③
そんなわけで、奈良少年刑務所が国の文化財に指定され廃庁となるまでの
丸9年と少し、二人で刑務所の講師をしてきた。
受刑者との授業
驚くべきことに、授業は最初からいきなり効果を上げた。
1時間目の教材は『おおかみのこがはしってきて』(ロクリン社)だ。
登場人物であるアイヌの父親と子ども役になってもらい、
みんなの前で朗読してもらう。
ひらがなばかりのやさしい本だが、彼らは緊張しきって必死で読む。
終わると受講生から盛大な拍手が湧く。
すると、その瞬間に変わるのだ。
うろたえながらも照れくさそうに笑い、能面のような顔にふっと表情が生まれる。
それまで交流不能としか思えなかった少年たちの間に、いきいきとした感情が流れ出す。
人から拍手などもらったことのない人生だったのだろうか。
おまえはダメだと否定され続けてきたのかもしれない。
その瞬間きっと小さな自己肯定感が芽生えたのだ。
(続く)
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