ユーニッヒ

仕事の話もたまには書くかもしれません。

春の雨の日に思ったこと

2023-04-15 17:20:22 | 日記
 事務所を作った当初は、お客さんはほぼいませんでした。事務所には
毎日出勤していましたが、誰も来ませんし、電話もかかってきません
でした。事務所は毎日静寂に包まれていました。あれから随分経ち、
状況も変わったのですが、時折、誰も来ず、電話もない日があります。

 先日もそのような日がありました。外は雨がしとしとと降っていました。
事務所も外も静寂でした。ふと頭の中で「静かな雨 並木の雨」という
歌が響きました。「小雨降る径」です。雨が降り、恋人のことを思い、
恋人に会いたい気持ちを募らせる歌です。

 この歌には、原曲があります。「Il pleut sur la route(道に雨が降る)」と
いうフランス語のシャンソンです。道に雨が降る、恋人は来ないのか、いや
今宵来る、やはり来ないのかと言うような歌です。恋人に会いたい気持ちを
歌う点では、小雨降る径も原曲も同じです。ただ、小雨降る径は、雨でしんみり
した感情を全面に出すのに対し、原曲は雨が妨げで恋人は来ないのではないかと
気に病む歌になっています。雨の使い方が、違います。日本の古典では、武人も
恋に涙するくらいで、小雨降る径は、日本人の湿った感情に合った歌になって
います。

 さて、頭の中には小雨降る径がかかったのですが、雨の日だから誰も来ないのだ
とも思って、Il pleut sur la route(イル プリュ シュル ラ ルート)の歌詞も
頭の中を巡りました。ただ、事務所の生活は、これらの歌の世界とは異質です。
事務所に人が訪れるか否かは仕事があるか否かの象徴です。そもそも、法律事務所に
ふらっと訪れて頼みごとをする人など皆無なので、雨が降ったから人が来ないと
言うものでもありません。事務所で過ごす時は、降る雨に恋焦がれたり、恋人が
来ないのか悩んだりする時間ではありません。

 しかし、関係なさすぎて新鮮な気持ちになるからなのか、現実逃避をしたいから
なのか、頭をめぐる甘美な曲が、落ち着いた気持ちにさせてくれました。