池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

空間の歴史(24)

2019-01-27 17:47:34 | 日記
「息子さんの所在がわかりそうなんです」と調査員は、興奮した声で伝えた。「先週、元同僚の方から連絡がありましてね、息子さんらしき人を見たというんです」
「場所は?」
「池袋です」
やはり私の勘は当たっていた。大塚から遠く離れた場所に行くはずがない。

調査員の説明によれば、その元同僚は、毎週日曜日にボランティア活動をやっており、そのために池袋駅で電車を降り、西口から要町に向けて歩いていく。その時、広場にいる息子を見かけたというのだ。最初は「似ている男がいるなあ」というくらいに思っていたが、何度も見るにつれ「彼に間違いない」と思うようになった。しかし、あまりに身なりが悪かったので声をかけられず、興信所に電話してきたという。

「それで、広場に行ってみて、あの辺りで生活している人に尋ねてみたんですが、やはり日曜日の朝になると、それらしい人物がふらりとやってくるらしい。それで、私自身、実際に先週の日曜日に行ってみました。朝の七時ごろに、この目で確認しました。息子さんらしき人物がいらっしゃいます。写真も撮りました。早速お知らせしようと電話したんですが、なかなかつながらなくて」
「ええ、ちょっと体調を崩して入院していましたから」
「そうですか、それは……」調査員は口ごもった。「で、どうします?」
「何が?」
「明日、日曜日です。また、息子さんらしき人物が現れますよ」
「そうか、明日か……」
「実際に行って確認されますか?」
「ええ、そうします」
「必要でしたら、私も同行しますが」
「いや結構です。私一人で行ってみます」

連絡に感謝して電話を切った。

「明日かあ……」
長年会いたかった息子に会えるかもしれない。しかし、自分が父親だということをどうやって証明すればいいのか? 息子のために何をやってあげればいいのか?
頭の中で、同じことをぐるぐると際限なく考える。

夜になると、また膝の関節が痛くなってきたので、早めにベッドにもぐりこんだ。
しかし、電灯を消しても、過去のいろいろな出来事が頭を駆け巡り、眠れない。
天井を見つめたまま、時間を過ごした。身体は相変わらず重く、身動きするのも億劫だ。天井が次第に自分に近づいてくるような錯覚に襲われ、次の瞬間、眠りに落ちた。



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