専門歌人となるべく、会社を去った日、妻との時間、ひとりの時間を、
彼はどう過ごしたのだろうか。
……
数珠球に雨しぶき葉よりしたたり職退きてわが帰りくる道
同僚から、餞別をもらう。ああ、芸術と金。
雨負ひて暗道帰る宮肇君絵を提げ退職の金を握りて
青春を晩年にわが生きゆかん離々たる中年の泪を蔵す
平和なる生きの途を、自分から遮断したことになるのか。
生き生きてわが選びたる道なれど或ひはひとりの放恣にあらぬか
……
こうして、妻と向かい合って酒を飲み、
ひとりで酒を酌む、という情景で、
この連作は終わっている。
……
妻注げる酒のおもてに映りたる吾自らをしばし守りつつ
逝く際の師を知らざりき指を折りかつ伸べ盃を独り置く
(師とは、北原白秋のこと)
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