Doll of Deserting

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翡翠の音。(日乱:20000HITフリーリクエスト企画作品)

2005-10-31 22:50:18 | 過去作品(BLEACH)
 彼女の言葉がどこへ向かい、そしてどこで人の心を動かしているのかは定かではなかった。


「長年患ってきた胸の痞えがすう、と落ちていくような気が致します。」
 彼女の前に座って、自分が今まで抱えてきた私怨や苦悩を吐き出していく人間達は、大抵がそう言いながら去っていった。彼女は特に美しい言葉をかけてやっているつもりはなかったし、優しい科白をかけてやっているつもりもなかった。ただ、うんうんと相づちを打ち、最後に一言これからどうすべきなのかを助言しているだけであった。
 彼女は、他人から悩みなどを相談されることがよくあった。おそらく外見が大人びた女だからであろうと人は言うが、本当はなぜなのか見当もつかない。彼女はふう、と椅子から立ち上がると、髪を掻き上げた。濃い亜麻色の髪が、さらさらと音を立てながら靡く。
(これで何人目かしらねえ…。)
 彼女に相談を持ちかけるのは何も女だけではない。時折男も訪れては、同じように長々と話しては帰っていく。ただし男の場合は、ただの相談ではない場合が多かった。若い男が彼女に相談をしたいと申し出たかと思うと、最後には思い上がって胸の内を告げたりもする。彼女は全て相手にしていないが、そういった場合焦るのは彼女よりも周囲の男である。美しい彼女が、もし誰か決まった相手を作りでもしたらどうしよう、と。
 今回もそうである。やや若く、並の男よりも僅かに顔立ちの整った男であった。相談の内容が大したものではなかったので、予想はしていたがやはり同じことであった。「結婚を前提にお付き合いして下さい」と、そればかりである。嘘の相談を持ちかける以外に、もう少し芸のある誘い方は出来ないものか、と彼女は再び溜息を吐いた。
『お断り致します。』
 彼女の返す言葉も変わらず同じである。いつもの彼女ならばもう少し砕けた言い方をしてもいいところなのだが、そうすると理性が途切れてしまいそうな気がするのである。敬語を崩せば最後、あらん限りの罵詈雑言を放って追い返してしまいそうな予感がする。
(全く、どいつもこいつも…。)
 自分が異性からどういった視線を向けられているのか、理解はしていた。決してひけらかすようなことはないが、自分が美しいということも、ある程度分かっている。しかしそれが今何の役に立つのかと思えば、何もない。そんなものだ、と彼女は思う。
 執務室のソファーに寝そべり、処理中であった書類もそのままに目を休めるかのように腕で顔を隠すと、やはりうとうととしてくる。このまま寝てしまっても良いだろうか、と思いつつ意識を飛ばそうとすると、次の瞬間何かが落ちたらしいばさりという音がしたかと思うと、顔に何か異物感を感じ跳ね起きた。



「た、隊長!何するんですか!?」
「うるせえ。まだ正午過ぎたばっかだってのに寝るんじゃねえ。」
 見れば、彼女の顔には未処理である書類が束になって乗せられていたのであった。その残骸が床に大量に散らばっている。成る程、軽くではあるがなかなか痛い、と彼女は思う。気付けば彼女の眼には、端正な少年の顔が映っていた。ああ綺麗な人だなあ、と、乱菊は他人事のように思った。日番谷は、それを彼女に片付けさせようとはせずに、弾みで散り散りになった書類を何ともなしに重ね合わせ、元の通りに机に置いた。
「まだ仕事も終わってねえくせに休もうなんて思うなよ?まさか松本、お前昨日呑み過ぎで寝てねえとか言うんじゃねえだろうな。」
「失礼な。昨日は月見酒もそこそこに寝ましたよ?」
「…やっぱり呑んでんじゃねえか…。」
「だって昨日は満月だったんですもの。どうしても日本酒片手に見ていたくなったんですよ。本当は隊長も誘おうかと思ってたんですけど…。」
「けど、何だ。」
「明日仕事でしたし、怒られそうだったのでやめておきました。」
「当たり前だ、馬鹿。」
 はあ、と一つ溜息を吐いて、日番谷が隊主机に腰を落ち着ける。松本と呼ばれた女―乱菊は、渋々立ち上がり席についた。しかし日番谷は、何か思うところがあるというような様子で顔をこちらに向けた。
「どうした、松本。」
「何がですか?」
「お前が仕事をしないのはいつものことだが、今日はどうも何かあったんじゃないかと思ってな。お前が仕事をサボる時は決まって外に出るじゃねえか。でも今は執務室で寝てただろ?お前があそこで勤務中に寝てる時は、気分でも悪いのか何かあったのかどっちかだ。」
「…よく見てますねえ、隊長。」
「当然だ。」
 乱菊は目を伏せて、日番谷には分からないように微笑んでから、筆を取ろうとした手を止めて口を開いた。日番谷は、書類に目を落としたまま聴くことにしたらしい。筆を動かす手を止めずに、意識だけをこちらへと向けている。
「隊長、あたしね、今日男の人に告白されたんですよ。」
「いつものことじゃねえか。」
「そういうことじゃなくて、何だかなあ、と思ったんです。今日の人もそうですけど、最近相談を受けた相手から告白されることが多くなってきて。」
「結構なことだな。」
「違うんです。真面目に相談してるんじゃなくて、あたしに近付くためだけに口実を作ってくるんです。」
 乱菊は、決して告げ口をしているつもりはなかった。ただ、自分の感じたままに、尋ねられたことだけを答えているだけである。乱菊は、その事実を悲しく思っていた。想いを告げられることは何よりも嬉しいことだが、男の言っていたことのどこまでが本心であったのか、それが信用出来なくなっていた。
 日番谷は、何も言わず顔をしかめている。続けろ、という意思表示であろうかと思いながらも、乱菊が尚も言葉を紡ぐ。
「駄目なんですよ、相手の気持ちが本心だったとしても、相談の内容全てが嘘だったってことだけで壊れていくんです。あたしを騙すような人とは付き合っていくことは出来ない。そう思ってしまうんです。」
「それが普通の心情ってやつだろ。」
「そう、ですよね…。」
 ただ、何がおかしいかと言えば、この限りない絶望感である。乱菊は、日番谷に何を求めていたのであろう。嫉妬してもらいたいわけではなかった。ただ畏怖すべきなのは、日番谷が何の反応も返さないことである。嫌な女だと思ったのだろうか、よりによって日番谷に向かって、他の男から想いを告げられたなどと言ってしまったのは、やはり不味いことであっただろうか。そんなことを思った。
「…隊長、やっぱりこういう話はしない方が良かったんじゃありませんか?」
「何でそう思うんだ?」
「さっきから隊長、うんともすんともおっしゃらないから。」
 いささかうつむき加減に乱菊が言葉を濁すと、日番谷は苦笑した。そのことを少しばかり腹立たしく思い、乱菊は筆を取る。何事もなかったかのように書類に目を通すと、あちらからひどくはっきりとした声が聞こえてきた。


「お前がどんな男に何を言われようが信用出来なかろうが、どうせお前は俺のもんだろうが。」


 つまり、乱菊がどれだけの男に想いを寄せられ、その男がどんな男であろうとも意味など持たないのである、と。
「…隊長、それってかなり思い上がりですよ。」
「そうか?」
「あたし、信用出来ない男は駄目だって言ったじゃありませんか。」
「少なくとも俺は回りくどいことはしねえぞ。」
 確かにそれもそうだ、と乱菊は笑う。信用出来るかなど、そんなことははじめから分かっているはずであった。何より十番隊として連れ添ってきた相手である。どんな人間かなど、全て把握しているようなものであった。

「…何だか余計に疲れました。」
「そうかよ。それならそこで休んどけ。」
 僅かに投げやりな調子で日番谷が言うので、乱菊は苦笑しつつも先程まで寝ていたソファーに腰を下ろした。相変わらず何事もなかったかのように仕事を続ける日番谷を見ながら、ふと思いついたようにして日番谷の方を眺め、言った。
「隊長も少し休んだらどうですか?」
「…断る。」
「仕事とあたしとどっちが大事なんですか。」
「断然仕事だ。お前はさっき構ってやっただろうが。」
「全然構われた覚えなんてありませんけど。いいから、どうぞ。」
 乱菊は自分の隣を手で叩くと、猫のような瞳を日番谷に向けた。相変わらず挑戦的な目をした彼女は美しいが、同時に恐ろしい。どこか飲み込まれそうな印象を放っており、何とも凄絶に見える。
「・・・仕方ねえな。」
 諦めたようにして日番谷が立ち上がり、乱菊の傍らに腰を落ち着けた。乱菊はそれを満足そうに一瞥し、即座に日番谷の華奢な体躯に腕を回す。それはまるで慈しむような抱擁に思えて、日番谷はやや不本意であるというような表情を見せた。
「子供扱いするんじゃねえよ。」
「あら、してませんよ。男を見る目で見てるじゃありませんか。」
 成る程あれは男を見る目なのか、と思えば、途端に更に恐ろしくなった。つまり男には皆あのような表情を向けるのかと思うと、一体何人が見ているのかと思案する。
「言っておきますけど、好きな男を見る目ですからね。」
「…当然だ。」
 言ってから、やはり少しばかり安著の気を見せた日番谷を、乱菊はさぞいとおしいものを見るような目で見つめていた。
 日番谷の銀糸と翡翠色の双眸を見つめつつ、これが自分のものであって良かった、と思う。もし他の女のものであれば、自分は狂ってしまっていたのかもしれない、と。

 からん、という音が二人の間で響いたような気がした。乱菊がそれが何なのかよく分からなかったが、自分の腕の中にある顔が静かに目を閉じたのを感じ、彼の瞳が奏でた音か、などと思ってしまう。閉じられた日番谷の瞳は、瞼の奥でも鋭い光を放っているような気がして、乱菊はふと目を背け同じように目を閉じた。





■あとがき■
 20000HITフリーリクエスト企画でalice様よりリクエストを頂きました、「甘めの日乱」でございます。

 な、何やらよく分からない話に…!(汗)日番谷君がやや黒くなってしまいましたが(泣)果たして甘くなっておりますでしょうか…?
 しかも日番谷君の寝るのが早い。(泣笑)

 alice様、こんなもので宜しければ是非お受け取り下さいませ…!

 お持ち帰りはalice様のみ可能です。ご了承下さい。

こんな家族設定が。

2005-10-30 22:53:58 | 過去作品(BLEACH)
*昔のファイルを整理しておりましたら、こんなものが出てまいりました。(笑)何と子供のCPまできちんと設定してありますのでご注意下さい。(笑)



ブリーチパラレルギャグバージョン。設定は家族パラレル。キャラクター説明は次の通り。ギンイヅにも普通に子供がいますので注意。



~市丸家~

市丸 ギン:若手の三弦奏者で今最も注目を集めている。父の実家が三弦の名門。母の実家は茶道の家元で、そちらの当主も兼任しているが、名前だけ。(だって東京にいるし)家の資産などもあってかなりの金持ち。

市丸 イヅル(旧姓吉良):女性という設定になっています。(心の目で見て下さい)和服専門のスタイリストをやっていて、コンサート前の市丸と出会い互いに一目惚れ。(主に旦那の押しが強かった模様)専業主婦のつもりが仕事をしたいあまりに家で着物の着付け教室を始めてしまった。(笑)

市丸 ユヅル(兄):銀髪碧眼で顔はギン似。性格もギン似だが若干ギンよりも面倒見がよくしっかりしている。(お兄ちゃんだから)日番谷家の胡蝶ちゃんが大好き。

市丸 ヒナ(妹):金髪赤眼で顔はイヅル似。名前はお母さんの友達の旧姓からもらいました。(笑)性格もイヅル似だが素直にお父さん大好きとか言うのでギンはめろめろです。(笑)藍染家の孝助君に憧れております。



~藍染家~

藍染 惣右介:大ベストセラー作家で、しかも締め切りを破らないので編集部から神のように扱われている。(笑)主に純文学を書いていたが、結婚のきっかけとなった恋愛小説でも注目を集め、そちらの方にも熱を入れている。

藍染 桃(旧姓雛森):元大手出版社の編集部で藍染の担当をやっていた。そこで藍染と知り合い、彼女から告白してみる。そして藍染が初めて返事代わりに二人とよく似た境遇の恋愛小説を書くというキザなまねをした。(笑)今は専業主婦だが、趣味でビーズアクセサリーを造っていたらそれが売れて副収入となっている。

藍染 孝助(兄):黒髪黒眼で藍染似。性格は母親似だと本人は豪語するが先天的な腹黒さは隠せない。(笑)市丸家のヒナのことを大切に想っている。

藍染 すず(妹):茶髪茶眼で顔は桃似。性格は純粋なところは桃に似ているが桃よりもものをはっきり言う。日番谷家の清雅君が大好き。



~日番谷家~

日番谷 冬獅朗:現存するIT企業の社長の中で最年少。17歳にしてネットで会社を立ち上げ、僅か五年のうちに恐ろしく経営成績を上げた。(ここでは青年に成長させております。180センチ…くらい?汗)

日番谷 乱菊(旧姓松本):ファッションデザイナーをしている。出向いたニューヨークで偶然日番谷と知り合ったらしいが、詳しいことはまだ解っていない。(管理人も考えてない。汗)

日番谷 清雅(弟):金茶色の髪と緑色の眼を持つ。性格は日番谷と乱菊を足して2で割った感じ。頑固だが調子はいい。藍染家のすずに淡い恋心。(笑)

日番谷 胡蝶(姉):銀髪に色素の薄い黄金色の眼をしている。性格は乱菊寄り。皆のお姉さん。市丸家のユヅルのことをうざいと言いつつまんざらでもない。(笑)



 こんなん考えてたんですねえ。ハマリたてって怖い!(それで片付ける気か)この頃はギンイヅの娘さんはきちんとイヅルに似ておりました。どこで間違えたのか。(笑)

空想の正義。(ギンイヅ+恋)*戦時パラレル

2005-10-30 22:47:14 | 過去作品(BLEACH)
*戦争パラレルです。ご注意下さい。イヅルが二割増しで可愛くありません。(汗)


神もなくしるべもなくて
窓近く婦(をみな)の逝きぬ
  白き空盲(めし)ひてありて
  白き風冷たくありぬ
                               
        (引用:臨終―「山羊の歌」―中原 中也)

 死の瞬間すら美であるのだ、と呟けば、目前の彼はいかにも不味そうな顔をしている。しかしその言葉を、冗談で済ますことも出来ない。イヅルは恋次の方を見ながら、手の内の書籍をめくる手を止めておもむろに閉じた。ここ最近聞こえてくるのは炎の燃える音のみである。硝煙の香りなどを敏感に感じ取っていた頃もあったが、今となってはもう空気の香りと化してしまっている。
「何も死に憧れを持ってるわけじゃないよ。僕は残された者の気持ちを、一番よく知っている。」
「分かってるさ。どうせまたお偉い哲学か何かだろ。お前が突然言い出すことは大抵そんなもんだ。」
「いいや、違うね。哲学とも少し違う。」
 イヅルは紐の垂れた眼鏡を外してから、懐に入れた。目が悪いわけではないが、直接文字を見るよりは目が疲れないだろうから、と日光よけに使っている。日光に当たったからといって瞳の色が褪せるわけではないのであるが、あの人はいつもイヅルの瞳の色や、髪の色が失われることを恐れた。
『せっかく綺麗な色しとるんやから、大事にせなあかんよ。』
 イヅルは容姿などについて無頓着な方なので手入れなども特に行ってはいなかったのだが、ここ最近は律儀にその約束を守っている。
「ねえ、もうそろそろかな。」
「何がだよ。」
「僕達が呼ばれるまで。」
「ああ…そうだな。」
 恋次とイヅルは、優秀な憲兵であった。今でこそこうして悠長にしていられるが、時が来れば戦場へと赴き、その場に存在する全ての敵を滅さなければならない。しかしイヅルは、恐ろしいとも居た堪れないとも思わなかった。全ては一人の男のために、そしてその男と共に在る、自分のために。それだけであるとそう言い聞かせてきた。
「あそこへ行けば、あの人に会えるかな。」
「会えるだろ、すぐにでも。」
 恋次が答えると、イヅルがはにかんだように笑う。まるで人殺しを常としているような人間の表情ではない。その顔は一重に美しく、穏やかであったが、恋次はむしろ危うさを感じていた。あの男はイヅルに次々と人を殺めさせて平気なのであろうか。そう思った。このままいくと、そのうち何かの均衡が崩れるような気がして、それが恐ろしかった。



 暫くそうしていると、玄関の戸ががらがらと開かれる。呼び鈴もなしに何と無粋な、と何ともなしにイヅルがぼやくと、やはりそこには迎えが訪れていた。
「あなたでしたか、朽木隊長。」
 恋次の迎えか、と俯き、しかし同時に胸を撫で下ろすと、白哉の背後にもう一人男がいるのが見て取れた。イヅルが目を見開けば、その男は反対に目を細めて笑った。
「久しぶりやなあ、イヅル。元気しとったか?」
「市丸隊長…!」
 そのまま食事はきちんと取っていたか、体調は損なわれていないかとまるで今まで自分の方には特別なことなど一つもなかったと言うようにギンが尋ねて来るので、イヅルは僅かに鋭い視線を向けた。ギンは尚も飄々としている。
「そうじゃないでしょう。何も言わずに僕を置いていって、何があったのかと思えばいきなり待機ですって?ふざけるのも大概にして下さい。死にに行く時は必ず連れて行って下さるとおっしゃっていたくせに!」
「うん、せやから生きて帰って来たやろ?」
「ああ、もう。そんなことじゃないんです。何の断りもなく戦場に行くなんて、もしそこで死んだりしたらどうするつもりだったんですか?僕は絶対に弔いなんてしてあげませんからね。」
「そら怖い。生きとって良かったわ。」
 明らかに痴話喧嘩としか思えない二人のやり取りを、恋次と白哉は唖然として見つめていた。恋次はともかく、白哉がここまで驚いているのも珍しいのではないであろうか、と恋次は溜息を吐いた。しかしすぐに表情を戻し、白哉が呼びかける。
「そろそろ行くぞ。」
「ああ、せや。急がなあきまへんな。イヅル、荷物だけ持って早うおいで。」
「いつでも玄関に常備しております。阿散井君の分は知りませんけど。」
「そんなこったろうと思って俺も用意してたっつの。」
 恋次が毒づくと、イヅルは「ああそう」とさほど気にしない様子で答えた。車に乗り込もうとしたギンが、あ、と思い出したように息を吐き、イヅルの方を肩越しに見てから呼びかけた。
「荷物貸し。結構重いやろ。」
「女扱いしないで下さい。これくらい平気です。」
 イヅルが即答するも、ギンは「いつまで拗ねとるの」と言いながら荷物を取り上げた。やや不本意に思いつつ、イヅルが顔をしかめる。ギンは荷物を先に乗せると、イヅルの方を振り向いて言った。

「ついておいで、イヅル。」
「…はい!」

 五感全てを遮る漆黒の闇が脳裏を掠めたが、イヅルは眦を下げて微笑んだ。聞こえていたはずの子供の笑い声も、美しい再生の風景も、全てが今は遠い光の中へと退いていった。


町々はさやぎてありぬ
子等の声もつれてありぬ
  しかはあれ この魂はいかにとなるか?
  うすらぎて 空となるか?

 


■あとがき■
 何というか突発的に戦時パラレルを思いつき、ギンに置いて行かれて切なく待ってるイヅルが書きたい…と思い書いてみたのですが、どこが切ないのでしょうねこれは。むしろイヅルさんどこが切ないのでしょうね。
 書きながら我ながらイヅルが可愛くないなあと思っておりましたが(汗)ここまでカカア殿下っぽくなろうとは。(笑)

市丸姉。

2005-10-29 22:20:43 | 過去作品(BLEACH)
 今日ふと思ったのは、市丸さんにものっそい強いお姉さんがいたらどうだろうか、でした。(やめれ)

 姉弟そっくりだといい。お姉さん(仮にナギさんとしましょう←なぜ)は弟である市丸さんを色々と見下してればいいんですよ。あ、愛ある見下しですよ?(笑)
 もういっそ職業は四十六室とかでいいと思う。(死んでるし)とにかく隊長格以上の立場にあればいいんですよ。そしてやたらモテていれば更によし!(コラ)
 女としての属性は乱菊さん。仲はいいんだけど、たまにキャラ被りは禁止よ!的なことでケンカしてるといい。(笑)




 イヅルが大好きで「イヅルちゃん」とかふざけて呼べばいい。イヅルはそれをいちいち訂正してればいい。



ナ「あー仕事ダルイわー。イヅルちゃーん、構ってー。」
イ「いい加減仕事に戻って下さいよナギさん…。ていうか僕のことちゃん付けで呼ぶのやめて下さいって言ってるじゃありませんか…。」
ナ「え、だってイヅルちゃんはイヅルちゃんやろ?せやってイヅルて呼んだらあのアホが怒るんやもん。」
イ「あのアホって…隊長のことですか?」
ナ「他に誰がおるん?」

 みたいなね。(アホ)

 イヅルのこととかを溜息混じりに微笑みながら「アホな子やなあ…。」って言うのが口癖です。すみません趣味です。(コラ)


 市丸さんとかたまに姉と間違われて酔った男とかに襲われればいい。そして前より更に姉に対する嫌悪感が深まる。(笑)
 ちなみに襲った男は途中で相手が男だと気付き、更に市丸さんだと気付いてとんでもない速度で引きます。(笑)


市「何やねんお前ええ加減にせえよ!!?((割と必死。笑)」
 ホラ、むやみに人を殺めるとイヅルが泣くかr(いい加減にしなさい)
男「あ…?(上半身剥いて確認)あー……。ハアアアア!!!???
市「ったく最近の若いモンはところ構わず盛りよってからに…。」
男「いいいいいいい市丸―――――!!!???」
市「何やお前いきなり呼び捨てか。
 動転している酔っ払いはこの後無事に射殺されました。(市丸さん限界。笑)


 そして何だかんだで弟大好きなお姉さん。ええ加減にせえと思っている弟市丸さん。(笑)


ナ「なあアンタ、そろそろ嫁もろたらどうなん?」
市「余計なお世話や。ボクにはもう決まった子おるもん。」
ナ「ハア!?ギンアンタ勝手に決めたんか!!アンタの結婚相手はあたしがもう決めとるねんで!?
市「何やて!!そっちこそ勝手に決めんなや!!!で、誰やねんそいつ。」
ナ「アンタの相手こそ誰やねん。」
市「…せーの、で言おか。」
ナ「ええよ。」
二「せーの…イヅル(ちゃん)。

二「…何の問題もあらへんやん。」


 みたいなね。(待てやコラ)性別なんてお姉さん気にしない。気にしない。(二度言う)

 ていうかオリジナルキャラ作りすぎじゃないかね…!!!(今更)

とんでもない夢のお話。

2005-10-29 21:54:38 | 過去作品(BLEACH)
 他所様の夢バトンというのを拝見させて頂いてそういえば、と思い出したのですが、おかしな夢を見ました。というかブリーチのキャラがなぜか出てきたので、「ああ、日頃ネタネタ言ってるからついに…。(笑)」と軽い気持ちでいましたところ、内容が激しくおかしかったです。(最も私は内容が漫画と関係なくともおかしな夢ばかり見ている女です。笑)


 いやまあ、何と言いますか、私の中のキャラはどこに行っても同じなんだなあ、と…。(遠い目)


 日頃ネタ作りばっかしてるとこんななることもあるんだなあ、と。(笑)


 いやまあ始まりからしておかしいんですけどね、何だか三番隊と五番隊と十番隊だったので、アハハやっぱ夢だから都合いいなーと思っていたら、全然都合はよくなかったです。ええ全く。(笑)


 まず三番隊主従を見つけた私。何でこんなところにいるのか全然分かりませんが夢だから!で片付けようと思います。とりあえず三番隊の動向を探ってみる私。(ストーカーとも言う)

 おや?私の目の錯覚かしら。どうしてここは海なのかしら。(しかもバリバリ夕日が出てます)しかもここまで走ってきた三番隊。なぜ運動神経の鈍さには自信のある私が追いつけたのかは定かではありません。(夢だから。笑)

「綺麗やなあ、イヅル…。」
「そうですね…。」


 夕陽を見つめながら語らう三番隊?(許す←待て)いや、こんなん後のに比べれば序の口ですよ、序の口。(笑)
 まあ、アレですよシチュエーションが違うだけで、うちのギンイヅなんてこんなんじゃありませんか。恥ずかしさは負けてない。(笑)
 

 そんなこんなで逃げ帰る私。(小心者)街中に出ると、なぜだろう。花屋の前で乱菊さんに土下座している日番谷隊長が見えるよ?(錯覚だと思いたかった) 
 何をしたんだ。何をしたんだ日番谷 冬獅朗。乱菊さんに何をしたんだ。ああうちのサイトのあなただと色々思い当たるフシが多すぎて困るわ…!(コラ)
 本当一体何なのでしょうか。バラの花をかかえてプロポーズでもしたんでしょうか。「結婚してくれ!頼む!!」みたいな。(嫌だそんなの)
 しかし乱菊さんは至って平静だったので、彼女はもしかすると日番谷君にシャネルやらヴィトンやらエルメスやらグッチやらフランクミュラーやらを散々買わせた挙句別れ話でも切り出したのでしょうか。(だからそんな日乱嫌だってば)



 そんなこんなでフラフラ頭を抱えつつ今度は藍桃探索。ああ、いましたいました。墓場で堂々と肝試しとかしてました。(季節外れにも程がある)
「キャー!藍染隊長!!」
「ハハハ大丈夫だよ雛森君、僕がいるから。」
 何を言い出すかと思えばこの男、出てくるお化けは皆藍染隊長力作の虚さん達でございました。「僕がいるから」とか言いつつ片手で虚を粉砕しておりました。肝試しじゃねえよそれ。

えー、皆様ご免なさい色々と。私はカッコいい彼らが大好きです。(いつもながら説得力の欠片もない)
   




永遠の断片。(阿ネム:20000HIT御礼フリーリクエスト企画作品)

2005-10-29 21:40:43 | 過去作品(BLEACH)

 鼻につく香りと、耳を掠める浅い音ばかりが気になり外に出る。するとそこで火を焚いている彼女と目が合った。何をしているかと思えば、と阿近は訝しげな顔を浮かべる。確かに最近風は冷え、辺りも夏とはまた違い冬の空気に冴え渡っている。しかし寒いのならば中に入っていれば良いはずである。阿近はやれやれと溜息を吐き、一枚上着を足してから外へと向かった。




「あんた、何やってんだ?」
 投げやりな調子で尋ねると、ネムはまず退いて頭を下げた。そうじゃねえだろと呟いてから、彼女の足を見て寒そうだな、と思う。ネムの足は今も変わらず外気に晒されており、阿近はいやらしいというよりもむしろ不安に思い、足は隠せないが、と気休めに上着を肩からかけてやった。しかしそれを、頭を上げたネムが返そうとする。
「私は風邪などひきません。いえ、ひくことが出来ない、と言った方が正しいのかもしれませんが。」
 だからあなたが着ていて下さい。そう言いながら上着を差し出す。しかし阿近は、その手を制して再度上着を掛け直させた。
「まァ、そう言うなよ。風邪をひこうがひくまいが、寒さぐらいはある程度感じれるように出来てんだろ。」
「…ありがとうございます。」
 控えめにネムが言うと、阿近は笑んだのかもしくは蔑んだのか判断出来ないような顔をした。しかしおそらくそれは笑ったのであろう、とネムは思うことにした。
 するとそれで、と阿近が話を戻す。



「あんたは何をやってたんだ。」
「…火を、焚いておりました。」
「そんなことは分かってるさ。何で中で焚かないんだ?まさかここで焚き火でもしようって話じゃねえだろ。それともまた涅隊長に何か言われたのか。」
「分かりません。誰に命じられたわけでもありませんが…ふと、衝動的に外に出ておりました。また冬になったと思ったら、何か物悲しく感じたのです。また一年が、過ぎてしまったのだと。そうして外に出てみれば、今度は肌寒く思ったので火を焚いておりました。」
 ネムが自分の感情のままに動くことは珍しい。マユリは今現在開発局に篭っているために、ネムを連れて出歩くこともない。だからこそ今こうして彼女がここにいるのかもしれなかったが、阿近はむしろなぜネムが冬を物悲しく思ったのかが分からなかった。しかし少し考えてみると、おのずと答えは導き出されるものである。
「確かにあんたにしてみりゃ一年なんて短えもんだろうな。俺にしたってそうだ。俺達が気だるく過ごす一年は、現世の人間にとっては結構長いもんなんだろうが。」
「そうですね。私は成長も出来ぬ身ですので、そのようなことは忘れておりました。」
 ネムの声は、決して皮肉が混じったものではなかった。ただ純粋に、季節の風情も趣も何も感じず安穏とマユリに従い、気付けばまた一年が過ぎているということを、嘆いているようにも見えたし諦めているようにも見えた。
「しかしただの人間にとっちゃ、あんたみたいなのはむしろ崇められる存在じゃねえのか。」
「そうでしょうか。私は、歳を取り、いつか死ぬことの出来るものの方が崇高だと思います。」
 目を伏せて、ネムは呟く。長い睫毛が頬にまで陰り、その様はまるで人形のようだと阿近は思ったが、事実人形であるのだということを思い出し僅かに嘲笑した。白く輝くその肌すら、終ぞ失われることはないであろう。しかし彼女すらも、自分一人では不死であることが出来ない。
「でもな、人間ってのは現存するもん全てに生かされてんだ。そう考えれば、あんたも同じだろ?」
 ぱちぱちと炎が鳴く。人間というものは、全ての生物を喰らい、そして全ての生物から何かしらを奪いながら生きている。ここに燃える炎すらも同じである。いずれは燃え尽き、塵すらも残さずに消えてゆくであろう。それも全て誰かの都合である。




 ネムも何かの手がなければ生きてはいない。何かと酷く扱われているマユリでさえ姿を消せば、ネムが生きることは不可能となるであろう。それは人間が生きることと酷似している。自然的か人工的か、異なる点はそれのみである。
「いいえ、そういうことならば、むしろ人間よりも私の方が弱いでしょう。」
 周囲から誰か一人が消えたとしても他の何かがあれば生き抜ける人間とは違い、ネムはマユリにしかしがみ付くことが出来ない。それは酷く浅ましいことのように思えた。しかしそれを聞き、阿近が顔をしかめる。
「涅隊長だけじゃねえだろ、あんたの身体が壊れた時に修復出来んのは。」
「そういうことを言っているわけでは、ありませんが…。」
 心の中を読まれたようで、ネムは更に顔を下に向ける。先程頭の中に思い浮かべたのはマユリのみであるが、それは決して阿近のことが信用出来ないからではない。ただ、頼って良いものかと思うのである。自分が窮地に陥った時、果たしてこの男に身を委ねても良いのであろうか、と。
「あんたはもうちょっと涅隊長以外にも目を向けるべきだろ。あんたを心配してんのは、何も俺だけじゃない。」
「…ありがとうございます。」
 そろそろと目線を上に上げると、阿近が満足げな顔をして懐の煙草を取り出していた。冷えた空気に不透明な煙がけぶる。その煙が、まるで行き場がないとでも言うように冬の白に溶けていった。途方もないような、澄んだ光景である。
 ネムは、背にまで浸透したように感じる上着を指で握り締めた。そのまま、白い空を見上げる。こうしてみれば、結局は全て同じ小さな生き物のように感じた。
「俺からすれば、あんたは不恰好な人間に見えるけどな。」
 阿近が言うので、ネムは素直に受け入れた。不恰好、というのも彼なりの表現である。むしろ美しい人形と言われるよりも光栄なことのような気がして、ネムは呟く。




「私から見れば、むしろあなたの方が精巧な人間のように思いますよ。」




 それはどうも、と呟かれた声が、やはり冴えた空気に冷え、消えていった。ネムは風の向く方角へと視線を逸らし、あちらへそれが逃げていったのかと思うと、初めて口を僅かに綻ばせた。


《完》




■あとがき■

 二人とも色々と間違っているような気がしてなりませんが(汗)大嶋 モズク様からリクエストを頂きました、「阿ネム」でございます。
 何というか、趣味に走りすぎたような思いが致します。本当はもっと恋愛っぽい二人が書きたいのですが、きちんと阿ネムになれているかどうか不安です。(泣)
 モズク様、こんなもので宜しければ貰ってやって下さいませ…!

 お持ち帰りはリクエスト頂きました大嶋モズク様のみ可能です。ご了承下さいませ。

鮮花:前編(偽善との共鳴余話:第二幕 ギンイヅ)

2005-10-27 20:32:04 | 偽善との共鳴(過去作品連載)
*この小説は、連載「偽善との共鳴」にリンクした内容となっております。イヅルと市丸さんに現世時代に面識があったなら、という捏造小説です。イヅルに現世時代などないということは重々承知しておりますが、半ばパラレルという形で読んで頂ければ幸いです。(汗)


*後編は裏にあります。隠しではありませんので、ご入室なさる際には充分お気をつけ下さい。




 彼は、その職業に就いている人間からすれば重々しさの感じられない男であった。僕の家に訪れる時は、決まって着物を売りに来る時であったが、時折彼は僕を連れ出したがった。
 男として育てられた僕を、儚いものに触れるようにして接したのは彼のみであった。彼の売る着物や扇子は、鮮やかな色を残しつつもどこか儚い印象を持たせた。あれは僕であるのだと、彼は見たこともないほどに一際悲しげな顔をして言った。


 
 イヅルは、公家の出身であった。幼い頃からお前の血は気高く、美しいものなのだと教わってきたが、イヅルはいっこうにその考えに順ずることが出来なかった。父と母は死に絶え、そういった教育をするようにと申し出たのは祖母である。何としてでもイヅルに吉良家を継いでもらう必要があるのだと、あからさまに吹聴されているようでもあった。
 常日頃そんなことばかりを耳に入れているためか、近頃は耳鳴りがして仕方がなかった。ともすれば鼓膜すら破られるのではないかと思うほどに、その言葉は険しかった。
「ああ、痛い。」
「…どないしはりました?」
 思わず声を漏らしたイヅルに、誰かが問いかける。おそらく京からこちらへと上ってきたのだと思われる心地よい訛りが耳に優しい。飄々と細められた目は見覚えがある。ここ最近よく見かけるその男は、確か呉服屋だったはずである。そういえば今は新調する着物を吟味している途中であった、とふと思い出した。男は特徴的に整ったかんばせを綻ばせ、慈しむような視線を向けている。
「いえ、あの、何でもありません…。」
「何でもない、いうことはあらしまへんやろ。うちの着物、気に入りませんか。」
 訝しく、というよりも、むしろ不安げに男は尋ねる。その様子が好ましく、イヅルは花が綻ぶような笑顔を浮かべた。男はそれを見ると、やや安心したように表情を戻した。
「いいえ、とても素敵です。ただその…近頃気分が優れませんもので。申し訳ありません。」
「謝られることやありまへんよ。ご気分が宜しないんやったら、外の空気でも吸いに出はったらどないですやろ。せやったらボクが付き添いますよ?」
「え、でもそんなご迷惑をおかけするわけには…。お忙しいでしょうし、お時間の程もありますでしょう。」
「今日はもうボクの仕事は終いや。店の方は若いもんに任してあります。時間なら気にせんでええですよ。」
 それは男がいささか無理に決定したものであるということを、当のイヅルは知る由もなかった。
「それなら…宜しくお願いします。」
「はいはい。」
 そう言いながら、男はイヅルに手を差し出す。まるで女子を扱うかのように振舞うので少しばかり不本意に思ったが、黙ってその手を取った。すると男は、満足そうに笑みを深めた。
「あの、お名前は何と仰るのですか?」
 ふと思い出し、イヅルが尋ねる。手を引かれながらも、男の名を知らぬことを疑問に思ったのである。男は美しい銀糸の髪を風に揺らしながら、尚も柔らかい口調で答える。
「市丸云います。市丸ギン。」
「市丸さん…ギンとは、銀(しろがね)と書きますか。吟遊の吟と書きますか。」
「どっちもちゃいますよ。ただのギンです。まだ誰もよう知らん字やけど…。」
 ギンは、突如として座り込むと、庭の石を使って地面に文字を描いた。おそらくそれは彼の名であると思われたが、それで「ぎん」と読むらしい。しかしイヅルは、その文字に見覚えがあった。イヅルの名と同じ種の文字であったからである。少しばかり嬉しくなり、イヅルは自分の名をギンの横に書き出した。
「僕の名前も漢字ではないんですよ。…あなたの名前とおそらく同じ類のものでしょう?」
 イヅルが微笑みながら言うと、ギンはさも嬉しそうな顔をして同じく笑った。互いに何か通ずるものが出来たようで、またそれが互いにとって何か抜きん出た感情であるかのようで、居心地が悪くなり曖昧に顔を背けた。



 それからというもの、ギンは度々屋敷へ赴いては、着物を売るついでにイヅルを連れて出歩くようになった。はじめは商人と客の立場では、と遠慮していたようにも思うが、最近ではそのような態度も見せなくなっている。イヅルはむしろそれが嬉しかった。特別な魂を持つと教えられてきた自分の全てが、初めて覆されたように思えた。
 ギンはそのうち、敬語を使うなと言い出したイヅルのことを今度は名前で呼び出した。突然のことにイヅルは驚いたが、自分に対してやはりどこか一線引いていたギンが一歩近付いてくれたように思えて、歓喜した。



「市丸さんのお家へ、是非お邪魔したいのですが…。」
「…は!?」
「あ、いえそういう意味ではなくて、是非そちらへ赴いてお着物を拝見したいと…。」
「ああ、ええよ。いきなりそないなこと言うもんやから驚いたわ。」
 いつものように庭を歩いている時イヅルが発した言葉に、ギンが瞠目する。イヅルの方が上の身分であるというのに、決してギンに対する言葉遣いを改めることはなかった。ギンは何度もおかしいと思いそれを指摘したのだが、イヅルは慣れないので、と聞き入れようとはしなかった。
「しかし、着物はボクがここに持って来よるんやからええやん?わざわざうちに来んでも。」
「いえ、やはり一度はお店にお邪魔してみたいと思いまして。それに…市丸さんがどのようなお家でこれまでお育ちになられたのか、興味があります。」
 ああ、またこの子は可愛らしいこと言うて。イヅルがまるでギンに懸想しているかのような言葉を漏らす度に、ギンの中の何かが総毛立つ。しかしそれは恋と呼ぶにはあまりにも儚い。それはむしろ、同属愛とでも言い表した方が正しいような気がした。それでも確かに、自分がこの子を想っているということに変わりはないのだが。
「ええよ、おいで。」
 今すぐにでも、と手を引くギンに、イヅルは逆らわなかった。まだ日は高い。口うるさい祖母も今は出掛けていることであるし、もし行くとするならばこの好機を逃す手はないであろうと思ったのだ。



 檜の香りが鼻先をくすぐる。品良く造られたその店内は、数ある呉服屋の中でも高尚であるということを感じさせた。出入りする客は皆高い身分であるといった風で、連れられた子供すらも嫌に落ち着き払っている。ギンは絹織物を扱う女性に向かって茶を、と言うと、イヅルを奥の間へと案内した。イヅルは「お構いなく」と退いたが、ギンに押し切られ部屋へと入る。
「市丸さん、僕は普通のお客様のようにお着物を拝見させて頂くために来たのであって、決してこのようにもてなして頂くために来たわけでは…。」
「分かっとるよ。せやかてイヅルはただの客やないやろ?」
 ぐ、とイヅルが押し止まるのを見て、ギンが苦笑する。そういった意味で言ったのではないのだと軽く訂正してから、新たな言葉を紡ぎ出した。
「イヅルは大事な友達やもんなあ?」
 はっとしてイヅルが顔を上げると、ギンが所在なげに茶を含んだ。何と言い表そうもなく友人と言い放ってしまったことに、照れ臭さと気まずさが入り混じりどうしようもなかった。
「ありがとうございます…。」
 普通の友人として扱ってもらったことを嬉しく思い、イヅルは礼を述べた。しかし内心では、友人、という言葉にいささか疑問を覚えたのも確かである。友人や知人というものとは違う気がした。いつしか離れてしまうような、しかし繋がっていけるような、不確かな存在であるような気がしていたのだ。
「ここには、お着物の他にも色々なものがあるんですね?」
 掠めるような沈黙が流れ、その場の重苦しさに絶えられずにイヅルが辺りを見回す。そこには売り物ではない小物類が置かれていたが、この店にはそういったものも出してある。余程高価なものなのか、それともこの店のものではないのか、それは分からなかった。
「扇子に巾着、何でも置いてあるで。ここにあるもんはボクが趣味で作ったもんやけど。」
「え、そうなんですか?」
 うん、とギンが尚も茶を啜りながら頷く。素人が作ったにしては精巧に出来ているそれらは、鮮やかな色合いをしているがその色は淡く、どこか儚い面影を残した。聞けばこれらは、最近作ったものであると言う。衝動的に、作らずにはいられなかったのだと。
「これはな、全部イヅルなんよ。」
「僕、ですか?」
「かようにイヅル見よったらな、綺麗やなあ思うて、何かに残したなるんよ。そんで出来たのがこれや。」
 相変わらずまるで女性に言うような口振りでギンが言うので、軽く憤慨したくなったがやめた。ギンの表情があまりに優しかったのもあるし、自分がこれまで培ってきた不安がここで一掃されるような気がしたので、黙っていた。
「市丸さん、お聞きしても宜しいですか。」
「うん?」
「これはあなたの造ったものでしょう。ならばあれは何です。」
「ああ、あれはなあ、ボクの副業や。」
 貼られた髪に描かれているのは、おそらく刺青の下絵であると思われた。艶やかに咲き誇る葉牡丹に、勇ましい龍の様。それは、彩を持たせればどんなにか美しいであろうと想像するだけで身震いしそうになるほどのものであった。
「たまにな、人の背なんかに落書きしとるんよ。」
 茶化すようにギンが言う。刺青まで彫るのか、と感心せずにはいられないイヅルを見つめ、イヅルには紅い花なんかが似合うやろなあ。青でも白でもええけど。と笑った。イヅルは曖昧に笑んでいたが、あのように美しいものが我が身にあればどう思うのであろう、と誘われるような思いで下絵を眺めていた。

 気が付けば夕刻を過ぎ、切なげに光る紅い陽が花や龍を一つの色合いで染め上げている。夜になれば蒼く光るのであろうか、とイヅルはふと思った。
   



【後編(裏)へ】

*充分ご注意下さい。




□あとがき□
 この二人は出会いから書かなければ何が何だか…と思い出会いから書いてみれば、やはり長くなり過ぎて前後編に…すみません。(汗)
 続きは明日にでもUP致しますので、もし読んで下さる方がいらっしゃれば幸いです。

やっぱりこういうこと。

2005-10-26 20:30:31 | 過去作品(BLEACH)
 何というか、やたらうちのサイトは結婚ネタや夫婦ネタが多いのですが、今日ふとイヅルは市丸さんと結婚しても修兵と結婚しても二人とも遊び盛り(笑)だから苦労しそうで可哀想だなあと思いました。(その前の時点で何かに気付け)でも修兵は多分色々手伝ってくれるんだよね。え?隊長ですか?まあその辺はお好みに合わせて。(笑)

 

 ただ、例えば市丸さんとか修兵と乱菊さんが結婚したとしても、乱菊さんはいっこうに苦労なんてしないと思うんですよね。むしろご飯作んなさいよみたいな。(笑)ただ、うちの乱菊さんの最大の特徴は日番谷君には進んでご飯を作ってあげるところです。(夢)

乱「隊長、はいアーンv」
日「…やめろ松本…。」
乱「ダメですよ隊長。ちゃんとシイタケも食べて下さい。
日「ダメだダメだ!俺はそんなだだっ広いキノコはキノコとして認めねえ!!」
乱「じゃあエノキとシメジくらいしか食べられないじゃないですか!!」
日「とにかく俺はシイタケマイタケお断りだ!!!」


 などというやり取りが日夜行われているものと思います。(いい加減にしろ)乱菊さんは隊長のためならご飯も作ります。掃除はちょっと手伝わせます。(笑)洗濯だってしちゃいます。下着も一緒に洗おうとすると止められます。(笑)ゴミ出しは分別がイマイチ分からないので隊長に怒られたりします。ちなみに湯殿や寝床にもいつの間にやら連れ添っています。(コラ)
 日番谷隊長はそんな乱菊さんに困り果てつつもちゃっかり家事を手伝ってあげたり湯殿や寝床に入り込む彼女に動じなかったり。(大物)でも日番谷君は純粋にどぎまぎして「出てけ!」と言うか全然動じないかのどっちかだと思うんですよね。(笑)


 あ、ちなみに今気が付きました。


市「ただいま、イヅル。」
イ「お帰りなさい、隊長。」
 どうしても慣れないので隊長で妥協したようです。(笑)
市「…ハッ!!あかんイヅル!!洗いもんなんてしたらアカン!!イヅルの綺麗な手がふやけたり荒れたりしたらどないすんの!?そういうんはボクがやるて言うとるやろ。貸し。」
イ「大丈夫ですよ!ちょっと洗ったくらいで…。」
市「ええて。ほんまは包丁かて危ないから使わせたないのに…。」


 うちの市丸さんはどこまでもイヅルに甘いのでイヅルが苦労しそうなどという心配は無用でした。(待て)
 イヅルを甘やかしたい市丸さんが大好きなんです。そんな市丸さんが大好きでたまにぎゅーっとか自分からしちゃうイヅルさんが大好きなんです…!!(黙れ)


 ちなみにうちの藍桃は藍染隊長が甘いので問題ありません。(結局どこも旦那が甘いのか)

孤独の中に馳せる時間。(藍桃)

2005-10-26 20:04:04 | 過去作品(BLEACH)
「一人になったことはあるかい?雛森君。」
 突然彼が言った。あたしはその質問の意味がよく分からず、しかし懸命に考えた。彼の望んでいる答えは何なのだろう。そんなことを思いながら。ただ、彼が言っている孤独というもの自体が、あたしはよく理解出来ていなくて少し恥ずかしく感じた。
「あの、多分ないと思います。帰る家もあるし。」
 あたしが落とされた流魂街は、その中でも治安のいいところだった。育ての親であるお婆ちゃんはまだ元気で、あたしは長い休暇が取れると日番谷君と共に帰省している。藍染隊長はふうんと少し渋い顔をして、あたしの方を見つめた。
「…君は幸せだったんだね。…安心したよ。」
 柔らかく微笑んで、彼は言った。あたしは彼のそんな柔和な笑みがとても好きだ。全てを忘れさせてくれるようで、何かを思い出させてくれるようで、温かい気分になる。ただ、その笑顔がたまに怖くなる時がある。あたしの方を見ているようで、見ていないような気がするのだ。いっそ目を見開いて真っ直ぐにあたしを見てほしい、と、そう思う時がままある。
「藍染隊長は…一人になったことがおありになるんですか?」
 怪訝な表情をしながら、彼の方を見つめる。藍染隊長はうーんと少し考えて、悩んでいる。あたしはもしかしたらまずいことを聞いてしまったのではないかと思い、「すみません」と一言謝って話を終わらせようとした。しかし彼は、「いや、いいよ」と言って話を続けた。
「言おうかどうか迷ったんだけど…家庭の話なんてしても楽しくないと思って。」「いっ…いいえ!もし話して頂けるんだったら…その、嬉しいです。」
 彼はふっと笑って話し始める。藍染隊長は中流貴族の出身だそうだ。育ちがいいのだろうとは思っていたが、まさか貴族だとは思わなかった。しかも中流となれば、上級まではいかなくとも相応の生活が出来るだろうと思われた。しかし、彼の家は金銭面では不自由しなかったが、絵に描いたような崩壊家庭だったと彼は語った。
「とんでもなかったよ。近所で遊んでいた友達が、お父さんがいないと言うからどうしたのかと思えば、実はご近所の振りをさせて父が匿っていた愛人の子だったり。」
 灯台下暗しとは言ったものだが、そこまで近いとまるで隠されたような印象は受けない。金があるだけが幸福ではないとよく言われるが、まさにその通りだと思う。そして、彼の孤独が理解出来ないかとも。
「…自分が孤独だったから、君に救いを求めたのかもしれないな。君が羨ましかったのかもしれない。でもただ羨望というだけではなくて、きちんと癒されているんだけどね。」
 その言葉に、あたしは思わず紅くなった。いや多分紅くなったと思う。だって顔が熱いんだもの。きっとあたしは彼が救いを求めるには小さな存在だと思う。しかしいつか、もし彼の隣に。本当に彼の隣に立てた時には、精一杯彼の孤独を拭ってあげよう。あたしは彼に、あなたの笑顔にこそ癒されていますと言いたかったが、彼の笑顔が本当のものになるまで言わないでおこうと、やめた。



 随分前の拍手御礼ログでございます。下にギンイヅと日乱もUPさせて頂きました。やっぱり白い藍染隊長が大好きです。(泣)

孤独の中で得る時間。(日乱)

2005-10-26 20:01:19 | 過去作品(BLEACH)
「一人になったことは、ありますか?隊長。」
 松本がそんなことを聞くのは、初めてだった。当然だ、と答えてやりたかったが、松本の言っている孤独は明らかに物理的なもののような気がしたので、やめておいた。松本の経験した孤独と俺の経験した孤独は、似通っているようで全く違うものだ。
「現世ではどうだったか知らねえが、ここに来てからは一度もねえな。」
 松本は、「そうですか」と短く言ってすぐに職務に戻ろうとする。それを腕で制し、引き止めた。何としても、なぜそんなことを聞いてきたのか尋ねてやろうと思った。それが、今の自分の使命か何かのよう泣気がしていた。
「待て、松本。何でお前そんなこと聞いたんだ?」
「いえ、別に。隊長は孤独を知らないんだろうなって思ったら、急にやっぱりあたしとは違うんだって思い知らされたような気がして。」
 松本は、かなり治安の悪い流魂街の出身で、霊術院を卒業する前に市丸に捨てられたことがある。共に入学し、共に授業を受け、おそらく共に卒業し、死神になるのだと誰もが思っていた。傍目から見れば二人は恋人同士のようだったと、誰かが語った話だ。少なくとも松本は、共に道を歩もうとしていたのだろう。しかし市丸は、突然松本に別れを告げた。もう共にいるのはやめよう、と、何とも軽い口調で。
『いえ、あたしはあいつを家族みたいに思ってたから、家族に別れがあるなんて考えてもみなくて』
 柄にもなくあいつとの関係が気になり問い詰めた時、松本はそう言った。僅かに苦笑しながら、自嘲気味に語る。しかし俺は、松本と市丸の間には恋愛感情があったのだと認識している。少なくとも二人は、互いに「男と女」であることを意識していたのだから。
「馬鹿か、松本。俺の昔を考えてみろ。」
 霊術院は飛び級で卒業したが、そのことに対する風当たりは思ったよりも強いものだった。大体入学時からしてそうだ。俺のように幼い奴は他にいなかったし、それでいて実技も学科も常に人の上を行くように努力していたので、俺はいつも孤独を感じざるを得なかった。俺が入学した時にはもう雛森は六回生になっていて、雛森が卒業した頃には、まともに話が出来る人間なんていなかった。
「孤高の天才も、大変なんですねえ。」
「俺は自分のことを、天才なんて思ったことは一度もなかったけどな。」
 努力あって成るもの。まさにその通りだ。俺はとにかく雛森を追いかけようと必死になって、無我夢中で努力していた。だからこそ俺は、自分が天才だと思ったことは一度たりともない。
「それでだ、松本。お前は今、孤独なのか?」
「まさか。」
 茶化して聞いてやると、ふふ、と笑って松本は答えた。いつも俺より子供のような行動を取るくせに、どうしてこういう時だけお前は大人の女なんだ、と悔しく思いながらも、松本の身体をさっと引き寄せる。当たり前だ、俺がいるからな。という言葉が、視界の端に歪んで消えた。



 拍手御礼として公開していたもののファイルがやっと見つかりましたのでUPさせて頂きました。しかし日乱はこの連作の中で一番甘いなあ。(笑)
 テーマは少しずつ異なった孤独の形、ということで、過去の孤独と今の幸福を僅かでも表現出来ていれば幸いです。