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電車ではしご酒!の旅 ~信州ワンデ―パスを使って~  《前編》

2018年06月02日 | 紀行文

 時刻表が楽しい。

 別に「鉄ちゃん」を自認しているわけではない。公認されているわけでもない。普段はまったく鉄道に興味がない。しかし、ぶらりと電車の旅でもしてみたいなあと思いながら分厚い鉄道案内をめくってみると、今まで観光地図やネットでは点としてしか見えてこなかった場所と場所が、線でつながれていく。すると、まるで知らなかった沿線の土地まで、観光ルートとして輝きを放ち始める。この路線からこちらの路線に乗り換えたいけど、ここで下車してみるとどうだろう、とか。この路線に乗りながら弁当を広げたら、ここら辺りで車窓に映る景色はどんなだろうか、とか。

 五月下旬、平日の仕事休みに男三人で電車の旅を組むことにした。信州ワンデ―パス。一日乗り降りし放題のチケットである。これを最大限活用し、気ままな日帰り旅行を洒落こむのだ。ただ乗っているだけでは飽きもこようが、気心の知れた知人と酒を酌み交わしながらであれば、車窓は飽きない借景、電車の揺れは心地よいBGM。気の向いた駅で下車し、地元の食堂にぶらりと立ち寄ってはしご酒、なんてのも悪くない。全然悪くない。

 そういういきさつで時刻表をめくってみたのだが、これがなかなか、難しい。接続が悪くて時間ばかりかかったり、せっかく乗り継いでも駅近くに見るものや食べるところがなかったり。それでも調べれば調べるほど可能性が開けてくるのが時刻表のよいところである。いつもは行き当たりばったり主義の私であるが、今回ばかりは時刻と時刻を突き合わせながら四苦八苦して、なんとかぐるりと一周するコースを編み出した。

 松本から中央線を小淵沢まで南下、そこから小海線に乗り換えてゆっくりと北上する。小諸からしなの鉄道に揺られて西に向かい、篠ノ井で折れ曲がれば松本に戻ることができる。

 一周は奥の細道しかり、旅の基本である。悪くない。

 最初の中央線ではスーパーあずさに乗る。ここが肝心である。特急料金がかかるが、その分確実に対面で座れる。ゆったりシートで最初の乾杯といくわけだ。帰りのしなの鉄道が別料金という問題もあるのだが、それを払わなければ戻れないのだから仕方ない。乗り換え待ちを利用してぶらついたり、温泉に入ったり、駅前食堂にでも立ち寄れば、まずまずの一日旅行となろう。格別な観光スポットのない旅程なので、同行者たちの気分次第ではただの退屈な移動旅行に堕してしまう。が、今回のメンバーは酒さえ入れば気分の乗りに問題はない。酒さえ入れば、彼らはだいたい問題がない。

 問題は天気であった。

 当日は曇天。天気予報は午後から雨。車窓の景色が望めなければ、さすがに同行者も不満だろう。ここは断念して予定変更か、と悩みつつ松本駅の集合場所に着くと、メンバー二人はすでに到着している。開口一番、「で、どうやって切符を買うんだ」。ありがたい。天気に関係なく楽しもうという気概である。この面子なので、今回のような多少無謀な旅行計画も組めたのだ。

 午前八時。我々は切符と袋一杯の買い出し品を手にし、意気揚々と、スーパーあずさ新型車両へ乗りこんだ。

 

(つづく)※見出しの写真は別日に安曇野で撮ったもの。

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