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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

2月13日・ジョルジュ・シムノンの疑問

2021-02-13 | 文学
2月13日は、「風と木の詩」のマンガ家、竹宮惠子が生まれた日(1950年)だが、推理作家、ジョルジュ・シムノンの誕生日でもある。

ジョルジュ・シムノンは、1903年、ベルギーのリエージュで生まれた。父親は保険会社に勤める会社員だった。ジョルジュは子どものころから小説家志望で、15歳のとき、新聞記者になり、記事と並行して小説を書きはじめた。
17歳のとき、処女作を発表。19歳のとき、仏国パリへ移り、さまざまなペンネームで短編小説を量産しだし、稼いだ原稿料でヨットを購入し、そのヨットで航海しながら、推理小説を書いた。
28歳のときに発表された、パリ警視庁のメグレ警部が登場する推理小説の第一作が好評を博し、以後「メグレ警部」シリーズを百編以上も書いた。
1960年代には、シムノンは毎年6冊の長編を書き、それらは出版されるやいなや、27カ国語に翻訳され、世界中で読まれていた大ベストセラー作家で、ヴィクトル・ユゴー、ジュール・ヴェルヌと並び、世界でもっとも読まれているフランス語作家のひとりである。
70歳のころ、シムノンは「メグレ警部」ものからの引退を宣言し、1989年9月、スイスのローザンヌで没。86歳だった。

シムノンには、3人の子どもがあって、上の二人が男の子、いちばん下が女の子だが、この3人の子どもたちが3人とも、小さいときに夕暮れをこわがったという。
日が暮れるのを見てると、こわくて家に飛びこむ、逆に外へでたがる、ひとりきりになってもの思いに沈む、など、子どもによって、その反応はちがったが、どの子どももみな、沈み行く夕日を見て、
「明日も日がまた昇ってくるのだろうか」
と不安を訴えてくる。父親のシムノンは、とうぜん、
「お日さまは、明日もきっと帰ってくるよ。だいじょうぶだよ」
と請けあうわけだが、シムノンはそこに、自分がもの書きになってからずっと疑問に思っていた「われわれ人間がなぜ小説を読むのか」という疑問に対する答えを見つけた。
「小説とはなにか。なぜひとは小説を読むのか。自分と同じ人間が、自分と同じようなことをやっているのを見るために、わざわざ金を出して小説本を買ったり、劇場や映画館に出かけたりするのか」
その答えをみつけた、と。話を端折るけれど、シムノンが得た答えは、
「われわれを安心させるため。われわれを和解させるため」
というものだった。(参照・河盛好蔵「人間の小説」『文学空談』文藝春秋)

シムノンの説は、感慨深いものがある。ブログにせよ、ツイートにせよ、小説にせよ、人はなぜ他人の書いた文章を読むのだろう。
(2021年2月13日)



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