瞬時に情報の更新されるこのインターネットの世界では、忘れられるのもまた瞬時である。一週間も更新しなければ古文書扱いをされかねない。何かと世事に多忙でまとまったものを書き上げることもままならないが、忘れられるのも嫌なので、何か載せようと思う。現在、仕事の間隙を縫って、ずっと以前に書いた『変温』という小作品をちびちびと書き直している途上である。その一部を載せようと思う。かつて読んだことがある方はごめんなさい。今のところ、あまり変わってはいないです。
ビルの谷間に驚くくらい背の高い
ひまわりの花が枯れていた。
自分の産んだ種の重みに耐えかねて
背むしのように項垂れていた。
誰かに褒められたくて咲いたのだろうに
誰かを思い焦がれて待ったのだろうに
ビルの谷間にはそよ風もなく
あまりの暑さに立ち止まる人とてなく
私もまた
汗を拭き拭き
残忍とは思いながら
いつか「彼」のようにならないためにも。
誰からも要請されていないのに、先日書いた曲に三番をつけた。おまけに少し手直しした。なんだか自分一人でしみじみと納得している。
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『どうして、』
♪
〔一番〕
車窓(まど)を流れる雪を見ながら
あなたを奪った街に来た
城のお堀に浮かぶ白鳥(しらとり)
あなたはどうしてここに来た?
早い黄昏(たそがれ)
冷たいネオン
繩手通りをぶらつきながら
思い出すのは
はじめての夜の長いキス
あなたの店のドアを引く
〔二番〕
マイルス・ディビスに耳を傾け
あなたの作った酒を飲み
はずむ会話と 寡黙な瞳
どうして今さら会いに来た?
「幸せそうね」
「ええ。ぼちぼちと」
二杯目を飲んで席を立ち
思い出すのは
はじめての夜の長いキス
あなたの店に雪が舞う
La La La・・・・・
La La La・・・・・
〔三番〕
ベッドにワインの染みを残して
語り明かした夢の果て
あの頃二人でよく聴いたのは
"Don't know why I didn't come."
最終の『あずさ』
濡れた手袋
車窓(まど)に頭を押しつけながら
思い出すのは
初めての夜の長いキス
あなたの街に雪が舞う
思い出すのは
初めての夜の長いキス
あなたの街に雪が舞う
♫
珈琲を美味しく飲むには。
ゆったりとした気持ちになりたい、という強い願望と、ゆったりとできる時間の余裕と、ゆったりと淹れてくれる自分もしくは誰かの存在。
紅茶を美味しく飲むには。
ビスケットとか、シナモントーストとか、ブリティッシュガーデンとか、「マーガレット」という名前の人とか・・・。ごめんなさい。あまり詳しくありません。
お薬を美味しく飲むには。
その考えが甘い。
日本酒を美味しく飲むには。
五十を過ぎて一人娘が片付き、反抗期を懐かしく思うほどの寂しさを抱えて日々を過ごしていたところに、娘夫婦から孫ができたとの知らせが。万歳しかねないほど喜びをあらわにする妻をしり目に、草履を履いてぶらりと出かけ、夕日を浴びた赤提灯、馴染みの居酒屋に入って旬の焼き魚を注文、ひやで一杯、くーっと煽って嘆息する。
ブランデーを美味しく飲むには。
本革張りの肘掛け椅子はどうしても必要になる。億単位の商談が難航していることは家族にひた隠しにしたまま、邸宅でいつも通りの夜を迎える。ピアノを弾き終えた妻がお休みのキスをして寝室に下がり、絨毯の上でお絵かきをしていた二人の小娘たちも順番にハグをして子供部屋に。自分一人、いつまでも肘掛椅子に深く腰掛けたままじっとしていると、一本の電話。産業スパイがうまく任務を果たしたという報告である。静かに電話を切った後、クリスタルガラスの酒瓶からブランデーをグラスに注ぎ、シャンデリアと燭台の明かりの下、片手でくゆらせてゆったりといつまでも薫りを楽しむ。
焼酎を美味しく飲むには。
ねじり鉢巻きと汽笛でしょ。
ワインを美味しく飲むには。
ちょっとしゃれた服を着て気心の知れた異性と映画か演劇を観た後で、感動を胸に残したまま街のレストランに繰り出す。明るすぎない窓際のテーブル席を陣取って、つまみはチーズとパンとバター。しっとりと冷えゆく窓越しの夜景と向かいに座る異性の笑顔をあと二つのつまみに、ゆっくりとグラスを傾ける。
ウィスキーを美味しく飲むには。
戦場で砲弾が飛び交う中を砂埃にまみれながら駆け抜けた後で、復員兵ばかり乗せた列車で日の沈んだ街に戻る。一人孤独にトレンチコートの襟を立て、街燈の明かりをよけながら街をふらつき歩くと、ふと目についた路地裏の狭いバー。そのカウンターに立ったまま肘を突き、ストレートでダブルを一息に飲み干す。
ビールを美味しく飲むには。
ひと風呂浴びている間、喉の渇きを我慢していれば、まあたいてい美味しい。
それでも君は歩き続ける
そんな君にどれほど勇気づけられていることか!
大事なことは、
今日と同じことを明日もすることだと
君にようやく気づかされた。
たとえその先に何が待ち構えていようと
どれほどの苦難と絶望に襲われようと
それでも君は歩き続ける。
それがいかに力強いことか!
それがいかに美しいことか!