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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

11月5日・海音寺潮五郎の新解

2017-11-05 | 文学
11月5日は、映画「風と共に去りぬ」の英国女優、ヴィヴィアン・リーが生まれた日(1913年)だが、作家の海音寺潮五郎の誕生日でもある。史伝、歴史小説の巨人である。

海音寺潮五郎は、1901年、鹿児島県の伊佐で生まれた。本名は末富東作(すえとみとうさく)。20歳のころに学生結婚した末富は、大学の師範部を出た後、中学校の教師になった。教師生活を送りながら、小説を書き、28歳のとき、『うたかた草子』を書いて週刊誌の懸賞小説に応募し当選した。このときのペンネームが「海音寺潮五郎」だった。
34歳のころ『天正女合戦』で直木賞を受賞。
戦時中は陸軍の報道班の一員として南方へ出征したが、なるべく国民の戦意をあおらないよう、消極的な態度に努めた。戦後、61歳のとき、戦国武将、上杉謙信の生涯を描いた『天と地と』を書き、この作品は後にテレビドラマ化された。
68歳の年に、今後は自分の研究テーマである西郷隆盛ほかの歴史研究、史伝に専念したいとして、新聞や雑誌の原稿依頼に応じないとする引退宣言をし、以後、長編の史伝『西郷隆盛』、歴史大河小説『日本』の執筆に励んだが、その完成を見ず、1977年12月、脳出血に心筋梗塞を併発して没した。76歳だった。
作品に『武将列伝』『悪人列伝』『海と風と虹と』『西郷隆盛』などがある。

海音寺潮五郎の『天正女合戦』を読んだときの鮮やかな印象をいまでも忘れない。この小説は、豊臣秀吉が天下をとった天正時代を舞台にした歴史小説で、秀吉の正妻ねねと、側室であるお茶々(後の淀君)との女の闘いをたて糸に、天下人である秀吉と茶人の千利休との対立をよこ糸にして、さらに彼らを取り巻くさまざまな人間たちをも織り込んで仕上げたみごとな歴史絵巻だった。
ほんの短い短編のなかに、たくさんの人物が登場するのに、それぞれがみごとに描き分けられ、各人の人物像がすっと頭に入るようにできていて、しかも会話が多く、すらすら楽しく読みおおせてしまう。とくにお茶々(淀君)の小悪魔的な人物造形は絶品だった。
それまで、切腹させられた一茶坊主にすぎないと見られていた千利休を、この作品は美学的見地から大いに引き揚げて再評価し、天下人の豊臣秀吉と対置させて見せた新しい歴史解釈を提示していて、人々をあっと言わせた。そして、日本の歴史小説に新時代を開いた。
海音寺潮五郎は華のある作家だった。

西郷隆盛を敬愛し、ひじょうに高く評価した海音寺は言っている。
「若く、純真で、不遇な時代には、人は多く良心的だが、年長け、得意の境遇になって、なお良心的である人はめずらしい。西郷はそのめずらしい人だったのだ。」(「大西郷そのほか」『史談切り捨て御免』文春文庫)
耳に痛い、心に重く響くことばである。
(2017年11月5日)


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