バタバタと羽根をうごめかせたそれは、抵抗する術もなく彼の手に堕ちるのです。明らかに残酷な行為であっても、その先には誰からも理解されない、彼特有の寂しさがあるのだと気付いてしまったのです。
ああ、僕がいてあげなければ。
普通の人間から見れば、それは酷い行為以外の何ものでもありません。しかし僕にとってそれは秀逸な芸術であるのです。なぜならばそういったことをするというのはつまり、彼が感情を静かに露わにしている証拠なのですから。感情を剥き出しにした彼の表情といったら、それはもう、美という一文字でしか表せない程に人間臭く、凄艶な容貌をしています。そしてそれに見とれているうちに彼の手がこちらへ伸びてきて、僕の髪に触れてみたりします。
何がたまらないかというと、そういうことなのです。あの細い指が伸びてくる瞬間、一種の世界の終わりのようなものを垣間見ることもあります。しかしそれは、僕にしか見えません。例えそれが世界の終幕の瞬間であったとしても、僕にしか見えないという事実を嬉しく思ってしまうのです。あの方が、それを見せて下さっているような気がするのです。
同時に何か悲愴感のようなものを感じるのは、おそらく錯覚なのでしょう。虚言だと笑って下さって構いません。しかし今でも、僕はあの方を信じているのです。貴方とてあの方に騙されたではありませんか。…そして、そう思いたくはないのでしょう?ならば僕のことも理解して下さるべきなのではないでしょうか。いえ、分かっています。存じておりますとも。貴方と僕は違うということくらい。
それでも待つことくらいは許されるのではないでしょうか。ええ、それでも、ですよ。あの方がふいに蜻蛉の虚弱な羽根をいとも簡単に手折ってしまうような方でも。あの方はお寂しいだけだったのです。そして僕だけが、その部分だけは最もよく理解して差し上げられた。
僕を抱く腕も、僕の髪を撫でる指も、僕を見つめる瞳も、先程まではあの方の手の平の上にあった蜻蛉だけのものだったのに。そう思うと、やりきれぬ同情と、堪えきれぬ恋情とが一斉に込み上げてくるのです。そしてそれを、あの方は笑って見ていました。
僕はあなたのもので、そうしてあなたも僕のものなのです。そう言うと、今までにない表情を見せて、ふっとあの人は消えていった。
「分かりますか…だからこそ、僕は誰かのものになるわけにはいかないのです。」
分かりますか、檜佐木先輩。
「分かるわけねえだろ。いつまでお前があの人に縛られてるかも検討がつかねえ。」
そんなもの、答えは簡単ですよ。そう言って、吉良は浅く温い池に身を投げた。俺はそれを、黙って見ていた。ああ分かった。お前が死ぬまでなんだな。そう言いながら、あの人が昔したように、俺もそれを笑って見ていた。
「この世に危篤じゃない人間なんて誰もいないんですよ。」
分かりますか、檜佐木先輩。吉良は浅い水面から細い腕を差し出しながら言った。水面には、先程まで飛んでいた蜻蛉の脆弱な薄い羽根がふわりと浮かんでいた。吉良の手には、一度は水に沈んだであろう蜻蛉の死骸が握られていた。昔あの人がしたように、慈しむように手の平に乗せて、そっと撫でた。
俺は相変わらず、それを口の端を上げながら見つめている。もう少ししたら引き上げてやろうかと思っていると、吉良も同じような顔をして笑った。この世に何か滑稽なものがあるとするならばそれは一つしかないと、思った。
深夜急に小説が書きたくなり、思うがままに筆を進めるとこんなロクでもないことになりますという例です。(汗)全くもってヒドイ男どもですね!いや三人とも。(笑)
タイトルは「とんぼのはねひとひら」です。常用外の漢字やら見たこともない漢字やら見栄張って使いまくったのも敗因の一つかと。(泣)
ああ、僕がいてあげなければ。
普通の人間から見れば、それは酷い行為以外の何ものでもありません。しかし僕にとってそれは秀逸な芸術であるのです。なぜならばそういったことをするというのはつまり、彼が感情を静かに露わにしている証拠なのですから。感情を剥き出しにした彼の表情といったら、それはもう、美という一文字でしか表せない程に人間臭く、凄艶な容貌をしています。そしてそれに見とれているうちに彼の手がこちらへ伸びてきて、僕の髪に触れてみたりします。
何がたまらないかというと、そういうことなのです。あの細い指が伸びてくる瞬間、一種の世界の終わりのようなものを垣間見ることもあります。しかしそれは、僕にしか見えません。例えそれが世界の終幕の瞬間であったとしても、僕にしか見えないという事実を嬉しく思ってしまうのです。あの方が、それを見せて下さっているような気がするのです。
同時に何か悲愴感のようなものを感じるのは、おそらく錯覚なのでしょう。虚言だと笑って下さって構いません。しかし今でも、僕はあの方を信じているのです。貴方とてあの方に騙されたではありませんか。…そして、そう思いたくはないのでしょう?ならば僕のことも理解して下さるべきなのではないでしょうか。いえ、分かっています。存じておりますとも。貴方と僕は違うということくらい。
それでも待つことくらいは許されるのではないでしょうか。ええ、それでも、ですよ。あの方がふいに蜻蛉の虚弱な羽根をいとも簡単に手折ってしまうような方でも。あの方はお寂しいだけだったのです。そして僕だけが、その部分だけは最もよく理解して差し上げられた。
僕を抱く腕も、僕の髪を撫でる指も、僕を見つめる瞳も、先程まではあの方の手の平の上にあった蜻蛉だけのものだったのに。そう思うと、やりきれぬ同情と、堪えきれぬ恋情とが一斉に込み上げてくるのです。そしてそれを、あの方は笑って見ていました。
僕はあなたのもので、そうしてあなたも僕のものなのです。そう言うと、今までにない表情を見せて、ふっとあの人は消えていった。
「分かりますか…だからこそ、僕は誰かのものになるわけにはいかないのです。」
分かりますか、檜佐木先輩。
「分かるわけねえだろ。いつまでお前があの人に縛られてるかも検討がつかねえ。」
そんなもの、答えは簡単ですよ。そう言って、吉良は浅く温い池に身を投げた。俺はそれを、黙って見ていた。ああ分かった。お前が死ぬまでなんだな。そう言いながら、あの人が昔したように、俺もそれを笑って見ていた。
「この世に危篤じゃない人間なんて誰もいないんですよ。」
分かりますか、檜佐木先輩。吉良は浅い水面から細い腕を差し出しながら言った。水面には、先程まで飛んでいた蜻蛉の脆弱な薄い羽根がふわりと浮かんでいた。吉良の手には、一度は水に沈んだであろう蜻蛉の死骸が握られていた。昔あの人がしたように、慈しむように手の平に乗せて、そっと撫でた。
俺は相変わらず、それを口の端を上げながら見つめている。もう少ししたら引き上げてやろうかと思っていると、吉良も同じような顔をして笑った。この世に何か滑稽なものがあるとするならばそれは一つしかないと、思った。
深夜急に小説が書きたくなり、思うがままに筆を進めるとこんなロクでもないことになりますという例です。(汗)全くもってヒドイ男どもですね!いや三人とも。(笑)
タイトルは「とんぼのはねひとひら」です。常用外の漢字やら見たこともない漢字やら見栄張って使いまくったのも敗因の一つかと。(泣)