◇ ◇ ◇
舍利弗
彼土何故
名爲極樂
其國衆生
無有衆苦
但受諸樂
故名極樂
まずまず盛大な葬儀である。二百人集まったと言えば大袈裟であろうか。さすがは大学教授の葬儀である。通夜の際使用した二間に加え、渡り廊下を開け放して裏庭にまで人が立つ。昨日とは一転、初夏を思わせる日差しが中庭の彼らの頭に落ちる。皆眩しそうである。早く終わらんかな、という顔をしている。座敷に座る連中は連中で、所在無さげであり、神妙な面持ちで俯いては腕時計ばかり眺めている。ど奴もこ奴もよく見れば不謹慎である。
坊主は三人ばかり揃った。ひどく老いたのと太ったのと眼鏡を掛けたのが三人である。大口を開けて声を合わせ、陽気な読経を響かせている。やたら喧しい。まるで学芸会である。喧しければ喧しいほど座敷の連中は俯く。裏庭で日干しされている連中に至っては蝉の声にしか感じられまい。果たしてこんな葬儀で、私は成仏できるのか。いやできっこない。現に見よ、私はまだここにこうして存在する。
「この度は誠にご愁傷様です」
「あんた誰だい」
大裕叔父は胡坐を組んだ膝を揺すりながら弔問客に問い返す。
「邦広君の小学校時代の同級生の、羽田優子です」
「おや、青物横丁の散髪屋の」
「はい。お店の方は、父が死んだ五年前に閉めましたけど」
「いやいや、羽田さんとこのかい。いやいや、これはこれは。あんた幾つになる」
「幾つにって、まあ。邦広君と同い年ですよ」
「そうかあ。てことはあんたも年取ったなあ。しかし年取ったように見えねえな。べっぴんは年取らねえってのは本当だな」
「取ってます」
「そう言えるところが若いじゃねえか」
「まあ。この度はご愁傷様です」
「ご愁傷様って柄じゃないよ、あいつは。まあ喜ぶから線香上げてやってくんねえ」
(まだつづくのか)
舍利弗
彼土何故
名爲極樂
其國衆生
無有衆苦
但受諸樂
故名極樂
まずまず盛大な葬儀である。二百人集まったと言えば大袈裟であろうか。さすがは大学教授の葬儀である。通夜の際使用した二間に加え、渡り廊下を開け放して裏庭にまで人が立つ。昨日とは一転、初夏を思わせる日差しが中庭の彼らの頭に落ちる。皆眩しそうである。早く終わらんかな、という顔をしている。座敷に座る連中は連中で、所在無さげであり、神妙な面持ちで俯いては腕時計ばかり眺めている。ど奴もこ奴もよく見れば不謹慎である。
坊主は三人ばかり揃った。ひどく老いたのと太ったのと眼鏡を掛けたのが三人である。大口を開けて声を合わせ、陽気な読経を響かせている。やたら喧しい。まるで学芸会である。喧しければ喧しいほど座敷の連中は俯く。裏庭で日干しされている連中に至っては蝉の声にしか感じられまい。果たしてこんな葬儀で、私は成仏できるのか。いやできっこない。現に見よ、私はまだここにこうして存在する。
「この度は誠にご愁傷様です」
「あんた誰だい」
大裕叔父は胡坐を組んだ膝を揺すりながら弔問客に問い返す。
「邦広君の小学校時代の同級生の、羽田優子です」
「おや、青物横丁の散髪屋の」
「はい。お店の方は、父が死んだ五年前に閉めましたけど」
「いやいや、羽田さんとこのかい。いやいや、これはこれは。あんた幾つになる」
「幾つにって、まあ。邦広君と同い年ですよ」
「そうかあ。てことはあんたも年取ったなあ。しかし年取ったように見えねえな。べっぴんは年取らねえってのは本当だな」
「取ってます」
「そう言えるところが若いじゃねえか」
「まあ。この度はご愁傷様です」
「ご愁傷様って柄じゃないよ、あいつは。まあ喜ぶから線香上げてやってくんねえ」
(まだつづくのか)
路線が変わりそうな...予感??