た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

無計画な死をめぐる冒険 107

2008年05月11日 | 連続物語
 「たつ公、とんだことだったな」
 「こりゃ森田屋のおやっさん」
 「ああ。やれ、スーツは座りにくい」
 「確かに、おやっさんに喪服は似合わないなあ」
 「うるせえ。うちの常連の葬儀だ。びしっと決めてくるさ。常連ってだけじゃない。ほんのいっときだが、草野球仲間でもあったんだ」
 「いっときでしょ」
 「いっときでもさ。だけど、うちのかかが馬鹿だからな。自前の一張羅が虫に食われちゃってさ。これ借り物よ。かかが馬鹿だからなあ。しかし邦さんもなあ。とんだことだった。ほんと。よく蕎麦食べに来てくれたもんだ。だいたい土曜日だね。土曜日の一時過ぎ。大切な常連だったのによう。ふむ、おい、あの遺影の写真。もうちょっとあったんじゃないか。ありゃ本物より十年若いぞ」
 「最近のでいいのが無かったらしいよ」
 「でもありゃ二十年は若いな。しかし邦さんも親不孝だよ。もうちょっと、順番ってものを考えなきゃ」
 「本人は考えたかったかもね」
 「どういうことだい」
 森田屋の親父は身を乗り出す。「そういや変な噂を聞いたぞ」


 (つづく)








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