た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
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佐渡へ渡る!(その2)

2024年10月10日 | 紀行文

 深夜の高速をこわごわ運転し、五時半に直江津へ。フェリーに乗り込む。犬連れなので船内には入れない。二等切符で唯一ペット持ち込み可であるデッキの一隅、市民球場にあるような青いベンチに陣取る。他の利用者はいない。

 夜が明けた七時過ぎ、フェリーは盛大な銅鑼の音を合図に出航した。

 幸い、天候に恵まれ、穏やかな海である。しかし潮風は意外と冷たい。我々は長袖シャツにフリースにヤッケを着こみ、冬の身支度で二時間半の航海に臨んだ。

 妻は昔から船酔いするたちである。今回の旅行も悲壮な覚悟で臨んだ。船酔いは怖いが、島には行きたい。嘔吐は嫌だが、美味しい海の幸を堪能したい。欲望と不安の相克する中、乗船前から鬼気迫る顔つきになっていた。酔い止め薬を飲み、百草丸まで飲んだ。なぜ胃薬を飲むのか尋ねたら、嘔吐した際、胃袋が楽だろうからとのこと。何か違う気がしたが、黙っておいた。

 船酔いを恐れるがため、揺れには人一倍敏感である。背中に伝わる揺れがよくないと言って、二等客室に横になりに行くことすら拒んだ。私が仮眠を取りに船内に入るときも、彼女は一人ベンチに体育座りし、犬を抱いて暖を取り、乱れた鬢を風になびかせながら、まるで家のない孤児のような哀れな姿で目を閉じていた。

 なかなか壮絶な航海を終え、午前十時、佐渡島上陸。

 妻も結局一度も嘔吐せず、無事であった。彼女自身それを非常に喜んでいた。旅の目的は半分達成したような面持ちであった。

 車を走らせ、世界文化遺産登録の佐渡金山へと向かう。

 海岸線を走りたいのだが、地図指定の道路は山間地へと導いている。車窓から見える島内は、とにかく緑が濃い。鬱蒼と茂る植物が、下からも上からも道路を占拠する勢いで枝葉を伸ばしている。

 ここで私の悪い癖が出た。正規のルートを外れたのである。

 

(つづく)

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