Doll of Deserting

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告解、先には夢路ばかり。(乱イヅ)

2006-03-31 21:56:35 | 過去作品(BLEACH)
*姉弟設定ですのでご注意下さい。(汗)







瞼の下で嘲笑うのです
少しの偽善も許されぬと
少しの罪も許されぬと
指の先で押しやるのです
少しの密事もあるまいと
少しの情けもあるまいと





 歳の離れた姉がいるらしい。常に淡い蜜色の髪を揺らしている一族の中でも、際立った濃い色の金糸を持つ姉には珊瑚の飾りがとりわけよく似合った。けれどもその美しさをはがゆく思ったのか、直系であるにも拘らず同じ色彩を持たぬ姉を母方の祖母は罵り、制する母の言い分も聞かずに流魂街へと堕としたそうである。
 両親が死する前に聞かせた姉の話は、たったのそれだけであった。





 春らしいとも思えぬ熱気が袖の奥を突く。手合わせの後はいつもこうである。この頃進級が決定し、胸を撫で下ろしたのも束の間、再び稽古の日々が返ってきた。昨年霊術院へ入学を果たした頃には幼さを隠せずにいた利発そうな顔立ちが、僅かに凛とした艶かしさを帯びている。
 剣を振るい、鬼道を極め、白打を高めて素早い身を持とうとも、二年目ということもあり己の力に満足出来ずにいる。そもそもイヅルはそういう子供であった。どれ程までに身体を酷使し、勉学に励む日々を送ろうとも、いっこうに知識欲、地位欲というものが満たされぬ子供であった。
(まだ甘い。)
 水で清めた汗を拭い、鋭利な視線を上げる。
(まだまだ甘い。)
 幾度心の奥底で呟いたか知れぬ言葉は、誰に聞こえるものでもない。ただ、儚げに佇む己の信念というものを、更に高く押し上げてやりたいだけなのだ。自覚しなければならない。己より高いところにある者の存在を。己の脆弱さを。
―…未だ見ぬ、美しい姉に報いることの出来る強さを。
 姉が流魂街などで今も慎ましい生活をしているのならば、探し出して助けてやりたいと思っていた。けれども、姉を捜索するにも、姉を養うにも、それなりの資格と富が必要である。それだけの地位を、イヅルは一心に欲していた。
 そのようなことを青ざめた木々の中でぼんやり思っていると、目前の窓から垣間見える廊下から、濃い金糸の美しい面影が窺え、ふと目を見張る。まるで話に伝え聞いていた姉のようである。緋色に近しいその色濃い髪は柔和な陽光に映え、波打つ髪からちらりと蒼い双眸が覗いていた。
「姉上…?」
 そのようなことがあるはずはないと知りながらも、ぽつりと呟く。すると窓が浅く開いていたことに気付いておらず、イヅルの言葉が聞こえたらしいその女性から訝しげな視線を向けられた。けれども途端に花の綻んだような笑みを見せ、窓から頭を覗かせてイヅルへ声をかけてくる。
「吉良君でしょう。」
「…僕の名前を、ご存知なんですか?」
「知ってるわ。去年…そうね、去年の今頃から。」
「失礼ですが、どこかでお会い致しましたか?」
「いいえ、でもあなたの見目と名前は知ってるの。とある男が吉良君吉良君ってうるさいから。」
「はあ…。」
 本当はもう随分昔から知っている。そのような言葉は濁して、含んだような笑い顔を見せる。艶やかな人であるとイヅルは思った。肉感的なその美貌は、周囲で姦しく笑い声を上げている同級の女子達にはないものである。
「…ご両親を、亡くされたんですってね?」
「ええ、それもとある方から?」
 イヅルが含んだような笑みを浮かべると、女の方も面白そうな顔をした。だがそれには曖昧に返し、哀れむようにイヅルの頭をひと撫でしてから、ふわりと髪を波打たせた。髪を梳いた跡から、快い花のような芳香が僅かばかり流れる。
「強くなりなさい。そうして、そうしてここまでいらっしゃい。」
 戒めるその声は、まるで母のようであると思った。けれども全てにおいて母のものとは異なる見目に、はっと意識を取り戻す。
「あの、お名前は何と―…。」
 淡い色の髪から先程の感覚が消え失せた頃には、女の姿は塵と去り、舞う花弁のように芳香のみが散乱した。





 潤いを秘めた薄い唇から、浅い溜息が漏れる。それは既に癖のようなものであり、周囲は皆慣れてしまい不快に思う者もない。燦々と照りすさぶ熱風は、まるで若かりし頃の手合いの後のようだ。ふと懐かしく思い、そのまま目を伏せた。
 護廷へと入隊する折、配属されたのは五番隊であった。既に三番隊の隊主として実権を握っていたギンの元へ就くことが出来ぬのは残念ではあったが、同時に少しばかり安著する。未だ不安定で、未熟な自分の姿を見せたくはなかった。
 数十年前、手合いの折に顔を合わせた女性のことを忘れたことはない。そもそも、彼女の名は既に存じ上げていた。護廷へと入隊し、暫くすると自然に上官の名は滑り降りてくるもので、その女性の名もよく風聞に上がったので覚えていたのである。しかしながら、その名があの時の女性を表すものであるということを知ったのは随分と後になってからだったのだが。
 そうして、永らく名のみ記憶していた彼女とようやく再会したのは、同僚となってからであった。松本副隊長、吉良副隊長、と、同じ官位で呼ばれることを許された後のことである。





 学院生の頃より親しくしていた修兵と恋次、そうして桃と共に酒を煽るのは、珍しいことではない。桃が出席しているのは少しばかり物珍しいが、彼女がこの場に座しているというその事実は、これが何らかの祝杯であるということを表していた。他でもなく、イヅルの出世祝いである。
 随分と陽は落ち窪んでいるが、未だ翳る様子はない。譬うならば夕べといったところか。そのような思いで杯を傾けていると、少しも酔った気配のない修兵が、突如として浅く口を開いた。
「吉良、もう一人来る予定なんだけどよ、いつの間にお前乱菊さんと知り合いになったんだ?」
「え、松本副隊長、ですか…?」
 自分が彼女の名を知っているならば、彼女も自分の名を知っている。それを考えれば知り合いと言えるのやもしれぬが、出世を祝われるほど親しくなった覚えはない。
「へえ、あの松本さんと。お前もなかなかやるじゃねえか。」
「やめてよ阿散井君、知り合いといっても何十年も昔に話したことがあるだけで…。」
「何十年も昔!?吉良君すごい、よく覚えてるね。」
「うん、たった一回のことなのに覚えてるんだ。何でかは分からないけどね。」
 おそらく彼女の容姿が話に聞いた姉と酷似していたからであろうと分かってはいたが、そのような話を出したところで驚かれるだけだ。朗らかな場で、生々しい家庭の醜聞を晒すのは避けたい。
「まあ、乱菊さんに聞いてみりゃ分かるだろ。そろそろ―…来たぜ、ホラ。」
「えっ―…。」
 彼女は、はじめに出会った時分と同じく美しい見目をしていた。相変わらず自分より幾らか色濃い色素を纏っており、存在そのものが希薄で儚く見えるイヅルとは違い、匂い立つように鮮やかな美貌を孕んでいる。
「松本副隊長…。」
「やあね、アンタももう副隊長でしょう。吉良。」
 圧倒されるような艶かしさからは、想像も出来ぬほどの気さくな声が流れる。やはり似ている。会う度に気付かされるのだ。母が、父が語った姉の麗しさと、特徴と、似ているどころではなく、それはもはや等しくあった。
「乱菊さん、いつ吉良と知り合いになったんスか?」
「ちょっとね…内緒よ、内緒。」
 曖昧に仄めかし、修兵の疑わしい眼をやんわりとかわす。そうしてイヅルの方を向いたかと思うと、何の贈り物もなくてご免なさいね、と悪びれぬ笑みを浮かべた。いえ、と慌てて発した後、杯の方に視線を戻し白皙に紅を零す。その様を見て、乱菊は少しばかり苦笑を表した。
「ちゃんとここまで来れたじゃない。」
 讃えるような、けれどもどこか安著するような、やはり母のような声であるとイヅルは思う。決してイヅルの実力を軽んじているような素振りはなく、ただ言葉の通りに意味を伝えることが上手い人であると、漠然とした印象しか持たなかったが、柔らかい確信がそこにはあった。





 暗雲のようにぐったりとした闇が辺りを覆う。周囲の料理屋が店を畳み、代わりに灯篭を持ったさも懐暖かそうな風体の男が通りを闊歩するようになると、女性を交えた酒宴は自然にお開きになった。とはいえこのような時刻である。はじめは恋次とイヅルが桃と連れ立ち、修兵が乱菊を送るというあんばいになっていたはずなのだが、いざそういう頃合いとなったところで乱菊が口を出した。
「いいわよ修兵、アンタと恋次で雛森を送ってあげなさい。」
「え、そりゃあ乱菊さん…。」
「だから、あたしは吉良に送ってもらうって言ってるのよ。」
「はあ?松本さん、そりゃやめた方がいいっすよ!」
「…どういう意味かな、阿散井君。」
「どういう意味、って…。」
 淡い微笑を浮かべたイヅルを見て、唐突に恋次が押し黙る。桃は何事か分からぬ様子であたふたと視線をあちらこちらに巡らせていた。修兵は僅かに困惑し、心ばかりの溜息を吐く。
 イヅルとて護廷を担う死神の一人であり、確かに男性である。けれどもその見目はお世辞にも頼り甲斐のある若者とは言いがたく、傍目に見れば上背が乱菊と少しも違わぬというのもあいまってより薄らげに見える。そもそも何を思ったのか数年前より儚い色をした髪を長めに伸ばしており、暗がりでは女が二人歩いているように見えなくもないと思われた。
「…分かった、よし阿散井。お前雛森を送ってやれ。俺が乱菊さんと吉良を送ってくから。」
「なるほど、そうっスね。それなら―…。」
「檜佐木先輩もどういうことですか?松本さんだけならともかく僕まで送って下さるとか。」
 結構な紳士でいらっしゃるんですね?と、四番隊隊長を思わせるような慈悲深い笑みを浮かべつつ、地の底から這い出るような声を発すイヅルにいささか不味いと後ずさりする。すると、傍らで苦笑していた乱菊が突如としてイヅルの腕を掴み、呆然と視線をやる三人へ意味ありげにくすりと笑った。
「あたしは吉良だけに送ってもらいたいって言ってるのよ、野暮な男共ねえ。」
「ほら、松本さんもこう言って下さってることですし。僕にだって女性の一人や二人護れるんですよ?馬鹿にしないで下さい―…行きましょうか、松本さん。」
「ええ、でも二人も護ってくれちゃ困るわ。あたしだけ護ってくれないと。」
 また何を言い出すんだこの人は、と流石にイヅルも目を見開いたが、必死に毅然とした姿勢を崩さぬよう努める。そうしてまたにこりと微笑を交わし、背後にあるあっけない表情にわざとらしい視線を返した。
「…どうなってんだ?」
「酔ってたんじゃないっスかね、二人とも。」
「そうよね、きっとそうよ。」
 未だ状況が理解出来ぬ様子の桃すらその場を取り繕おうと笑い顔をそのままに同意する。修兵と恋次は、もはやそのまま再び店に居座ってもう一杯やろうかという思いが頭を掠めたが、桃がいるのだと懸命に己を落ち着けた。





 そこかしこに、豪奢な女を携えた男達の姿が見られる。蝶の艶やかさと、大店の遊郭や灯される燈篭の光で仄かに色付いた闇の円は、逃げ場を与えぬようにして荘厳に張り巡らされていた。その隙間を縫うように、イヅルと乱菊は身を寄せ合い歩を進めている。その姿は微笑ましいようでいて、か細い肢体が互いに集束し補い合っているようでひどく虚しい。
 元より携えている色彩が酷似しているので、尚更だ。
「…どういうおつもりですか、松本さん。」
「自分に気があるんじゃないかとか、そういう素直な考え方は出来ないの?」
「出来ませんね、どう考えても僕はあなたの理想に合致するような男ではございませんから。…おありになるんでしょう。わざわざこうして二人きりで、身を潜めるようにしてしなければならぬようなお話が。」
「あんたって、嫌なところで聡い男ね?」
「よく言われます。」
 皮肉なほどに純然たる微笑を返すと、乱菊はさも面白くないというような顔をした。そうして、遊女を従えながらも、先程から毛色が物珍しいのか、乱菊やひどい折にはイヅルまでをもじろじろと品定めするように眺めていた男の群れも消えたところでふと足を止める。
「気付いてるんでしょう?あたしがあんたの何なのか。」
「…数十年前、市丸隊長伝いで僕の名を知ったと仰っていたあなたのお話が偽りであると理解出来るまでには。」
「あら、あたし市丸隊長が教えてくれたなんて言ってないわよ。ただとある男が、って。」
「あの頃、僕の名をご存知でいらっしゃる男性の死神は市丸隊長―…いえ、市丸副隊長のみでございました。少なくとも、こちらからお伝えした限りでは。」
 成る程ね、と含んだような微笑を放り、真摯に言葉を紡ぐイヅルを哀れむような瞳で見つめる。ほんのりと香るような色をした優しい灯りは、和らぐ気配などなくどちらの顔をも照らし続けている。乱菊は、珊瑚色をした橋に腰掛けて所在なげに言葉を模索しているように見えた。それを見て、やはり似合いであるとイヅルは確信を深くする。
「…恨んでおられるのですか、僕、いえ―…吉良の一族を。」
「まさか。どうしてあたしが吉良家を恨まなくちゃならないの?…あたしは自分を捨てた祖母のことを恨んじゃいないし、まして一族を恨む理由なんて持ってないわ。まあ少しは、少しはね、どうしてこんなに色濃く生んで下さったのかしらって、思うこともあるけど。」
 それこそ神様なんかに、と冗談めいた笑みを零し、深く嘆息する。とうとう観念したかのような姉の様に、イヅルは嘆くことも謝罪することも出来ず、ただその場に佇んでいた。乱菊は、その様子に呆れたかのような素振りで歩み寄り、イヅルを抱き締める。
 突然のことに目を見開くことしか出来なかったが、慈しむような指の動きにいつしか込み上げるものがあり、小さく呟いた。
「姉う―…姉さん。」
「なあにそれ、わざわざ言い直さなくたっていいのに。」
 くすくすと苦笑する乱菊を、あやすように抱く。けれども奔放で、なだらかな美しさを持つ彼女には、古風で格式のある呼び名よりも、響きが柔らかく、自由な呼称の方が似合いであるような気がしたのだ。そう返そうとしたが、やめた。
本心などおそらく乱菊には知れている。知れていなくとも、同等の血色の中には、大方のことを許容するおおらかさが大なり小なり含まれているものであろう。理解されなくとも、血縁であるという事実が真実として残るならばどうとでも構わなかった。





 薫風が昼の風に混じるようになり、そろそろ梅雨に入ろうかとしているように思える。けれどもそのように穏やかな時節とは相反して、身辺の雲行きは怪しい。この頃はとりわけそうである。隊長職に就く者達は誰も彼も皆良識的に飾っているか、他人に関心を持たぬよう見せているがそれは偽りであり、本心では常に互いを訝しく観察していた。
 だからといって、イヅルにはそれを正す権利もなければ術もなく、またそうしようとする意志もなかった。ただ剣呑と目前で軽やかに跳ねて回る上司の動向を掴むべく疾走しているだけであり、同僚には常にその姿を哀れまれ、また危ぶまれてもいる。
 副官に就任し既に幾年か経過したが、未だ過去を懐かしむ思いは変わらず、ともすればすぐに初心を模索していた。だが、護廷内の対人関係が著しく蠢き、そこかしこで硝煙が立つようになると、初心、などという艶かしい感情はふいに消えた。
 わけても、イヅルの仕える市丸ギンと、姉である乱菊の仕える日番谷冬獅郎の不仲が如実に現れてきた頃であったと思う。これまで以上に鮮明に身の振り方を迫られたその時、初心などというものは消えていた。否、消したのだ。
 そう思いながらも、待ち合わせた木陰へと歩を進める。乱菊との逢瀬は、実に幾月ぶりかであった。乱菊は、燦々と振り被る葉の群れと生温い風に髪を攫われ、少しばかり顔を顰めながらもそこに佇んでいる。そうしてイヅルが訪れたことを確認すると、にこりと笑い、久方ぶりの挨拶を交わしたのも束の間、常では見られぬ厳格な表情を浮かべ、イヅルに問うた。
「これからどうするの。あいつは―あたしが捨てられた時の話からしてみたら、あんたには優しい人間に聞こえたかもしれないけど―ギンは、そんなに出来た男じゃないわよ。このまま付いて行ったら、誇りなんて全く尊重されない死に方をするかもしれないわ。」
 他でもない姉の言葉に、少しばかり心を濁す。けれどもどうしろというのだ。イヅルは既にギンの下に就いている。一度与えられた職を捨てるなど、それこそ誇りに欠けると密かに唇を噛んだ。そもそも、イヅルは魅入られてしまっている。あの男の性情に、あの男の振る舞いに、否、あの男そのものに魅入られてしまっているのだ。
 肉親と知り得た後も崩すことのなかった敬語を、初めて切り崩して微笑み返す。
「姉さん…僕は、あの人が好きだよ。」
 乱菊は、これ以上ないほどに哀しげな表情を見せた。時代や環境といったものに、いとも容易く苛まれるような弟であった。けれどもひどくいとおしかった。そうして、凛とした脆弱さが事もなげに手折られる日を、常に恐れていたのである。
 そのような乱菊の思いを知る由もなく、イヅルは更に非道な問を投げかけた。
「僕はあの人のために死ぬでしょう。いえ、死にます。その時あなたは―…姉さんは、どうします?」
 薫風は尚も嘲笑うかのように、けれども時代というものに、使命というものに翻弄される者の先を、僅かに慰めるようにして空を戦慄かせた。乱菊は、常に紅色を絶やさぬ麗らかな唇を震わせながら開く。
「じゃあ、その時はあの人のためにあんたを殺してあげる。他の誰にも譲っちゃ駄目よ。あたしがあんたを殺すの。」
 先に死ぬのはイヅルではなくギンだと、乱菊には分かっていた。イヅルに護られるなどということは、あの男には出来ない。ならばその際には、潔くイヅルも逝かせてやろうと思う。自分が何者かを殺めることを頑なに阻む上司も、僅かばかりの意志は汲んでくれるのではないかと、そう思った。
 すると乱菊の言葉に、イヅルが尚も凄艶に笑う。硬質な風に揺られた髪のお陰で、潤いを増した目元は気取られずに済んだ。けれども目に潤いを宿していたのは、イヅルだけではない。だがそれを互いに悟らせぬように、色めいた風は殊勝にも細やかな雨を運んだ。





―誓うならばそう、互いが崇めるたった一つの神に。





*あとがき*
 やはりと申しますか、ギンイヅ日乱を織り交ぜつつ、微妙に乱→イヅっぽい。(汗)というか最後のフレーズが使いたかったのですが、別に姉弟設定はいらなかったんじゃないか、な…!
 こういう絆で結ばれた乱菊さんとイヅルも何となくいいなあ、と思いまして。
 しかしアレですね、最後辺りの文を読み返してみると、うちの市丸さんと日番谷君は本当どうなっているのだろう、と…orz

孵らずの雪。(ギンイヅ。イヅルお誕生日記念フリーSS)

2006-03-27 01:16:02 | 過去作品(BLEACH)
未だ春は訪れず
凍る先は粛然の間
未だ孵化せぬ昨夜の雪は
警鐘の音も浅く掻き消し





 立春が過ぎ、少しばかりしてから訪れる独特の生温い風が吹いていた。イヅルは新しい木の香りが漂う桶を揺らしながら、柄杓で軽く水を撒く。職務へと出かける前に庭の花々の世話をするのは、もはや日課であった。
 元より園芸などの細やかな作業は好んでいるが、ここ数年はとりわけ見事に草木や花が育つので、一層慈しんでいる。最も、このような場所であることもあって狂い咲きをするものも少なくはないのだが。
 以前は起き抜けに寝巻きの上から適当に羽織を掛け、朝餉を用意するより先に水をやっていたのだが、それを見受けたギンがせめてきちんと着てからにしろと制したのであった。イヅルからしてみれば、死覆装を着用した後にやるよりは汚れぬであろうと思ったのだが、ギンはそんなことよりも体調を気にしろと言う。
 常に体調管理など少しも気にせぬギンにそのようなことを諌められるのは釈然としなかったが、抗う理由もないので素直に従った。なので今は、全て手はずを整えてから行うようにしている。
(雪が溶けないな…。)
 春を迎えようとも、霜が残っていることはある。けれどもこれは霜ではない。それより随分と重苦しく、厚みを帯びているように見えた。それも、常ならば狂い咲いている水仙や梅などの蕾が未だ膨らまず、百合や時計草などは蕾を携える様子さえ見せない。
 けれども本来ならばとうに枯れているはずの山茶花や椿には、花弁を落とす片鱗すらなく、イヅルは首を傾げた。
「…君はまだ休みたくないのかな?」
 いつぞやにギンが早く綺麗になれと声をかけていた山茶花へ、ぽつりと言葉を投げかける。その頃よりギンに懸想していたらしく、この花はギンが訪れる度淡い肢体を色濃く変貌させたものである。するとイヅルの問いに対して微かに身を震わせたので、少しばかり苦笑した。まるでこの花々は、人間の言葉を常に理解しているように見える。
(ああ、そうだ―…僕もあの人に会いたい。)
 昨日も一昨日もその前も、執務室では顔を合わせているものの、ギンの部屋に呼ばれることなどなければイヅルの部屋へ赴かれることもなかった。これほど日を空けられたこともないので、厭きられたのかとも思う。男でありながら髪や肌を大事に手入れしたことも、もしくはされたことも、全て無駄になったということか、と。
 時刻を確認すると、暫くで出勤時間となるようなので、柄杓を急かして桶を早々に片付けた。そうして僅かに翳った表情を浮かべるが、それを引き締めるように帯を直す。けれども帯から襟へと走らせた指は、いささか震えていた。





 十一番隊の隊舎には、常に甘い香りが紛れている。そこから更木が出でると大抵の者はたまげるのだが、その肩から幼い体躯の愛らしい髪色をした少女が顔を出すと、成る程、と溜息を吐く。しかし一たび隊舎へと足を踏み入れれば、そこは荒々しい領地である。
上位席官達はまだ態度をわきまえているが、下位席官の中にある不遜な連中と顔を合わせると、ただ書類を届けに来ただけとあってもまるで自分が何かの贄のように思える。十一番隊とはそのような場所であった。
 だがギンは、自分とはまるで異なった空気を持つ十一番隊を殊のほか気に入っていた。乱雑ではあるが、一つの偽りもなくただ群がり合っている。幾度となく誰も彼もを偽り、その全てを裏切ってきたギンには到底真似出来ぬ芸当を見せられているようで、ひどく落ち着くのだ。
「…あれ、市丸隊長?どうなさいました。」
「あァ、斑目君?やったな。阿散井君やらと話しよる時と違うてえらいしおらしゅうしとるんやねぇ。」
「当然ですよ…毒でも盛られちゃ堪りませんから。」
「そらキミらしゅうて結構なことや。」
 いつもながら掴みどころのない笑みを向け、けれどもしっかりと畏怖の念は感じさせる様を見ながら、一角は僅かにぞくりとした。だが一角は、更木の前などで見受けられるギンの駄々やあどけない姿を間近で拝見したことがあるために、それほどまでには不安を感じない。
 知っているのだ。ギンの人を慈しむ姿を、人を護る姿を、知っている。
「更木さん、おる?」
「どうぞ。」
 見知らぬ仲でもない。容易く通されたことにいささか拍子抜けするが、更木に忠実な一角ならば納得出来る。知らぬ者ならばまだしも、市丸ギンである。怪しいか怪しくないかで言えば大変怪しい人間であるが、追い返すか返さぬかは、自分が決めることではないとわきまえているのだ。
「おおきに。」
 優美な仕草で礼を述べられ、軽く会釈を返す。けれどもおそらく、更木の前に出れば繊細そうな見目も一掃されるに違いない。そんなことを思いつつ、執務室を後にした。





 執務室にはあまり穏やかでない空気に満ちており、隊主机には見るからにしっかりとした体躯の男がじっと座っている。しかし座っているだけである。元より更木に書類仕事などさせぬようにしているらしく、机上には何の紙片もなければ筆も印鑑も存在しなかった。何とも羨ましい。
「…何しに来やがった、市丸。」
「相変わらずつれないお人ですなァ。」
 仕事もしとらんのやったら世間話くらいええやないの、と悪びれぬ笑みを見せ、客人を迎え入れるために一応用意されているらしい長椅子に腰掛ける。更木は一度顔をしかめたが、それほど不快には思っていない様子で向かいに腰を下ろした。
 すると声でようやっと気付いたのか、先程まで高い机上に頭を隠しながら落書きなどをしていた少女が威勢よくギンの名を呼んだ。
「ギンちゃん!」
「やちるちゃんやないの、お菓子あげよか。」
 そう言って、常に何かしら粗品が入っているらしい懐に手を入れて砂糖菓子のようなものを取り出す。すると更木が呆れたような声を上げた。
「ジジィかお前は。」
「アンタかてボクと歳はそう変わらへんやないの。せやったらお爺ちゃんと孫くらい離れとりますやろ、やちるちゃんと。」
「ギンちゃん、ありがと!」
「ええよ。」
 見目と年齢のそぐわぬ死神ではあるが、おそらく百以上は離れているに違いない。けれども就任するまでの過程が分からぬので、もしかするとやちると同程度の年齢やもしれぬと、そこまで考えて少しばかり恐ろしさを感じた。
「それで、何だよその世間話っつーのは。」
 わざわざギンが相談をしに来る内容といえば限られている。そもそも職務を放棄するのは珍しくないが、副官から離れてみたり、もしくは副官がここまで追わぬのは珍しい。
「…イヅルがな。」
 そら来た、と小さく呟き、更木は投げやりな視線を向ける。だがギンには話を留めようという気がないらしく、目を伏せてそのまま続ける。
「明日、誕生日やねん。」
「それがどうした。」
「何したらええと思う?」
「知るか。」
 これ以上ないほど簡潔に答えてやると、ギンは目前で冷たいだの人でなしだの勝手なことを喚いている。それはいつもお前が言われてることだろうが、と黙らせ、長椅子に深く腰掛けなおしてから堪らず煙管を取り出した。
「大体俺よりマシな答え方してくれそうな奴が幾らでもいるだろうが。」
「せやかて乱菊も藍染さんも朽木さんも皆阿散井君経由とかでイヅルに知れてまいそうやん。」
「そりゃあそうだが…。」
「ほんまに困っとるんよ。なァ剣やん。」
「剣やん言うな。」
 抗ってはみるものの、やはりといったところかギンに反省する様子は見られない。仕方なしに相談とやらに付き合ってやることにし、初歩的な質問を放った。
「自分の時は吉良の奴に何もらったんだ?」
「なあんも。」
「嘘付け。あの吉良が律儀に用意してねえわけあるか。」
「ほんまやて。当日まで知らへんかったんよ、イヅル。」
「…なら何でお前も返してやろうと思うんだよ。」
 更木が問うと、ギンは一度何に例えるか模索するように唸ってから、適当なものを見つけたのか常である軽々しい笑みをやめ、表情に朗らかな綻びを帯びさせた。更木は物珍しいものを見るようにしていたが、いつもならば必ず口を挟んでくるやちるはじっと黙っている。
「剣やんも自分の誕生日にやちるちゃんから何ももらわれへんかて、やちるちゃんの誕生日には何や買うてやりはるやろ?それと同じやん。」
 確かに更木は、何の見返りがなかろうともやちるの生誕日には何かしらの物を買ってやるという、傍目に見れば似合わぬことをしている。否定しかけてそのまま口を噤んだ更木を一瞥し、ギンが苦笑した。するとこれまでギンに賜った砂糖菓子をじっと手に乗せたまま黙っていたやちるが、初めて口を開く。
「ギンちゃん、明日はさくらの日だよ!」
「さくら…?」
「乱ちゃんが言ってた。だからお花見するんだって。」
 どうやらやちるの話によると、それは藍染から桃、桃から乱菊へと伝わったものらしかった。宴好きと名高い乱菊のことであるから、何かしら酒を呑む口実が欲しかったのかもしれない。
けれどもギンは、いい話を聞いたとばかりにやちるの手に菓子をもう一つ乗せてやった。
「…甘やかしてやるなよ。」
「そう言う思たから控えめにしとったんやけどね、ええこと教えてくれはったご褒美や。それにやちるちゃんも甘いもんがお目当てで教えてくれたんとちゃいますやろ。」
「ギンちゃん、頑張ってね!」
「うん、おおきに。」
 これ以上ないほどに満面の笑みを浮かべ、やちるが激励をした。ギンから受け取った菓子は、まるで宝のように机上にそっと置く。その仕草から、甘味というものが彼女にとってどれだけ尊いものか見受けられ、ギンは遠い時代を思い出したようにしてふっと自嘲気味に笑った。
 それでも、やちるの頭を最後にふわりとひと撫でしてやる際には、常の表情を取り戻していた。





 重苦しい瞼を、そっと押し上げる。しっかりと閉じられた襖の外からは微かに花の気配がした。けれどもそれほど数がないというのに、なぜここまで花の香が鼻腔をくすぐるのであろうと思っていると、微かに匂い立つ別の香りがある。それは明らかに人工的な香の芳しさであった。
 昨日、ギンは執務室にすら顔を見せなかった。わざわざ三席へ理まで言付けていたために、イヅルは追うことも出来ず職務に没頭するしかない。ここまでするということは、やはり自分に会えぬ、否、会うことを望まぬ理由があるのだろうと思う。とうとう棄てられるのかと、思う。
 たった半年の間であった。けれども市丸ギンという人間が一人に飽きるまでには、充分な時間であるのやもしれぬ。一時だけでも大事に慈しまれた。あれはきっと、夢を見せて下さったのだ。遊びで買った女にも見せる、少しばかりの愛執を、己に見せて下さった。
 考えれば考えるほど、涙より先にえもいわれぬ寂しさが込み上げ、どうにもやりきれない。そのような想いがあるからこそ、このような夢を見るのだ。僅かに漂う芳香は、おそらく夢の続きであろう。
『イヅル、起きたん?』
 瞳を開いたつもりでいようとも、未だ覚めてはおらぬのだ。
『おはよ。珍しやろ?ボクの方がはよ起きてんの。』
 ならば覚めねばならぬ。覚めねば、ならぬのだ。
 幾度か視線を合わせつつも、瞬きを繰り返す姿に、ギンが少しばかり訝しげな表情を見せる。それを見受け、目前に佇む男が本物であると分かると、いつしか庭から抜け出でた雪が頬を伝っていた。否、伝っているように思えた。
「何泣いとんの、イヅル!?」
 慌てた素振りで歩を進め、こちらへ向かってくる。そうして寝床まで辿り着くと、イヅルの肢体をおもむろに起こして背に腕を回してやった。まるで赤子をあやすようであると、イヅルは僅かに気恥ずかしく思ったが、そのまま大人しくギンの肩に頭を委ねた。
「厭きて、しまわれたのかと…っ。」
 震えた声音で呟くイヅルを、いとおしいとは思うが厭きたと思うことはない。思ったこともない。暫く顔を合わせぬだけでこれほど追い詰めてしまったのかと、イヅルの脆弱さを再確認する。けれども同時に、それだけ頻りに顔を合わせ、依存していたのかとも気付かされた。
「阿呆やなあ…そないなことあるわけないやろ。」
 イヅルが時折不安定になり、ひっそりと泣く際には常にこうである。ギンがイヅルの背を擦ってやり、イヅルは身を任せて一頻り縋るのだ。けれども声だけは、慎ましく上げずにいる。
「そうやった、ご免な。昨日イヅルが寝た後来てもうたから、勝手に部屋入って…。」
 そう言うと、大人しくしがみ付いていたイヅルが、抱き込んだ中でふるふると微かに首を動かした。今に始まったことではない。もはやそれは暗黙の了解であった。断りもなく自室へと足を踏み入れられようとも、イヅルが抗う理由などない。
 ギンは、一たびそれに苦笑を返し、イヅルを立ち上がらせて壊れ物を扱うかのように手を引いた。





 襖を開けば、おそらく昨日と同じ光景が広がっているのであろうとイヅルは思う。微かに雪がその身を落ち着け、山茶花や椿は冬の頃より変わらず狂わしい見目を咲き誇らせ、本来咲きゆくはずである春の豪奢な花々は身を潜めるようにして蕾を閉じている。
 けれども、ギンがそろそろと襖を開き、その姿が露になってゆく度、次第に瞳を大きく見開かずにはいられなかった。
 雪が冬から孵化し、その姿を淡い春の風へと変貌させている。蕾を開かせる気配も感じられずにいた百合や時計草、桜も梅も、桃すらも、時節を超えて好き勝手に咲いている。だが、目に麗しい花々の中には、随分と以前からこの庭の主であるかのように腰を落ち着けている山茶花や椿の姿もあった。しかし全てが調和し、皆それぞれの立ち位置を知る役者のようである。
「綺麗やろ?」
「はい…でも、どうして…?」
「ボクも驚いたんよ。昨日久しぶりにここ来たら、全然咲いとらへんかったのに一気に育ったん。」
「一気に…?」
「ボクが少うし襖開けたらな、蕾やったんが一気に。」
 やちるの話から、イヅルの庭の桜の木が大層美しかったのを思い出し、上等な酒と肴を携えて二人きりで花見をしようと、そう思っていた。けれどもいざ赴き、その姿を確かめてみれば、膨らんですらおらぬ蕾が一斉に開いたのである。それを聞き受けると、イヅルは少しばかり思い当たる節があり、ギンの方を向いてくすりと笑った。
「庭の花は、皆あなたが好きなんですよ。」
「あァ、何やこの前言うとったなあ。山茶花がボクに懸想したの何のて。」
「ええ、しかし山茶花だけではなかったようですね。」
「ちゃうよ、イヅル。それやったらここにおる花全部女いうことになるやないの。」
「分かりませんよ。僕とあなたのような関係もあることですし。」
「…冗談言わんといて。せやからな、ここにおる花、皆お前が好きなんよ。」
 毎朝のように欠かさず、甲斐甲斐しく世話をする主人の姿を見て、嫌う動植物はまず存在せぬであろう。山茶花や椿が未だ美しいまま懸命に身を咲かせているのも、この日を謀ったかのように一斉に開いた春の花々も、狂い咲いている夏の花々、秋の花々も、全てはイヅルのためにこの舞台を作り上げたに違いない。
「天竺牡丹、篝火草、女郎花…綺麗に咲いとる。」
「そうですね…。」
 何かを促すようにしてうな垂れる木々の枝を見受け、そもそもの主旨を思い出してギンは部屋の片隅に置いた酒と心ばかりの肴を携えてきた。
「今日は花見や、ええ酒もあることやし。」
「朝からお酒だなんて…職務はどうされるおつもりですか?」
「そんなん、明日の楽しみにとっとけばええ。」
 ギンの言葉に、イヅルが悪戯めいた笑みを見せる。そうして僅かばかりそれを崩し、苦笑したかと思うとギンの傍へ寄ってきた。襖を広く開け放し、極彩色の園となった庭に再び視線をやる。鮮やかであるはずの光景だが、寿命を早めて咲く花々の様がどこか寂しく、イヅルは杯を薦められる前にギンの腕へしがみ付いた。
 ギンは珍しいと笑い、イヅルの細やかな肩を抱く。戯れに重ねた口腔からは、僅かに酒精が漂った。





早し春は幼く
溶けゆく先は鮮明の夜
艶浄化せぬ今朝の風は
重ねた跡すら色濃く残し





*あとがき*
 イヅルさんお誕生日おめでとうございます…!
 さり気なく十一番隊を書いたのは初めてかもしれない…。(汗)どうしたことかお花さんシリーズということで(笑)本当よく出てきますね、イヅルさん宅のお庭…orz
 今回わざと「お誕生日おめでとう」なやり取りを省いてみたのですが、うわーもう何が何だか…ハハ!(誤魔化すな)
 やちるちゃんは砂糖菓子とかを大事に持ってたら可愛いなあと。いや分かってます!金平糖一気食いするような子だって分かってます…!(笑)
 市丸さんはいつもやちるちゃんにお菓子なんかをあげてるといい。三番隊におやつ食べたりしに来るといい。その場合イヅルさんが用意してあげるんです。(お母さんか)
 いつもながら夢身がちで申し訳ございません。(汗)


 そしてこれ、いつもの如く無駄にフリーですので(汗)お気に召した方がいらっしゃいましたら、どうぞお持ち帰り下さい…!
 転載の際には、必ずサイト名か管理人名をご記入のほど宜しくお願い致します。ご報告は任意です。  
 

幼馴染ですから。

2006-03-23 22:07:17 | 過去作品(BLEACH)
*いつもながらキャラ崩壊が激しいのでご注意下さい。(汗)




 昔馴染みだからこそ、世話を焼きたくなるもので。知り合いがいきなり幼馴染と付き合い出したら驚きますよね(笑)




~お姉ちゃんのつもりで実は妹だと思うんですよ~



桃「どうしたんですか?乱菊さん。いきなり呼び出したりなんかして…。」
乱「…ええ、まあ時期も時期だし、そろそろ話してもいいかと思って。」
桃「何をですか?」
乱「あたしね、今付き合ってる人がいるのよ。」
桃「わあ、おめでとうございます!」
乱「ええ、ありがとう…でもねえ、その人アンタにすごく関係のある人で…。」

桃「えっ…もしかして藍染隊長ですか!?そうなんですね!?いえでもお二人ならお似合いだからあたし潔く諦めま…
乱「待って桃!首吊りそうな顔しないで!!違うのよ。それがその…日番谷隊長っていうか…。」
桃「シロちゃん!?
乱「そうシロちゃん…待って、シロちゃん!?

桃「いいんですか!?乱菊さん、だって日番谷君なんて小さい頃あたしのこと『寝ションベン桃』なんて言ってからかってたんですよ!?」
乱「あら、可愛いじゃないv小さい男の子なら誰にでもあるわよ。」

桃「しかもオネショしたらしたでからかうくせに、その後自分がやったことにして代わりに怒られたりするんですよ!?うちの家結構よその子預かったりしてて、その子達がオネショする度に俺がやった俺がやったって…おまけにそれから無言で後始末までしてあげるんです!」
乱「……!!!!!(声にならない悲鳴)」



 勿論、乱菊さんの悲鳴は「可愛いー!」っていう意味で。(笑)日番谷君は絶対そういうことしてあげてそう。小さい頃の彼は、優しくないけど面倒見が良さそう。(笑)



~あまりに色ボケているので喝を入れにきた~



乱「…吉良、アンタ市丸隊長と付き合うことになったんですってね?」
イ「えっ…何でご存知なんですか?」
乱「そりゃあね…朝から満面の笑みで報告されちゃあ…。」
イ「すみません…。」
乱「いいのよ。それより吉良、アイツと付き合うんだったら気をつけなさいよ。」
イ「どうしてですか?」

乱「当然じゃない、アイツの取り得つったらたらしっていうことくらいしかないからよ。やたら手が早いから気を付けなさい。」

イ「松本さんそんな本当のこと…。」
乱「そもそもギンでいいの?本当にいいの?ウン年前から付き合ってもいないアンタのために指輪とか白無垢とか既に用意してるような男よ?
イ「えっ…!」
乱「そもそもね、いくら相思相愛だからって、あたしがちょっと適齢期過ぎてるくらいですぐ結婚結婚って…そういうものなの!懐に婚姻届の一枚や二枚常備してるのが男ってもんなの!!覚悟しときなさい、吉良。」
イ「それは市丸隊長でなくお宅の誰かさんのことでは…。


 本当は乱菊さんと同居時代の恥ずかしい話とか、そういうのが一杯あったのに可哀想なので言わない乱菊さん。(笑)市丸さんはきっとイヅル院生時代から「あの子にはどんなん似合うやろか」って色々と仕立てさせていたに違いないよ。(黙れ)日番谷君のことは気にしないでやって下さい…真剣なんです。(それもどうよ)
 ちなみに私は、乱菊さんが適齢期を過ぎることはないと思っていたり。だって外見は常に変わりませんし。(禁句。笑)


宝飾の輪。(ギンイヅ+乱)

2006-03-20 23:06:52 | 過去作品(BLEACH)
*夢みがちな話です…。(汗)





待つ者は常に背後を振り返り
待たるる者は常に前を見据へている



さやうなら 大事に大事に 隠していつた髪飾り
さやうなら 最期の最期に 放つていつた嘘の山



さやうなら 嗚呼あなた 振り返つてはいけません
凍る凍る 去られた足場は嘘の山



さやうなら さやうなら ただひと時の邂逅に
呼ぶ声はされど それも嘘の砂



さやうなら 
嗚呼あなた 私の使命が時にそう ひどく哀れであれと言ふ
それは非道に辛辣に 生望む管を淫猥に ひと撫でするよにあれと言ふ





 うな垂れるように柳が屋根に添う。元はといえば、自分の出生地も定かではないくせに「生まれたとこ思い出すわ」とギンが望んだのが始まりである。いつであったか、京の都の枝垂れ柳は特に嵐山辺りでよく見られるそうですよ、と半ば呆れるような素振りで三席が説いてみせたのを思い出す。
 故郷を懐かしむ想いなど少しも持たぬくせに、時折ギンは趣深いものを欲した。三席曰く、自宅にある分まだ宜しいと言う。あのように窓の開閉の邪魔をするものを、隊舎にまで運ばれては困ると。イヅルからしてみれば、日頃過去を忌むべきものとしているギンが、なぜ故郷を追憶させるようなものを望むのかと、そればかりに疑念を抱いていた。
 けれども今となってはそれも全て無駄なものである。ギンが尸魂界から姿を消し、死覆装の解れを整えることも、血に塗れた羽織を白く染め上げることもなくなった。当然、この柳の木も必要ではない。それでも未だこのようにしてギンの邸宅へと赴き、定期的に手入れを施している辺り、未練というものが己の中に深く根付いているということを自覚するようで大変忌々しい。
(あれもこれも、全部あの人のためだったのに…。)
 いっそ煩わしく視界を阻むこの樹木を伐ってやろうかと考えたこともあるが、再び姿を現した時のことを考えてそのままにしておいた。女々しいものだとは思いつつも、やはりどこかで再び邂逅を交わす日を信じている。
 しかし、再び逢瀬を交わす日があるとするならば、それは決して道を同じくする者としてではないとイヅルには分かっていた。





 定時までの職務を終え、さらさらと流していた筆の動きを止める。隊主を失くした三番隊の職務は他隊に比べ厳しいものであるが、それでも加減はされているらしい。けれどもどうあっても終えられぬほどの書類を抱えさせられたとて、文句は言えぬと思った。ならばつまり、それは罰だ。
 この頃は、呑みに誘われる機会が前に比べ多くなった。これまではイヅルの職務の量や、ギンとの付き合いに気を遣われてなかなか飲み会などに顔を出すことが叶わなかったのだが、隊主に捨てられたという代議名文を持つ副官は、それだけで誘う口実になる。哀れであると、慰める口実になる。
 とりわけ乱菊や修兵と呑む機会が多いのだが、この日もやはり乱菊との約束を控えていた。互いに紡ぐ言葉がひどく他愛ないものであろうとも、酒精を分かつことで慰め合っているように感じられるのだ。イヅルにとっても乱菊にとっても、市丸ギンという男は深い存在であった。
 隊舎を出る前に、執務室の方へ足音が近付いてきた。それが誰のものであるかは見当が付いていたので、書類の束を整えて席を立つ。自分よりも幾らか濃い色をした亜麻色の髪が扉から覗いたのを見受け、ふと口の端を綻ばせた。
「どうぞ、松本さん。」
「…気付いてたのね、面白くないわ。」
「ええ、少しだけ松本さんの髪が覗いていたんですよ。強くて目立ちますから、その色。」
「あんたの髪とほとんど同じ色じゃないの。」
「僕の髪はいけませんよ。薄っすらと希薄で、いるのかいないのか分かりませんから。」
「―…綺麗だって、アイツはいつも言ってたわよ。」
「それはそれは、光栄です。…もう二度と、賜ることの出来ぬ言葉かもしれませんが。」
 イヅルの吐き出した言葉に、乱菊が口を噤む。そのままどちらからともなく足を踏み出し、互いの顔を窺うようにしながら歩を進めるが、何やら心持が穏やかではない。けれどもこの感覚が救いだ。互いのためと思い口にした慰めによって、哀れな感情が蘇る。そうして確かに実感してゆくのだ。自分独りでこの場所に取り残されているわけではない、と。





 ひっそりと佇む居酒屋の灯りが、優しい空気を作る。上空に笑みを携えている月は丸く冷えた色をしていたが、その蛍火のお陰で寒々しい色が緩和されていた。
 乱菊とイヅルは哀しい表情を顔に現したまま、運ばれてくる酒の群れを眺めている。時折香る小料理の芳しさが酒精を煽るが、頼む気にはなれず静かに杯のみを傾けた。
「…アンタと明るく呑むことって、あんまりないわよねえ。」
「でも松本さんは、その方がいいんでしょう。感傷に浸る間もないほど快活に呑むより、少しくらい昔を思い出しながら呑む方が楽だと、そう思っていらっしゃるのではありませんか?」
「まあね、呑んだ後が寂しくないわ。」
 ギンが去り、初めて杯を交わした夜は、どこか侘しい想いを残した。存分に酒気を分かち、騒々しいと言われるほどに姦しい愚痴を零し合い、孤独というものを追いやる。けれどもたったそれだけのことで忘れ去ることの出来る事柄ではない。
 むしろ不満を全て吐き出した分、ギンから残された想いの数々を余計に追想してしまい、前よりも幾らか悲しい気持ちに苛まれた。
「…元気で、いらっしゃるでしょうか。」
「吉良…。」
「霊力に見合うだけの食事は採っていらっしゃるでしょうか。お着物の充分な換えはおありになるでしょうか。縋り付くための過去を、置いて行かれても良いのでしょうか…いいえ、僕のことではございません。僕を失くされたとて、お元気であられるのならばそれで良いのです。けれど…柳の木も、時折お茶菓子にお出ししたねりきりも何もかも全て失くされて、あの方はお元気でいらっしゃるのでしょうか。」
「…何だかアンタ、戦に夫を奪われた妻みたいだわ。」
「戦?」
「今の現世では戦争とか言ってるみたいだけど。兵隊に駆り出されて、生きてるんだか死んでるんだか分からない夫を待ってる妻よ。成仏出来ないプラスによく言われるじゃないの。あの人を待ってるから逝けませんってさ。」
「…少なくとも戦時中の女性は皆、兵隊として駆り出された旦那様が亡くなられることを覚悟していたのではないでしょうか。どんなにか辛くとも、脆弱な素振りを見せていようとも、あの時代の女性は強い。それに比べて僕はどうです。」
「どう、って…。」
 口籠る乱菊に向かって、曖昧な笑みを投げかける。自分は違う、と思った。帰らぬ可能性を、未だ信じることが出来ずにいる。このような時でさえ、おそらくいつしかあの飄々とした笑みで手を振ってくるに違いないと、そう思っている。
 馬鹿だとは思えども、ギンが残して去った枝垂れ柳の姿などを垣間見る度に確信が強まる。あの人がまさか、これほど強い過去を残して去るはずがないと。ギンは、どこかへ去る場合には必ず全て綺麗に清算していくような男である。
 普段ならばすんなりと喉を通る美しい色をした酒が、この日ばかりはいつまでも舌の辺りを巡ったままであった。





 深い眠りの淵に這い蹲るような感覚で、浅い呼吸を繰り返す。居酒屋から家路を歩き、湯殿へと赴いたまでは良かったのだが、どうにも酒精が抜けない。
 ギンが去ってからは、ギンの私邸で寝食を行っている。少しばかり抵抗はあったが、僅かながら残る気配があまりに心地良いので、いつの間にやら居座ってしまった。おそらく哀れに思っているのであろう。そうすることを望むイヅルを、誰も咎めなかった。
 寝室から臨む庭を、朦朧とした眼で見やる。すると先程までしんと静まり返っていた枝垂れ柳が僅かに揺れた。ギンが、柳の木を自室へと迎え入れたその日に、しみじみと感慨深く口走った言葉がある。細やかな素振りで身を震わせる柳を見つめながら、ふとそのことを思い出した。



 屋根を覆うようにしな垂れている柳は、それでも縁側にまでは寄りかからずにいる。ギンはそれをいとおしむように指で梳きながら、穏やかな表情でぽつりと呟いた。
『思うた通りや、イヅルに似とる。』
『僕に、ですか…?』
 ギンがイヅルに映えると謳ったものや、イヅルに譬うたものは幾らかあるが、柳に称されたのは初めてのことである。イヅルは今ひとつ意図が分からず訝しげに首を傾げた。ギンは、尚も変わらぬ表情で柳の葉を梳いている。
『確かに、常に落ち込んだようにうな垂れている様は酷似しているものと思いますが…。』
『阿呆やなあ。そないなことやあらへん。』
『ならば、似通っている部分など見受けられぬと存じます。』
『似とるよ。…細うて綺麗で、優しい。』
 突如として投げかけられた視線に、思わず頬を染める。ギンの指で梳かれるのを心地好く思っているかのように、柳はゆったりとギンの肩にもたれ掛かっていた。せめて常である飄々とした面差しで言ってくれたのならばまだ嘘と信じることが叶うのに、こういった時にだけひどく狡い笑みを浮かべている。
『せやけど、流石に家ん中までは入って来れへんのやね。』
『…入って来てしまえば、お邪魔にございましょう?』
 縁側の屋根にまで折り重なった柳の集束は、それでも長身であるギンが立ち上がらなければ届かぬ高さにあった。ギンは柳を撫でながら、どうももどかしい思いに駆られる。手を伸ばさずとも触れることの出来る位置に、なぜこの柳は来ぬものか、と。
『降りてくればええのに。降りてきて、くれへんかなあ…。』
『市丸隊長…。』
 柳の木を抱こうと思えども、限界まで伸ばされた腕では叶わない。ギンはふと背後を振り返り、縁側えと腰を下ろす。そうしておもむろに、イヅルの方へと手を伸ばした。
『おいで、イヅル。』
『はい。』
 躊躇なくその声を受け入れて傍へ寄ると、さわりさわりと柳が鳴いた。髪は梳かれる指を留めることなく、さらさらと落ちている。抱かれる死覆装の衣擦れの音で、先程から柳を揺らしていた風の集束が、ぴたりと止んだ。


 さやうなら やんわりやんわり 風の抱擁 庇う腕


―あれからもう、どのくらい経っただろう…。


 そのような追憶と絶望をうつらうつら繰り返していると、柳が見えているということは襖が閉まっていないということか、と気が付き、慌てて立ち上がって襖を閉めに歩を進める。けれども湯殿へと赴く際には、確か襖は閉じていたはずである。
 そっと襖に寄れば、何の変哲もない庭の様子が窺える。数年前から移り変わりを見せたことといえば枝垂れ柳が地に足をつけるほどにまで成長しただけであった。不信な思いでそのまま庭を見つめていると、ふと、背後に何かの気配を感じる。だがそれはあり得なかった。感じる霊圧の主が、今ここに姿を見せるわけもあるまい。
「いちまる、たい、ちょう…?」
「結局後釜取らへんかったんやなあ、三番隊。」
「…見合うだけの者がおりませんでしたし、推薦された方もお断りなさいました。」
「出来へんかったんか、イヅル。」
「はい。」
 去る際の別れの言葉もなければ、逢瀬の際の挨拶もなく、はじめに口から出でた言葉がそれか、とイヅルは眉をひそめる。けれどもギンは哀れむような眼をイヅルに向け、去った際に聞くことの出来なかった言葉をひっそりと呟いた。


「ご免な。」


 ああ、実に狡い。そう思いながら目を背けるが、ギンは言い聞かせるようにして幾度も繰り返す。とうとうイヅルの方へと足を進め、イヅルの肩にそっと触れながら同じことを言い続けた。
「ご免な。」
「っ…。」
「ご免な。」
「…お止め下さい、どうか…。」
「ご免な。」
「はい…はい…。」
 イヅルの声は次第に涙に掠れ、その身はがくんと膝を付いてしまったにも拘らず、謝罪をするギンの声はいつもにも増して柔らかく、穏やかである。ギンはイヅルの前に跪き、哀しげに目線を合わせてから、痩身を掻き抱く。その指は変わらず美しく、優しい色をしていたが、抱かれる手はひどく強かった。
「おいで、イヅル。」
「僕はここにおりますよ。」
「せやない。ボクんとこ、おいで。」
「…それがお出来にならないから、僕を置いて行かれたのではありませんか。」
「せやねえ。けどボクが我侭やて、イヅルが一番分かっとるんちゃうの?」
 あのような穢れの多い場所に、イヅルを連れては行けぬと置いて行ったはずだ。けれども日々募るのはイヅルへの思慕ばかりで、あちらで仰せつかった仕事すら手に付かない。見かねた藍染がこれ以上ないほどに眉をひそめながら、職務にはイヅルを一切携わらせぬという条件でギンの申し出を承諾したのはこの頃のことである。
 理も告げずに去ることが最善の選択ではない。ギンはすっかり忘却していたのだ。この場所の穏やかなものにイヅルを護らせるという術もあれば、自分自身でイヅルを護るという術もあると。
 いつであったか、乱菊の文句を思い出す。



『どうせアンタは大人しくここに留まってる気なんてないんでしょう。そういう男だもの。』
『せやなァ、ここは窮屈やもの。何なら付いて来るか?』
『あたしは行かないわ。大事なものは他にも沢山あるもの。それを捨ててアンタに付いて行くなんて出来ないわよ。それにあたしなんかよりも、言わなきゃいけない子がいるでしょう?』
『冗談言わんといて。』
『ギン、アンタ分かってないのね。あたしは他の大事なものを捨てるなんて出来ないけど、あの子はそんな覚悟とうに出来てるのよ。』



 遥か遠い頃より、言葉にこそ出さずともイヅルは全てを落としてくれていた。精神も、肉体も、帰属するその心まで、彼の中にある全てのものを分かとうとしてくれていた。けれども自分は最後までそれを返そうともせずに、果ては捨て置くなどと何と手酷いことをしたのであろう。
「せやからイヅル、一緒に行こ。」
「…本当に、仕様のない方ですね。」
 それ見たことか、と思う。乱菊の言った言葉にはやはりそぐわない。しおらしく待つことを選択する妻に向かって、戦渦の中に赴き共に戦えと命ず夫がどこにいるというのであろう。
「僕がそのお申し出をお受けするとでも?」
「せやかてイヅル、ちゃあんと降りてきてくれたやろ?」
 庭を指で示しつつ、ギンが笑みを浮かべる。その昔ギンがイヅルに譬えた枝垂れ柳は、足元にまでさらりと垂れ下がっている。イヅルはそれを窺って少しばかり苦笑した。そうして何も言わず、ギンの手の甲に口唇を這わせ、辿り着いた指を緩く噛む。ギンはそれを肯定と取ったようで、歯を立てられた指をそのまま背に回した。
 薄暗い闇に降る細い風は、いつしかその光景を包むようにして舞う柳の葉に姿を変える。それはまるで、身を伐られる前に果てんとしているようであった。幾らか後、いずれ去られる時既にギンによって始末されているであろう。どこかへ去る場合には全てを綺麗に清算してゆくような男である。枝垂れ柳も、そのことを重々承知しているように見えた。





さやうなら さやうなら 独りに積もる 細雪
さやうなら さやうなら 宝のやうに 添ふ樹木



さやうなら 哀れな私の使命に



*あとがき*
 原点に還るつもりで…というか、当初ただ単に枝垂れ柳はイヅルに似てて云々的な話を書くつもりだったのですが、筆の赴くままに書き上げた詩が戦争チックになってしまったことと(コラ)そんな話を書いているうちに「早く迎えに来てやれよ…!」という思いが募ったこともあり、とうとうお迎え話になりました。(笑)
 そしてこれまた思い描くままに書き進めていたら、最後の肯定シーンが無駄にエロい仕上がりになりました。orz…すみません。(平謝り)

ホワイトデー。

2006-03-14 00:00:00 | 過去作品(BLEACH)
 畜生日付が変わった…!(遅)こっそり後で捏造しておきます。それこそ捏造バレバレな感じの日付に。(コラ)



*相変わらず市丸さんと日番谷君がとんでもない性格をしておりますのでご注意下さい…。(汗)
*今回、最後はギャグでなくラブラブに。(笑)


 バレンタインデーの哀しみからはや1ヶ月。ホワイトデーです。藍染隊長のバレンタインデーはほのぼのしておりました。市丸さんと日番谷君は気合でみりんチョコレートを食べました。(食ったのか)外見年齢で考えましょう間違っても実年齢なんて考えちゃいけません。間違っても「おじいちゃん達血糖値上がるわよ!」というようなツッコミをしてはいけません。(お前だけだよ)


ちなみに、お二人の食べた感想。


市「あ、甘辛うてなかなかいけるわ、なァ十番隊長さん?(声が無理してる)」
日「ああ、新しい味だな…!(顔が無理してる)



~そんなこんなでホワイトデー~


日「ハァ…。」
市「どないしはったん?十番隊長さん。」
日「どっから出てきた。自分の隊舎戻れよ…。」


市「用がのうても「書類届けに来ました」で全て解決や☆
日「来んな。…何かお前ノリが藍染に似てきたぞ。」
市「……!!!」顔文字で表すとこんなん→(´Д`;)
日「どうした市丸、まるで世界の終わりみてえな顔すんなよ。



市「で、とりあえずどないしはったん?」
日「何つーか…京楽に聞いたんだが今日はバレンタインデーに女からもらったものを男から女に返す日らしいぞ。」
市「返してええんか!アレ!!どんだけ苦労して片付けた思うとんの!!
日「聞け市丸。思わず本音を漏らすな。…そのまま返すんじゃねえんだよ、何か他のもんを返すんだと。」
市「へえ…誤解のないように言うときますけどもろたもんを返したい思うたんやありませんよ?そらイヅルからもろたんやったら何でも嬉しいわ。けどアレは…。」
日「言い分は分かりすぎるほど分かるから安心しろ市丸。」←初めてのやさしさ(笑)


 何となく日頃の仲がうやむやになったので、そのまま話し込む二人。(周囲にとっては不気味なことこの上ない)


日「で、同じように食いもんでいいと思うか?」
市「せやなあ…いっそボクら二人で副官の姿をかたどった手作りチョコレートケーキとか作りましょか?
日「やめろ気色悪ィ。何だその「二人初めての共同作業です」みたいなノリは!


 二人とも器用そうだからやろうと思えば出来るかもしれないよ。(出来ねえよ)


日「…結局どうなんだ、悪ィが俺は初めての共同作業は松本とやるって決めて…
市「何の話や。…せやけどなァ、着物いうんも芸がないし…。」
日「…こっそり無記名で部屋の前に「隊長の名前を付けて可愛がって下さいv」とメッセージ付きで仔犬を繋いでおくとかな。
市「バレバレですやん。おまけに何やストーカーみたいやないですか、それ。」


市「…花とかじゃやっぱあかんかなあ。」
日「花か…じゃあ「ご結婚おめでとうございます」というカードを目ぇ覚まし十番隊長さん。
藍「アレ?君達さてはホワイトデーのことで悩んでるのかな?
市&日「どっから出てきた。


≪アドバイスタイム≫←笑


~当日~


(ここから突然いつもと違う形態の短文。汗)


*十番隊

「乱菊さんこの前はどーも。」
「アラ修兵v『お返し期待してるわよv』って言っただけあったわ。」
「そりゃ乱菊さんにそんなん言われたら誰でも返しますって…。」
「ちょっと、それどういう意味よ?」
「や、いい意味でですって」


 檜佐木先輩と乱菊さん。お互い義理だって分かってる関係。檜佐木先輩も哀しいなんて思わないけれども、お返しはきちんと乱菊さんが欲しいものを聞いておく先輩。彼は多分さりげなく律儀な人。


「松本。」
「あ、たいちょーv」
「昨日まで知らなかったんだが…今日は『ほわいとでー』とかいう日らしいな?」
「ええまあ。あ、でもお返しはいいんですよ。隊長にはヒドイ手作りあげちゃいましたから…。」
「今年は失敗しただけだろうが。お前のは毎年美味い。」


 隊長以外には既成品だった乱菊さん。「無理しなくていいですから!」という言葉を押し切って食べた日番谷君。


「いや…それでだな、一応用意してみた。」
「え、隊長がですか!?あんなの食べさせちゃったのに…。」

 
 ひっそりと手に忍ばせていたのは、薄い色合いの珈琲より更に淡いベージュの包装紙に、モスグリーンのリボン。明らかに現世で手に入れた風な出で立ち。一瞬指輪かと錯覚したけれども、箱は日番谷君の手に収まりきらない直方体。期待しすぎね、と自嘲しながらそっと受け取る乱菊さん。


「いいんですか?」
「ああ、返されても俺にはどうしようもねえ。」


 常にぶっきらぼうな返事を賜るけれど、それも優しさ。開けてもいいですか、と聞きたい思いがありつつも、目前の彼の視線が手元に向いておりました。その視線が乱菊さんの反応を窺っているのは明らか。
 恐る恐る開けてみれば、彼の刀を思わせる水晶の肢体。周囲の気体を全て反射させ、万華鏡のように代わる代わる光が顔を変えてゆく、美しい小瓶がありました。
 中を窺えば淡黄色の揺れる液体。それが水晶に映り住み、まるで琥珀のような光沢を見せて。


「綺麗です、けど…どうなさったんですか?」
「とある人物と考えあぐねた結果だ。お前いつも瀞霊廷の店で香買ってるだろ?たまには現世の香を使ってみるのもいいんじゃねえかと思ってな。」
「ありがとうございます…アラ?これ何の香りですか?」
「香の土台は百合なんだと。迷ったんだけどな、何となく百合って聞いた時お前に合ってるような気がしたんだ。」
「正解ですね。だって百合は十番隊の隊章なんだもの。」
「…後悔するなよ。」
「しませんよ、そんなもの。」


 彼女の答えを聞くのが少しばかり恐ろしかったのは、おそらく彼女の踏む地から滲む香りが強いお陰。


*きっと乱菊さんの存在は大きいんだろうな、と。



*三番隊


「吉良副隊長、この間はありがとうございました。」
「そんな、いいのに。」
「いえいえ、毎年ご苦労様です。
「隊長にあげるからには、隊員にあげないわけにいかないからね。」
「…女性隊員へのお返しまでおありになるのに…。」


 三席とイヅル。隊長にあげるならこっそりあげればいいのに、わざわざ隊員の分まで作っちゃうイヅル。今年は散々でした。毎年美味しいのに、お酒とみりんを間違えただけでこの違いです。嬉々として食べた隊員達は皆涙を飲みました。でも全部食べました。


「イヅル。」
「隊長、どうなさいました?」
「十番隊長さんから聞いたんやけどな、今日てホワイトデーいう日なんやて?」
「そうみたいですね。でも…今年は…。」


 現世のことに敏感な市丸隊長がホワイトデーをご存知なかったのも少しばかりの意外な一面。けれどもイヅルは別のことが気になります。だって自分でも自信がなかったものを、隊長に食べさせてしまったんですから。


「イヅルがほんまは料理上手やいうことは知っとるよ。せやから…コレもろてくれる?」
「え…?」


 懐から密やかに取り出したるは、薄っすらと影が落ちるだけの白い包装紙に、深いモカブラウンのリボン。彼が黙って現世へ赴くのはもう慣れたことだけれども、お土産はいつも珍しい現世の品。でもここまで高尚な包みが施されていたのは初めてのこと。


「こんな…頂けません!」
「ええから、開けてみい。」


 促される声は緩慢で優しい。けれども声色とは違って、紡がれる言葉は絶対的な優先事項。表情を窺えば常の飄々とした笑顔。恐れ多く思いながらも、繊細な色をした指に映えるリボンを少しずつ解きます。
 零れたのは、ころりと不安定な丸み。出てきたのはつるりと薄い硝子の容器。滑らかな表面にはささやかなアルファベット。当然読めはしないけれども、羅列されたその文字は、中の色を映して艶かしい様。
 思わず掲げて覗けば、新緑を侵したような淡い翡翠色。透き通る先には、色の薄い隊長の姿が垣間見えて、気恥ずかしさにそっと目を伏せるイヅル。


「宜しいんですか?チョコレートのお返しにこんな高価そうなもの…。」
「ええんよ。ボクがあげたいんやから。」
「でも、この香り…どこかで覚えがあるんですけど。」
「あァ、この前ボクが現世から買うて来たんと同じのやからね。」
「あれ現世からお買いになったんですか!?どうりでこの辺りのものとは感じが違うと…。」
「どうせ付けるんやったら同じのがええやん。嫌?」
「いいえ、嬉しいです…。」


 取り巻く世界は常に同じものであれと。


*おまけ


「上手くやったかな…。」
「どうなさったんですか?藍染隊長。」
「いや、ちょっとした指南をね。」


 本当は僕が彼女にあげるつもりだったのだけど、今回は譲ってあげよう。


*はじめ日番谷君には「菊と百合で迷った」という科白があったのですが、「菊がベースの香水なんてあるんですか」という思いから没に。(笑)
*藍染隊長はちゃんと別のものを返しました。(笑)

こもごも2。(色々)

2006-03-12 21:28:35 | 過去作品(BLEACH)
巡る時の色。(ギンイヅ・吉良夫妻)


*やはり知り合い設定です…。(汗)


 すたんと樹木の枝から身を降ろし、ギンは石の方に視線をやる。イヅルが病床に伏せっているために、一月に一度訪れている墓掃除が出来ぬと言い、あまりに哀しげな顔をするので仕方なしに赴いてはみるのだが、どうにも慣れない。
 そもそも墓掃除というもの自体、それほど頻度のあるものではないであろう。彼岸や盆などに赴き、参った際にするものであると思っていたのだが、イヅルは殊勝に通い続けているらしかった。





「…イヅルが来た時はそないにしおらしゅうしてはりますの?」
 含んだような笑みを浮かべ、墓の方を見やればぽつねんとぬばたまの髪を携えた青年が佇んでいる。奥方は見受けられぬように思えた。若き日の―とは言えども死した頃の―吉良景清は、任務に明け暮れていた時代の死覆装を捨て、穏やかな風情の羽織袴を纏っている。けれどもその笑みの方はといえば、少しも穏やかではない。
「相変わらず失礼だな市丸。イヅルが来た時は出るに出られないだけで、私達はいつでもしおらしいじゃないか。」
「…可笑しなこと言わはる。」
 どこがだ、と笑い、ギンは井戸から賜った水を抱えて墓の前まで足を運ばせた。すると景清の方も何か目論むような笑みを見せ、すたすたと木の幹まで歩く。
「シヅカさんはおられへんみたいやね。」
「感冒を患ったらしい。」
「親子てそないなとこまで似るんや。イヅルも風邪で来られへんのやて。」
「はは、双子のようだな。」
 双子というものは痛み分けをすることがあるらしい。そのようなことを言って景清は微笑ましげに瞳を細めた。ギンは手酌を持ち、ふうんと頷いた後容赦なく墓石に水を引っかけた。けれども景清は、何ともなしにそのまま佇んでいる。
「…何や、何ともあらへんのですね。」
「そりゃ、墓石は家と同じだからな。それとも私達そのものの媒体だと思ったか?」
「そんなとこですわ。」
 それなら中のシヅカにも響くじゃないか。感冒を患っていると言ったのにこの人でなし、と穏やかに捲くし立てる景清を尻目に、「人でなし言われるんは慣れとります」と答えながら墓石を擦る。当然、媒体だなどと思ってはいない。ならば霊体というものは、屋根もなく吹き曝しの目に遭っていることになるのだから。
「そういえばお前、仕事はいいのか?」
「仕事やなんてボクにとってはあってないようなもんですわ。」
「五番隊時代は真面目だったのになあ、さぞや藍染も舌を巻いていることだろう。」
「しとらへんわけやない。せやけど今日はイヅルのためですから。」
 擦った跡を再び水で撫で、挑戦的な笑みを投げかける。景清は「上出来だ」と言わんばかりに鼻で笑ってみせた。景清は木々の境に佇んでいた身をこちらへ動かしてくると、いとおしむように墓石を撫ぜる。ギンはそれを不可思議な表情で眺めた。
「それにしても、木の上から現れる人間が多いものだな。」
「はあ。」
「数十年前にもいたよ。おそらく木の上で寝ていたんだろうな。あれはイヅルが霊術院へ発つ日だった。」
「そらえろうすんません。」
「いや。」
 不快なわけではないんだ、と景清は答える。淡い木漏れ日の差し込む場所に墓を与えてくれたのは、一体誰の気遣いであろうと考えてきたのだ。そのようなところから時折人間が降り立つのも、悪くはない。必要以上に危害を加えられなければ、だけれども。
「イヅルが生けたんですやろ?これ。」
 どこか話を逸らすように、ギンが墓前の水仙を指差す。イヅルが訪れたのは随分と前だが、尸魂界という場所は花の枯れゆく速度も極端に遅い。切花とて、開花時期の終了間際まで保つこともあるほどだ。
「ああ、白い水仙しか私は知らなかったが。」
「ラッパ水仙言うんですよ、これ。イヅルの家の庭に咲いとった。」
「同じ色だな。」
「せやなあ、同じ色や。」
 鼻腔を掠める香りを放つ花の色は、愛しい人の淡い髪の色と大層よく似ている。ギンと景清は、初めて何の含みも持たぬ清い笑い顔を見せた。ギンは、挿げ替えるために持参したはずの花をそのまま持ち帰るべく、手に提げた。
「これがええんでしょ。」
「ああ、これがいい。」
 さようならという言葉も、また来ますという言葉も、何も口にせずそれだけ言って墓を後にする。景清は特別無礼とも冷徹とも感じず、ただ花弁の整った清い色の花を、周囲から切り取ったかのように見つめているだけであった。
 ギンは、イヅルから預かった桶と花のみを携え、淡黄色の地を一心に歩く。一刻も早くイヅルの髪の色を拝みたいと思う。けれどもおそらく、手に提げた花をなぜ生けてこなかったのかと、叱責を受けるのが先なのであろう。そのようなことを想い、足を速めながら僅かに苦笑した。





彼岸道。(荻花)



 透けるように白かった。初めて彼を目にした時、彼は何かを模索するようにして必死に前を見据えている最中で、治癒をする際には装着するのが常である手袋をしっかりと身に付けていたので、腕を見ることなどままならなかったはずである。
 けれども荻堂は、花太郎の怯えたような面差しからして、腕も、おそらく垣間見えぬ足の先までも白いのであろうとそう思っていた。





 常に何かを恐れるようにして吊り下がっている眉は、波が揺れる様子もなく穏やかである。それを些かつまらなくも思うが、凛とした姿勢はそうそうまみえるものではないので、しかと見届けておこうと思わず筆を止めた。
 時刻は正午を回っており、周囲の隊員は皆どこかしらに昼食を求めて出て行った。けれども花太郎だけは、常と変わらず淡々と机に向かっている。彼は昼食を取らぬのが常である。昼休憩を捨てたところで終わる仕事でもないのだが、何を思っているのか筆を落ち着ける様子もない。
(ここにこうして残っていることも、気付いていないのだろうな…。)
 先程から視線を他に逸らす余裕もないといった様子で、細い筆を紙に走らせている。暫くそのまま視線をそちらへと向けていると、ふと花太郎がふうと額に手をやったので、荻堂は同じく一つ溜息を吐き声をかけた。
「お疲れですか、山田七席。」
「はっ…いえ、あの…いらしたんですね、荻堂八席。」
「ええ。」
 これ幸いとばかりに、荻堂は動かしている振りをしていた筆を止めた。そうして同じように筆を止め、申し訳なさげに俯いてしまう花太郎を一瞥すると、呆れたような様子で低い声を出す。
「いつも昼食をお召し上がりになりませんね。」
「ええと、その…はい。」
「どこかお身体の調子がお悪いのですか?近頃は春でも夏でもところ構わず感冒が流行ると聞きますが。」
 花太郎は「いえ…」と一言答えたきり、口を閉ざした。席次が下位の者に対しても敬う素振りを崩さぬところは品が宜しいと言っても良いのだろうが、常に誰も彼もが恐ろしいとでも言わんばかりの怯えようを見せていては、折角の気性の良さも表面には出てこない。
「仕事をするのが遅いので、こうしなければ追いつかないんです。」
「持ち帰れば済むことでしょう。」
「持って帰ってもいるんですよ。でも僕は…。」
「山田七席は決して怠惰はしていらっしゃいませんし、お仕事をなさる速度も他の者と変わりませんよ。」
「いえ、でも、」
「仰らんとされていることは存じております。仮にも七席であられるのに、どうしてそう雑用を安請け合いなさるんですか。」
「好きなんです。掃除とか整頓とか、そういうことの方が合っているような気もしますし…。」
 ふとした瞬間口を突いて出た言葉だったが、目前の荻堂が眉をひそめたのが見受けられ、何か機嫌を損ねることを言ってしまったのであろうかと慌てた。けれども何の弁解もしようがない。
「ご自分の価値が分からない方ですね。四番隊にいらっしゃる時点で他より秀でていることを証明されたようなものだっていうのに、あなたはその上席官だ。充分誇っていいものを。」
「…すみません。」
 花太郎の斬魂刀である瓢丸は、治癒能力に長けている。四番隊へと配属された死神はそれだけで皆他の者達とは異なるという称号を賜るのにも拘らず、どうしてそこまで自分を卑下するのか、荻堂には疑問でならなかった。
「それから、仕事を溜められるよりも無理をなさることの方が、上にとってもご迷惑だと思いますけど。」
「…はあ、すみません。」
 それほど席次が違わぬとはいえ、部下である自分に諭されるまま、何の反論もないというのは非常に違和感の生じるものである。最も、日頃揶揄を加えてばかりいる伊江村の態度を思い起こせば、そう感じてしまうことは当然のようにも思う。
「…もう一つ、申し上げても宜しいですか。」
「はい。」
「毎日三食、きちんと食事を採りなさい。」
「…はい。」
 まるで叱責を受ける子供のような風情で、大人しく荻堂の言うことを聞いている。年齢で言えば荻堂の方が幾分年かさであるので、これでは真の兄弟のようではないか、と荻堂は嘆息した。
「勿論、今もです。先にお食事をなさって下さい。」
「でも、荻堂さん…。」
「でもじゃありません。きちんと食事を採りなさい、と、あなたは先程頷かれたばかりです。」
「そうでした…。」
 俯く度に、線の細いぬばたまの髪が揺れる。荻堂はどうも居た堪れなくなり、椅子から立ち上がるとすぐさま花太郎の手から筆を奪った。花太郎は暫く丸い眼をぱちくりと動かしたが、そのまま頬を緩めてにこりと笑う。
「ご免なさい、ぐずぐずしてしまって。」
「全くです。…それにしても細い腕ですね、本当にしっかり食べて下さらないと誰にでも簡単に組み敷かれておしまいになって私が困りますよ。」
「え…。」
 理解出来ぬ様子で首を傾げるが、荻堂は微笑を浮かべてそれから何も答えない。荻堂は花太郎の腕をそのまま引き、立ち上がらせてから言った。
「私は医療に長けているということを誇りに思っています。ですから先程申し上げた通り、あなたは少し自信を持たれるべきです。」
「そう、ですね…。」
「治癒霊力に長けていて、謙虚で真面目で偽りもない。何も恥じる必要なんてないでしょう?」
「ありがとうございます。名前以外で褒められたことがないので、嬉しいです…。」
「それに、とても綺麗な人です。」
 俯かせていた顔を、思わず上向かせる。荻堂は変わらず笑みを湛えており、恥じらう様子も揶揄する様子も見られなかった。花太郎は少しばかり困惑したが、荻堂は花太郎の白い腕を急かすように引き、何事もなかったかのように言う。
「行きましょうか。時間がありません。」
「はっ…はい!」
 荻堂はと言えば、初めて姿を見止めた時と変わらぬ白い腕を見つめ、少しばかり微笑ましく思った。すると花太郎の方から淡い香りが漂うのを感じ、さてはと尋ねる。
「良い香りがしますね。」
「食堂からでしょうか?」
「いえ、山田七席から。」
「ああ、昼前に講堂へ飾る桔梗を運んで―…」
 荻堂の言わんとするところを察したのか、そのまま押し黙る。そして今にも「すみません」と声を上げそうに見えたので、やれやれとそれを制した。やはり自分の予想していた通りであった、と。
「敵いませんよ、あなたには。」
 悪びれた表情を浮かべる花太郎に向かって、そっと顔を笑みに染める。花太郎はくつくつと笑う荻堂の意図するところが分からず訝しげな瞳で見据えたが、それすらも可愛らしいと思うのだから救いようがないと、荻堂は衝動的に目前の肢体を引き寄せた。



 彼岸だと思ったのだ。目前にすらりと姿を現した白い肢体を見止めた際に、その手が零れるような紅色を鎮めた時、おそらくあの手はこの世の彼岸なのであろうと、そう思ったのだ。
 ならばあの手に導かれる職を誇りに生きよと、さすればあの腕と同じ色をした、仄白い光と共に並ぶことも叶うであろう、と。





 一つ先を怯えるように歩く背から、別たれる彼岸を歩むことを望んでいるのだ。




艶告げたし。(日乱、会話のみ)


「あら、春告げ鳥ですよ。隊長。」

「何だそれは、目白じゃねえのか?」

「いいえ、鶯ですよホラ。ホーホケキョって言ってるじゃありませんか。」

「ああ…成る程。」

「流石に執務室では何の趣も感じられませんけど。」

「鶯の声くらいは聞こえるだろ。」

「違いますよ、雰囲気がね。書類に塗れていては。」

「そうさせてんのはどこの誰だ?」

「あら、どこの誰かしら。」

「お前だ、お前。」

「精一杯尽力させて頂いてるつもりですよ、これでも。」

「…しかし鶯か。似合わねえな。」

「あたしにですか?」

「いや、俺の家に。」

「そりゃ、桜のひとつも咲いてませんからねえ。確かに相応じゃありませんけど。」

「まあ、悪くはねえけどな。」

「艶かしいものがないと鶯は似合いませんからね。」

「…そうか?」



 最も艶かしいものが目前にあることは、知らぬ存ぜぬ。




*あとがき*
 こもごも第2弾です。またもや色々可笑しいことに…orz

今更ですがお義父さんと呼ばせて下さい。

2006-03-09 20:00:58 | 過去作品(BLEACH)
*タイトルからして「またか」と突っ込まれそうなプロポーズネタです。
*ギンイヅに至っては相変わらず吉良夫妻が出張っておりますのでご注意下さい。(コラ)
*何か色んな小ネタとリンクしておりますが、単体でも全然大丈夫です。(笑)
*いつものことですが、カッコいい日番谷君がお好きな方、攻隊長が苦手な方はご注意下さい。(汗)



*十番隊~お義父さんは銀狐~


 三番隊舎、周りの人間は出払ってますが、副隊長だけが黙々と仕事をしております。


 かぽーん←ししおどしの幻聴(普通見合いの席で使います 笑)


日「…それで、だ。順序は色々すっ飛ばしてお嬢さんを俺に下さい。
市「アホですやろ。大体十番隊長さん書類出しに来ただけとちゃいますの?」
日「それはそうだが…何となく松本も連れて来てみたぞ?
乱「何ですかたいちょー?お茶じゃなかったんですか?」
市「お前も騙されるんやない、乱菊。
日「そもそもお前がいつまでたっても了承しねえのが悪いんだろうが…。」
市「せやから十番隊長さんが成長しはってからて言うたやないですか。」


日「大体何の理由もなくダメだダメだ言いやがって…文句があるならちゃぶ台の一つでもひっくり返してみろよ!!(見たいだけ)
市「何やのその理不尽な思い込み。嫁の父親が皆そんなんやと思うてたら大間違いやろ。大体うちにちゃぶ台なんてあらへんし!」
イ「何でしたらどうぞ?」
市「何で持っとるの、イヅル。突然出てきよって…。」

~中略~

日「松本だって了承してんだぞ?」
乱「何がですか?」
日「お前別に俺と添い遂げてもいいよな?」
乱「いいですよ別に。」
市「添い遂げる、て…話飛びすぎやろ。」
日「とにかく、お前もいい加減観念しろよ市丸。」
市「せやから十番隊長さんが成長しはったらええて言うとるやん。」
日「よし、言ったな?俺がどんな男になっても二言はないな?
市「どんな男になるつもりやの。


日「そうするとつまりお前らはお義父さんお義母さんなわけか?(さも嫌そうな顔)
市「別にええんですよ?嫌なら…ホラ、イヅルも「ふつつかな娘ですが…」て言わなあかんやろ!
イ「一体僕をどうしたいんですか市丸隊長。


*近頃うちの小ネタの日番谷君については、注意書きどころか隔離しなければならないのではないかと思い始めました。(コラ)


*五番隊~お義父さんは小学生~


 普通に、ご両親にご挨拶に行きます設定で。やっぱりこういう時は白藍染で。(笑)


藍「とうとう君のご両親にご挨拶するんだね、緊張するなあ。」
桃「大丈夫ですよ、藍染隊長ならきっと気に入られますから!」
藍「だといいんだけど…。」

 すすすと襖開きます。ご両親です。

藍「初めまして、藍染惣右介と…何やってるんだい?日番谷君。それに松本君も…。」
日「父母ですがそれが何か?仕方ねえだろ俺と雛森にはばあちゃんしかいねえんだよ!」
藍「じゃあおばあさんは…?」
日「この日のことを伝えるのが遅れたんでな、何も知らずに町内会の旅行だ。
藍(町内会…!?)


藍「どうでもいいことだけど日番谷君、銀色の口ひげが更に痛々しいよ?
日「うるせえ黙れ。貫禄を出すためだ。」
(逆効果だと思うけどなあ…。)


藍「まあ、君が代理なら仕方ない。お嬢さんと結婚させて下さい。」

 最近のマナーでは「娘さんを下さい」と言っちゃダメなんだそうです。物じゃないんだからって。

日「…俺が許すと思うか?」
藍「うんぶっちゃけ思ってはいない。どうせ腹の底は真っ黒だってバレてるんだろうしね☆」
日「そもそもお前結構女関係派手だっただろ。歳取ってから落ち着いたクチだって京楽から聞いたぞ?」

 物腰は昔から柔らかくても(見た目は。笑)女関係は割と色々あってそうだな、と。(笑)

藍「誰にだって若い頃はあるんだよ?日番谷君…。(哀れむような目)
日「馬鹿にするな。つうか慰めんな、余計虚しい。」

 だから君もきっと大きくなれるさ…という慰め。(笑)

藍「うんだから若気の至り!若気の至り!」
日「騙されるかよ。お前なんかが雛森を幸せに出来るはずないだろ。」


藍「…お義母さん、娘さんを僕に!
乱「ふつつか者の娘ですが、どうぞ宜しくお願い致します。(礼)」
日「オイコラ松本ォォォォォ!!!!
乱「えーだって隊長が言ったんじゃありませんか。段取りがついたらこう言えって!」
日「雰囲気ってもんがあんだろ、雰囲気ってもんが!」


 結局もらわれてゆくようです。(笑)


*三番隊~お義父さんは実の父~

*しつこいようですが吉良夫妻捏造です。色々すごいことになっております。
(汗)
*いつもの如く市丸さんとご両親知り合い設定で。
*景→イヅル父景清さん シ→イヅル母シヅカさんです。


 吉良夫妻の墓前。二人で手を合わせながら言います。


市「景清さん、シヅカさん、ボク今度イヅル君と結婚さしてもらいます。」
イ「市丸隊長…。」


 にっこり笑う二人。前提からしておかしいとか気にしない。(笑)


市「…よし!ほんならすぐ帰ろ!さっさ帰ろ!何か出てくる前に帰ろ!!
イ「ど…どうしたんですか?そんなに急いで…。」
市「変なもんが出てくる前に帰らんとあかんのや!


景「変なものとは随分じゃないか、市丸。
市「うわ、出た。
シ「失礼ではありませんか。仮にも義理の父と母に向かって…。」
市「そんならスンナリ認めてくれはりますね?」


景「…それなら市丸、お前に試練を与えよう。世界に散らばる七つの宝石と囚われの姫を見つけ…。
市「何の話や。
景「結構面白いんだぞ、現世の「あーるぴーじー」とかいうの。」
市「アンタら魂魄でしょうが…。」


シ「それでイヅル、あなたは本当にいいの?こんな人でいいの?」
市「アンタも何やのシヅカさん。
イ「はい、母上。僕は幸せですv」
市「イヅル…。」
シ「…チッ。」
市「えっ今舌打ちしはった!?


市「大体元々許されてたもんを命日やからって何で改めて言わなあかんのですか。」
景「いやだっていつお前がイヅルを泣かすか分からないじゃないか…。いつでも離縁する口実が出来るようにね、毎年許しを請いに来てくれてもいいぞ☆
市「アンタ何かボクの元上司に似てきたわ。



 景清さんとシヅカさんがこんなんですみません…。設定としてはこちら(クリック)の吉良夫妻寄りで。(笑)


 ちなみに何で日番谷君は「お嬢さんを下さい」と言ってしまったかというと、色々なところの聞きかじりだからです。(笑)