池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

アントン・チェーホフ【犬を連れた奥さん】(神西清訳)

2024-08-09 20:22:57 | 日記

アントン・チェーホフ【犬を連れた奥さん】(神西清訳)

 

久しぶりのアップロード。今回は私の尊敬する作家チェーホフの作品。訳者は、これも私が尊敬する神西清。

若い頃、はじめてこの小説を読んだときの衝撃はよく覚えている。この『犬を連れた奥さん』と『イオーヌィチ』の二つの中編を収めた薄い岩波文庫だった。それまでにチェーホフの戯曲はすべて読んでいたが、小説は初めてだった。戯曲とはまったく違う感動(というより動揺と言った方が正しいかもしれない)があった。

二つとも、ごくごく平凡な日常的エピソードである。『犬を連れた奥さん』は、避暑地でのひと夏の恋を日常の中でひきずっていく男女の話、ありていに言えば浮気話である。『イオーヌィチ』も、退屈な田舎暮らしの年月を映しただけの作品。なのに、なぜこんなに奥深く我々の人生や現実を描き出せるのだろうか、というのが当時の私の思いだった。

ドストエフスキーは、ある種異常な感性の持ち主を登場させる。しかしチェーホフに登場する人物はどれも市井人であり、さして変わり映えのしない、ありきたりの習慣と情緒の中で生活している一般人たちだ。これだけを見ると自然主義作家と同じように思えるかもしれないが、私の目には、チェーホフは彼らとはまったく違う視座で小説を書いているように思えた。

 

訳注

ヤールタ――クリミヤの南岸、黒海に臨む風光明媚《ふうこうめいび》な保養地。

べリョーフだとかジーズドラだとか――いずれもヨーロッパ・ロシヤの中部にある小さな町。

グラナダ――スペイン・アンダルシヤの都会。ムーア人の王国の旧都で、アルハンブラ宮殿など当時の遺跡によって名高い。

罪の女――『ヨハネ伝』第八章三節以下。この女性を描いた画《え》は古来すくなくない。

オレアンダ――ヤールタの西南一里半足らずにある公園地。やはり黒海に臨み、当時は帝室領であった。

フェオドシヤ――クリミヤの南岸にある海港。

ペトローフカ通り――モスクヴァの中心部を南北に走る大通りで、市内屈指の繁華な商店街。

『スラヴャンスキイ・バザール』――モスクヴァの一流ホテルの一つ。

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