彼女の言葉がどこへ向かい、そしてどこで人の心を動かしているのかは定かではなかった。
「長年患ってきた胸の痞えがすう、と落ちていくような気が致します。」
彼女の前に座って、自分が今まで抱えてきた私怨や苦悩を吐き出していく人間達は、大抵がそう言いながら去っていった。彼女は特に美しい言葉をかけてやっているつもりはなかったし、優しい科白をかけてやっているつもりもなかった。ただ、うんうんと相づちを打ち、最後に一言これからどうすべきなのかを助言しているだけであった。
彼女は、他人から悩みなどを相談されることがよくあった。おそらく外見が大人びた女だからであろうと人は言うが、本当はなぜなのか見当もつかない。彼女はふう、と椅子から立ち上がると、髪を掻き上げた。濃い亜麻色の髪が、さらさらと音を立てながら靡く。
(これで何人目かしらねえ…。)
彼女に相談を持ちかけるのは何も女だけではない。時折男も訪れては、同じように長々と話しては帰っていく。ただし男の場合は、ただの相談ではない場合が多かった。若い男が彼女に相談をしたいと申し出たかと思うと、最後には思い上がって胸の内を告げたりもする。彼女は全て相手にしていないが、そういった場合焦るのは彼女よりも周囲の男である。美しい彼女が、もし誰か決まった相手を作りでもしたらどうしよう、と。
今回もそうである。やや若く、並の男よりも僅かに顔立ちの整った男であった。相談の内容が大したものではなかったので、予想はしていたがやはり同じことであった。「結婚を前提にお付き合いして下さい」と、そればかりである。嘘の相談を持ちかける以外に、もう少し芸のある誘い方は出来ないものか、と彼女は再び溜息を吐いた。
『お断り致します。』
彼女の返す言葉も変わらず同じである。いつもの彼女ならばもう少し砕けた言い方をしてもいいところなのだが、そうすると理性が途切れてしまいそうな気がするのである。敬語を崩せば最後、あらん限りの罵詈雑言を放って追い返してしまいそうな予感がする。
(全く、どいつもこいつも…。)
自分が異性からどういった視線を向けられているのか、理解はしていた。決してひけらかすようなことはないが、自分が美しいということも、ある程度分かっている。しかしそれが今何の役に立つのかと思えば、何もない。そんなものだ、と彼女は思う。
執務室のソファーに寝そべり、処理中であった書類もそのままに目を休めるかのように腕で顔を隠すと、やはりうとうととしてくる。このまま寝てしまっても良いだろうか、と思いつつ意識を飛ばそうとすると、次の瞬間何かが落ちたらしいばさりという音がしたかと思うと、顔に何か異物感を感じ跳ね起きた。
「た、隊長!何するんですか!?」
「うるせえ。まだ正午過ぎたばっかだってのに寝るんじゃねえ。」
見れば、彼女の顔には未処理である書類が束になって乗せられていたのであった。その残骸が床に大量に散らばっている。成る程、軽くではあるがなかなか痛い、と彼女は思う。気付けば彼女の眼には、端正な少年の顔が映っていた。ああ綺麗な人だなあ、と、乱菊は他人事のように思った。日番谷は、それを彼女に片付けさせようとはせずに、弾みで散り散りになった書類を何ともなしに重ね合わせ、元の通りに机に置いた。
「まだ仕事も終わってねえくせに休もうなんて思うなよ?まさか松本、お前昨日呑み過ぎで寝てねえとか言うんじゃねえだろうな。」
「失礼な。昨日は月見酒もそこそこに寝ましたよ?」
「…やっぱり呑んでんじゃねえか…。」
「だって昨日は満月だったんですもの。どうしても日本酒片手に見ていたくなったんですよ。本当は隊長も誘おうかと思ってたんですけど…。」
「けど、何だ。」
「明日仕事でしたし、怒られそうだったのでやめておきました。」
「当たり前だ、馬鹿。」
はあ、と一つ溜息を吐いて、日番谷が隊主机に腰を落ち着ける。松本と呼ばれた女―乱菊は、渋々立ち上がり席についた。しかし日番谷は、何か思うところがあるというような様子で顔をこちらに向けた。
「どうした、松本。」
「何がですか?」
「お前が仕事をしないのはいつものことだが、今日はどうも何かあったんじゃないかと思ってな。お前が仕事をサボる時は決まって外に出るじゃねえか。でも今は執務室で寝てただろ?お前があそこで勤務中に寝てる時は、気分でも悪いのか何かあったのかどっちかだ。」
「…よく見てますねえ、隊長。」
「当然だ。」
乱菊は目を伏せて、日番谷には分からないように微笑んでから、筆を取ろうとした手を止めて口を開いた。日番谷は、書類に目を落としたまま聴くことにしたらしい。筆を動かす手を止めずに、意識だけをこちらへと向けている。
「隊長、あたしね、今日男の人に告白されたんですよ。」
「いつものことじゃねえか。」
「そういうことじゃなくて、何だかなあ、と思ったんです。今日の人もそうですけど、最近相談を受けた相手から告白されることが多くなってきて。」
「結構なことだな。」
「違うんです。真面目に相談してるんじゃなくて、あたしに近付くためだけに口実を作ってくるんです。」
乱菊は、決して告げ口をしているつもりはなかった。ただ、自分の感じたままに、尋ねられたことだけを答えているだけである。乱菊は、その事実を悲しく思っていた。想いを告げられることは何よりも嬉しいことだが、男の言っていたことのどこまでが本心であったのか、それが信用出来なくなっていた。
日番谷は、何も言わず顔をしかめている。続けろ、という意思表示であろうかと思いながらも、乱菊が尚も言葉を紡ぐ。
「駄目なんですよ、相手の気持ちが本心だったとしても、相談の内容全てが嘘だったってことだけで壊れていくんです。あたしを騙すような人とは付き合っていくことは出来ない。そう思ってしまうんです。」
「それが普通の心情ってやつだろ。」
「そう、ですよね…。」
ただ、何がおかしいかと言えば、この限りない絶望感である。乱菊は、日番谷に何を求めていたのであろう。嫉妬してもらいたいわけではなかった。ただ畏怖すべきなのは、日番谷が何の反応も返さないことである。嫌な女だと思ったのだろうか、よりによって日番谷に向かって、他の男から想いを告げられたなどと言ってしまったのは、やはり不味いことであっただろうか。そんなことを思った。
「…隊長、やっぱりこういう話はしない方が良かったんじゃありませんか?」
「何でそう思うんだ?」
「さっきから隊長、うんともすんともおっしゃらないから。」
いささかうつむき加減に乱菊が言葉を濁すと、日番谷は苦笑した。そのことを少しばかり腹立たしく思い、乱菊は筆を取る。何事もなかったかのように書類に目を通すと、あちらからひどくはっきりとした声が聞こえてきた。
「お前がどんな男に何を言われようが信用出来なかろうが、どうせお前は俺のもんだろうが。」
つまり、乱菊がどれだけの男に想いを寄せられ、その男がどんな男であろうとも意味など持たないのである、と。
「…隊長、それってかなり思い上がりですよ。」
「そうか?」
「あたし、信用出来ない男は駄目だって言ったじゃありませんか。」
「少なくとも俺は回りくどいことはしねえぞ。」
確かにそれもそうだ、と乱菊は笑う。信用出来るかなど、そんなことははじめから分かっているはずであった。何より十番隊として連れ添ってきた相手である。どんな人間かなど、全て把握しているようなものであった。
「…何だか余計に疲れました。」
「そうかよ。それならそこで休んどけ。」
僅かに投げやりな調子で日番谷が言うので、乱菊は苦笑しつつも先程まで寝ていたソファーに腰を下ろした。相変わらず何事もなかったかのように仕事を続ける日番谷を見ながら、ふと思いついたようにして日番谷の方を眺め、言った。
「隊長も少し休んだらどうですか?」
「…断る。」
「仕事とあたしとどっちが大事なんですか。」
「断然仕事だ。お前はさっき構ってやっただろうが。」
「全然構われた覚えなんてありませんけど。いいから、どうぞ。」
乱菊は自分の隣を手で叩くと、猫のような瞳を日番谷に向けた。相変わらず挑戦的な目をした彼女は美しいが、同時に恐ろしい。どこか飲み込まれそうな印象を放っており、何とも凄絶に見える。
「・・・仕方ねえな。」
諦めたようにして日番谷が立ち上がり、乱菊の傍らに腰を落ち着けた。乱菊はそれを満足そうに一瞥し、即座に日番谷の華奢な体躯に腕を回す。それはまるで慈しむような抱擁に思えて、日番谷はやや不本意であるというような表情を見せた。
「子供扱いするんじゃねえよ。」
「あら、してませんよ。男を見る目で見てるじゃありませんか。」
成る程あれは男を見る目なのか、と思えば、途端に更に恐ろしくなった。つまり男には皆あのような表情を向けるのかと思うと、一体何人が見ているのかと思案する。
「言っておきますけど、好きな男を見る目ですからね。」
「…当然だ。」
言ってから、やはり少しばかり安著の気を見せた日番谷を、乱菊はさぞいとおしいものを見るような目で見つめていた。
日番谷の銀糸と翡翠色の双眸を見つめつつ、これが自分のものであって良かった、と思う。もし他の女のものであれば、自分は狂ってしまっていたのかもしれない、と。
からん、という音が二人の間で響いたような気がした。乱菊がそれが何なのかよく分からなかったが、自分の腕の中にある顔が静かに目を閉じたのを感じ、彼の瞳が奏でた音か、などと思ってしまう。閉じられた日番谷の瞳は、瞼の奥でも鋭い光を放っているような気がして、乱菊はふと目を背け同じように目を閉じた。
■あとがき■
20000HITフリーリクエスト企画でalice様よりリクエストを頂きました、「甘めの日乱」でございます。
な、何やらよく分からない話に…!(汗)日番谷君がやや黒くなってしまいましたが(泣)果たして甘くなっておりますでしょうか…?
しかも日番谷君の寝るのが早い。(泣笑)
alice様、こんなもので宜しければ是非お受け取り下さいませ…!
お持ち帰りはalice様のみ可能です。ご了承下さい。
「長年患ってきた胸の痞えがすう、と落ちていくような気が致します。」
彼女の前に座って、自分が今まで抱えてきた私怨や苦悩を吐き出していく人間達は、大抵がそう言いながら去っていった。彼女は特に美しい言葉をかけてやっているつもりはなかったし、優しい科白をかけてやっているつもりもなかった。ただ、うんうんと相づちを打ち、最後に一言これからどうすべきなのかを助言しているだけであった。
彼女は、他人から悩みなどを相談されることがよくあった。おそらく外見が大人びた女だからであろうと人は言うが、本当はなぜなのか見当もつかない。彼女はふう、と椅子から立ち上がると、髪を掻き上げた。濃い亜麻色の髪が、さらさらと音を立てながら靡く。
(これで何人目かしらねえ…。)
彼女に相談を持ちかけるのは何も女だけではない。時折男も訪れては、同じように長々と話しては帰っていく。ただし男の場合は、ただの相談ではない場合が多かった。若い男が彼女に相談をしたいと申し出たかと思うと、最後には思い上がって胸の内を告げたりもする。彼女は全て相手にしていないが、そういった場合焦るのは彼女よりも周囲の男である。美しい彼女が、もし誰か決まった相手を作りでもしたらどうしよう、と。
今回もそうである。やや若く、並の男よりも僅かに顔立ちの整った男であった。相談の内容が大したものではなかったので、予想はしていたがやはり同じことであった。「結婚を前提にお付き合いして下さい」と、そればかりである。嘘の相談を持ちかける以外に、もう少し芸のある誘い方は出来ないものか、と彼女は再び溜息を吐いた。
『お断り致します。』
彼女の返す言葉も変わらず同じである。いつもの彼女ならばもう少し砕けた言い方をしてもいいところなのだが、そうすると理性が途切れてしまいそうな気がするのである。敬語を崩せば最後、あらん限りの罵詈雑言を放って追い返してしまいそうな予感がする。
(全く、どいつもこいつも…。)
自分が異性からどういった視線を向けられているのか、理解はしていた。決してひけらかすようなことはないが、自分が美しいということも、ある程度分かっている。しかしそれが今何の役に立つのかと思えば、何もない。そんなものだ、と彼女は思う。
執務室のソファーに寝そべり、処理中であった書類もそのままに目を休めるかのように腕で顔を隠すと、やはりうとうととしてくる。このまま寝てしまっても良いだろうか、と思いつつ意識を飛ばそうとすると、次の瞬間何かが落ちたらしいばさりという音がしたかと思うと、顔に何か異物感を感じ跳ね起きた。
「た、隊長!何するんですか!?」
「うるせえ。まだ正午過ぎたばっかだってのに寝るんじゃねえ。」
見れば、彼女の顔には未処理である書類が束になって乗せられていたのであった。その残骸が床に大量に散らばっている。成る程、軽くではあるがなかなか痛い、と彼女は思う。気付けば彼女の眼には、端正な少年の顔が映っていた。ああ綺麗な人だなあ、と、乱菊は他人事のように思った。日番谷は、それを彼女に片付けさせようとはせずに、弾みで散り散りになった書類を何ともなしに重ね合わせ、元の通りに机に置いた。
「まだ仕事も終わってねえくせに休もうなんて思うなよ?まさか松本、お前昨日呑み過ぎで寝てねえとか言うんじゃねえだろうな。」
「失礼な。昨日は月見酒もそこそこに寝ましたよ?」
「…やっぱり呑んでんじゃねえか…。」
「だって昨日は満月だったんですもの。どうしても日本酒片手に見ていたくなったんですよ。本当は隊長も誘おうかと思ってたんですけど…。」
「けど、何だ。」
「明日仕事でしたし、怒られそうだったのでやめておきました。」
「当たり前だ、馬鹿。」
はあ、と一つ溜息を吐いて、日番谷が隊主机に腰を落ち着ける。松本と呼ばれた女―乱菊は、渋々立ち上がり席についた。しかし日番谷は、何か思うところがあるというような様子で顔をこちらに向けた。
「どうした、松本。」
「何がですか?」
「お前が仕事をしないのはいつものことだが、今日はどうも何かあったんじゃないかと思ってな。お前が仕事をサボる時は決まって外に出るじゃねえか。でも今は執務室で寝てただろ?お前があそこで勤務中に寝てる時は、気分でも悪いのか何かあったのかどっちかだ。」
「…よく見てますねえ、隊長。」
「当然だ。」
乱菊は目を伏せて、日番谷には分からないように微笑んでから、筆を取ろうとした手を止めて口を開いた。日番谷は、書類に目を落としたまま聴くことにしたらしい。筆を動かす手を止めずに、意識だけをこちらへと向けている。
「隊長、あたしね、今日男の人に告白されたんですよ。」
「いつものことじゃねえか。」
「そういうことじゃなくて、何だかなあ、と思ったんです。今日の人もそうですけど、最近相談を受けた相手から告白されることが多くなってきて。」
「結構なことだな。」
「違うんです。真面目に相談してるんじゃなくて、あたしに近付くためだけに口実を作ってくるんです。」
乱菊は、決して告げ口をしているつもりはなかった。ただ、自分の感じたままに、尋ねられたことだけを答えているだけである。乱菊は、その事実を悲しく思っていた。想いを告げられることは何よりも嬉しいことだが、男の言っていたことのどこまでが本心であったのか、それが信用出来なくなっていた。
日番谷は、何も言わず顔をしかめている。続けろ、という意思表示であろうかと思いながらも、乱菊が尚も言葉を紡ぐ。
「駄目なんですよ、相手の気持ちが本心だったとしても、相談の内容全てが嘘だったってことだけで壊れていくんです。あたしを騙すような人とは付き合っていくことは出来ない。そう思ってしまうんです。」
「それが普通の心情ってやつだろ。」
「そう、ですよね…。」
ただ、何がおかしいかと言えば、この限りない絶望感である。乱菊は、日番谷に何を求めていたのであろう。嫉妬してもらいたいわけではなかった。ただ畏怖すべきなのは、日番谷が何の反応も返さないことである。嫌な女だと思ったのだろうか、よりによって日番谷に向かって、他の男から想いを告げられたなどと言ってしまったのは、やはり不味いことであっただろうか。そんなことを思った。
「…隊長、やっぱりこういう話はしない方が良かったんじゃありませんか?」
「何でそう思うんだ?」
「さっきから隊長、うんともすんともおっしゃらないから。」
いささかうつむき加減に乱菊が言葉を濁すと、日番谷は苦笑した。そのことを少しばかり腹立たしく思い、乱菊は筆を取る。何事もなかったかのように書類に目を通すと、あちらからひどくはっきりとした声が聞こえてきた。
「お前がどんな男に何を言われようが信用出来なかろうが、どうせお前は俺のもんだろうが。」
つまり、乱菊がどれだけの男に想いを寄せられ、その男がどんな男であろうとも意味など持たないのである、と。
「…隊長、それってかなり思い上がりですよ。」
「そうか?」
「あたし、信用出来ない男は駄目だって言ったじゃありませんか。」
「少なくとも俺は回りくどいことはしねえぞ。」
確かにそれもそうだ、と乱菊は笑う。信用出来るかなど、そんなことははじめから分かっているはずであった。何より十番隊として連れ添ってきた相手である。どんな人間かなど、全て把握しているようなものであった。
「…何だか余計に疲れました。」
「そうかよ。それならそこで休んどけ。」
僅かに投げやりな調子で日番谷が言うので、乱菊は苦笑しつつも先程まで寝ていたソファーに腰を下ろした。相変わらず何事もなかったかのように仕事を続ける日番谷を見ながら、ふと思いついたようにして日番谷の方を眺め、言った。
「隊長も少し休んだらどうですか?」
「…断る。」
「仕事とあたしとどっちが大事なんですか。」
「断然仕事だ。お前はさっき構ってやっただろうが。」
「全然構われた覚えなんてありませんけど。いいから、どうぞ。」
乱菊は自分の隣を手で叩くと、猫のような瞳を日番谷に向けた。相変わらず挑戦的な目をした彼女は美しいが、同時に恐ろしい。どこか飲み込まれそうな印象を放っており、何とも凄絶に見える。
「・・・仕方ねえな。」
諦めたようにして日番谷が立ち上がり、乱菊の傍らに腰を落ち着けた。乱菊はそれを満足そうに一瞥し、即座に日番谷の華奢な体躯に腕を回す。それはまるで慈しむような抱擁に思えて、日番谷はやや不本意であるというような表情を見せた。
「子供扱いするんじゃねえよ。」
「あら、してませんよ。男を見る目で見てるじゃありませんか。」
成る程あれは男を見る目なのか、と思えば、途端に更に恐ろしくなった。つまり男には皆あのような表情を向けるのかと思うと、一体何人が見ているのかと思案する。
「言っておきますけど、好きな男を見る目ですからね。」
「…当然だ。」
言ってから、やはり少しばかり安著の気を見せた日番谷を、乱菊はさぞいとおしいものを見るような目で見つめていた。
日番谷の銀糸と翡翠色の双眸を見つめつつ、これが自分のものであって良かった、と思う。もし他の女のものであれば、自分は狂ってしまっていたのかもしれない、と。
からん、という音が二人の間で響いたような気がした。乱菊がそれが何なのかよく分からなかったが、自分の腕の中にある顔が静かに目を閉じたのを感じ、彼の瞳が奏でた音か、などと思ってしまう。閉じられた日番谷の瞳は、瞼の奥でも鋭い光を放っているような気がして、乱菊はふと目を背け同じように目を閉じた。
■あとがき■
20000HITフリーリクエスト企画でalice様よりリクエストを頂きました、「甘めの日乱」でございます。
な、何やらよく分からない話に…!(汗)日番谷君がやや黒くなってしまいましたが(泣)果たして甘くなっておりますでしょうか…?
しかも日番谷君の寝るのが早い。(泣笑)
alice様、こんなもので宜しければ是非お受け取り下さいませ…!
お持ち帰りはalice様のみ可能です。ご了承下さい。