『ビューティフル・ゲーム』は、ロンドンの批評家協会賞を受賞しているものの、一年足らずの上演期間は興行として大成功とはいえず、またブロードウェイでも上演されていない・・・その理由としてテロリズムを真正面から扱った事があげられている批評を読みましたが、同時にアンドリュー・ロイド・ウェバー自身がブロードウェイでの上演を切望している作品でもあるそうです。自分の長い創作活動の中でもベストといえる曲がいくつかあり、若い人たちが宗教的対立に引き込まれていく状況は、作品を書いたときよりも今のほうが語るに適している、とも語っています。
年始にテレビ放映されていた「ブロードウェイの100年」で、資金面での問題に加えて、ニューヨークという街がテロリズムによって受けた傷が語られていたことを思い出すと、彼のような大ヒットメーカーでも意のままにならないことなんだな、とアメリカのショービジネスの厳しさ、そして宗教的対立の根深さを垣間見る思いです。それをブロードウェイの、それもアイルランド系の振付・演出家で見られるのですから日本の観客はやはり幸せですね。
前の記事で書いた、アイルランドの自由のためにハンガーストライキという形で命を捧げたIRA戦士の中に、Joe McDonnellという方がいます。『ビューティフル・ゲーム』の舞台となるベルファスト出身、妻と二人の子がありながら、’77年に14年の禁固刑を受け、’81年の5月9日からハンガーストライキに入り、その間ようやく妻子と面会がかない、7月8日に30才で亡くなった方です。『ビューティフル・ゲーム』にはFather O'Donnellという神父さんが出てきますが、("Mc"と"O'"はどちらもアイルランド名の特徴)この人も、脚本のベン・エルトンに物語の着想を与えた一人なのでしょう。
サウンドトラックCDのケース内側には、試合のシーンからでしょうか、二人のサッカー選手の写真があります。青山さんのダンスを思い出すような躍動感溢れるポーズです。国と自由への激しい想いと、この生命の輝きがどう絡み合って舞台で描かれるのでしょうか。
2月15日付記: 前の記事で紹介した『ビューティフル・ゲーム』日本公演チラシの、「愛する妻子を残し、プロサッカー選手になる夢を叶える目前で、ハンガーストライキによって・・・」という文章は、一人の人物ではなく、ハンガーストライキで亡くなった方たちのエピソードを複合したもののようです。誤解を招くような書き方になり、申し訳ありませんでした。