PSW研究室

専門職大学院の教員をしてる精神保健福祉士のブログ

居心地の良い場所

2012年05月02日 10時29分27秒 | PSWのお仕事

学生たちのレポートを読んでいると、時々ハッと気づかされることがあります。
ひとつの言葉について、とても明確なオリジナルな定義が描かれていたりします。
それは、年齢を加えるほどに忘れかけていた、大事な言葉との出会いでもあります。

昨日の演習授業では「居場所」という言葉と出会いました。
「居場所」という言葉は、精神保健福祉領域でよく使われる言葉です。
ありきたりなこの言葉を、様々な実践家が想いをこめて、今までも使っています。

この学生は、「居心地の良い場所」という何気ない説明を記していました。
この春に行った実習先である作業所の、当事者にとっての意味を考察していました。
地域で孤立しがちな人々の、ホッとできる、心癒される、元気をもらえる場所…。

そういえば、想田和弘監督の映画『精神』の中で「居場所」をめぐる会話がありましたね。
「自分の居場所がない」と語る患者さんに、精神科医の山本昌知さんが診察室で語る言葉。
メモに書いて患者さんに渡された言葉…「居りがい(甲斐)」。

「居りがいのある場所。行きがいのある場所があれば、生きがいになるな~」
人はみんな、世界に自分の居場所を見つけたいと願わざるを得ないのでしょう。
それは仲間と語る場であったり、ひとりになれる場であったり、愛する人の隣であったり。

この世界に、自分の居場所がないというのは、辛いものです。
言葉を交わす相手もなく、親しい感情を通わせ合うひともなく、何もすることがない。
人は否応なく意味を求める存在ですから、自分の生きている意味が実感できないと苦しい。

多くの地域の事業所が、精神障害を有する方々にとって居場所になっていたのは事実です。
病を抱えながらも仲間と憩い、語らい、笑顔が戻り、生きる力を取戻す場所。
そして、多くの人たちが、そこから新たな世界にチャレンジをしていきました。

ただ、障害者自立支援法以降、そうした単なる「居場所」は認められなくなりました。
就労自立を目指す社会参加の場と位置付けられ、合目的的な活動展開が求められました。
「居場所」の事業所は、低廉な裁量的経費の地域活動支援センターに位置付けられました。

かつては、精神科デイケアでも「居場所」機能の重要性が強調されていました。
しかし、地域の機関に繋げることもなく、病院で抱え込む長期化が問題となりました。
やはり診療報酬対象の「治療」の場ですから、漫然とした「居場所」では困ります。

同じように、地域の事業所も自立支援の報酬に見合った活動成果が求められた訳です。
結果として、目標が明確な新しい就労支援が展開され、成果を上げた事業所もあります。
一方で、事業の趣旨には合わず、居場所を失った、主に高齢化した精神障害の方もいます。

それでも、先の学生が実習先で強く感じた「居場所」は、実はたくさんあります。
たとえ、シビアな制度下の事業所であっても、利用者が自分の居場所と感じられる場。
それは、利用者相互の力と、それを引き出す職員のかかわりがあってこそでしょう。

居心地の良い、ポジティブな支え合いの雰囲気のある場所。
三つの間(時間・空間・仲間)が共有され、自然と笑顔が生まれる場所。
世界の中で生きている実感を感じられる、意味のある場所。

自分にとって「居場所」と言える場は、どこだろう?
自分は、自分の居場所を大切にしているだろうか?
そんなことを考えさせてくれた、素敵な学生の実習レポートでした。

ちなみに、彼女のレポートの一番のキーワードは「希望」でした。
「希望」を生む「居心地の良い場所」と記されたのは、東京の社会福祉法人巣立ち会です。
巣立ち会の利用者・職員のみなさん、学生へのご指導、ありがとうございました。



※画像は、京都の実家の庭に咲いていたムスカリ。