た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

無計画な死をめぐる冒険 19

2006年04月16日 | 連続物語
 「うるさい。お前さんはさっきから、私の質問の核心に対しては答えをはぐらかしてばかりいるぞ。この空中には我々みたいなのがうじゃうじゃいて、お前さんにはそれが見えるのか。そして我々は、生きている人間には見つからないまま行動できるのか」
 再び私に襟首を鷲掴みにされた団子鼻は、げっぷのような呻き声を上げた。さすがの私も暴力的に過ぎると思うが、正直なところ、何かを掴めるという感触が嬉しくもあるのである。Realityは目と手で感じるものである。何も掴めないのは恐怖であることに、こうなってみて気づいた。団子鼻の汚らしい襟首でも安心を与えるのである。
 「よして下さい。よして下さいって。興奮したところでどうしようもないじゃないですか。あなたはもう、見えない者に殺される心配も無ければ、何か見えたところで得することもないんです。何もないんですから、ここから先は。参ったなあ。わかんないかなあ。もう少し死に続けたらわかりますよ。二百年も経てばお釈迦様のように至極穏やかな気持ちになれますよ」
 「お前がこれ以上俺をからかい続けたら、悪いがあの二階建てバスの下敷きになってもらうぞ。どうせお前さんは死なないだろうが、これも学術的興味に基づく実験だ」
 「一張羅が破れます。もう、乱暴な人だ。わかりませんか? わからないものなんてないはずだけど。我々はすべての答えがわかっているという詰まらない世界にいるのですよ。無駄です。無駄なんですよ。それより、そんなに見られる見られないを確かめたかったら、お部屋に戻ったらどうです」
 「何だと」
 私は手を離した。足元を、蛙のように地面に這いつくばった赤いスポーツカーが迷走しながら駆け抜けた。四方から警笛が鳴る。
 団子鼻はようやく私の両手から逃れて、吐息をつき、自分の首筋を愛しそうに厚い手の平で撫でた。
 「奥さんがもうそろそろご帰宅されている時分でしょう」
 私は団子鼻をじっと見つめた。
 雨はもう一滴も落ちてこなかった。


 (ちゃんとつづく)
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4 コメント

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ちゃんとつづく (zooquie)
2006-03-26 21:10:21
うれし泣き(T.T)
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zooquieさんへ (阿是(overthejigen))
2006-03-26 21:58:27
私は幸せ者です。
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欲深き読み手, (ゆらぎ)
2006-03-26 22:23:42
欲を言えば、週に2話ぐらいは書いて欲しいものです。

さらに欲を言えば、そろそろ副題を変えて欲しいものです。

もっと欲を言えば、これまでの副題をまとめて再公開して欲しいものです。

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ゆらぎさんへ (阿是(overthejigen))
2006-03-27 23:25:21
ご要望の第一は私の願望でもあります。

研鑽(けんさん)します。

ご要望の第二は「宝物・・」のことですか?

早速しましょう。

ご要望の第三は、残念ながら過去のものをストックしていないので不可能です。

自分は残す言葉ばかりに気を取られているので、

残らない言葉をつぶやくのもいいなあと、

そんな風に思いましたので。



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