年、40年と、精神科病院での生活を強いられてきた社会的入院患者さんたち。
重すぎる負の遺産を返済して行くには、相当な改革が必要です。
残念ながら、それだけの意気込みは、この報告書からは伝わってきません。
(T_T)


★基本的考え方の2点目。
「精神保健医療福祉に関しては、今後、障害者権利条約等の国際的な動向も踏まえつつ、「地域を拠点とする共生社会の実現」に向けて、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念に基づく施策の立案・実施を更に加速すべき」。

これに対応するのが、「地域生活支援体制の強化」で掲げられた各事項でしょう。
障害福祉サービス等の拡充を示しています。
総合的相談を行う拠点機関の設置、24時間支援・ケアマネジメント機能の充実等です。
また、グループホーム・ケアホームの整備促進を図るとしています。
ピアサポートの普及や、当事者の行政プロセスへの参加を促進する、等も謳っています。

街中に小さなステーションを設けて、担当エリア内の支援を展開する。
各地で取り組まれているACT等を、全国展開する。
絵に描いた餅になっている、精神障害者のケアマネジメントを実効あるものにする。
海外で先行している「Housing First !」という脱施設化施策に基づいて、居住福祉資源をまず拡充する。
退院・地域移行だけでなく、ピアサポートを積極的に展開する。
国・地方行政の施策決定に関わる審議会・協議会に、必ず当事者に参加してもらう。

「Nothing about us without us !」(私たち抜きに私たちのことを決めるな)という言葉は、やはり重いと思います。
上記の項目も、どれも、PSWをはじめ関係者が前々から主張してきたことです。

なぜ、この国では当たり前の施策が具体化しないのでしょう?
やるべきこと、やらねばいけないことは、誰の目にもハッキリしているのに…。
「入院医療中心から地域生活中心へ」に向けて「施策の立案・実施を更に加速させる」とありますが、失速しないことを望みます。
(-_-)


★基本的考え方の3点目。
「長期入院患者等の地域移行の取組を更に強力に推し進めるとともに、今後新たな長期入院を生み出さないという基本的な姿勢に立って、施策を推進すべき」。

「精神保健医療体系の再構築」として、いくつもの項目が列記されています。

統合失調症の入院患者の減少を一層加速させる。
高齢精神障害者の適切な生活の場を確保するため、介護保険サービスの活用等を検討する。
認知症患者のBPSD(行動・心理面の周辺症状)等に対応する専門医療機関の確保する。
気分障害、依存症、児童・思春期精神医療の機能強化と医療提供体制の拡充する。
早期支援体制の整備を図る。
地域精神保健医療提供体制の再編と、精神科医療機関の機能の強化を図る。
精神科医療機関における従事者の確保、資質の向上を図る。
精神科救急医療体制を確保し、制度的位置づけを整理する。
未受診者・治療中断者への、訪問診療・危機介入等の支援の強化を図る。

いずれも検討はして欲しいし、整備も、拡充も、強化も、向上もして欲しいです。
貧しく劣悪な精神科医療の状況が変わるのであれば、何から手をつけても前進にはなると思います。
ただ、ここで触れられている事柄は、相応の予算がないと実現が難しいものばかりです。
かの事業仕分けでも、厚労省の予算はばっさばっさと切られているご時世に、どうでしょう?
新政権は、福祉等の社会保障分野については、むしろ拡充推進を打ち出してはいますが…。
検討会で為された丁々発止の議論が、無に帰すことなく、本当に具体化されていくのか…。
今後の推移を見守りたいと思います。
(@_@)



この検討会最終報告書は、後期「改革ビジョン」の基本方針になるものです。
今後の5年間(2009年10月~2014年9月)、どのように日本の精神保健医療福祉が変わるのか…。
楽しみでもあり、不安でもあります。
(-_-;)




※画像は、一橋大学の兼松講堂。
 去年、精神障害者リハビリテーション学会に参加した時のもの。
 今年の福島大会は、残念ながら行けませんでした。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿