池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

空間の歴史(22)

2019-01-25 12:40:37 | 日記
痛みが和らいでくるにつれ、会社のことが気になって仕方ない。
現在のプロジェクトの進捗はどうなっているか、顧客や協力会社との間に問題はないか……考え始めたらきりがない。
しかし、私の手元には、携帯電話も手帳もなく、連絡のつけようがない。

さすがに金曜日になると、焦れてきて、いてもたってもいられないような気分になってきた。
病棟の端にある旧式の公衆電話を使って会社に連絡することにした。
私の部署への直通番号に電話した。驚いたことに、返ってきたのは「この電話番号は現在使われていません」という案内だった。
番号を間違えたのかと思い、もう一度電話したが、結果は同じだった。

となると、私が間違った番号を記憶していたことになる。
そんなはずはない。これまで、数え切れないくらい使ってきた番号なのだ。ただし、このところずっと携帯電話の自動発信機能を使ってきたので、入院している間に、少し記憶が曖昧になった可能性はあるかもしれない。

会社の代表番号にかけてみることにした。呼び出し音に続いて、受付の女性が会社名を名乗るはずだった。
ところが、呼び出し音が長く続いた後、出てきたのは老人男性であった。
私は、間違い電話を謝罪し、受話器を置いた。

どういうことなのだろう? 首をひねらざるをえない……しかし、まあいい。明日退院する時に会社に直行しよう……そう考えた。

翌日の午前中、私は支払をすませ、薬を受け取り、無事病院を後にした。正面玄関で待機していたタクシーに乗り込み、会社の住所を告げた。
今日は土曜日だから、受付は休みである。私は入室用のキーカードも持ち合わせていない。休日出勤している人も少ないだろう。しかし、インターホン越しに話せば中に入るのは簡単だ。
ともかく、休んでいる間に届いた電子メールに目を通しておきたかったし、郵便や稟議書等も整理したかった。

ところが、どうしても会社に行き着くことができない。私が記憶しているビル周辺の地図と実際の様子が微妙に異なっている。近辺の道をうろうろした揚げ句、結局会社に戻るのはあきらめて自宅に帰った。

自分の身辺で、何かおかしなことが起きている。そんな気がしてきた。何か悪いことでも起きなければよいが……
そんなことを考えながら、自宅玄関のドアを開く。
私のイヤな予感は当たっていた。
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