フラワーガーデン

ようやく再会したハルナとトオル。
2人の下す決断は?

戻れない道

2006年02月11日 18時59分49秒 | 第12章 逡巡編
ホテルの中にある店に文庫本が売ってあったので手に取り、さして興味も惹かれなかったが時間潰しの為に買った。
ラウンジのソファに腰掛けると早速パラパラとページを捲り、そして1頁目に目を落とした。

だが、何度読んでも肝心の一行目が頭に入らない。
何度も何度もチャレンジしてみたところで溜息を吐き、腕時計を見た。

しかし、レストランを出てまだ5分と経っていなかった。

そこでもう一度気合を入れ直して本の一行目を読もうと集中した。
だが、やはり集中できず腕時計に目を落とす。

秒針は気忙しく動いていたが、長針の方はさっき見た時から1分も経っていない。

部屋に行くまでの30分がとてつもなく長い時間に感じられた。
「何やってんだよ、オレは・・・・・・」
本をぽんと手前のテーブルに放り投げると、両手で顔を覆い、上下に強く擦った。
こうすると脳まで酸素が行き渡り、落ち着くような気がする。

だが、心臓は正直だ。
「うるせぇよ・・・・・・」
自分の胸をドンと叩くと、ソファにもたれ掛かり、天井を仰ぎ見た。
天井にはまるでテレビで観たシスティーナ礼拝堂のような美しい天井画が描かれていた。

その絵の中のハルナに良く似た天使が柔らかな微笑をオレに投げ掛け、慈悲の手を差し延べているかのような錯覚を覚えた。

もしかしたら、あの時の選択は間違いだったのではないだろうか。
あいつはあの天使のように遠く手の届かない侵さざるべき聖域だったのではないか・・・・・・。
そーいや北尾も言っていたな。
侵さざる神聖な美少女だと・・・・・・。


オレは無意識にホテルの吹き抜けより更に先の何かを見ようと目を凝らしていた。




ピピピピピピ・・・・・・


30分経過を告げる腕時計のアラーム音にはっと我に還った。


ぼやけていた視点が天使の目線と交わった。
オレは祈るような気持ちで呟いていた。

「オレにチャンスをくれ」

オレは両足を踏ん張って立ち上がると、二度とは戻れない道を再び歩き始めた。



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