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『ゲキxシネ五右衛門ロック』『The Musical AIDA』など、ミュージカルの話題作に出演の青山航士さんについて。

ブラッド・ピットがIRA戦士に扮する『デビル』

2006-02-11 | ビューティフル・ゲーム
 『マイケル・コリンズ』の次は、ブラッド・ピットがIRA戦士を、ハリソン・フォードがアイルランド系アメリカ人の警官を演じている『デビル』('97)を見てみました。物語は『ビューティフル・ゲーム』でも描かれている1972年から。8才の少年の目の前で、IRAに協力的だというだけで、家に押し入ったプロテスタントの暴徒が彼の父親を射殺します。その記憶と共に、少年はIRA戦士となり、テロリストとして暗躍を続け、アメリカに潜伏、武器の調達にやってくるのです。
 
 『ビューティフル・ゲーム』の始まりは69年。当時、投票権・住宅・就職など生活のあらゆる面で差別をうけていた独立派(カトリック)による非暴力抗議運動がおき、英国政府下にある北アイルランド政府は激しい弾圧を行っていたそうです。それがきっかけとなり、英国帰属派(プロテスタント)と独立派(カトリック)それぞれが組織的に暴力行為を復活させ、北アイルランドの街はテロリズムに荒れ果てたといいます。『デビル』の少年の父親の殺害は、そんな街のひとつであったベルファストの不幸な、そして珍しくはなかった事件なのでしょう。
 『デビル』の物語がはじまる72年は、北アイルランドの地方議会、行政庁が機能停止となり、イギリスの全面的・直接的な支配が始まった年です。その後99年まで、英国政府閣僚の「北アイルランド相」による統治が続き、IRAの武力闘争もまた終わる事がありませんでした。

 『マイケル・コリンズ』を監督したニール・ジョーダンは、映画を作ることで「武力闘争が有効なのか」と問題提起をしたかった、といいます。アイルランドの人々が、暴力を憎みながらも、自分達が人間らしくあるために、と幾度も怒りと武器と暴力に任せてきた歴史への想いはあまりにも複雑で、日本に住む私たちが本当に理解することはできないのかもしれない、と思いもします。
 
 『デビル』では、冒頭の父親殺害のシーンに続いて、20年後、92年のベルファストの肌寒さが伝わってきそうな風景が広がります。殺伐とした街路でサッカーボールを蹴る少年が、銃を持った男たちの乗る車に気付き、ブラッド・ピット扮するIRA戦士に伝えるため駆け出して行きます。少年までが逃れることの出来ない「憎しみの連鎖」に誰もが疲れ果てながら、どんな思いで、アイルランドに関わる人々はこうした作品を世に送り出しているのでしょうか。
 少年達の駆けていく場所はフィールドであって、テロリストの隠れ家ではないように、まして銃撃戦が繰り広げられる街角ではないように、ベン・エルトンやA.L.ウェバーが書き上げたであろう『ビューティフル・ゲーム』が、「平和ぼけ」とまで言われている日本に語りかけてくることを、わからないなりに少しずつ拾っていこうと思います。