Doll of Deserting

はじめにサイトの説明からご覧下さい。日記などのメニューは左下にございますブックマークからどうぞ。

ミ○ド。

2005-11-29 20:23:57 | 過去作品(BLEACH)
 何ていうんですかね、息抜きくらいしないとやってられない感じで小ネタのネタを考えていたのですが、そうこうしているうちにうっかりミス○のCMをうっかり鰤変換。(わあお)
 クリスマスバージョンの新しいCMなんですが、まあ多分配役っつったらこんな感じ。セリフはうろ覚え。ていうかシチュエーションもうろ覚え。誰が何を言ったかなんてほぼ覚えてません。80%オリジナルの間違った妄想炸裂です。(死ね)


A「じゃあ、ミ○ドノエルで。」
桃「はいvミス○ノエルですね?」
B「ミス○のLはないの?」
日「は?」
B「いやだから、ミスドのMとかLはないの?」
市「それはですねえ…。」
日「いや、ねえよ!?


 あまりにボケとツッコミがしっかりと分かれていたのでうっかりこういう配役で変換してしまったミス○CM。ここまでだったら別に日記でいいんですよ。しかしここからが問題なんです。この3人と客のラブストーリーで小ネタが書けそうだと思ったのがそもそもの間違いだったんです。(待て)


 簡易キャラ説明。

市丸 ギン:ただのバイトのくせにやたら金持ち。ぶっちゃけ道楽。つうかバイトするような年齢でもありません。(笑)多分お仕事はオーナーとかそんなんです。ヒラに見せかけて偉い人なんです。(ありがち)


 ある日のこと、大学生の吉良イヅルさんは友達とのパーティーで買出しを任されてきました。あとはケーキを受け取りに行くだけです。あ、でも阿散井君何かお菓子もあった方がいいって言ってたもんなあ。人数分買っていくか、みたいなノリでかの有名なミスター何とかに入ります。(笑)


桃「いらっしゃいませーvあ、あれ?吉良君?」
イ「あ、雛森君がバイトしてるのってここだったんだ…。こんな時もバイトなんて大変だね。今日のパーティーにも誘われてたんだろう?」
桃「ううん、いいの。ここの仕事楽しいし…。」
イ「どうせ遅くまでやってると思うし、終わってから時間あったらおいでよ。」
桃「うん!ありがとう。」
市「え?雛森ちゃんの知り合いなん?」
桃「はい。あ、吉良君。ここの店長さん(ってことになってる)の市丸さんだよ。」
イ「あ、宜しくお願いします…。」
市「うん、宜しゅう。」

市「(何やえらい可愛えコやなあ…v)お持ち帰りですか?」
イ「あ、はい。ええとオールドファッションとアップルパイと…フレンチクルーラーとそれから…。」
市「それから?え…何?ボクのことテイクアウト?いやあ照れるわお客さんv
イ「はっ…?ええと…。」
日「言ってねえし言いたくもねえってよ!いいからさっさと仕事しやがれこの道楽オヤジが!!
市「うわあ日番谷君ひっど…。お兄さん(強調)心が痛いわあ…。」
 
 この後ちゃっかりメルアド交換とかしちゃう市丸さん。(笑)


 アレ?日番谷君がまともっぽい…。いえいえ、これ小ネタですから。うちの日番谷君が小ネタでまともとかありえませんから。(笑)


日番谷 冬獅郎:見た目は子供。正体はお偉いさんの息子。大学飛び級卒済。(ありがち)幼馴染の桃が突然バイトしたいと言い出したので、心配で入ってきた過保護なお兄ちゃん。(だと彼は言い張る。笑)


 ある日幼馴染の市丸さんがお遊びで店員をやっていると聞いたので、ひやかしに来てみた乱菊さん。クリスマスってこともあってちょっと派手。目立ちます。


桃「いらっしゃいませv(わあ、綺麗な人…。)」
市「お持ち帰りですか?お持ち帰りですね?それともこの哀れな子羊(日番谷少年)テイクアウトで?
乱「じゃあその可愛い男の子テイクアウトで…って違うわよ!アンタの仕事ぶりを身に来てやったんじゃない。何よそんな邪険にして。」
市「せやかて、どうせ茶化しに来たんやろ?」

 乱菊さんにだけはこれ以上弱みを握らせたくない市丸さん。(笑)

市「しかも目立って仕方あれへんやん。どっか…。」
日「よしお客様、ちょっとあちらの控え室(個室)でお待ち下さい。同伴しますから。
市「あーゴメン乱菊忘れとった。そのコ子羊やなかったわ。気ィつけえ。油断しとると喰われるで。
乱「…!?(見た目の印象と激しく違ったことに驚愕。笑)」


 乱日に見せかけてやはり日乱、というわけで、美人なお姉さんの出現にいささか動揺した(?)日番谷君はその後ちょっと我に返り、大人しく連絡先を聞くだけに収めました。(大人しく…?)



 
 ちなみに、桃はというとある日かなり年上のとてもタイプな男性を見つけるんですが、きっと恋人とかいるんだろうな…と諦めモードです。
 ちなみに、同僚&上司からのイジメ。


日「あーやめとけやめとけ。ありゃ歳的に見て明らかに妻子持ちだろ。(幼馴染がすごい年上とくっつくのは嫌なだけ。笑)」
市「せやねえ…。しかも多分あのおっさん変態やで。そんなカンジするもん。(実は藍染さんには奥さんも子供もいないってことを知っているんだけど面白そうなので黙ってるいじめっ子。笑)」
桃「ううう…。(涙)」



 何だかんだでその後勇気を振り絞った桃の功績によりいい雰囲気になれます。ていうか多分幼馴染と上司の恋人(になったらしい)が「もう桃だって子供じゃないんですから…。」とか「雛森君のこと虐めちゃダメじゃないですか!」とか言ってくれたお陰です。(ホラ所詮うちのはバカッポーですからあのぅ…。汗)


 いや、いたいけなミス○からこんな話広げてすみません。(土下座)



燐光。:前編(日番谷隊長就任話。ギンイヅ描写有)

2005-11-28 22:21:50 | 過去作品(BLEACH)
*時系列がバラバラです。(汗)



 やがて痛々しく、それは変貌を遂げる。



 隊長試験の前日、重国は日番谷を呼び出した。何でも、試験を行う前にあらかじめ既存の隊長各位を集め、実力のほどを見せておくのだそうだ。そのようなことをせずとも明日になれば試験が行われ、実力のほどははっきりと分かる。しかしおそらく、あえてそうするのは重国の意思であろう。
 何せ隊長試験には全員が赴き監督するのではない。最年少隊長が生まれるやもしれぬ機会を見逃す者がいるとは何とも口惜しい、と以前重国が話していたのを、日番谷はしかと聞き届けていた。この世界のことならば知らぬことはないと自負しても良い重国がそこまでこだわるとは、そんなに物珍しいものなのかとむしろ日番谷の方が目を剥いてしまいそうだ。
「馬鹿らしいと思うかもしれんが、ここは一つ了承してやってくれぬか。」
「…決してそのようなことは。」
 日番谷はそう言うが、やはり重国は心情を見通している。怪訝な表情を見せた日番谷を一瞥し、「案ずるでない」と笑みを浮かべた。
 未だ総隊長の意志に従い続ける自分を嘲笑い、明日が来ようとそのまた明日が来ようと、飼われる身であることは何ら変わらぬのだ、と日番谷は絶望的な顔をした。重国はその顔を、何やら面白そうな眼差しで見つめていた。


 
 仰々しい室内の雰囲気が日番谷を襲うが、これといってそれが彼を貶めることはなかった。
 きつい双眸で真っ直ぐに目の前を見据えている。通常の少年では考えられぬその眼差しに、一同は顔を見合わせた。確かに尋常ではない。こちらの体内が打ち震えるかのように強烈な霊圧が向かって来ると、長年隊長職を担ってきた者とて身を硬くする。


―…成る程。


 初めに口を開いたのは浮竹であった。これは正しく天童である、と彼が重々しく頷くと、その場の誰もがそれに続く。しかし市丸ギンだけは、飄々とした笑みを絶やさず、ただ興味深げに日番谷を眺めていただけであった。思えば、その時既に日番谷はギンのことをいけ好かないと感じていたのかもしれない。
「…どうじゃ、皆の衆。」
 重国が静かに問うてみると、隊長のいずれもが理解出来たとでも言うようにただ首を縦に動かした。重国はそれを一通り眺め、うむ、と満足げに一声上げる。日番谷はまるで自分が芸をする見世物であるかのように思えて、少しばかり顔をしかめた。
「日番谷が十番隊隊長となることに、異を唱える者はおるか。」
「…それは明日にならねば。」
 今まで口を噤んでいた白哉がやっと声を上げる。最もだ、と日番谷は思った。元々隊長試験は明日なのであるし、自分は未だ卍解を見せていない。相応の霊圧を示したからといって、そう易々と隊長になれるほど甘くはないと日番谷は重々に存じ上げていた。
「うむ、そうじゃな。しかしわしは、あえてこの場にて皆に了承を得たい。明日になり、もし卍解を成すようなことがあれば、有無を言わさず日番谷は隊長になることを強いられるじゃろう。何せ今は席が足らぬのじゃからな。しかし皆も知っておる通り、この度のことは前例なきものじゃ。後々皆の不満に日番谷が苦心を科せられるのならば、今ここで異論を受ける方がよい。」
 そういうことか、と思う。確かにいざ隊長の任に就くことが決定してから不満を申し受けるより、その前に問題を解決しておいた方が幾らか都合は良いであろう。しかし重国の言葉に、誰一人として挙手をする者は見受けられない。
「ええんやないですか。」
 ふと日番谷が顔を上げると、ギンが笑みを浮かべていた。自分の意向を明らかにせず、ただただ他者の意見に従っているだけであったギンが意思を露にしたのは思えば初めてのことだが、日番谷は特に何とも思わず、胡散臭いとだけ感じていた。
「ほんまに聞かなあかんのは、ボクらの気持ちやのうてその子の意志ですやろ。」
「…お主にしては最もな意見じゃのう。」
「そらどうも。」
 一息に言ってから、ギンは日番谷に向かってふいににこりとした。日番谷は相も変わらずいけ好かないと思うばかりで、好意など抱くわけもないが、なぜギンが自分に興味を抱いたのか、そのことはひどく気になった。
 結局ギンの言葉の後に何か異を唱えようとする者はおらず、曖昧に集会は終了した。しかしギンと日番谷だけは、どうも釈然としない様子で腕組みをしていた。


***


 目まぐるしく舞う美しい昇竜の姿に、監督を務めた藍染、京楽両名の視線は奪われた。同じくその場を共にしている重国の目元も軽く揺れる。感嘆、としか言いようがない。天高く、冷えた空気を軸に回るしなやかな肢体からは、敗退という言葉など少しも感じられなかった。
「…氷輪丸、か…。」
 ぽつりと京楽が呟く。いかにも数多の者を魅了してきたという風なその斬魂刀の名は、氷輪丸というらしい。しかしその名は日番谷しか欲しない。日番谷のみが、所有し、支配することを許されるのである。そう考えると、あの子供は何だ、と驚愕せずにはいられなかった。
 そして更に、目前の蒼は変貌を遂げる。
「卍解。」
 日番谷の口から響く静かな羽音に、氷輪丸は一瞬で大きくその翼を咲き誇らせた。
「…大紅蓮、氷輪丸!」
 白く染まる四方を見つめ、藍染は「これが異端か」と感慨深く呟いた。当の日番谷は、氷輪丸を扱うことに必死で周囲など見えてはいない。しかしそれがまた若輩の強みだ、と藍染は思った。



 遠方から吹きすさぶ穏やかな風が頬を掠める。遠目にも分かる深紅の闇が、静寂の中一日の終幕を告げていた。日番谷は終わったか、と浅い溜息を吐き、暫く廊下にて紅を見つめていると、背後から軽い声がかかった。
「十番隊長さんにならはりましたんやろ?おめでとう。」
「…市丸、いえ、市丸隊長…。」
「そない堅苦しゅうせんでも、今日から同僚やないの。気楽に宜しゅう。」
 細い銀糸を飲み込むような夕闇がよく映える。髪の色は同様であるはずなのに、髪質の問題であろうか。なぜだかこの男の細い髪には儚い風景がよく似合った。青白い痩身を泳がせ、ひたひたとこちらへ寄ってくるその様は、美しいと共に気味の悪い印象を持たせた。
「…副官はどうしたんだ。」
 ギンの言葉に甘えることにして、これといった敬語も使わず日番谷が問う。しかしやはり気にした様子もなく、ギンは表情を変えずに答えた。
「ボクんとこ、替わったばっかやから大変やねん。」
 そういえば、と日番谷が頷く。ギンの副官が度々交代するのは有名な話だが、今度の副官はやけに気に入っているようだと藍染が話していたのを覚えている。確か日番谷の幼馴染である桃と同期だったはずだ。桃が悔しそうな素振りを見せることはなかったが、やはり少々羨ましいようで、前より仕事に励んでいるらしいというのも藍染から聞いた話なのだが。
 仕事どころか隊にすら慣れておらぬ副官を連れ歩くことなど出来ないということか、ギンはやれやれと肩を竦めた。
「今度の副官はえらく気に入っているらしいと聞いてたんだがな。」
「気に入っとるからいうてどこでも連れて行くわけやあらしまへん。どっちかいうたら気に入っとるからこそ、危ないとこには連れて行かれへん思うんやけどね。」
「…危ないなら尚のこと、自分で護ってやるべきじゃねえのか。」
「あきません。あの子は強う見せとるつもりやろうけど、ほんまは弱いんやから。ボクの傍におってもあかんのや。」
「…じゃあなぜそいつを選んだ?」
 ギンの顔付きがふいに鋭くなったような気がして、日番谷は言葉を誤ったかと眉をひそめた。
「せやなあ…。」
 何が続くのかと思いつつ、日番谷はそのままの表情を崩さず黙って聞いている。ギンは、薄く眼光を開いて笑みを作った。


「自分より弱いからこそ、譲れへんもんもありますやろ。」


 ゆるやかに流れるその声から、強い決意が窺えた。日番谷はそうか、と一言呟いて視線を下にやる。ギンは「何や大したことも話せへんかったなあ。そんなら、また」と表情を戻した後言って、瞬時に姿を消した。


 どうもギンの言ったことが気にかかり、落ち着かないまま地に足を着ける。土の上にはしゃがまなければよく見取ることの出来ない蟻の集束があり、日番谷は懐かしい思いに眼を細めた。子供の頃は他愛もない理由でこの列を踏み躙ったこともある。今になって後悔することは多い、とふと目を伏せた。
 既に人間に気付かれなかったのか踏み躙られた後も存在し、死骸すら見受けられぬほど散りじりになってそれは点在している。こういった骸はやがて土に還るのだろうな、と指で掬い上げ、物悲しい気持ちになるのを押さえながらそれを土に埋めた。
 夕凪の残像が眼に痛い。その光は、鮮やかに地面を豊穣した麦のような色に染めた。


『自分より弱いからこそ、譲れへんもんもありますやろ。』


 土に還る。だがそれはいずれ、と日番谷は深く思いを馳せた。
 




■あとがき■
 後編はどうにか日乱な予定です…。いや、日番谷君隊長就任話で日乱がないのはダメだろ!と言い聞かせつつ(笑)乱菊さんとこう…信頼と恋愛のあいだみたいなイチャコラを存分に書きたいと思います。(とか言いつつ出来上がってる時にはただのバカップル秘話になってるんだ。絶対そうだ)
 何というか、気付けば乱菊さんとイヅルがやたら仲良くなってる可能性もアリ。というかもう捏造小説は何でもアリ。(コラ)
 というか、どこらへんがギンイヅかと言いますと、やたら市丸さんが甘っちょろいところに現れているかと思います。(笑)
 というか時系列バラバラですみませ…!

燐光。(冒頭)

2005-11-27 21:49:28 | 過去作品(BLEACH)
 この恥知らず、と罵られたことは幾度もある。



 自分用の矮小な白い羽織を手渡された時も、そのまた昔で言えば霊術院を飛び級で卒業した時も、更にその昔霊術院に首席で入学した時も、俺はとにかく憮然とした態度で構えていた。無論そのような感情を表に押し出したことはないが、聡い人間達は鋭く気が付く。その度に、なぜ嬉しそうにしないのだ、お前は自分達のいる場所よりもうんと上空をいつも軽々しく飛んでいくのに、なぜお前は落胆したような表情をしているのだ、と罵倒されるのだ。
 そうは言われても、そこは決して俺の望む場所ではないのだから仕方がない。今でこそ意識は別の方向に向いているが、当時の俺ときたら桃の背を追うことに躍起になっていた。しかしとうとう隊長になっても桃がこちらを見ることはなく、それこそ落胆したのを覚えている。



 言うなれば、俺はあの瞬間、絶望と再生のどちらをも失ったのだ。



「して、お主はどうする。日番谷よ。」
「…総隊長を然りと心得ております。」
 慣れぬ整った口調に舌を巻きつつもごもごと口を動かす。重国は何を思ったのか、切れ長の眼を更に狭めてさも可笑しそうに笑った。日番谷はそれに対して訝しげな顔をし、眉をひそめる。元は一番隊で腕を奮った日番谷である。しかし、七番隊隊長となった狛村から、重国の意向が全てであると言わしめられてきた。それに従っただけだと言うのに、重国はらしくないとでも思うかのように表情を変えない。
「のう日番谷、お前はこれから一隊の隊長となる男なのじゃぞ。わしに従うだけでどうする。もう何もお前を隔てる者はおらぬ。お前なら立派にまっとうするじゃろう。…日番谷、お前がただの童でないことを、皆に知らしめてはくれぬか。」
「…そのように。」
 重国は、入隊して日も浅く席官入りすらしていなかった日番谷を殊の外高く買っていた。だからこそ、体躯が幼いというだけでやたらと虐げられる日番谷に何かを目をかけてくれたし、何よりそれほど評価を受けられぬことを許せないようでもあった。十番隊隊長が不在となった今、いち早く卍解を会得した日番谷を推薦したのは他ならぬ重国である。



 いかにも少年らしい艶かしさを携えた日番谷の容貌を、重国はしげしげと見やる。これならばおそらく彼女も気に入るのではないかと思いながら。既に十番隊副隊長として席を置いている乱菊が容姿だけで気に入るかどうかを決めるとは思わなかったが、少なくとも若い娘には大方受け入れられるであろうというような容姿を日番谷はしているのだから、第一印象は決して悪くないはずである。
「ならば、引き受けてくれるな。日番谷。」
「慎んでお受け致します。」
 日番谷にはやはり似合わぬかしこまった様子にまたも眼を細めながら、重国がうん、と重々しく頷いた。日番谷はどうも釈然としない様子でそれを眺めていた。



 瞼の裏の光は、今も点在している。



*あとがき*
 ずっと書いてみたかった日番谷君が隊長になる時(なる前?)のお話。これから藍染隊長とかギンイヅとか日乱描写が入るわけです。(最後はともかくあとは何でだよ)
 どうも日番谷君が隊長になる時、となると、色々なキャラを絡めたいのですよ。続きは後日発表。あまりに長々しくなりそうだったのでここで一区切りです。(汗)
 どうでもいいことですが、自分で書きながら慣れてない敬語日番谷に悶々としてみたり。(お前の萌えはどうでもいいんだよ)日番谷君が元一番隊とかいうのは激しい妄想です…。orzしかし日番谷君は総隊長に対してどういう言葉遣いをしてるんでしょうか。それが気になって仕方がない今日この頃です。(終わってしまえ)

宵夢の蝶。(ギンイヅ)*死ネタ注意!

2005-11-26 17:41:07 | 過去作品(BLEACH)
*死ネタを含みます。ご注意下さい。
*原作を色々と無視している部分がありますので、目を瞑って頂ける方のみご覧下さい。(汗)




 それは愛であり脆弱な言の葉であり、そしてまたひどく無様だった。陰鬱な情景に重なるような悲愴感が押し寄せ、再び消え行く。それを感じながら、私はまた機を織る。繊細な糸一本一本に冷え切った指を絡ませ、これもまた冷めた色をした白色の反物を織る。外はしんとしている。



 私が自分のことを「わたし」と呼んだ時、大層悲しげな顔をした人がいた。その人は笑みを浮かべてはいたが、何ともいえないような絶望を孕んでいるように見えた。私は何と言って返したら良いのかほとほと分からず、眉を吊り下げて終始やり過ごした。私はその人の名を知らぬが、その人は私の名を知っていた。
「何や、またそないなことしとるん?」
「はい…。」
 いけなかっただろうかと手を止めると、彼は「ええよ」と答えて私の指を促す。なぜこのようなことが出来るのかも分からないが、私は機を織ることしか出来ずにいた。他にやることといえば何もない。覚えていることといえば、据えた部屋の香りと生温い冷気のみである。
しかし住まわせてもらっている身であるので、何かお仕事をさせて頂けませんか、と頼んだことはある。日々行っている機織りは趣味同然であるので、それで収入を得ることは出来ない。幸い彼は高い身分に就いているようなので、仕事ならば幾らでもあるだろうと思われた。が、彼は結局何もしなくていいの一点張りで、私は相も変わらず怠慢な日常を送っている。



 一度だけ、夜伽の相手を申し出たこともある。私は体躯からしておそらく男であると思われたが、男にしては頼りない見目をしていた。そのような行為に及ぶことならば出来るような気がしたのである。しかし、彼はやはり拒絶した。
「…ほんまにそないなこと言うとるん?」
 今までにないような鋭い表情を向けられ、脆弱な身体がびくりと震える。気を悪くされたのであろうということは見て取れたが、どうすることも出来ずに立ちすくんでいると、突如として彼が手を振り上げたので、更に身を強張らせた。おそらく打たれるのであろうと思ったためである。
「も、申し訳ございませ…。」
 怯えたように発した声は、衣擦れの音に掻き消された。



「…あほやなあ…。」
 気が付けば、彼のかぶりが私の肩にあった。何が起こったのか暫くは理解出来ずに呆然としていたが、ゆるやかに背を腕が滑った時には、私も彼の背に腕を回していた。突然のことに彼に身をもたれてしまい、思わずぎゅうと握った羽織から、密やかな体温が伝う。
「そないなことせんでええんよ。イヅルはここにおるだけでええ。そんかわり、どこにも行かんでな。」
「ですが、それならば何故貴方様は私に目をかけて下さるのです。」
「…。」
 やんわりと沈黙を放った彼の背から、段々と体温が奪われていくような錯覚を覚えた。それは今にも儚く消えてゆくようで、私は自然と不安を感じてしまう。しかし考えてみれば、自分の方が余程不確かな存在であるのだと思い出し、ふと可笑しくなって苦笑した。
「どこにも、行きませんよ。私の居場所はここにしか存在しないのですから。」
「…ほんまに?」
「ええ、あなたが作って下さったこの場所こそが、私の唯一の居場所です。」
「…そうか。」
 私がそう言うと、彼はふいに悲しそうな顔を向ける。確かに笑顔を浮かべてはいたが、どことなく切なげな雰囲気を醸し出しているのだ。私は自分が発した言葉のうちのどれが彼の心を打ったのか分からず、呆然とその顔を見ていた。すると彼は、安心させるかのように私の頭を撫でた。
 結局彼がなぜそうまでして私に執着するのかは、分からぬままであった。 



 友人も幾らかいた気はするが、誰一人として記憶してはいない。何しろどのような友人だったのか覚えていないために悲しいとは思わないが、それでも少し寂しい。しかし私は、なぜこのような場所へと連れてこられたのだろう。
 そして、彼さえいれば全てを忘却したままにしても構わぬと思い始めたのは、いつのことだっただろう。彼の名を知らず、彼が何者なのかも知らず、ただこれまで彼が与えてくれた優しさだけに縋って、甘えたままにしている。そんな自分がたまらなく浅ましく思えるが、どうすることも出来ない。
 果たして彼は、私があなたさえいらっしゃれば他には何も要りませんと口にしたら笑うだろうか。
「…せめて、あなた様のお名前を教えて下さいませんか。」
 私がぽつりと呟くと、それこそ彼は驚愕したというような顔を見せた。確かに今の今まで聞かずにいたのはおかしいのかもしれないが、信じられないことに、私は彼の名を知りたいとも思ってはいなかったのである。
「あかんよ。まだ教えられへん。」
 そういった答えが返ってくるのではないかと踏んではいた。もし名を明かすことが出来るのならば、とうに名乗ってくれているはずである。私はやはり、と肩を落とした。彼は微笑を浮かべながら「ご免な」と一言告げた。
 なぜ彼は私に対して名乗ることが出来ぬのか、理由は少しも理解出来ない。しかしもしかしたら、彼というよりもむしろ私の素性に問題があるのではないだろうかと考えて、ふと尋ねた。
「もしかすると私は、死んでいるのでしょうか。」
 私の質問に、彼は大層眉をひそめた。その時私は、自分の質問が間違ってはいなかったからだと思っていたが、彼の方はふるふると静かに首を横に振った。
「ちゃうよ。イヅルは死んでへん。」
 そう答えたきり、彼は話すことをやめて背を向けた。しかし私は、おそらく自分が何か核心を突いてしまったのだろうと気付いていた。やはり私は何らかの形で死に関わっているのだろう。悲しくはなかったが、いつか彼を置いて行ってしまうのかもしれないと思うとひどく泣きたい衝動に襲われた。



 織る糸は変わらず白色だが、私がここに訪れたのは梅雨のことで、もうそろそろ半年が経過しようとしている。何も白色の反物ばかりをこしらえたいわけではないが、ここにはその色しか存在しなかった。あとは彼がたまに着てくる仕事着の黒を見るくらいで、他には極端に色がない。柱の色も庭の色も薄く、木々などは茂っていないし、今の季節などは更に寒さを助長しているように見える。
(寒い色だなあ…。)
 自分の織る反物を見つめながら半年が過ぎたが、重なっていくその巻物を見るとやはり寒々しい。もしかしたらあの人もそう思うのではないだろうか。考えて、箪笥を漁ってみることにする。何か鮮やかな糸がないだろうかと桐で造られた端正な引き出しを開け、中の物を少しずつ出していった。何もないだろうと思っていたが、意外にも物が多い。
 暫く漁っていると、薄紫色の艶やかな布に覆われた何やら細長いものが出てきた。ここに来てから見たものの中で最も鮮やかな色をしていたために、それを手に取り触れてみた。包んでいる布だけでも充分高価であることが見て取れる。見ていいものか迷ったが、その色に誘われるかのようにそっと包みを開くと、信じられないものが目に飛び込んできた。



「っ…これ、は…。」
 思わず息をのんだ。布の中から出てきたのは、短刀であった。いかにも手だれが使っていた風な美しい刀は、未だ輝きを衰えぬままぎらぎらと光っている。更に刀身には、海老茶色に変色した血痕が残っていた。
その形状にはなぜか見覚えがある。私は嗚咽を必死に飲み込み、改めて刃を見つめた。この刀が短刀などではないことを、私は知っている。そして誰がここへ持ってきたかということも。それは他でもない私だった。
「市丸、隊長…。」
 口にすれば、まだ声は愛しさを覚えている。目の先が霞むようにほろほろと崩れ落ち、後から後から涙だけが頬を伝った。私はあの人のことを誰よりも深く覚えている。そのことを確認するかのように。
「隊長…市丸隊長っ…。」
 けれどその名しか思い出すことが出来ない。彼の素性も私の素性も、浅い霧の中に隠されたままである。
 ひらひらと空気の中に何かの気配を感じ、天井を仰ぎ見ると一羽の蝶が羽根を麗しく舞わせていた。その色は深い漆黒である。彼がたまに着てくる着物の色と全く同じだ。蝶は尚も舞い続け、暫くそうしていたかと思うとふわりと私の人差し指に身を落ち着けた。
 すると信じられないことに、蝶は突如として言葉を発し始めた。脳に直接響いてくる、超音波のような声が胸を打つ。



『三番隊、吉良副隊長殿にご伝達申し上げる』
 頭の中で何かが沈んだ。その呼称にも聞き覚えがある。私は何よりその地位を求め、そしてその地位を何より誇らしく思っていた。自分が何者であるのか、ようやく掴めたような思いがした。
『総隊長からのお達しだ。一刻も早い護廷への帰還、共に長期に渡る職務怠慢の事情説明をお願いしたい』
 その事務的な、しかしやや不遜な物言いは少年のものだ。そしてこういった用途で地獄蝶を用いる少年といえば一人しか考えられなかった。総隊長や隠密機動が直々に使用することはそうない。そういえば私が消える前に、次の現世任務に同行することになっていたのは十番隊だった、とふと申し訳ない気持ちになる。
『日番谷隊長、貸して下さいよ』
 傍らから漏れ聞こえる声にびくりとする。それは慣れ親しんだ級友の声だった。懐かしい声に胸がじんと突き動かされ、同時にまた泣き出しそうになってしまう。
「阿、散井、く…。」
『吉良、さっさと戻って来いよ。突然何思ったかは知らねえが…』
「何、って…。」
 気付けばここに佇んでおり、彼がいた。他でもない市丸隊長が、ここに存在していたのだ。決して自分の意思で半年間も職務を放棄していたのではないと言いたいが、通信機能はないので黙っていることしか出来ない。
 暫く阿散井君の声を聞いていると、その背後から『済まない、貸してくれないか』と底冷えのするような落ち着いた声が耳に響いた。ああ、あの人だと思い、一層気を引き締める。
『市丸』
 藍染隊長がそう発すると、ぞっと身が震えた。彼は全て分かっているのだ。雛森君の声は聞こえないので、おそらくやって来たのは藍染隊長だけなのだろう。その落ち着いた声に怒気は感じられなかったが、どうも恐ろしく、逃げ出したい気持ちになった。
『市丸、早く吉良君を帰した方がいい。君がなかなかこの場所を離れられないのは分かるが…』
 藍染隊長の言葉は重々しい。なかなかこの場所を離れられないとは、それではまるで市丸隊長が死んでいるようではないか。目を泳がせていると、傍らから初めて日番谷隊長の事務的ではない言葉が聞こえてきた。
『何言ってんだ藍染。市丸は半年前に死んだじゃねえか。』
 それを聞いた、否聞いてしまった瞬間、私の足ががくがくと震え出す。そして思わず地獄蝶を放った。しかしその事実から逃げられるわけではない。
 ああ、そうか、それなら。
 私が死んでいないのにも関わらず「死」という言葉になぜ市丸隊長が過剰に反応を示したのか説明がつく。どうやって市丸隊長が死んだのか、私の脳は記憶を掘り返すことを拒んでいるが、彼は死んだらしい。刀の血痕を見る限り、おそらく戦闘でだろう。



「あァ、何や、思い出してしもたん?」
 その声に振り返ると、そこには市丸隊長が立っていた。そして彼は私が飛ばしたきり今も天井を舞っている地獄蝶を一瞥すると、忌々しそうに顔を歪める。
「…余計なことしはりましたなあ。」
 誰にともなく呟いたが、それが誰に向けたものなのか私には分かっている。市丸隊長は、藍染隊長だけは鋭くことに気付いているのであろうということを知っていた。だからこそ、あの地獄蝶はきっと藍染隊長からのものだと思っているのだろう。
「市丸隊長…わた、いえ、僕は…。」
「ご免な、イヅル。」
 やっと本来の一人称を取り戻すと、市丸隊長はふと嬉しそうな表情を見せた後、物悲しく笑った。この人の悲愴的な表情はやはり儚い。しかし今は殊の外艶だって見える。
「一緒に死のう思うとったんに、勝手に死んで…魂魄のままイヅルんとこ行ったら、ボクの死体が握っとった神鎗抱いて泣いとった…。そんまま取り殺したろか思うたんやけどそれも出来へん。せやから記憶弄ってこないなとこまで連れて来たんよ。」
 一緒に死のうと言われたことはなかったが、そう思っていて下さったのだと思うと再び涙が零れた。しかしそれ以上に、市丸隊長のことを素直に死なせてやることが出来なかった自分が情けない。僕が未練たらしく泣いていたから、彼は死に切れなかったのだ。すると彼は、心を読むことが出来るかのように告げた。
「ちゃうよ、イヅルが悪いんやない。」
「しかし…。」
「泣くんやないよ、イヅル。最後はみいんな死ぬんやから。」
 すぐ会えるわ、と市丸隊長は笑ったが、頷くことが出来なかった。無理に魂魄のまま留まった彼は、果たしてこれからすんなり成仏出来るのであろうか。否、むしろ我々死神が行き着く天界とは果たして、輪廻なのか、地獄なのか。
「あァ、あかんなあ。」
 もう一度儚く笑うと、市丸隊長が夢を見ているような調子で呟く。見ればその身体は、裾から順に霞んでいた。どうしようもない焦燥が僕を襲う。しかし必死に彼の袖を掴み、縋るように言った。
「嫌です…嫌です、市丸隊長…!!」
「ご免な。」
 何度も彼は同じことを呟く。それは自分ではどうすることも出来ないと諦めているようでもあったし、悔しさを募らせているようにも見えた。やはり昇華は止まらない。段々と彼の顔すらもぼやけ、掴んでいる感触も薄れていく。ひどく恐ろしい感情に苛まれ、僕は彼を離さぬことしか出来ない。
彼は、今にも消えるという時になって軽く唇を合わせた。



「生きるんやで、イヅル。」
 


 最期を飾った言葉は、僕にとってひどく虚しいものであった。



 僕を連れて行くことは彼には出来ないと、それが優しさなのだと分かってはいた。遠い昔「死にたくない」と怯えた僕を、連れて行くことなど出来はしないと。しかし今となってはそれが何より残酷なのだ。彼はそのことを終ぞ知らぬまま逝ってしまった。
 そのまま身を横たえ、所在なさげにどこへともなく視線をやると、そこには白い布の束ばかりがひしめいていた。寒い。ああ寒い。しかしこのまま凍えて死んでしまえるのならばその方が良い。そう思いながら今度は上を仰ぎ見る。未だ黒い蝶は舞い続けていた。
 決して色鮮やかではないが、その色は彼が纏っていた色であった。彼は同じ着物を身に着けていても、決して真似をすることの出来ない空気を孕んでいた。黒は、僕にとって聖域とも等しかった。
 蝶は尚も高く低く舞い続けている。やはり濁りのない黒をしていた。



 誰知らぬ、それは鮮やかな色の。 
 


■あとがき■
 地獄蝶を伝令神機のように、あまつさえビデオレターのように使えるかどうかは分かりません。というか絶対使えません。(笑)大体からして日番谷君がイヅルに連絡するのかよオイ。メンバー趣味に走り過ぎだろオイ。というようなツッコミは多々ございますが(泣)目を瞑って頂けると幸いです…。
 本当は20000HITリク小説のはずだったのですが、あまりリクエストに添えていないような気が致しますので新しく書かせて頂きます…。す、すみません。(汗)
 そしてこれ、本当は日乱のはずでした。(コラ)が、乱菊さんは大人しく攫われるような人ではないような気がしましたし(まず日番谷君が心配するほど泣かないような。涙←いや、イヅルよりはって意味ですよ。笑)、日番谷君が攫うっていうのは…と思いまして。(日番谷君の人間性を今更問うてどうする)
 なぜ市丸さんの死に様が分からないのか、それは私が市丸さんのことを虚に殺されたと表現したくなかったんです。だからといって病気するような人だとも思えないし。(笑)
 この先二人がどうなったかは、皆様のご想像にお任せします。

哀憐の灯。(ギンイヅ+日乱+藍)

2005-11-26 17:31:52 | 過去作品(BLEACH)
「獣のようだね、お前は。」
 遠い昔の確執を、墨のように洗い流してしまうことは出来ない。自分が刀を振るう様を見て、あの男がそう言ったことも、それを自分が無心であるかのような表情で見つめていたことも、全てが鮮明に水鏡に映し出され、嘲笑っている。ギンはまるで過去の自分に馬鹿にされているような感覚を覚え、ふと表情を歪めて踵を返した。
 確かに、言われてみればそうかもしれない。
 獣のようだと比喩されたのはそれが初めてであったが、ギンは、自分の中にある感情が冷めたものだけではないということを知っていた。そしてその感情が、獣と比喩されるに値するものだということも。
 しかし、獣といえど浅ましく肉を喰らうというわけではなく、粗暴に振舞うというわけでもない。ただ、人の心裏にずぶりと刃を立てることが殊の外上手いのである。畏怖や虚言、誇りさえも、たった一刺しで全て一掃してしまう力強さが、ギンにはあった。


 緋色に滲む街灯の光が目に眩しいが、その色はいっこうに褪せることがない。周囲を見回せば、色鮮やかな着物を身に纏った女達が簪を乱れなく揺らし歩いている。その中でも一際目立つ深紅の着物に、白粉など塗らずとも白い肌をした女がこちらへ向かって歩いて来るが、ふいに視線を逸らした。おそらく誘うつもりだったのだろうが、ギンがそうすると女は眉をひそめて道を変えた。
 ギンはといえば、目の焦点を一点に合わせてあるところを見つめている。そこには、色街にはおおよそ似合わぬ年端もいかない少年が立っていた。本来ならばこの街に来ようとも構わぬ歳なのであるが、いささかこの色付いた闇にその体躯は似合わない。自分と同様の銀糸よりも先に、少年にしては厳めしくひそめられたその表情を見て本人であると再確認したギンは、おもむろに近付いていった。


「奇遇ですなあ、十番隊長さん。」
「…市丸?」
 ギンの姿を捉えた瞬間に、その眉間に寄せられた皺は尚更濃くなった。予想はしていたが、こうもあからさまにされるといっそ清々しい。日番谷によく思われていないということは知っていたが、おそらく今日のこの態度はそれとも違う。不味いところを見られた、という顔だ。それもよりによって、ギンという男に。
「…そないな顔せんでも、乱菊には言わへんよ。」
「誤解するな市丸。ただの付き合いだ。」
 それが本心だということは分かった。何より女を連れていないし、先ほどから見ていたが、女からの誘いにも応じてはいなかった。見かけは少年であるが、隊長羽織の存在だけで誘われる対象となるのだから難儀なものである。
「付き合いいうたら、八番隊長さんやろか。」
「いや、四十六室のいけすかねえオヤジだ。」
 八番隊隊長である京楽春水は、副官である伊勢七緒を溺愛しているために、外見に反してこういったところにはなかなか訪れない。しかしだからといって日番谷が付き合う相手といえば限られている。四十六室の男性陣といえば、隊長格ですらなかなか伴われることはないというのに、なぜ隊長職に就いて時も浅い日番谷が同行しているのかギンには分からなかった。
 四十六室の賢者といえば、学も深いが変わり者が多いことでも有名である。好色な噂を聞いたことはないが、もしかするとそのような人間もいるのかもしれない。
「で、なして十番隊長さんやの。」
 率直に尋ねると、日番谷はやや不本意、といった様子で答えた。
「…世の中には物好きなジジイもいるってこった。それ以上深追いすると斬るぞ。」
 ああ、なるほど、とギンが頷く。つまり賢者は女を買いにこのようなところへ訪れたのではなく、日番谷を肴にするために訪れたのである。日番谷はそういった建て前上の礼儀をわきまえている。ただ、日番谷がそのようなことに応じるわけもないので、おそらく適当にあしらって帰って来たのだろうが。
 不遜に振舞う人間の中には、時折陰間に興じる輩も少なくはない。女を買うのに飽きてしまい、それでは男を買ってみるかという軽い気持ちで、だ。しかし目を付けられた方は堪ったものではない。とりわけ日番谷のような幼い少年を相手にしたがるが、日番谷の場合は外見の発達にそぐわぬ聡明さがお気に召されたのかもしれないと、ギンは思った。
「別にこないなとこまで来んでもええんとちゃいますの?」
「あっちも都合があるんだと。」
 下手に自室に呼び寄せては、すぐに触れ回ってしまう恐れがある。そのため陰間茶屋などが軒を連ねるこの辺りに誘い出したのであろうと、日番谷は答えた。ギンはいささか感慨深く思うような顔を見せ、日番谷を凝視した。
「…何だ。」
「どこも女らしいとこなんてあらへんのに、不思議なもんやなあと思て。」
「だから物好きだって言っただろうが。」
「そらえろうすんません。せやけど、どないして戻って来はったん?」
「どうもこうもねえよ。相手が酒に酔って寝ちまっただけだ。」
 だからその場を擦り抜けて戻って来たのであると日番谷は言う。そして、迎えに来ると言ってきかなかった乱菊を待っていたところなのだ、と。ギンはそれを聞き、少しばかり苦笑した。
「そら運が宜しなあ。」
「うるせえ。」
 どうやらただでさえあまり宜しくなかった機嫌を更に損ねてしまったようで、おや、とギンが表情を戻す。日番谷は既にギンから視線を外し、あらぬ方向を見つめている。おそらくそちらが乱菊の現れるべき方角なのだろうと思うと、途端に日番谷を可愛らしく思った。やはり彼も若い少年なのだと感じて、微笑ましく思うのである。
 ふいに日番谷がこちらに視線を戻したかと思うと、そういや、と口火を切った。
「お前はどうしたんだ。」
「ボクは別に。退屈やったから来たんよ。」
 本来ならば出会い頭に交わすはずのやり取りに少々違和感を覚えつつも、ギンが答える。日番谷は腑に落ちない顔をしたかと思うと、さも煩わしそうに口を開いた。
「退屈か。皮肉だな。」
「仕事イヅルに押し付けて来たんとちゃいますよ。ほんまに退屈やったから来たん。」
「そういうことを言ってるんじゃねえよ。退屈だからってこんなとこに来るお前がどうも憎らしく思えてな。」
「軽々しくこんなとこ来れるやなんて、いうことやろか。別に十番隊長さんを馬鹿にしとるわけやあらへんのに。」
 羨ましいわけじゃない、と一言残して日番谷が虚空を見つめると、今まで日番谷が熱心に見ていた方角から女の声が聞こえた。艶やかしい、女の声である。その声に振り返った日番谷がさぞいとおしげな顔付きをしていたことは、ギンにしか見受けられなかった。


「おせえぞ、松本。自分から迎えに来るなんて言っておいてどういうことだ。」
「アラ、そんなに待って頂いてたんですか?それはすみません。いつまであの方のお相手をしてらっしゃるのか分からなかったものですから。」
「…もういい。」
 何を思い出したのか、げんなりとした日番谷の表情が窺がえる。乱菊はそれにくすくすと控えめに笑うと、行きましょう、と機嫌を直すように手を引いた。しかし目の端に映る影に視線をやると、はっと瞳を見開いて声をかけた。
「…市丸隊長、こんなところで何をなさってるんですか?」
「何も。ちょお十番隊長さんに声かけただけやけど。」
 余計なことはしなかったでしょうね、と投げかけたいのは山々だが、日番谷に付き従っている今ではそれも出来ない。仕方なしに鋭い視線を向けると、おお怖、とギンはおどけたような調子で言う。
「早う帰らんと、朝になるで?」
「言われなくとも。」
 二人の時間がのうなりますよ、とでも言ってやろうかと思ったが、やめた。日番谷が恐ろしかったわけではないし、乱菊が恐ろしかったわけでもない。しかし、そんなことを言ってしまえば自分の方が虚しくなるような気がして、終ぞ言葉には成り得なかった。
「行くぞ、松本。」
「はい。…失礼します、市丸隊長。」
 乱菊だけがギンに一礼をし、踵を返す。ギンはひらひらと手を振ってみたが、終ぞ日番谷は何も言わずに黙ったままで去っていった。ギンの方も終始変わらず笑みを絶やさぬままでいたが、日番谷と乱菊が去ったと同時にふっと口元から笑みを消した。


 ギンの本来の目的は、紅に近い朱色をした橋の下に煌々と映る水鏡であった。ここの水鏡は己の穢れた過去をよく映し出すのであると、昔藍染が言っていたのを思い出したのである。それは紛れもない迷信であったが、縋りたい思いがした。それでなくとも懐かしい場所である。ただしその懐かしさは、決して心地よいものではなかったのだが。
 表情のない瞳のまま、水面を見つめる。沈んだような漆黒をしているが、そうでなければ意味がない。澄んだ水よりも余程はっきりと情景を映し出してくれるのだ。それが美しくない過去ならば尚更である。
 

 この色街は、席官時代ギンが初めて女を抱いた場所であった。席官になったばかりの頃、既に藍染に目をかけられていたギンは、ある時藍染から同伴を命じられた。藍染が色街などに赴くとは思えなかったので訝しく感じていると、この橋の上に差し掛かった時こう言われたのである。
『この先僕に付いてくるつもりなら、女を抱く術を覚えておきなさい。』
 それも、何の感情もなく女を抱く術を。
 藍染は、ギンに女を抱いた経験がないということを見抜いていた。これまで女性関係は派手であったギンだが、その時まで恋人と称していた女を抱いてやったことはない。否、抱こうと思わなかったと言った方が正しい。だが、藍染はこともなげに続けた。
『一人に執着すべきではない。だからといって、女を抱いた経験がないというのもいけない。人間を陥れるためには、人間の快楽とは何かを知っておく必要がある。』
 それを快楽、と一重に呼ぶ男に、吐き気を覚えた。そしてギンは、この時初めて藍染の本質を知ったのである。藍染は花街で適当に店を見繕い、ギンに女を買い与えた。そして藍染の方は、辺りから静かに女の嬌声が響く淫猥な玄関口の椅子に腰を下ろし、人前では吸わぬ煙管をふかしている。周囲は紅と香の入り混じったような芳香がし、ひどく気分が悪かった。
 結局、ギンは女を抱いた。終わった後の感想といえば何と言うこともなかったのだが、ただひどい虚無感が胸を襲った。愛してもいない女を抱くなど、というような感情は持ち合わせておらず、ならば何なのかと問われればそれにも口を濁してしまうのだが、ただただ、虚しかった。
『どうだい、ギン。女は。』
 全てを終えた後、藍染はギンに問うた。しかしギンは何とも答えず、やはり橋の上に差し掛かった時には言い知れぬ沈黙が流れていた。だが、藍染も気にはしていない風であった。
『…なあ、藍染隊長。』 
『何だい?』
『一人に執着したらあかん、てほんまですか。』
『ああ、そのことか。…まさかもう一人に決めているなんて言うつもりじゃないだろうな。』
 いささか訝しげに藍染が尋ねてきたので、ギンは曖昧に微笑んだ。どちらにしろ藍染もギンの質問には答えていないのだから、許されるだろうと思った。どうせ藍染とて、そのようなことを言っていてもいずれは一人に執着する時が訪れるのである。ギンは、藍染が孤独に耐えられるような男ではないということをよく知っていた。そして、本当は独占欲の強い男であるということも。
『獣のようやて、言いましたね。』
『ああ、あの時か。』
 初めて藍染の討伐隊にギンが同行した時、刀を振るうギンを見て藍染が放った言葉である。それは賛美でも愚弄でもないように思った。むしろ成る程と感じたほどである。
『女を抱く時は、獣になんてなれまへん。…そんだけや。』
 女を抱く男を総じて獣のようだと比喩することがあるが、ギンは女を抱いている最中、夢中になどなれなかった。貪るように女を抱こうとしてみたが、そうしようと思うほどに身体は付いていかない。どうしても自分から進んで行為を行おうとは思えなかった。
『…ああ、充分だよ。』
 藍染が呟く。夢中になれぬということは、つまり誰にも執着出来ぬということである。ギンに男色の気があるとも思えなかったが、例え男であろうとも、ギンの言い方は人間そのものを表しているように聞こえたので、深くは追わないことにした。
 橋を過ぎた頃には既に言葉を交わそうとも思わず、ただ背後に照る街灯の灯りだけが、哀れむように二人を見ていた。しかしその暖かい光に照らされようとも、少しも温かみは感じられなかった。


 気が付けばぽとり、と池に雫が落ち、何かと思えばそれは雨であった。特に頓着せずに濡れるままにしていると、背後から声がかかった。
「…隊長?」
 振り返れば、やはりイヅルである。今開いたばかりの鉛色の番傘を手に握り、涼やかな色の瞳は訝しげにひそめられている。ギンは苦笑したが、なぜここにいるのだろうと考えを改めて、率直に尋ねた。イヅルが俯いて答える。
「いらっしゃらないと思いまして探しておりましたところ、先ほどご帰宅された日番谷隊長と松本さんにお会いしましたのでお二人に伺ったのです。」
「こないなとこまで…ボクが何しとるんか気にならへんかったん?」
「…いいえ。」
 おそらく日番谷と乱菊がイヅルに状況説明をしたのであろう。人のいい十番隊の上官のことである。
女を抱いてきたようではなかったなどと、要らぬことまで付け足してくれたに違いない。しかし、あの二人が焼く世話というものは決まって功を奏するのだから不思議なものである。
「…心配かけてご免な、イヅル。」
「…いいえ。」
 そうは言っても、目尻には僅かに涙の形跡が見られる。ギンは突如として抱いてやりたい衝動に駆られたが、僅かに押し留めた。イヅルのことを可愛らしいと感じ、抱いてやりたいと思う。それは今まで抱いてきた女達に対してとは違う感情である。
 幾度女を抱こうとも、この感情に変えられるものは決してない。藍染すらも、今では年端もいかぬ少女に柔和な執着を向け、それ見たことか、と嘲笑ったのをよく覚えている。ただしその執着は、そろそろ藍染が自分の幻影を保つため、無理に崩壊させるに違いないのだが。
「…血ィ見る時しか獣になんてなれへんかったのになあ。」
 鮮やかな鮮血を、自分の手で流させる時にしか本来の自分を見せることはないと思っていた。しかし己の内に密かに沈む白い獣が、イヅルの前では颯爽と本来の姿のまま映ることがあるのである。ありのままを晒すことなど、有り得ないと常々思っていたのに、だ。
「…え?」
「あァ、何でもあらへんよ。帰ろか。」
「…はい。」
 不本意に思っているようにも見えたが、イヅルが素直に頷く。するとギンは、イヅルの持っていた番傘をひょいと持ち上げると、ややイヅルに差し掛けるようにして歩き出した。イヅルは傘を取り替えそうと手を伸ばしたが、ギンに制され押し留まる。
「…普通は副官が持つものです。」
「男のたしなみやて。」
 茶化すようにギンが言うと、イヅルは一瞬抵抗を緩めたが、言われたことを頭の中で反芻し再度ギンの腕を取る。男なのは自分も同じだ、と言いかけて、ギンに後頭部を引かれる。そのまま口付けられると何も言うことが出来ず、イヅルは眉をひそめた。
「あァ、そないな顔したら別嬪さんが台無しやないの。」
 苦笑してイヅルの頬を撫でると、心地良いのか少し目を閉じた。それに気を良くして再び唇を合わせようと顔を近付けると、今度は拒まれなかった。


 その昔哀れむようにギンと藍染を見つめていた数十年前と変わらぬ街灯の灯りは、煌々とした光はそのままに淡く佇んでいる。ギンはふと顔を上げてそちらに目をやると、勝ち誇ったように笑った。





■あとがき■
「これはギンヒツでも藍ギンでもございません」という表示をしようか小一時間迷ったシロモノです。(汗)しかしこんな話になってしまいすみません…。日番谷君男にもてて本当すみません。(コラ)
 何となく藍→ギンみたいな雰囲気になったのでせめてもの悪あがきに藍桃っぽい文章を入れてみたのですが、本当にただの悪あがきにしかなってません。(涙)
 ギンイヅと日乱は甘くしてみたつもりです。(この日乱のどこが甘いというのか)

才華の葬送。(日乱)

2005-11-24 23:03:04 | 過去作品(BLEACH)
*十番隊の性格がとんでもないことになっておりますのでご注意下さい。(涙)
*日番谷君が弱かったり乱菊さんが危うかったり。
そして少々大人向けです。(コラ)




 何もかもが煩わしくなったかのようにごろりと横になってはいるが、着衣には一筋の乱れも見受けられない。さも扇情的に胸元は肌蹴られているが、淫猥な印象は持たせなかった。その傍らでは、何ともなしに肩に羽織をかけ、隊主机に腰を下ろしている日番谷が書類を整理している。その未発達な手には何やら細長いものが握られ、口からは時折冬の息のような白濁が流れていた。
 乱菊はそれを一頻り眺め、にやりと笑みを浮かべる。
「吸えるようになったんですねえ、それ。」
 言うなり、日番谷の指から煙管を絡め取って自分の口に運んだ。今まで彼の口にあったそれは唇に銜えるとまだ僅かに生暖かい。まるで口付けをしているのと同じような感覚を覚え、乱菊は人知れずもう一度ふと笑みを漏らした。
「吸えるようになったんじゃねえ。吸えるようにしたんだ。」
 やや不機嫌そうにやんわりと否定する日番谷の眉間には、いつものように皺が寄せられている。未だ幼げなその体躯にその表情は似合わない。しかしその顔付きに、煙管はよく似合った。彼が煙管を吹かしている時と、付き合いで杯を傾けている時は、決まって男の顔をすると乱菊は思った。
 おそらく煙管を吸えるようにしたのも、近頃酒を飲むことが出来るようになったのも、全てはそのためであろう。そうしている間のみ、日番谷は大人の「男」に見える。本来ならばそれが許されぬ歳ではないし、立場上やむを得ず酒を勧められることもままあったので、それが原因なのだろうと乱菊は踏んでいた。が、事実それとは異なった理由が存在することを、乱菊は知らない。



「日番谷隊長、それは?」
 日番谷が今片付けていた書類は、普段のものとは様子が違う。それに気付き、乱菊が首を傾げた。しかし日番谷は、表情を変えぬまま黙り込んでいる。どうもおかしいと思いふと覗き見ると、ああ、成る程、とため息を吐いた。書類ではない。折り畳まれた形跡のあるそれは書簡である。
「お葬式ですか。」
「ああ。」
 亡くなったのは、流魂街にいた頃何かと世話を焼いてくれた知人であった。日番谷や桃は治安の良い地区の出身であるため、本来死なぬはずの魂魄に何か生じた場合には葬儀が行われる。今回もそうだ。大人しく自分の地区に留まっていれば良いのに、何の義務があったのか他の地区に出向いたために何か余計なことに巻き込まれたらしい。日番谷はなおもその紙を見つめ、悲愴感を露にしている。否、しているように見えた。
「大丈夫ですか?」
「ああ。」
 返される言葉は少しも変わらず、しかし抑揚は僅かに沈んでいく。乱菊はじっと日番谷の顔を見つめながら、ふと呟いた。
「死することに恐れを抱いてらっしゃるのですか。」
「…誰にものを言ってる。」
 他でもない自分に向かってそのような科白を吐くのか、と日番谷が眉をひそめる。この位置に就くまでに、どれほどの死と再生を犠牲にしてきたのかもう分からない。少なくとも今この場所でこの任に就いているということは、少なからず他人の死に直面し、また自分も死を目の端に感じながら生きてきたということである。
 その自分に向かって、と日番谷がまた顔をしかめる。乱菊はやはり笑っていた。
「そうですよね、隊長なんだもの。死ぬことなんて今更怖くないでしょうね。でも隊長、あたしは怖いんです。」
「そうか。」
「死ぬことは別に怖くありません。でも…どうしてでしょうね。独りで死ぬことがたまらなく怖いんです。」
 それが誰のせいなのか、日番谷には分かっていた。他でもない市丸ギンである。彼が乱菊を度々置いて出て行ってしまったために、乱菊は薄い家の中で孤独に直に触れながら生きてきた。正しくいつ生を失ってもおかしくはない状態であった。そのこともあり乱菊の中では、孤独と死は同義語なのである。
「…そうか。」
「だからね隊長、あたしと一緒に死んで下さい。」
「…ああ。」
 他愛もない口約束ではあった。しかし日番谷と乱菊の間では、しっかりと何かが繋がれたような気がした。自分より長く生きてくれとはよく言ったものだが、共に死んでくれとは何と残酷な言葉なのだろうと乱菊は思った。必ず死に目を看取ることの出来るよう、先に死んでくれという手もあったな、と日番谷の方は思った。
「本当ですか。」
「ああ。」
「嘘だったらどうします?」
「お前が勝手に決めればいい。」
「じゃあもし隊長があたしを裏切った時には、その細い四肢を刈り取って目を抉ってしまいますよ。」
「…そうして、どうする。」
「目だけをもらいます。」
 首だけでなく、目だけを。そう言う乱菊は冗談交じりに笑っていたが、日番谷にはその笑みがやけに妖しく、扇情的に見えた。しかし言われたことの意味が未だよく理解出来ず、やりきれぬといった表情を浮かべている。
「だってあたし、その目が一番好きなんだもの。」
 色でなく形でもなく、その鋭い光が何よりも好きなのだと乱菊は言った。くすくすとなおも笑顔を絶やさず、目だけか、と不本意な様子を見せた日番谷の目尻に口付けをする。乱菊はその後、何も言わなかった。
「…喰らうつもりか。」
「まさか、勿体ない。ちゃんととっておきます。」
 これは果たして恋情なのだろうか。そう思いふと思考を巡らせると、違うな、とすぐに答えは見つかった。しかしそれを抑える手立ては見つからず、何をするでもなく乱菊を再度横たわらせる。そのまま背を向けると、絞り出すように日番谷が言った。
「煙管も吸えるようにした。酒も飲めるようにした。だが、結局今も女を抱くことだけは出来ねえ。」
 それだけはどうしようもない事実である。日番谷のその言いようは、まるで自分を情けないと詰っているように聞こえた。
「何だ。何が足りない。お前と共に死ぬためには、あと何が足りない。」
「足りないものなんかありません。あなたがあたしを抱けなくたって、死ぬための身体があればそれでいいんです。」
 背を向けたまま、日番谷がそうか、と軽く頷く。安心したような素振りは全くなかったが、乱菊はふとこういうところがギンに似ていると思った。弱い部分は全く見せずに、だがしかしさり気なく脆弱さを孕んでいるこの儚さが、ひどく似ていると。ただ、そのようなことを口に出したらおそらく叱られるだろうと思い、黙っていた。

 ああこれは情念だ。白昼夢のような、漠然とした情念なのだ。


 気付いてしまえば早かった。信頼でも恋情でもなく、ただ衝動的な、本能に近い情動が心を揺さぶる。


 部屋には霧のようなものが立ち込めていた。また日番谷が似合わぬ煙管を吹かし始めたのだろうと思い、乱菊は静かに目を閉じた。


 それはつまり、それは然り。




■あとがき■
 うちの日乱が異色なのは分かっていましたが、ここまで来ると申し訳ない気分に苛まれます。(涙)
 小説再開のリハビリに、と思い突然書いたら凄い話に。(汗)

家族ネタ。(笑)

2005-11-23 20:44:44 | 過去作品(BLEACH)
 昨夜の突発ギンイヅチャットで子供ネタが出たので、便乗。(笑)えーと、今回はちょっと名前が出ないとおかしいかな、と思い子供の名前を管理人の独断により命名させて頂きました。(笑)
 しかし設定上娘さんの名前に「ヒナ」というのは似合わなかったので(笑)こちらとは名前が異なります。

 せっかくなので、昨夜のチャットにて出てきたセリフを一部引用させて頂きました。(笑)
 
*市丸さんとイヅルに激しく夢を見ております。(いつも)
 
市丸ユヅル(長男)イヅル似。
市丸サナ(長女)ギン似。


 サナさんは大体帰って来たらまずはじめに溜息をつきます。お兄さんはいちいちその理由を尋ねますが、確信犯です。(笑)

サ「ただいまー。(ハア…)」
ユ「どうしたんだい、サナ。また男に振られたのかい?」
サ「またって何よ、またって。ケンカ売っとんの?

 サナさんは機嫌が悪いと京都弁になります。(笑)父さん、母さん=お父ちゃん、お母ちゃん。私=うち。という具合に一人称と二人称も変わります。(ややこしいよ)

ユ「いや、そうじゃなくて…。話してくれないかなと思って。」
サ「いつものことやわ。今時ありえへんくらい靴箱開けたらバッサーラブレター(女から)出てきよるし、一緒に調理実習参加しとる女子からお菓子もらうし…。体育の時間も部活の時間もキャーキャー群がりよるし昼休みもそうやし…あまつさえお姉様て呼ばれたりするんやで?

ユ「そりゃあ父さんの娘なんだから仕方ないよ。」
サ「せやかて兄さんそないなことあらへんやん!」
ユ「サナ…君の方がまだましだよ。僕ときたら男子と同じ教室で着替えれば悪いことでもしたように目を背けられるし、エロ本を開いた男子に話しかければ恥ずかしそうに隠されるし…。怪我をすれば男に心配されるし(流石に倒れた時お姫様抱っこされそうになったのは殴ったけど)あまつさえ付いたあだ名が姫だよ?姫。


サ「…何であたし達逆の外見に生まれなかったのかな…。」
ユ「そうだね、そしたらスクールライフを満喫出来たのかもしれないね。」


市「何やサナ帰って来とったん?お帰り。」

 仕事の時間帯は不定期。(何の仕事だ)今日はうちにいるお父さんです。

サ「…この顔で母さんを騙したのね…。(ボソリ)」
市「?」
ユ「父さん、母さんはどうしたんですか?さっきまで居間にいましたよね。」
市「ああ、イヅルやったら買い物や。で、サナはどうしたん?」
ユ「ええ、どうも父親似の顔のせいで女性にモテるのが気に入らないようです。

 男にも女にもモテますが、続きません。(笑)お兄さんも同じく。

市「えええ何やのこの間から!」(こちら参照。笑)
サ「だって嫌なんだもん。」
市「…お父ちゃんと一緒嫌なん?」
サ「嫌。(やっぱりすっぱり。笑)」
ユ「母さんも何で父さんなんかに騙されたんだか…。(ヒド)」
市「聞きたいか?それはなあ…。」
ユ「あ、語りだすと三日は止まらなさそうなのでやめて下さい。


市「ユヅル…えらいヒドイやないの。まあそないしとっても顔はイヅルやから可愛らしいてしか思わんのやけどね。(キュン)」
ユ「息子の顔にときめかないで下さいよ気持ち悪い。


市「でもなあ、サナ。自己愛ちゃうけどボクはお前のその顔好きやで?男前で。(結局自己愛じゃねえか)
サ「…!お父ちゃんなんて大嫌いや!!!!」

イ「サナ!あれだけお父さんに嫌いとか言っちゃダメって教えたのに!!
市「イヅル帰って来とったん?お帰りv」
イ「ただいま帰りましたv…じゃなくて!サナ、お父さんに謝りなさい。昔からお父さんに嫌いって言っちゃダメって教えたでしょう?」
サ「…ごめんなさい。でもね、お父ちゃんもヒドイんよ。うちはこの顔気にしとるのに、男前やて言うんやもん…。」


イ「うん、素敵じゃないか。男前で。
サ「…!!お父ちゃんもお母ちゃんも大嫌いやー!!!」


市「…難しいお年頃やね…。」
イ「反抗期でしょうか…。」

ユ「八割方父さんと母さんのせいですよ。


 えーと、皆様素敵なネタをありがとうございました!(笑)
 ナギさん→(こちら参照)も出来れば出したかった…!うちのサイトには市丸さんのクローンが二人も。(笑) 
 最後に一言。市丸さんとイヅルのやり取りにいちいちハートマークが見られるのは、万年新婚夫婦だからです。(コラ)

11月22日。

2005-11-22 23:07:01 | 過去作品(BLEACH)
 日記にとんでもないことを書いたのも束の間、「11月22日はいい夫婦の日です」という国語の先生の言葉に、私が反応を示さないわけがないじゃありませんか。(死んで来い)

日番谷君がややマニアックなヘンタイです。ご注意下さい。(笑)


~十番隊~

乱「知ってました隊長?11月22日は『いい夫婦』の日なんだそうですよ。」
日「へえ、そうか。」
乱「へえって何ですかへえって…!そんなこともあろうかと、用意してきたんですよあたしだって!!」
日「用意…?」

いそいそ…。

乱「ホラ!義魂丸の『チャッピー』に対抗(?)して、うさ耳です!!」

バニーな乱菊さん。(笑)

乱「だから今日一日これで目の保養を…v」

叱られる準備満タンな乱菊さん。頭は書類でガード。(笑)

日「松本…。お前何やってんだ?」
乱「すみませんvだってせっかくこういう日があるのに何かしないのも勿体ないじゃありませんか。ねえ、…ピョンv(耳を揺らしてみる。笑)」
日「…ふざけんな、松本!」
乱「だからすみませんってば…!」

日「お前はウサギなんてガラじゃねえんだよ!付けるならこっちだこっち!!
乱「何ですか隊長その猫耳は!どっから持ってきたんですか!?」
日「お前は元々目鼻立ちがくっきりしてるからこっちのが似合うんだよ。鳴き声だってそうだ。
乱「えええどさくさに紛れて何言ってるのこの人ー!!!」


 日番谷君がヘンタイでごめんなさい。(コラ)だってギンイヅとか藍桃だとそのまんまな気がしたんだもの。(笑)



~三番隊~

市丸さんがややジェントルマンですがお気になさらず。(またお前は)

市「なあイヅル、乱菊から聞いたんやけどな、今日て何の日か知っとる?」
イ「…勤労感謝の日の前日です。僕には願ってもない日です。」
市「せやのうて。」

イ「違うんですか?では更木隊長のお誕生日から3日経過記念日です。
市「せやのうて…て、何でそないなことは知っとるん…。」
イ「草鹿君に前々から聞いておりましたので。」

市「(やや不本意)…まあええわ。今日はな、『いい夫婦』の日なんやて。」

イ「いい夫婦ですか…?それはそれは。金婚式を迎えられたご夫婦がさぞかし踊り狂っておられることでしょうね?

市「いや、イヅル。おかしいやろ?お年寄りは普通踊らんやろ?」
イ「そうですか…?僕はよく道端で口にバラをくわえて踊っていらっしゃるおじいさんを見ますが。
市「…お上手なん?」
イ「ええ。時折「せにょーる」だの何だのと異国の言葉を話されますが。」
市「(このコ大丈夫やろか…。)」

市「…まあ、それでな?今日はボクん家においで。」
イ「そんな誘われ方をなさらずとも、喜んで。」
市「いつもイヅルに任せきりやから、今日は夕飯も一緒に作ろな。」
イ「…隊長、お出来になるんですか?」
市「細かいことは気にせんのやで、イヅル。」

修「(畜生あのバカップルめ…!)」

…いや修兵、そうか?(真顔)目を覚ませ。三番隊マジックから。(笑)



 果たして五番隊はどこまで許されるのか…。(十番隊と三番隊であんだけ好き勝手やっといて)

散る影の永遠。

2005-11-20 10:52:23 | 過去作品(BLEACH)
はらはらと
はらはらと
際限なく堕ちるそれは
雪にも見えるし
鮮血にも等しい

ああ
この虚空から芽吹き
やがて退く遥かな
影のみがそこに残されて
私は雪とも血とも言えぬ
それを影に滲ませて

いとおしく 
指でなぞったのであった




*TOPに置いてある詩が飛躍したものです。TOPの詩は大抵何となくで書いてログも取らずにいるのでちょっと貴重。(笑)

長編小ネタ*死神大運動会*第一種目:借り物競争②

2005-11-19 21:00:30 | 過去作品(BLEACH)
*このお話は、死神キャラのみで秋の大運動会をやりましょう!という管理人の勝手な企画によって生まれたお話です。故人だったり、「ええ!?この人本誌では…。」みたいな人だったりも続々登場致しますので、半ばパラレルが苦手な方はご注意下さい。(汗)



*死神大運動会*~借り物競争その②~




花「この連載いつまで停滞してたんでしょうね?」
荻「さあ…何せ管理人が話忘れて読み返したくらいですからね。



 相変わらずな管理人ですアミーゴ。(コラ)

 

花「それではさっそく、借り物競争第二走者のご紹介です。ええと…青組の松本副隊長、白組の朽木隊長、判定委員が伊勢副隊長で足りているそうなので、急遽紫組の涅副隊長になりました。
荻「相変わらず管理人の都合ですね…。」


乱「じゃあ隊長、行ってきま~すv」
日「…松本、よからぬことはするなよ。
乱「は~いv」
日(信用出来ねえ…。)


恋「朽木隊長、頑張って下さいよ。間違ってもコース反れたりしちゃダメっスよ。グラウンドのど真ん中で「マイラブ緋真」歌うのもナシっスからね。
白「…私とてそれくらいはわきまえている。」


マ「ネム、負けたらどうなるか分かっているだろうネ。」
ネ「はい、マユリ様。」
阿「あんま副隊長苛めてると隊員の情操教育上良くないと思いますよ。お義父さん!
マ「お前にお義父さんと呼ばれる筋合いはないヨ!

修(十二番隊って意外と明るいなあ…。)

 阿近さんがおかしいのも笑って許して下さい。(いい加減にしろ)

花「皆さん位置につかれましたねー?では、よーい、どん!!」
荻「…これは意外ですねえ。」
花「涅副隊長早いですねー。…あっ、もうカードを取ったみたいですよ?」

ネ「…。」
花「何をひかれたんでしょう…。」

 ネムのカードに書かれてあったことといえば。

 玩具。(どでかく)

ネ「…どなたか、会場の皆様の中で私に付いて来て下さる方はいらっしゃいませんか?

皆「「「「!!!!!!」」」」」

 走る戦慄。(笑)

阿「何なら俺が…。」
修「やめとけ阿近さん!愛の力だけじゃどうにもならないことだってあるんだ!!

 身をもって経験している男、檜佐木修兵。(笑)

マ「さすが私の娘だヨ。昔から『最高の玩具は人間だ』と教えてあるからネ。」
恋「いやいやいやアンタも何平然としてんだよ!!」


花「あっ。そうしている間に他のお二人がカードの場所に到着されたみたいですよ。」
荻「多分今回もどうせ一着なんて出ませんよ。ただでさえロクでもない3人だったんですから。(ヒド)

白「…。」

 兄様のカードに書かれていたことといえば。


 愛する女性。(やたら流麗な文字で)


白「…。」


 ヒュ~…。


恋「誰だあんなこと書きやがったの!隊長の周りだけブリザード状態じゃねえか!!
市「アレは痛いなァ。」
東「楽しそうだね、市丸。」
市「嫌やわあ。そないなこと思うてまへんよ?なあ剣やん。」
剣「知るか。」

 
白「緋真…。」
恋「あああ既に競技のことなんて忘れてやがる…!」
花「アレ?しかし朽木隊長が伊勢副隊長の方へ歩いていかれますね…。」

白「愛する女がいたことの証明に、「マイラブ緋真」を歌うだけではダメか?
七「ダメです。本物がいないとダメです。
恋「ああ畜生隊長め…!!やっぱやりやがった!!」
勇「でも伊勢さんも相当厳しいというか…ヒドイですね。」


花「それはそうと、松本副隊長はどこに行ったんでしょう。」
荻「まだカードを引かれたままですよ。」

乱「…。」

 乱菊さんのカードに書かれていたことといえば。


 セクハラ上司。(やたら整った文字で)

乱(七緒ね…。)

 乱菊さん、辺りをキョロキョロ。

乱「適当に京楽隊長を連れてったところで悪いしねえ…。だからといってウチの隊長を連れてくわけにも…。まあでも間違ってはないんだけど。
日「何か言ったか?松本。
乱「アラ隊長地獄耳だこと。」

乱「…。(チラ…)」
花「急に走り出しましたね。」

乱「市丸隊長、一緒に行きましょう。さあ。
市「何やの乱菊。『幼馴染』とか出たんか?」
乱「とにかく一緒に来て下さい。」

 ふと乱菊さんが持ってる紙を見るイヅル。

イ「…!セ、セクハラ上司…!?隊長、松本さんに何てこと…!!」
市「ハア!?なわけないやろ!そないなこと乱菊なんかにしてへんわ!」
乱「アタシなんかにですって!?…まあいいわ。違うわよ別にこれ『自分に』とは書いてないじゃない。」
市「乱菊やなくてもボク別にセクハラなんてした覚えないんやけど。」
乱「何言ってんのよ。いつもアンタが吉良にしてることがセクハラじゃなくて何だっていうわけ。
市「アレは愛あるスキンシップやもん。」
乱「よく言うわ。上司と部下で毎日毎日人目もはばからず桃色のオーラを発するなんて言語道断よ!このアタシを差し置いて!!
市「ただの逆恨みやん!」


花「…えーとこれどうします?」
荻「いいですよ別に。もともと期待もしてませんでしたし。このまま先行きますよ。先。」


 続きます。(無駄に)